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今の優一郎と由梨佳が並べばクラスメイトと言っても通じる。恋人同士だと言っても知らない者はきっと疑わない。そしてそんな母親に優一郎は隠れて欲情しているのだ。昔ならともかく、今の優一郎はそれが異常なこととは思っていなかった。何故なら由梨佳は人ではない。そして本人にそうと言わなければどう思おうと伝わらない。そして由梨佳は今でも優一郎の気持ちには少しも気付いていないのだ。
いつの間にか優一郎は自分の思考に没頭していった。そんな優一郎に話し掛けるのをやめ、栄子が黙って見つめる。優一郎は考えにのめり込むあまり、その視線の変化にも気づかなかった。子供を見つめる目から男を見るそれへと栄子の視線が変わる。栄子はねっとりとした色香の漂う目つきで優一郎を静かに見つめていた。
「優一郎さんもきっと賢いのでしょうねえ」
うっとりとした目で優一郎を見つめ、ため息をつくように栄子がそう呟く。優一郎は顔を上げて何事もなかったかのようににっこりと笑った。
「いえ、父ほどではありませんよ。もちろん。いつかは越えたいと思っていますが」
栄子の目線に含まれる感情の変化に優一郎はその時に気付いた。だが気付かないふりを続けて人好きのする笑みを浮かべる。栄子の目的が判らない以上、簡単に罠に嵌るのはいただけない。それにそもそも手の中に握った小型のそれは驚くべき結果を優一郎に伝えていたのだ。
それは優一郎が急遽作成した小型の残留力チェッカーだった。音を発さないそれは手の中にすっぽりと納まるサイズで、簡単にその場の残留力を調べることが出来る。そして優一郎が持つチェッカーは風の力の反応を示していた。
あの機体に炎の力を埋めていった侵入者と同じ反応だ。そして栄子は明らかに精神的に操作されている。その力をチェッカーは読み取っているのだ。優一郎はちら、と手の中に視線を落とし、次いでにこやかに顔を上げた。栄子は潤んだ眼差しで優一郎を見つめている。
「偉大すぎる父を持つ、という苦しみはもしかしたら栄子さんならおわかりいただけるかもしれません」
そう告げて優一郎は自嘲気味に笑った。それは全てが演技ではなかった。父の総一郎は優一郎が追いつけないほど遠い場所にいる。ヒューマノイド技術でようやく足元に近づけた、というところだ。だがそれでも優一郎は決して総一郎に近づいたとは思えなかった。少し近づいたかなと思うと総一郎はあっという間に別の場所へと駆けていってしまう。もしかしたらずっと近づくことは出来ないのかという不安すら覚えることもある。優一郎はそっとため息をついて栄子を見た。すると栄子が納得顔で頷く。
「判りますわ、そのお気持ち。私も……家の話でお恥ずかしいのですけれど、私も若い頃は随分と親の七光りだとかで周りから指をさされましたもの」
そう告げると栄子は悲しそうに目を伏せた。当時のことを思い出したのかも知れない。深いため息をついている。優一郎はそんな栄子に微かに笑いかけた。
「あなたもさきほど、僕が父に似ている、とおっしゃいましたよね? みんなそうなんです。母や姉でさえ、いえ、彼女たちは特に、僕を父の代用品程度にしか思っていない」
それはもしかしたら本音だったのかも知れない。言っている優一郎にも自分が演技をしているのか、それとも本心を吐き出しているのか判らなくなっていた。由梨佳は優一郎を見るとき、どこか遠い眼差しをすることがある。姉である絵美佳は幼い頃から総一郎に似ているという理由で優一郎を好いていた。これは他者から得た情報だが、まず間違いないだろう。先の一件で絵美佳は優一郎を想いながら自慰をしていたと判明しているからだ。
教師の中にはやはり総一郎を知っている者がいて、彼らは悉く優一郎と総一郎を比べて話をする。そんな時、優一郎は感じるのだ。一体、誰が僕自身を見てくれているのだろう。そして思った後に自問する。似ているというのはそんなにいけないことなのだろうか、と。ただその容姿が似ているというだけで、能力まで似ていなければならないのか。
ふと、顔を上げる。栄子は優一郎を見つめて目を潤ませている。痛ましさに顔を歪めている。だがそれすら本人が優一郎を思ってのことではないかも知れない。かつての総一郎の面影を優一郎の中にみているだけなのかも知れないのだ。
下らない感傷だな。優一郎は自分の考えにため息をついて苦笑した。次いで微笑を浮かべる。
「すいません。ちょっと愚痴ってしまって」
言っても仕方のないことだ。優一郎はにっこりと笑って栄子に告げた。栄子は戸惑ったような顔をする。決して彼女に悪意はなかっただろう。だが次の一言で優一郎は表情を凍りつかせた。
「こちらこそごめんなさい。あなたが総一郎様にそっくりだから」
だから。優一郎は胸の内で呟いた。だからそっくりだと言われるほど似ていたとして、それでどうしたと言うのだろう。苛立ちが大きくなりかけたその時、不意に優一郎は気付いた。そう言えば栄子は優一郎がこの部屋に入室した時に驚かなかった。もし、先に入手した情報の通りに栄子が総一郎を好いていたなら、造作が似ているだけでも驚かないだろうか。しかも栄子が繰り返し言うほどに似ているのなら余計にその可能性は高いだろう。
しかも優一郎は僅かにだが不愉快に感じているという顔をしてしまった。一会社のオーナーになるほどの実力の持ち主なのだ。優一郎の表情の変化に気付かない筈がない。人の機微に敏感にならなければ企業を支えていけないだろう。無情に人を切り捨てる時にも上の人間は人々の機微をきちんと把握している筈だ。そうでなければ企業内で反乱が起きかねないからだ。
栄子が正気なら良かったんですけどねー……(棒