(声だけですけども)
「……あの……部長」
それまで黙っていた部員の一人が口を開く。絵美佳は端的に何事かと訊ねた。するとその男子部員は困ったような顔で頭をかく。
「何でかけっこなんすか?」
巨大ロボットはわき目もふらずトラックを駆けている。絵美佳はその様子を目で追ってから男子部員に目を戻した。
「今、やってる行事は何よ?」
淡々と告げる。絵美佳のその声はトラックを踏みしめていくロボットたちの足音にかき消されそうになっていた。だがきっちりと絵美佳の返事を聞き取ったのだろう。男子部員が困惑した面持ちのままで、はあ、と力ない応えを返す。
ロボットの競争はそれから五分ほど続いた。生徒たちもさすがに飽きてきたのだろう。ブーイングの声が上がる。だが絵美佳は科学部員たちの作業を止めるつもりはなかった。元々、これは実験の一環だ。正確なデータを入手することに意味がある。要が言っている勝負うんぬんについてはついでであって、本来の目的は全く違う。それ故に絵美佳は不意を討って巴に相手ロボットを攻撃させるようなことはしなかった。同様に生徒会のロボットも巴の乗る強力参号を攻撃することはない。
だが、そんな中で異変が起こった。生徒会のロボットがトラックのカーブを曲がり損ねてしまったのだ。まだ残っていた貴賓席のテントをなぎ倒していく。操縦者の要は悲鳴を上げて立ち上がった。
「あーあーあー……。あのコースだと校舎直撃っすねぇ」
のんびりとした部員の声に絵美佳はしみじみと頷いた。だから遠隔操作は信用出来ないのだ。しかも衛星を使った操縦などこの狭いグランドでどれだけ役に立つか。絵美佳はやれやれとため息をついて立ち上がった。
「巴。あっちのロボットを止めちゃって」
細いマイクを口許に引き寄せて告げる。絵美佳はそうしながら端末を片手で素早く操作した。巴の機体のストレス値は50を越えている。だがここであの暴走ロボットを止められるのは巴だけだ。
『了解しました』
それまでオールグリーンだった強力参号のシステムが一転して黄色く点滅する。その後、信号はまたグリーンに戻った。一瞬の危険信号は巴の意識が強引に強力参号のシステムに割り込んだためだ。
一瞬で巨体がかき消える。次の瞬間、強力参号は高い場所から強引に生徒会のロボット目掛けて着地した。曲芸に近いロボットの動きに生徒たちの歓声が上がる。だがその声には要の盛大な悲鳴も混じっていた。
「強力参号、攻撃態勢に移行」
「コネクト数値がどんどん落ちています」
「部長。搭乗者が武器の使用許可を求めていますが」
それまで静かだった科学部の席が部員たちの報告で溢れる。絵美佳は渋い顔で強力参号を見た。
「許可なんかいちいち求めなくていいから! 早くケリをつけて!」
マイクに怒鳴った次の瞬間、強力参号の胸部の鉄板がせりあがる。中から飛び出したのは巨大な刀の柄だった。それを握った強力参号が大きく右手を振る。最新の技術の結晶である最新鋭のロボットはその一太刀でいとも簡単に両断された。
轟音が鳴り響く。地面に沈んだロボットの残骸の中に強力参号は毅然と立ち上がった。ゆっくりとした足取りで絵美佳たちのいる場所へ歩いていく。その周辺では要たちが悲鳴混じりに騒いでいた。
「巴、大丈夫?」
絵美佳は心配顔で強力参号を見上げた。足を止めた強力参号は絵美佳の問には答えない。が、耳元には搭乗者である巴の声が響いてきた。
『あっ、んふっ! 先輩……あそこが、あっ!』
艶かしいその声が絵美佳の耳に聞こえた途端、席についていた科学部員たちが一様に机に突っ伏した。絵美佳は一人、ため息をついて額をかく。やはりコネクト部分が女性器であるというのは問題なのだろうか。だが、ヒューマノイドである巴と強力参号を接続するとなると、他に方法はない。
『あっ、あぁっ! 先輩、ダメ……。あそこが、熱くて……弾けそう! あっああん、うふぅ!!』
ヘッドセットを通して聞こえる巴の喘ぎ声に科学部員たちは真っ赤になっている。絵美佳はやれやれと肩を竦めて隣の男子部員に目をやった。男子部員が慌てて股間を手で覆い隠す。そして強力参号は巴の反応を受けてその場に内股でへたり込んでしまった。
おもむろに手を上げる。絵美佳は耳元にあるスイッチを切り替え、マイクを口許に寄せた。他には聞こえないよう、早口でマイクに告げる。
「巴、しっかりなさい。あそこっていうのはメカマンコでいいのね? そこがどうなったの!?」
『ん、っ先輩……。凄く熱いです! 弾けるような痛みが……でも、気持ち……いいっ!』
律儀に巴はそう応えた。甘い息遣いが耳元に届くと、それだけで絵美佳の股間に異変が起きかける。だが絵美佳は意識を股間に集中させ、暴れようとするそれを押さえ込んだ。
遠くで要が怒鳴っている。だが絵美佳はそれを完全に無視して部員たちに撤収の準備の号令をかけた。このまま強力参号に巴を入れておけば、じきに巴は意識をなくしてしまう。壊れた機体を直すことは出来るが、それには時間も金もかかるのだ。
「直ぐ行くから。とにかく! コネクトプラグを抜きなさい!」
部員たちは恥ずかしそうにその場を片付けている。絵美佳はマイクに向かって叫んでから一転して声を潜めた。囁くようにマイクに告げる。
「今日は、お疲れ様。夜通しメンテだから、楽しみに待ってなさい」
熱くたぎる股間のそれを思いながら絵美佳は薄く笑っていた。
科学部員はモブぽいですが、けっこうな数いるはずです。