その日は朝から多輝と由梨佳は買物に出かけた。久しぶりに外に出るからだろう。多輝は朝から目に見えてはしゃいでいた。由梨佳もまるで友達が出来たような気分なのだろう。傍目にはそう変わらなくても表情がどことなく緩んでいた。そんな二人が出かけるのを立城は窓から静かに見下ろしていた。
庭にはばらが咲き乱れている。晴れ渡った空の下で楽しそうに水撒きをしているのは奈月だ。奈月はいつも微笑を絶やさず花と接している。もしかしたら花の言葉が判るのかな。あまりにもその姿が楽しそうなので、立城は一度だけ奈月にそう問い掛けたことがある。
だって綺麗に咲いてくれていると嬉しいじゃないですか。確かその時、奈月はそう答えた。その笑みが余りにも眩しく見えたことをよく覚えている。自分にはない純粋な輝きが奈月にはある。……もっともそれも全て仕組まれた末に出来上がったものだが。立城はそう胸の内で呟いてそっと窓から離れた。
昨晩、多輝は立城に抱かれていつも以上に乱れていた。快楽を自分から求め、まるで飢えた獣のように立城と交わっていた。そんな多輝のことを思い出し、立城は小さく笑った。きっと優一郎と会ったことが原因だろう。たとえ記憶を封じられていてもその身体は想い人のことをよく覚えているのだ。
静かに部屋の中央へと歩む。そして立城はいつもの絵画の前に立った。かつてその場で誓約が取り交わされた。ほんの数瞬の間だけの誓約だった。何故なら立城とその誓約を交わした相手は、その後に命を散らしてしまったからだ。
お前は何も気にしなくていい。思った通りに進んで行け。そう言い残して真也は消えた。その強大な力を立城に託して。
あれから随分と長い年月が流れたのに、今でも僕はここに立っている。立城は絵画の前でそう呟いた。未だに悔いは残っている。本当なら死なせずに済んだかも知れないのに、と思い返すたびに考える。だがそれは世界にとってはあり得ない未来だ。恐らく、世界は立城と真也のどちらかをしか生き残らせるつもりはなかったのだ。
「長い年月が過ぎたというのに、僕はまだ迷っているんだ。本当に僕の判断は正しかったのか。ひょっとしたら生き残るべきだったのは君だったのではないかといつも思うよ」
絵画を見上げて立城は一人、そう呟いた。だがどれだけ悔いても、嘆いても、決して真也は戻らない。あの頃の楽しかった日々の思い出だけが立城に唯一残されているものだ。そして立城もまた、そのことは充分に承知していた。
時は流れ思いは深くなり、そしてその果てに歪みを引き起こす。立城は小さくそう呟いて胸に手をあてた。そして軽くこぶしに握る。伏せていた目を上げると絵画の中の女性と目があった。名もない絵画の中で女性は遠くを見つめている。なのに正面に立つと何故か女性と目が合ってしまう。この不思議な絵画を立城が手に入れたのは随分と前のことだ。以来、立城はこの屋敷の中に絵画を飾っている。例え時が流れても決して忘れることがないよう、誓約の地の印にしているのだ。
立城はゆっくりと絵画に背を向けた。そして軽く指を鳴らす。いつものように床から巨木がせり上がって来る。その幹に括りつけられた水輝は眠るように目を閉じていた。
長かったね。立城は小さくそう呟いた。紫翠が滅してから今日のこの時まで、水輝はその想いに縛られてきた。男と女の性で水輝の意識が完全に二分してしまったのはつい最近だ。そして今、水輝は女の性のまま、紫翠の思い出の中に生きている。
力を分ける。それを他者の力で行うのは難しい。本能的に己を守ろうとする力が働き、力添えをしている他者を傷つけることが多いからだ。だから立城はこれまで出来るだけ水輝の力を削いできた。
「水輝。悪いけれど君の半分には眠ってもらう。そうしなければいけないところにまで来てしまったんだよ」
立城はそう言いながら眠る水輝に近づいた。白いブラウスに手をかけると微かに水輝が身じろぎする。立城はゆっくりと一つずつブラウスのボタンを外していった。真っ白な肌が剥き出しになる。その胸元を見つめ、立城は自分の指先を強く噛んだ。
こうして交わるのももう最後かも知れない。ふと、そう考える。だが立城はためらわなかった。皮膚が口の中で裂け、指先から血が流れる。立城は無言でその指先を水輝の唇に触れさせた。
もしかしたら僕は潰えてしまうかも知れない。そうしたらあの子たちは僕の代わりに世界を見ていてくれるだろうか。立城は目を細めて水輝の唇に血で紅を刷いた。閉じた薄い唇の間からちらりと舌が覗く。血の匂いに勘付いたのだろう。水輝は舌で立城の指先を舐めた。
「やあ。喉が渇いたかい? けれどもう、これでは足りないかも知れないね」
水輝は喘ぎながら立城の指を熱心にしゃぶっている。その片足が根に囚われたまま、ゆっくりと持ち上がる。めくれたスカートの中、水輝の小陰唇の間には僅かに淫水がわいていた。
静かに指を引く。物足りなさそうに声を上げる水輝に立城は静かに唇を寄せた。それまでの静かな動きから一転し、立城は貪るように水輝に口づけた。合わさった唇の中で水輝が喘ぐ。そのまま立城は水輝の胸に手を伸ばした。膨らみを手のひら全体で包むように揉む。口づけの合間に立城はそっと水輝の名を呼んだ。
微かに水輝が身体を震わせる。唇の端から血の涎を垂らし、水輝は言葉にならない声を発した。それまでの喘ぎとは全く違う、凶暴な声が喉から漏れる。立城は血の零れる指先をゆっくりと水輝の胸の中央へと移動させた。
刻印を。立城はそう呟いて指で胸に十字を描いた。これまでに描き続けたそれが水輝の肌の上に浮かび上がる。最後に立城は十字架から長い線を血で引いた。水輝の首に伸ばした線が立城の吐息で血の鎖に変化する。血で凝った十字架は水輝の胸に鎖でぶら下げられた。
獣のような唸りが水輝の唇から漏れる。立城は口許に笑みを刻み、静かに頭を下げた。愛液の溢れる膣口へと唇を落とす。
ある者の力が分かれる時、他者がその儀式に介入している場合、他者から身を守るために本能的に力が発動する。立城はもう何度も繰り返してきたことを心の中で呟いた。これまでに何度か試そうと思い、だがその度に諦めた。何故なら水輝の力が一度、暴走すると誰にも止められなかったからだ。
だが今なら。立城は巧みに水輝の女性器を愛撫していた。指先でくすぐるように撫で、舌で舐める。唇で吸い、弄る。そして水輝の身体は立城の愛撫に応えて欲情していく。だがこれまでとは違い、水輝は紫翠の名を呼ばない。既にその記憶が引き出せないほどの欲望に囚われているからだ。
立城は水輝の秘部を指で執拗に弄ってから腰を上げた。水輝の口から白い牙が見え隠れしている。
「入れるよ」
低くそう告げて立城は屹立したペニスを膣に突き入れた。全身から狂った力が入ってくる。交わった瞬間、頭がぐらりと揺れる。立城は熱い息をついて木の幹に腕をついた。もっと深く交わりたいという欲望が頭をもたげてくる。日ごと、再生する水輝の処女膜を突き破り、膣の奥に到達しただけで立城は勢いよく射精してしまった。とても意識がもたない。
「水輝……っ」
掠れた声を上げて立城は水輝の唇を奪った。それがどれだけ危険な行為であるかを知り尽くしていた筈なのに、身体が欲望に囚われて自然と動いてしまったのだ。
水輝の舌が口の中に滑り込む。強制的にねじ込まれる力が立城を奮い立たせる。立城は水輝の口の中で低く呻いて腰をひくつかせた。意識がどこかに飛んでしまいそうなほどの快楽に襲われる。
エロっていうか野獣みたいな感じですね(汗)