今回は六分割してあります。
エロシーン前哨戦。
「うわ、いい部屋じゃん」
立城の執務室の半分くらいのサイズかな。目で部屋の広さを確かめながら水輝は胸の内でそう呟いた。未亜が照れくさそうに微笑んでみせる。早速、と窓際に寄った水輝はカーテンを引いて感嘆の声を上げた。エレベーターから見たのとはまた違う角度からの夜景が見える。
「綺麗……」
水輝に手招きされ、窓辺に寄った未亜は小さくそう呟いた。暗い闇の下に幾つもの煌きがある。だがそれらも全て人工の光だ。何色もの光を見つめ、水輝はそっとため息をついた。どれだけ時が流れても人の光は消え失せない。なのに何故、自分たちの輝きは失われてしまうのだろう。
ふと、隣の気配が変化する。気付くと未亜は水輝の真横に立って緊張した面持ちになっていた。水輝は苦笑してそんな未亜から花束を取った。驚く未亜に笑ってバスルームに向かう。
「水に浸しておいた方がいんじゃないの? その方が長持ちするよ」
「あ、ありがとう」
困惑した面持ちで返答する未亜に片手を上げ、水輝はバスルームの扉を開けた。身体半分だけバスルームに入ってから顔を出す。ぼんやりと窓から夜景を眺めていた未亜に届くよう、水輝は少し声を張った。
「あ、ついでにシャワー浴びてくる」
「えっ」
驚いた声を上げた未亜に笑い、水輝はバスルームの扉を閉めた。言った通りに洗面台に水を張り、花束の根元を浸す。うん、立城のところの玄関から持ってきたにしては上出来だ。自分の力がきちんと働いていたことに頷き、水輝は服を脱ぎ始めた。傷一つない身体を手で触って確かめる。
何もない闇の中に眠っていた時間が長かったのか短かったのかは判らない。そして自分が眠っている間、器だけが滅びへと向かっていたことを水輝は知っていた。だが眠るだけの水輝にはどうすることも出来なかった。自分の半分である女性を持った水輝が滅びたいと願えば、自分に抗う術はない。共に滅びよと世界が言っているのだと納得するしかなかっただろう。
だが立城はそんな水輝を闇から引き揚げた。女性である水輝は眠りについてしまったが、代わりに男性を持った水輝は光の中へと戻ることが出来たのだ。
たとえそれが人の作り出した模造品の光の中でも、な。シャワーを浴びながら水輝はそう呟いた。水流が勢いよく頭に当たる。だがそんな些細なこと一つでさえ、水に命じなければかなわない。水輝は小さくため息をついて熱いシャワーの中に頭を突っ込んだ。
「立城、笑うかな」
小さく呟く。どうせ全てを食い尽くしてしまうのなら、最初から情などかけるな。そう言って笑うだろうか。そんなことを思いながら水輝はシャワーを浴び終えた。バスタオルを頭に乗せて目を閉じる。
「散れ」
力ある一言を発すると同時に水滴が水輝の身体の表面から消える。水輝は息をついて傍にあったバスローブを身につけた。どっちが前だっけ、と考え込む。
「ねえねえ、未亜ちゃん。これってどっちが前?」
バスルームのドアを開け、水輝は部屋の奥にいた未亜に声をかけた。未亜は慌てたようにバスルームまで駆けてきたが、水輝の姿を見て躊躇したらしい。ドアの手前で立ち止まる。
「なに?」
水輝は不思議に思ってそう問い掛けた。次いで理解する。どうやらバスローブの隙間から裸の状態が見えていることがまずいらしい。水輝は苦笑して適当にバスローブの前を合わせた。すると未亜が真っ赤になったままで頷く。どうやら合わせは洋服と同じだったようだ。反射的に左前にしていた水輝は納得顔で頷いた。
バスルームから出ると二人分の茶がいれられていた。どうやらコーヒーが飲めないという水輝の言葉をしっかりと覚えていたらしい。カップの中に満ちていたのは薄目の紅茶だった。
「未亜ちゃんも浴びてきたら?」
椅子に腰掛けながら水輝はさりげなくそう告げた。すると未亜が微かに息を飲む。水輝はカップを口許に寄せて少しだけ笑った。
「でないとそのまま抱くぞ?」
「あっ、えっと、はいっ」
低い水輝の声に慌てて返事し、未亜は素早くバスルームに駆け込んだ。口づけを拒否しなかった時点で未亜は水輝を受け入れる覚悟が出来ているのだ。どうせね、と水輝は小声で呟いて熱い紅茶を注意深くすすった。下手をすると舌を火傷してしまう。だが思っていたよりも紅茶はぬるかった。
三分が過ぎた時、水輝はそっとテーブルにカップを戻した。窓の向こうの光景に微かな嗤いを向ける。どんなに儚くとも人の光はずっと残り続けている。自分たちと比較するとそのしぶとさはどんなものにも負けないのではないかと思える。そんな夜景に水輝は嗤いを残し、静かにバスルームに滑り込んだ。勢いのある水音の立つバスルームの硝子扉は真っ白に曇っている。ローブの紐を解き、水輝はその扉に手をかけた。気配を殺していたからだろう。水輝がシャワー室に入っても未亜は髪を洗い続けている。
水輝は黙って手を伸ばした。シャンプーを流している未亜の髪に触れる。未亜は驚きにびくりと身体を震わせ、慌てたように頭を頭を上げた。シャワーの流れに晒された髪を丁寧に指ですく。
「みっ、水輝くん!?」
驚いた未亜の声は完全に裏返っている。水輝はそんな未亜をシャワー室の壁に押し付けた。バスタブの中に一緒に入ってシャワーノズルを動かす。
「そんな大声出すと隣の部屋に聞こえるぜ?」
そう言いながら水輝は素早く未亜に唇を寄せた。唇の中に未亜の声が消える。シャンプーの残った髪が壁に張り付く。水輝は未亜の頭を片手に抱え、その腰をもう片方の腕でしっかりと抱いた。形のよいバストが水輝の肌に当たって軽く潰れる。
シャワーのシーンはお約束だと思うんですが……
乗り込む辺り、気短ですねー。