エロはないです。
『問題ありません。いつでも行けます』
涼しい声が耳に届く。要との諍いの始まりを思い出していた絵美佳はその声ではっと我に返った。
「まあ、向こうにあんたが負けるとは思わないけど、長引かせないように注意して。強力参号はともかく、あんたに壊れてもらうと困るのよ」
コネクトはかなり強引な方法で行われている。巴の動作システムを司る中枢ユニットに巨大ロボットである強力参号を直結しているのだ。それ故、強力参号は他者では決して真似できないスムーズな動きをすることが出来る。しかも直結である故にその反応速度は搭乗者の巴そのもので、今までの実験の中では最速を誇る。
だが、だからこそ搭乗して強力参号を操作する時間はかなり厳密に制限される。巴の機体にかかる負荷がべらぼうに大きいのだ。
そう、巴は正しくは人間ではない。巴はヒューマノイドと呼ばれる機械仕掛けの身体を使っている。そして巴は今現在、絵美佳のメンテナンスを欠かしては生きていけない身体になっているのだ。
『了解しました。速やかに敵を攻撃、行動不能にします』
通常の巴とは全く違う喋り方だ。接続された巴の人格部分に強力参号のシステムが割り込んでいるためだ。絵美佳は慎重に頷いて少しずつその場から離れた。もう、存分に喚いたのだろう。要も先ほどまでの金切り声を収めている。
絵美佳率いる科学部の部員たちは強力参号の背後に控えている。一様に白衣を身につけているのは実験中だったからだ。絵美佳も彼らの列に加わり、強力参号から送られてくるデータに目を落とした。
一方、要の率いる生徒会役員たちはまだ体操服を身につけている。その列の中心でふんぞり返っているのが会長の要だ。彼女は白いシャツに水色のブルマーという、見た目にはなかなかいい格好をしている。が、絵美佳は遠目にその姿を見止めてため息をついた。
「向こうのパイロットはやっぱ、あいつよね……。運動神経はかなり高いから、侮るわけにはいかないわ」
巴の搭乗する強力参号のちょうど正面、数十メートル離れた地点にそれはあった。絵美佳は無言で二体の巨大なロボットを見た。強力参号が少しばかりレトロな作りであるのに対し、生徒会の持ち出したそれは最新鋭のマシンだった。が、それはあくまでも見た目の話だ。実際には戦ってみなければその機能は判らない。見た目のデザインがどんなに優れていても機能が優秀であるとは限らないのだ。過去、総一郎の試作した巨大ロボットは某アニメーションのキャラクターそのままの造形だったという。だが、当時、そのロボットに生徒会の最新鋭マシンはあっけなく敗れ去ったのだ。生徒会に手を貸したメーカー側の驚愕は凄まじく、後に総一郎の元にはたくさんの質問書が届いたという。
生徒会の巨大ロボットが唸りを上げる。そこで絵美佳は目を見張った。予想に反して生徒会のロボットに要は搭乗しない。ロボットの脇、並べられた机の上に乗った端末を操作しているだけなのだ。まさか、遠隔操縦? そう絵美佳が呟いた時、机についていた要が勢いよく立ち上がった。椅子を蹴倒して握り締めたこぶしを天に突き上げる。
『今こそ、今こそ積年の恨みを晴らすとき! 覚悟なさい、吉良絵美佳!』
ご丁寧に要の口許には拡声器が寄せられている。絵美佳は耳障りな音に顔をしかめて耳を両手で塞ごうとした。だがそこには通信用のヘッドセットがある。
「何の恨みかは良くわかんないけど。あんたには負けないから安心しなさい!」
絵美佳は大きく息を吸って声を張り上げた。凛とした声が秋空に響き渡る。それまで騒いでいた取り巻きの生徒たちが驚いたように息を飲む。拡声器を通した要の声より、地で張り上げた絵美佳の声の方が数段通ったのだ。が、当の絵美佳はそのことには気付かなかった。ふん、と鼻を鳴らして再度端末の画面を覗き込む。描かれたカーブを見つめ、絵美佳は静かに息をついた。
清陵高校のグランドは他校に比べて広々としている。その西側に二体のロボットは並んで立った。絵美佳の作ったそれは紫色を基調にデザインされている。対する生徒会のそれはあくまでもシャープに見せるためか、メタリックのシルバーで統一されたデザインだ。
「ストレス値上がってるなあ……。そんなに緊張しなくていいのに」
画面を見つめながら絵美佳が呟いたその瞬間、澄み渡った空に一発の鋭い音が響いた。火薬の発した音を合図に二体のロボットが動き出す。それと同時に生徒たちの歓声が上がった。瞬発力を誇る最新鋭のマシンが真っ先にトラックに駆け出す。が、巴も負けてはいなかった。ダッシュと同時に足元に設えられたブースターをに点火、勢いよく加速していく。
「さすが岩手島駿河重工の最新型ね。機動性もパワーも申し分ないわ」
岩手島駿河重工。通称、ISIと言われるその企業は世界で初めて人型重機の量産化に成功したことで世界に知られている。前回の科学部と生徒会と対決で生徒会側が持ち出したロボットもそこで生産されたものだ。前回の対決後、総一郎からパテントを買い付け、現在では人型汎用機械の品質では世界ナンバーワンと言われている。
だが今回、要が持ち出してきたのは人間が実際に乗り込んで操作するタイプのロボットではなかった。搭乗者に負担をかけるこれまでのシステムを一新、あくまでも遠隔操縦にこだわって試作されたロボットだったのだ。
遠隔操作と簡単に言ってもその方法は様々ある。有線で操作する固定型、無線操作を可能にした可動型。そして要が持ち出してきたそれは衛星で中継を行って遠隔操作される。その最新型にはタイムラグが殆どなく、操縦者にストレスを与えない設計になっている。……筈だ。少なくともそういう設計であるというインタビューは某科学雑誌に掲載されていた。だがそれはあくまでも試作段階のもので、到底、実際に使用できるレベルにまで改良されてはいない。
でも衛星なんて使ったらラグりまくりなんじゃないの? 絵美佳はインタビューの記事を読んだ時と同じ呟きを唇に乗せた。当の企業はひた隠しにしているが、その研究が軍事目的であるのは明白だ。そうでなければわざわざ反応の鈍い衛星中継などする筈がない。広範囲に及ぶ操作を可能にするために開発された技術なのだ。
二体の巨大ロボットのスピードにはほぼ差はなかった。もの凄い勢いでトラックを周るため、周辺に凄まじい風が巻き起こる。時折、上がる悲鳴はスカートのめくれた女子生徒のものだ。そんな観覧者たちの姿に軽く口笛を吹き、絵美佳は画面を再び見つめた。
この時点で巴がヒューマノイドだとうっかり勘違いしてまして(汗)
正しくはロボです。まだ書き分けで来てません……。