※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


要の憂鬱な朝とロボット対決再び?

「だからさあ。一回だけ!」

 

 そう言って拝む格好をする順を要は冷めた眼差しで見た。朝っぱらから何を言い出すのだ、この男は。気分のままに順を睨んでナイフを握り直す。身の危険を感じたのか、順はおおっと、とわざとらしい声を上げて要から少し離れた。

 

「いいじゃん、一回くらい。減るもんじゃなし」

「あなた、わたくしを何だと思っていらっしゃるの? そんなことを頼まれてはい判りました、と頷くとでも?」

 

 つん、と横を向いて要はそう告げた。本気で殴りかからないのは母親の栄子が間近にいるからだ。だが栄子はそんな要と順を微笑ましいものでも見るかのように眺めている。少しは心配したらどうなのかしら。要は栄子に胸の中で文句を言った。少なくとも愛する娘に対する態度ではない気がする。

 

「えー。別に要ちゃんが損するってことはないと思うよ? だってオレ、上手いし」

「そっ、そういう問題じゃありませんわ! モラルの問題です!」

 

 要は顔を真っ赤にして思わず椅子を蹴倒して立ち上がった。朝食の時間だから、と我慢し続けていればこの男はどんどんつけあがる。要は片手に握ったナイフを順に突きつけようとした。

 

「要さん」

 

 静かな声がかかる。要ははっと我に返って振り返った。デミタスコーヒーを傾けながら、栄子は要に視線を送っていた。微笑んではいるが、その目は笑ってはいない。要は順の胸倉をつかんだまま、ぴたりと静止した。

 

「お行儀が悪いですわよ。今はお食事の時間でしょう?」

 

 ぴしゃりと栄子が告げる。要は渋々と順から手を離した。解放された順が急いで席に戻る。そもそも、隣の席が順であるというのが間違いなのだ。引き合わされてから要は食事のたびにこの軽薄な男と隣の席に座らされている。それがどういう意図からなのかを要は何度も栄子に問うた。食事中にエッチさせてなどという下品極まりない発言をする男なのだ。なのに年頃の自分の横に座っているのは何故か。もっと言えばどうしてこの男はまだここに居座っているのか。だがそれらの質問に栄子は答えをくれなかった。父親が長期旅行に出ているのも要の苛立ちに拍車をかけた。母が駄目なら父が止めるべきだろう。だがそう考えてから要はため息をついた。栄子を父親が止められる筈がない。せいぜい、見て見ぬ振りをするのが精一杯だろう。そんな気弱な父に一瞬でも期待したことを要は悔いた。

 

「要ちゃん、この手の顔って嫌い?」

 

 にやにやと人の悪い笑みを浮かべて順が吐き出す。要はきっ、と順を睨んで大きく頷いた。

 

「当然ですわ! わたくしの理想はあくまでも理知的な方ですもの!」

 

 そう、決して順のように軽薄な男ではない。要は悪びれもせずそうまくし立てた。すると順がそんな、とわざとらしく哀しげな表情を作る。要はふん、と鼻で笑って席に戻った。

 

 ナイフとフォークを持ち直す。ふんわりとしたオムレツを切り分けながら要はそっとため息を零した。多輝様、と胸の中で呟く。要は以前から多輝に思いを寄せていたのだ。

 

「理知的で? スマートで? 包容力があって? それ、もう何度も聞いたけど」

 

 順が苦笑いしながらそう漏らす。要は鋭く順を睨みつけてからオムレツにフォークを突きたてた。一口大に切ったそれを口に運ぶ。オムレツは口の中でふんわりと溶け、程よいバターの香りが広がった。

 

 そんな美味しいオムレツを食べていても要の心は沈んでいた。多輝はもうここしばらく学校に来ていない。自主的に休学しているようなのだ。そのことを知った要は多輝の居場所を必死に探った。だが多輝は提出している住所にはいなかった。要は未だに多輝の居所をつかむことは出来ずにいるのだ。

 

 どうしてかしら。あの女は学校に来ているのに。そう思う要の顔は徐々に怒りに満ちていった。当時、多輝と交際をしていたという女がいる。それが吉良絵美佳という科学部の部長だ。要は絵美佳の顔を思い出して苛立ちのままにオムレツをフォークでかき混ぜた。

 

 悉くわたくしの邪魔をするあの女に、何とか復讐できないかしら。今日も要の頭はそのことでいっぱいだった。

 

「ねえねえ、要ちゃん。皿の中がめちゃくちゃだよ?」

 

 横から順が口を出す。要はうるさいわね、と順に呟いて皿に目を落とした。言われた通りに皿の上は混ぜ返されていた。オムレツが潰れ、中身がはみ出している。それが更に盛られていたサラダと混ざり、皿の中はこんがらがっていた。

 

「わっ、わたくしとしたことが」

 

 これではどんなに美味い料理も食べる気がなくなる。要は落胆のため息をついて皿を遠ざけた。仕方なく食後のコーヒーだけを啜る。

 

 学校に行く段になっても順は要から離れなかった。栄子に言い渡されていたために追い返すことも出来ない。要は歯軋りしながら順を従えたまま登校した。きっと学校でいい笑いものになるだろう。そのことは容易に予測できた。

 

 だが順は校門前であっさりと要に手を振って去ってしまった。どうやら別に用事があるらしい。要は心底ほっとしながら生徒会室に向かった。今日は大事な役員会がある。その前準備をするために早めに登校したのだ。

 

「おはようございます、要様」

 

 生徒会室で真っ先に挨拶したのは要のボディガードの周藤だった。野木もすぐに要に挨拶をする。要は優雅に微笑んでおはよう、と返すと自分の席に向かった。

 

 生徒会会長の席は生徒会室の一番奥だ。要はいつものようにその席に向かった。だが、途中で何かが行く手を阻む。訝りをこめて要はその邪魔者を見つめた。周藤が何かを要に差し出している。

 

「これは?」

 

 周藤の手には一枚の封筒が握られていた。真っ白な封筒に表書きはない。

 

「今朝方、私がここに着きました際にドアに挟まれておりました」

 

 だが珍しく周藤は先に中身を確認しなかったようだ。封は開かれていない。要はふむ、と呟いて何気なく封筒を裏返した。そして小さく名前が記されている事に気付く。その名前を見た要は眉を吊り上げた。

 

「吉良……絵美佳……!」

 

 差出人は絵美佳だった。事の重大性を知った周藤はだからこそ封を切らなかったのだ。要は珍しく大股で部屋を横切ると、急いで自分の席についた。ペンたてから取り上げたペーパーナイフで丁寧に封を切る。もしもカミソリでも仕込まれていたら怪我をしてしまう。要は慎重に開封し、中に納まっていた一枚の便箋を取り上げた。

 

「……周藤! 野木! 大至急諜報部員を集めなさい!」

 

 返事をして周藤と野木がすっ飛んでいく。要は便箋を握った手を小刻みに震わせた。その便箋には挑戦としか思えない内容が記されていた。勝負の内容はロボット同士の格闘。場所は学校のグランド。期日は三ヶ月後。そして最後には絵美佳の署名がしてあった。




要的には絵美佳に喧嘩を売られたようですw
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