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とりあえずは栄子を落ち着かせるのが先だろう。そう考えた優一郎は話の続きを別の日にしよう、と栄子に提案した。慌てていた栄子は優一郎のその提案に即座に賛成した。
その日は朝からとてもいい天気だった。秋空は高く、澄んでいる。優一郎は窓からそんな空を見上げ、次いで部屋の中を振り返る。あれから数日が過ぎている。少しは栄子も落ち着いたのだろう。あの時とは違い、優一郎を熱い目で見ることもない。優一郎は出された紅茶を礼を言って受け取った。栄子は頷いてソファに戻った。花の香りがする紅茶を一口味わう。ソーサーに触れたカップがかちりと音を立てた。
「力は便利なものです。ですが、力の行使にはリスクが伴います。しかし、力を持つ龍神の中でも、そのリスクをきちんと認識している者はあまり居ないのが現状なんです」
全てを説明すれば栄子はもしかしたらパニックに陥るかも知れない。本来であれば信じがたい話だろうが、栄子は実際にその力に晒されたのだ。優一郎が素直にありのままのことを話せば、納得は出来なくとも本当のことなのだと思うだろう。少なくともその程度の衝撃はあの時に受けている筈だ。
栄子は優一郎がそう話を切り出した時に静かに俯いた。龍神、という言葉の意味を理解できなかったのだろうか。優一郎はそう感じて説明をしようとした。が、それを制するように栄子が口を開く。
掠れた小さな声で栄子は一人の男性の名前を言った。木崎順。順はルポライターと称して栄子に接触してきたのだという。栄子は当初、順を木村財閥系企業のスパイと睨んだ。そして順を騙して有益な情報を手に入れようとしたのだという。だが順は栄子より先に動いた。順は騙された振りをしつつ、K2インタラクティブの女子社員全てを陥れ、栄子側の情報を欲しいだけ先に手にしていたのだ。
気付いた時にはもう、栄子は順の罠に嵌ってしまっていた。そして順はとある話を栄子にしたのだという。その話を耳にした時、優一郎は僅かに表情を歪めた。順は栄子に龍神やハンターにまつわる話をして聞かせたのだという。だがどれほど信憑性のおける話なのかは正直なところ、栄子にも判らないらしい。
栄子にその時、自覚があったかどうかは判らない。だが順の力は確実に発動した。少なくとも優一郎を誘惑した件については栄子もはっきりとした意志を保ってはいなかったらしい。話し終えた栄子はそっとため息をついた。心のどこかにつかえていたものが取れた顔をしている。
「力を使用することで、彼は栄子さんを操ることに成功しました。逆に言えば力を使わねば目的を達成できなかったということですが」
順の本心がどこにあったのかはこの際、問題ではない。その力を使ってしまったことが問題なのだ。優一郎はそう言い置いて再びカップを取った。栄子は戸惑った面持ちをしつつも優一郎の言葉に頷く。
「それは力を使わなくても可能だった。きちんと栄子さんの事を理解し、きちんと手順を踏んで相互理解を深めれば、力を行使せずとも可能だったはずのことなんです」
栄子は総一郎と優一郎を同一視した。もし、例えば順が力を行使しなかったとして、栄子が偶然にでもいい、優一郎と出会うことがあったとして、それなら同一視しなかったかどうかは優一郎にも判らない。力を行使するかどうかを決めたのは紛れもなく風の主である順だ。そして順は実際に栄子に力を使った。それは必要であると判断したからだ。
力を行使するにはリスクが伴う。それは龍神たちであろうが人であろうが変わりない。力、とはエネルギー等を指す。それらを用いる際に何らかの現象が起こるのは自然なことだ。
力は目に映らないものも全て物質界に影響を及ぼす。力を行使することとは、とあるエネルギーを別の形に変化させるということだ。単純に力の移動を行うだけでも周辺には影響を及ぼすだろう。
そして彼ら龍神の用いる力が周囲に与える影響は絶大だ。例え彼らにとって小さくとも、その力は人々にとっては脅威でしかあり得ない。そんな力を乱雑に行使したらどうなるか。そこまで考えて優一郎は深いため息をついた。
「力を行使した理由もあるのでしょうが、軽率だったと思います。栄子さんの行動は明らかにおかしかった。それは今、力から解き放たれた栄子さんが僕をきちんと理解し尊重してくれていることを考えれば明白です」
言っていることに嘘はないつもりだった。だが全てが真実であるという保証はない。優一郎は栄子に説明しながら、ふと順のことを考えた。木崎順。その姓には覚えがないが、順という名にだけなら覚えがある。いつだったか届いたメールの最後に記されていた名前がそれだ。
木村、順。木村財閥の当主が一体、どうしてここになって関わってきたのかは判らない。だが優一郎はそれなりに順に反発を覚えていた。力を用い、栄子を操る。そして順はまんまと優一郎の口から本音を引き出してしまったのだ。それが順が意図したことではなかったにせよ、優一郎は自分で気付いてしまった。そう、優一郎は総一郎に激しいコンプレックスを感じているのだ。それまでずっと目隠しし続けていた思いが、あの瞬間に流れ始めてしまった。
設定は書いてたら出来るモノ~!!w
というくらい、プロットなしで書いてます。