「いきなり殴るこたねえだろ! 大体、てめえが何でここにいる!」
「何でおれがわざわざくそがきの質問に応えなきゃなんねんだよ。阿呆」
そう吐き捨てるなり、水輝は急に姿を消した。え、と息を飲んだ多輝の真横に唐突に現れる。鋭い息遣いが聞こえた瞬間、多輝は壁に叩きつけられていた。
多輝は訳が判らなかった。奈月は前から自分と友達として接してくれている。そんな友達の部屋を訪ねることがそんなにいけないことだろうか。多輝は水輝が何故この屋敷にいるのかを全く理解していなかった。
血の滲んだ唇を拭う。多輝は歯軋りして立ち上がった。水輝はのんびりとそんな多輝を眺めている。口許に浮かぶ嗤いを見止めた多輝の心に言いようのない怒りがこみ上げた。
「……やりやがったな! てめえ!」
床を蹴って多輝は一直線に水輝に飛び掛った。水輝がシャツの胸のポケットから煙草を取り出し、のんびりと唇に挟む。多輝は怒号を上げて水輝に殴りかかった。勢いをつけてこぶしを繰り出す。
「相変わらず真っ直ぐすぎるなあ、くそがき」
口許に嗤いを浮かべ、水輝は片手で多輝のこぶしを受け止めた。空いた手でライターの火を灯す。
「余裕くれてんじゃねえぞ!」
今度は負ける気はない。多輝はふわりと身を屈めて足払いをかけた。だが水輝は多輝の脛をきっちりとかかとで踏む。それだけで多輝はあっさり動けなくなった。
「終わりか? つまんねえなあ、相変わらず」
やれやれ、と肩を竦めそう吐き出した瞬間、水輝は足に力を込めた。激しい音がして多輝の脛の骨が砕ける。煙草を歯で挟み、かかとで砕けた多輝の足をにじる。多輝は声にならない悲鳴を上げて仰け反った。
水輝がゆっくりと手を開く。解放された多輝は砕けた足を抱えて歯を食いしばった。意識を集中すると一瞬で傷が回復する。それを見た水輝が口笛を吹いた。
「へえ……。少しは成長してるじゃねえか。くそがきの分際で」
嗤いながら水輝が吐き出した時にはもう、多輝は動いていた。相変わらず水輝からは絶大な力を感じることが出来る。そしてその強大すぎる力を多輝は本能的に恐れていた。だがそんな恐怖を凌駕するほどの怒りに支配される。多輝は強く床を蹴り、水輝の懐に飛び込んだ。水輝の胸倉をつかみ、身体を沈める。素早くかけた多輝の足払いが水輝の足にヒットする。
「甘いなあ」
耳元に囁きが聞こえたと思った途端、多輝は床に転がされていた。水輝が多輝の軸足を絶妙のタイミングで払ったのだ。だが多輝には何がどうなったのかが判らない。再び身体を起こし、今度は水輝の足目掛けて腕を伸ばす。だが届く一瞬前に水輝は片足を振り上げていた。勢いのついた多輝の身体は止まらない。飛び掛かる多輝の肩を目掛けて水輝は踵を落とした。
嫌な音が身体の中に響く。多輝は激しい痛みに叫び声を上げた。水輝の踵は多輝の肩に食い込み、肌を裂いて機体内部に食い込んでいた。
「どうせ体術じゃおれにかなわないんだ。全力で来いよ」
煙草をふかしながら水輝はのんびりと告げる。多輝は機体にめり込んでいる水輝の足を力任せに振り払った。床に倒れこんで震える手を壊れた肩に伸ばす。
「……ぶっ殺す」
多輝は低い声でそう吐き捨てた。痛みが酷すぎて視界が揺れている。歯軋りをして壊れた肩に力を注ぐ。そんな多輝を嘲笑いつつ見下ろし、水輝が告げた。
「やれるもんならやってみろ。くそがき」
嗤い混じりの声だけで水輝の表情が見えてくる。多輝は額に汗を滲ませながら懸命に傷を修復した。僅かの間、部屋に静けさが流れる。乱れた呼吸を整え、多輝は手の中に力を集めた。淡い燐光が多輝の身体を包む。
「伏せてろ、奈月!」
水輝の怒声が飛ぶ。その一瞬後に多輝は水輝目掛けて力を放出した。紺の光が一直線に水輝に襲い掛かる。だが水輝は煙草をくゆらせながらゆらりと光に手のひらを向けた。
水輝を貫く筈だった多輝の光は手のひらの直前で静かに止まってしまった。多輝はその光景を声もなく見つめた。力を放った手が震え始める。水輝は片手一本で易々と力の塊を受け止めてしまったのだ。加減した覚えはない。それは紛れもなく多輝の渾身の一撃だった。
「この程度の力でおれに向かってくる度胸は認めてやるよ」
水輝は小さく笑って呟くように告げた。次の瞬間、その顔に狂気じみた嗤いが刻まれる。それを見た多輝の全身は急に凍えた。かたかたと耳障りな音が聞こえる。それが自分の歯の鳴る音だと気付いた時、水輝は腕を軽く振った。
手の先に留まっていた紺色の光が輝きを増して収縮する。
「力ってのはなあ!」
叫びが部屋を揺らす。激しい音が鳴って水輝の姿がかき消える。高速で移動しているため、多輝の目には水輝の動きが見えないのだ。多輝は愕然と水輝の消えた場所を見つめていた。
唐突に肩をつかまれる。水輝は多輝の真正面に出現した。多輝は目を見張って息を飲んだ。煙草の先に灯る赤い火が揺れる。
「こう使うんだよ!」
何かが機体を破壊する。多輝は激しい衝撃に絶叫した。水輝は左手にした紺の力を多輝の機体にねじ込んでいた。次の瞬間、多輝は壁に向かって吹き飛んだ。窓が破れ、壁が砕ける。奈月の悲鳴と共に多輝の力は機体内で爆発した。
まだ機械娘が書けてません!(自白
すみませんーー!!><