あ、エロシーンはないです。
ふて腐れた顔をした水輝が屋敷に戻ったのは夜の十一時を過ぎた頃だった。先に戻った多輝や由梨佳は既に眠りについている。立城は執務室で一人、水輝を出迎えた。そして水輝の背後にひっそりとついて歩いているそれに目を移す。
長い髪に濡れた唇、そして白い肌。立城は首を傾げてそれを眺めた。黒髪に黒い瞳をしたそれは困惑気味に視線を泳がせている。
「疲れた」
そう一言告げて水輝がソファにどっかりと腰を下ろす。手を上げて茶、と短く告げる。立城は肩をすくめて宙に手を伸ばした。が、いつものように力を使おうとして出来ないことに気付く。
「あ、そうか。ごめん。ちょっと待ってくれる? お茶をいれてくるから」
きっと水輝が連れているということは成功したのだろう。立城はそれににっこりと笑いかけてから執務室を出た。本当は使い魔に任せても良かったのだが、自分で茶をいれるのもまた新鮮だと思ったのだ。
湯がわくまでの間に立城は様々な可能性について考えてみた。水輝が不機嫌な理由についてだ。誰かを連れていたということは使い魔を作ることに成功したのだろう。だがそれなら水輝が不機嫌になる理由がない。ああでもない、こうでもない、と立城は一つずつ可能性を挙げては消去していった。
やかんの笛がなる。立城は丁寧にポットに湯を注ぎ分け、ティセットを乗せたトレイを持ち上げた。キッチンを出て執務室に進む。そこでは水輝がふて腐れた顔で文句を言っていた。
「ただでさえ体力を使うんだぞ? おれの身にもなれってんだ」
立城は出来るだけ邪魔をしないようにそっと執務室に入った。気配に気付いていたのだろう。水輝は立ち上がってドアのところまで歩いてきている。立城からさっさとトレイを奪い、水輝は再びソファに戻った。どん、と乱暴にトレイをテーブルに乗せる。
「……僕がいれるよ」
ポットを取ろうとした水輝を制して立城は手を伸ばした。相当に不機嫌なのだろう。水輝の手つきは乱暴で、それこそポットを握り壊しかねない。何があったか知らないけど、と立城は胸の中で呟いた。その瞬間、水輝がテーブルを殴る。だが理性は辛うじて残っていたのだろう。いつものようにテーブルが割れることはなかった。
「おれはくじ運がべらぼうに悪いことに気付いた!」
「……? まあ、水輝はくじ運はあんまり良くないかも知れないね」
少なくとも運が良ければ避けられたことは多いだろう。立城は素直に同意してカップに紅茶を注ぎ分けた。三つのカップに茶が満たされる。それを見た水輝があからさまに顔をしかめた。
「こいつの分はいんだよ。やんなくて」
「それは酷いんじゃないかな。はい、どうぞ」
立城はカップをソーサーに乗せてそれに差し出した。戸惑ったようにそれが水輝と立城を見比べる。だが主の命令は絶対だ。それは立城に申し訳なさそうに首を振る。ため息をついて立城は水輝に目を向けた。
「……水輝」
「ああもう、判ったよ! 好きにすればいいだろ!」
投げやりな言い方だったが、どうやらそれは水輝が許可を出したと理解したらしい。立城に深々と頭を垂れてソーサーを引き取る。立城はにっこりと笑って頷いた。
まだ水輝は膨れている。そんな水輝に立城はカップを押し出した。テーブルを滑って目の前に届いたそれを無言で水輝が取り上げる。やれやれ、と立城は呆れたため息をついて自分のカップを取った。力を使わずに紅茶をいれたのは久しぶりだ。
「ところで名前は?」
茶を一口だけ飲んで立城はそう訊ねた。水輝が渋面で呟くように吐き出す。
「蒼」
それを聞いた立城は何度か瞬きをした。蒼と呼ばれた使い魔と水輝を見比べる。次いで立城は何気なく告げた。
「随分と凛々しい名前にしたんだね」
深く意図した訳ではない。思ったままを述べただけだ。立城は口許に柔らかな笑みを浮かべてカップを傾けた。心地良い紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。味わいつつ紅茶を飲む立城とは対照的に水輝はカップを持った手を小刻みに震わせていた。ソーサーと触れ合うカップの音に気付き、立城は目を上げた。
「ああ、そーだよ! 悪かったな!」
どうやら本気で拗ねているらしい。何事かと立城は目を見張った。いつもとは違い、水輝の意識は無造作に流れてはこない。いや、確かに流れてはいるのだろう。立城の感知する力が弱まっているのだ。立城はいつもとはどこか勝手が違うことを楽しんでいた。水輝の顔色を読んで目を閉じる。紅茶の香りを満喫している立城に業を煮やしたのか、水輝は頼みもしない内に話し始めた。
これ書いてる時、ティーカップとかティーセットの『ー』を入れるの忘れてるんですよね。・゚・(ノД`)・゚・。
あるものと思って読んでもらえると嬉しいです。
(修正するときりがないので諦めた件)