※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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謎なエピタイですが、気にしないで下さい><
作者用のタイトルです!

あ、エロシーンはありません。


風のとてとて

 慌ただしく駆け込んだ研究室は既に荒らされた後だった。壊れた玲花を放り出してエレベーターに飛び乗った優一郎は、その惨状を目にして落胆の息をついた。外部から端末にアクセスしてある程度の行動は阻止したつもりだが、それにしても被害が大きい。何より痛かったのは並んでいる機体に手をつけた跡があることだった。

 

「データはいい。問題はこの機体か……」

 

 侵入者が奪おうとしたデータの内、どうしても渡せないものにだけはブロックをかけてコピーディスクからその内容を消去した。それ故に侵入者は優一郎がどうしても奪われたくないデータは持ち逃げできなかったのだ。だが、並べられた機体には明らかに手をつけられた跡があるものが数体あった。

 

 床に目を落とす。リノリウムの床には幾つかの吸殻が残っていた。見慣れない煙草の銘柄だ。優一郎は茶色のフィルターを見下ろしてじっと考えた。身近な者ではない。例えば立城や水輝は煙草を吸うが、この銘柄のものではないし、第一彼らは吸殻を無造作に床に捨てたりはしない。それに彼らであれば正面から訪ねて来るような気がする。優一郎はゆっくりと研究室の中を歩きながら考えを巡らせた。

 

 だとすればそちら方面ではない別の者と考えられる。優一郎は吐息をついて研究室の一角に向かった。万が一ということもある。優一郎は金属製の棚の奥を探って目当てのものを取り出した。対龍神用の残留力を測る器具だ。一見、携帯端末にしか見えないそれは、優一郎に一度でも関わり力を発揮した龍神に関してであれば残留している力の大きさと種類を特定できる優れものだ。ちなみに作成者は優一郎の父、総一郎だ。まだ幼かった優一郎に玩具としてこれを与えた総一郎の真意は判らない。だが優一郎は器具を手にして総一郎に感謝した。

 

 優一郎は器具のスイッチを入れて研究室の中をゆっくりと歩き出した。微弱ではあるが器具は研究室内に残留する力をキャッチしたようだ。だが軽い電子音が鳴るだけでその種類までは特定できないらしい。優一郎は眉をひそめて器具の液晶画面を見た。NO DATA。つまり、これまで検出したことのある力の種類の中に、今回の侵入者の残した力は当てはまらないということだ。やれやれ、と肩を竦めて優一郎は器具に今回のそれをデータとして打ち込んだ。名前を未確定にして日付と時間を正確に記入する。そんなことをしている間にも器具の測定していた力の残留濃度は下がっていく。

 

 優一郎は無言で端末に近づいた。有線で器具と端末を接続する。手早く端末を立ち上げて優一郎は器具内部のデータを端末に移した。これまでに接触したことのある龍神たち、水輝、立城、翠、そして多輝に関する情報を登録してあるデータベースを用いて分析を行う。

 

 PowerType : Wind

 Intensity : Very very Strong

 

 殆ど間をおかずに画面にはそう表示された。優一郎は画面を睨んだまま腕組みをして椅子の背もたれに深く寄りかかった。

 

「風……。力はかなり強い」

 

 だが優一郎の知る限り、風の能力を強く表面化させた者は八大と呼ばれる者の中には含まれていない。もちろん、それも立城に聞いただけの話だから一概に信用できるものではないだろうが。

 

 立城や水輝、翠は話にも出てきた通りに八大と呼ばれている。彼らの力を分析すると測定不可能と表示される。それから考えても今回の侵入者は八大ではない。優一郎は厳しい顔をしたままで椅子を軽く回した。視界が動いて機体が目に入る。

 

 今回、侵入者のデータが取れたことは後々に何かの役には立つだろう。意図的にヒューマノイドの基礎理論についてもデータを持ち帰らせたから、きっとそれを元にどこかで新しくヒューマノイドが作成される。その点についても問題ない。何故なら優一郎は自分と総一郎の手がけたヒューマノイド以外で出来のいいそれを見たことがなかったからだ。どこで作られたにせよ、更に技術が進んで素晴らしいヒューマノイドの機体が作られれば目にするチャンスも出来る。優一郎は自分の考えにそっと頷いた。

 

 だが侵入者が手をつけていった数体の機体に関しては笑って許すことは出来なかった。何故ならその内の一体が既に起動状態に入っており、優一郎の命令を受け付けなくなっているからだ。他の数体に関しては機体内部を探られた形跡があるが、セキュリティシステムを一新すれば外部からのアクセスは出来なくなる。

 

 優一郎は立ち上がって問題の機体に近づいた。問題の機体はカレンの戦闘能力のテストを行う際に使用する実験機だ。もちろん、実験に使用するという意味でだけなら別の機体を作成すれば問題は解消される。だが優一郎はどんなヒューマノイドの機体でも自分が手がける以上、手抜きはしていない。絶対の自信を持って作る故にいいかげんな作り方が出来ないのだ。そのため、たとえ実験機であろうとも被害は大きくなる。誰かに手をつけられました、はい、捨てました。などと簡単に消去することが出来ないのだ。

 

 ため息をつきながら優一郎は何気なく白衣のポケットに手を入れた。手に計測器が触れる。優一郎は無意識にそれをポケットから出した。残留している力の濃度は落ちる一方だろう。そうは思ったが、優一郎は習慣でその辺りの残留力の計測を始めた。

 

「……? 残留力の反応が違う?」

 

 問題の機体に計測器を翳し、優一郎はその反応に目を見張った。先ほどとは違う測定結果が表示される。優一郎は慌ただしく端末に寄り、急いで計測器を接続した。

 

 画面を切り替えて測定器のデータを移す。すると先ほどとは全く違い、測定された残留力の濃度は計測器の許容量をオーバーしていることが判った。余りに力が強かったために計測器の警告音が鳴らなかったのだ。

 

「炎? いや、これは残留力じゃない!?」

 

 Type : Fire

 Intensity : incalculable

 

 画面に表示された測定不可の文字に優一郎は愕然と目を見開いた。これまでの考えが正しければこの力の正体は八大のそれとなる。だが、残留力にすれば余りにも力が強すぎる。となると、答えは一つしかない。

 

「つまり、この機体に何かが、宿った……のか?」

 

 よろけながら立ち上がる。多輝で実験済みだと言えば言える。だがその機体内部にこめられた力の強さは多輝のそれとは桁違いだ。優一郎は頼りない足取りで問題の機体に近づいた。

 

 多輝のそれは精神と言う形のないものに依存して力の移し変えが行われた。それ故に失敗する危険も多々あった。多輝があれほどまでに精神的に追い詰められていなければ、恐らく失敗しただろうという確信が優一郎にはある。だが侵入者が優一郎の研究室に入っていた時間は正味、一時間強。その間に機体に何らかの処置を施したということだ。だが、実験機であるこの機体の調整は万全に行われていた。それにヒューマノイドとは違い、この実験機には意志はない。考える頭がない故に効率的に実験できるのだ。故に、機体の意志を介して力を移したということもまずあり得ない。

 

 そうなると考えられる可能性はただ一つ。侵入者が何らかの方法を用いて強制的に機体内部に侵入、力を安定させてしまったということだ。もし、侵入者が失敗していれば機体は簡単に破壊されていただろう。少なくともこの機体に込められているのは、その程度のことはしてのける強さの力なのだ。

 

 機体を見つめる優一郎の口許に嗤いが浮かぶ。侵入者の力の属性は風。この機体に込められたそれは炎。全く違う属性を持つそれを、どうして侵入者がこの機体に施したのかは判らない。だが優一郎には少しだけ事の次第が理解できた。風の力を持つ誰かは何かを意図して機体に炎の力を埋めた。そして恐らくはその力が覚醒する時をどこかで待っている。

 

 このままではこの機体は力に耐え兼ねて壊れてしまう。優一郎は薄い笑みを浮かべて静かに機体を見つめていた。




つよ
とてつよ
とてとて

とか言ってた記憶があるんですが違ったかな……(謎
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