※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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ベタベタな感じのデートぽいシーンですw
3,000字でちょっと長めです。

あ、エロシーンはありません。


これってデート?

 手を上げて合図する。嬉しそうに微笑んで由梨佳は多輝の元に駆けて来た。手にはたくさんの荷物を抱えている。多輝は苦笑して由梨佳の腕から荷物を取り上げた。

 

「うわ、またたくさん買ったなあ。これって何? ケーキ?」

 

 そう言いながら多輝はデパートのフロアを歩き始めた。さっきまで買物をしている由梨佳を待って椅子に腰掛けていたのだ。由梨佳は急いで戻ってきたからだろう。軽く息を弾ませている。

 

「外れね。だけど限りなく正解に近いわ」

 

 唇に指を当てて由梨佳が片目を閉じる。多輝は中空を向いて考えた。そして握ったビニールの袋を覗き込む。そこに入っていたのは生クリームや卵だった。どうやらケーキ屋でトッピングの材料を買ったために袋がケーキ屋のものだったらしい。

 

 昼食はデパートの地下で簡単に済ませた。久しぶりの外出に多輝は少々浮かれ気味だった。いつもは欲しいと思わないものまで欲しくなる。

 

「あっ、あれ。ちょっと見ていい?」

 

 多輝は店内に飾られたモデルガンに目を留めて由梨佳に訊ねた。すると由梨佳が渋い顔になる。

 

「それ、欲しいの?」

 

 多輝がそう言いだしたのはこれで八度目だ。由梨佳は困った子供に訊ねるようにそう告げた。多輝はだが、そんな由梨佳の様子に全く気付かなかった。目を輝かせて見るだけだから、と言う。そして多輝は由梨佳の返事も待たずに駆け出した。

 

「ほんとに男の子みたいなんだから」

 

 遅れて多輝に追いついた由梨佳が苦笑して告げる。多輝はだが熱心にモデルガンを見つめていた。硝子ケースに入ったそれはとても精巧に作られている。玩具屋の片隅で二人はしばらくモデルガンについての意見を交わした。多輝は興味があったこともありモデルガンには詳しかった。だが由梨佳がそんな多輝と同等かそれ以上の知識を披露する。そのことに多輝は内心で舌を巻いた。

 

「由梨佳先生ってほんとに何でも知ってるよなあ。凄いかも」

 

 二人が並ぶと友達同士に見える。多輝は大きな荷物を両手に抱えて由梨佳の横を歩いていた。先ほどのモデルガンは結局、買わなかった。店員が呆れるほどの知識を披露してみせた由梨佳の方に関心が移ってしまったからだ。

 

「わたしの取り柄は知識だけだから」

 

 ごく小さな声で由梨佳が告げる。そんな由梨佳を多輝は睨むように見た。辛うじて自由になる左手を上げて指を振る。

 

「凄いって言ってんだからさあ。もうちょっと素直に受け取った方がいいと思うよ、おれ」

 

 暗く沈みがちになった由梨佳に向かって多輝はわざと明るくそう告げた。すると由梨佳がはっとしたように顔を上げる。

 

「先生は美人だし物知りだし、それにおれをちゃんとみてくれてるだろ? それだけが取り得ってことないじゃん」

 

 隣を歩きながら由梨佳の目を覗き込む。多輝は困惑したような由梨佳の耳元に素早く唇を寄せた。殆ど聞き取れない声で囁く。

 

「それに由梨佳先生とのエッチも最高だし」

 

 悪戯っぽい多輝の囁きに由梨佳が焦ったように耳を押さえる。多輝はにやにやと笑いながら首を傾げてみせた。驚きのために足を止めた由梨佳を振り返る。

 

「もうっ!」

 

 由梨佳が頬を膨らませる。その顔は赤く染まっている。照れ隠しに拗ねてみせる由梨佳を多輝はしばらくからかった。勉強の名目以外で由梨佳と接することが滅多にないからか、こうして一緒にいることがとても新鮮に思える。多輝は心の底から由梨佳と共に買物を楽しんだ。

 

 三時のお茶をしましょう、と由梨佳が選んだのは洒落たイタリアン風の喫茶店だった。チーズの風味がよく効いたティラミスを向かい合わせの席でつつく。紅茶を飲みながら交わす言葉の端々にも由梨佳の知性が光る。ティラミスの作り方を熱心に語る由梨佳を多輝は微笑みながら見つめていた。

 

 だがそうしていても時折、不安になる。由梨佳と交わる時に抱く不満は日に日に強くなっている。例え絶頂を迎えてもどこかが満たされていない気がするのだ。多輝は由梨佳を見つめながら時折そのことを思い出した。だがその不満について由梨佳に話した事はない。

 

 やがて日が傾き外が暗くなる。多輝は人の大勢いるデパートの入り口を抜けて大きく伸びをした。久しぶりの買物はとても楽しかった。横を歩く由梨佳も満足そうな顔をしている。多輝は由梨佳と共にのんびりと歩き出した。たくさんの電車が走る上にかけられた橋を二人で並んで渡る。

 

 不意に多輝は足を止めた。橋を行く人々の流れに混じって見えたその姿に多輝は絶句した。忘れたくても忘れられない。

 

 どうしたの、と由梨佳が多輝に声をかける。その目が多輝の視線を追い、由梨佳も同様に愕然と目を見開いた。人ごみに紛れて歩いているのは水輝だった。人々の流れに混じって多輝と由梨佳の横を過ぎる。様々な思いに身体を強張らせた多輝の脇を過ぎる時、水輝は微かに口許に嗤いを浮かべていた。

 

 行過ぎる水輝を由梨佳は鋭い眼差しで睨んでいた。多輝も厳しい面持ちで水輝の背を見送る。水輝はそんな二人に構わずデパートの中へと消えて行った。

 

「あいつ……どうしてこんなところに」

 

 多輝はそう呟いてからはっと息を飲んだ。由梨佳は水輝のことを知らないだろう。自分のことに精一杯だった多輝は由梨佳の様子にまで気を回せなかったのだ。だから由梨佳の様子がいつもと違っていたことにも気付かなかった。多輝は取り落としかけていた荷物を抱え直した。何事もなかったかのように由梨佳に笑みかける。

 

「そろそろ帰らないと。行こうか」

 

 だがそう多輝が声をかけても由梨佳は黙ってデパートの方を見ていた。その視線がいつになく鋭いことに多輝はそこでようやく気付いた。どうしたのだろう。多輝はこの時点でもまだ由梨佳が自分と同じように水輝を見ていたことに気付いていなかった。訝りをこめて由梨佳に再度、声をかける。するとようやく由梨佳が反応した。慌てたように多輝を振り返り、ごめんなさいと詫びる。だがどこかぼんやりとしていていつもの由梨佳の様子と違う。多輝は少し躊躇した。由梨佳と向き合ったままかけるべき言葉を捜す。けれど上手く言葉が出てこない。

 

「あー……。えっと、帰る?」

 

 結局、多輝は思っていたことを全て口にすることもせず由梨佳にそう告げた。由梨佳が小さく頷く。

 

 きっと先生はおれと同じやつを見ていたんだ。多輝はそう思いながら荷物を抱えて歩き出した。電車の駅についても二人は無言だった。反対車線の電車が行過ぎる。それと共に地下鉄の駅の中には強い風が吹きぬけた。

 

 皮肉に嗤った水輝のことが脳裏に蘇る。水輝は多輝とそう大差ない年齢のように見えた。前に会った時は立城と同じくらいの年だった筈だ。どうして水輝はいきなり若返って見えたのだろう。そしてそんな考えを巡らせる多輝は気付かなかった。優一郎のことは忘れているのに多輝は水輝のことはしっかりと覚えていたのだ。記憶をなくす前よりさらにはっきりと、だ。そしてこの時の多輝は水輝が立城や自分と同類であることを見抜いていた。

 

 気に食わねえな。由梨佳と歩きながら多輝はずっと考え続けていた。その横で由梨佳が沈んだ顔をしていることにも気付けない。

 

 やがて二人は屋敷にたどり着いた。だが多輝は荷物をキッチンに置くと挨拶もそぞろに部屋に戻った。客室だった筈のこの部屋は、今ではすっかり多輝の部屋と化している。置かれているベッドに乱暴に身体を放り、多輝はため息をついて天井を見た。腕を頭の後ろに回して枕代わりにする。

 

 暗い部屋の中で多輝は鋭い目つきで天井を睨んだ。その身体が淡い光を放っていることに多輝自身は気付かなかった。




最後が不穏なのは仕方ないですね……。
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