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「でもさあ。やることはやってるじゃない? 知ってるよ。要ちゃんってけっこうエッチだもんね」
さらりと順が告げる。再び怒鳴ろうと構えていた要はそれを聞いて絶句した。どういう意味かと問い返さなかったのは、その内容に心当たりがあったからだ。順は言葉を失った要を人の悪い笑みを浮かべて面白そうに眺めている。
「色んな男を下僕扱いしてるんでしょ? 学校でもやってるなんて、ホント、要ちゃんってエッチだよねえ」
硬直した要の耳元に順がそう囁く。要はしばし呆然と俯いていた。何故、この男が知っているの。まさか見られていた? そんな考えが頭を巡る。
「だからさあ。別にオレとやってもいいじゃん? オレ、けっこう上手いよ?」
「……じゃありませんわ……」
要は殆ど声にならない声で呟いた。え、と順が問い返す。その顔には人の悪い笑みがまだ浮かんでいる。要はこぶしを固めて毅然と顔を上げた。
「冗談じゃありませんわ! わたくしがそうと思う男でなければそんな真似をする訳がないでしょう!? あなたのような最低軽薄男は、それに見合う女性を探せばいいんです!」
叫びざま、要は思い切り腕を振り上げた。順の顎にこぶしがクリーンヒットする。悲鳴を上げて倒れる順の前で要は憤然と胸を張った。足を振り上げて順の肩を踏む。かかとに力を込めて踏みにじると順が情けない声を上げた。
「まだなにか、他に言いたいことがありますの?」
「いやっ、あの、ごめん! オレが悪かったから、うわ、だからその肘は……っ!」
要は問答無用で肘に体重を乗せた。順のわき腹目掛けて要の肘が落ちる。順は声にならない悲鳴を上げて床の上で悶絶した。のた打ち回る順に冷ややかな微笑を浴びせ、要は満足を込めて頷いた。所詮、軽薄男の末路はこんなものですわ。声にしてそう呟くと順が涙目で要を見上げた。
「まだ死んでないんですけど」
「あなたのような男の末路は決まっている、と言ったんですわ! 軽薄男はさっさと部屋から出て行きなさいな」
要はそう言いながら口許に手を当てて高く笑った。順が何事かを呟きながら身体を起こす。まだ痛むのかわき腹をさすっている。そんな順に冷たい眼差しを向け、要はすかさずドアを指差してみせた。さあ、と目で促す。だが順は一向に出て行こうとしない。苛立ちに任せて要がもう一発、と肘打ちを見舞おうとした瞬間。
「オレさあ。実は栄子さんに伝言頼まれてたんだよねえ」
「……何ですって?」
要は肘打ちの構えをゆっくりと解いた。訝りを込めて順を見下ろす。順は痛いなあ、もう、と不服を零している。そんなことはいいから続けなさい。要はあくまでも高飛車な態度で順にそう命じた。
「だからあ。要ちゃんにちょっと聞きたいことがあるんだって」
「言って御覧なさい。ただし」
悪趣味な冗談にはこれ以上は付き合う気はない。要は先にしっかりと順に釘をさした。さすがに懲りたのだろう。順は降参の印に手を上げて要に頷く。
「要ちゃんのガッコに吉良優一郎くんっているでしょ? どんな子かってさ」
「吉良……優一郎?」
頭に詰まっている記憶を素早く引き出す。吉良優一郎。あのにっくき吉良絵美佳の弟であるが、姉とは全く違い、その容姿は酷く整っている。学年一の出来の良さを誇るが、残念ながら彼女持ちだ。もし、彼女がいなければ手に入れていたのに。要は優一郎を見るたびに悔しさに唇を噛むのだ。ああ、と手を叩いて要は頷いた。
「知ってますわ。成績は学年トップ。容姿もまあまあですわね。それがどうかしまして?」
「だから知りたいのはオレじゃなくて栄子さんなんだってば。判った。じゃあ、そう伝えとくね」
力のこもらない笑みを浮かべて順が立ち上がる。だが不思議なことにその時にはもう、順は一人できちんと立っていた。要はそんな順に訝りの目を向けた。おかしい。全力で打った肘が入った筈なのに。本当は肋骨が折れていても不思議はないのに。だがそんな要の疑問を無視するように順はゆらりと歩き出した。すり抜けざまに囁く。
「やっぱ、要ちゃんっていいなあ。今度、マジでオレとしようね」
「だっ、誰が!」
低音の囁きが心地良くて一瞬、反撃するのが遅れた。などとは絶対に口が裂けてもいえない。要は順が去った部屋の中で、一人こぶしを震わせた。
これでも順は本気なのですよ……w