前話は幕間なので、読まなくても大丈夫といえば大丈夫ですけどね。
ハルツィナ樹海へ
魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の
やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは……洞窟だった。
「んん? ……いや、隠れ家だからこれが当然か」
一瞬驚きはしたが、そもそもオルクス大迷宮の奥底は、解放者の隠れ家だ。そう簡単にエヒトに見つからないように細工されているのは当然であった。
緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、光属性魔法で一時的な灯りを作って進んでいく。
途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、ついに光を見つけた。外の光だ。ハジメとノイントはこの一ヶ月、ユエに至っては三百年間、見られなかった天然の光。
ハジメ達はその光に向けて、一歩、また一歩と、普段に増して力を込めて踏み込んだ。そして……
出た場所は、峡谷の底。地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡……その名を【ライセン大峡谷】という。
ハジメ達はここに出た瞬間に、腕輪やら首輪に付与された“幻術”を利用し、魔術的な方法で姿を観測されないようにする。というのも、ノイントいわくエヒトは、この世界を魔法を使って観測している、とのことだからだ。ならばその魔法で自分達を観測できなくすればいい、という話なのだ。
「ここは……いや、この感覚は……ライセン大峡谷か?」
「そのようです。しかし、ここから脱出するのは少し骨が折れそうですね」
「それはある。移動用の道具は作ったけど、流石に空を飛べるものは作ってない、というか作れなかったからね」
そんな話をハジメとノイントがしていたが、ふとユエの方も向く。そこでユエは、静かに目を輝かせていた。久しぶりの地上に、思わず心踊っているのだろう。
「ユエ」
「あっ……ハジメ、私を外に連れ出してくれて、本当にありがとう」
「いやいや。でも、喜んでくれて嬉しいよ」
頭を撫でると、ユエは気持ちよさそうに目を細め、ハジメに身体を寄せる。
当然ではあるが、ユエの服もちゃんと作ってはある。前面にフリルのあしらわれた純白のドレスシャツに、これまたフリル付きの黒色ミニスカート、その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織っており、足元はショートブーツにニーソだ。
オスカーの衣服を元にして、ユエが迷宮の魔物の素材で作り上げた。普段使いはもちろんのこと、耐久性も抜群である。
そしてハジメの方も、ユエと似たような服装である。だが流石に色は違い、紺色に碧色のラインの入ったコートと、下に同じように紺色と碧色で構成された衣服を纏っている。こちらもユエが作ってくれたものだ。
それと、今は無いが、その上に真っ黒なローブを羽織り、鉄仮面を付けることもある。まぁこれらに関しては、街に行く時だけだろう。
では『光輝から奪った聖剣と聖鎧はどうしたのか?』となるのだが、これらは基本的に使わない。というのも、これらの装備は奪ったものであり、光輝側からすれば、盗まれたと思われているのは容易に想像できる。そして、それを持っているということは、装備を奪った犯人ですと言っているようなもの。なので基本、あの装備を身に着けることは無いのだ。聖剣は場合によっては使うかもしれないが。
「しかしライセン大峡谷か……なら、ハルツィナ樹海かな?」
「樹海……?」
「そう。そこには亜人族が住んでいる。で、この亜人族が中々に排他的って話らしい。基本的に外に出ないし、外部から部外者が入ることも無い」
「……なるほど。だからハルツィナ樹海から支配する、ということですね?」
ノイントの言葉に、ハジメは頷く。そう、環境的に支配しやすいハルツィナ樹海、その亜人族達から支配しようという魂胆である。
「世界征服するにしても、普通にやったら難しい。支配するなら、小さな町や村とか……とにかく人の出入りが少ない場所がいい。バレたら面倒だからね」
「あっ……だから亜人族を……」
「そう。人間も滅多に訪れないから、支配されたとしても誰も気づかない。そもそも人間族も魔人族も、亜人族を差別してるから、支配されたことに気づいても何とも思わない」
とにかく、ハルツィナ樹海で生きている亜人族を性奴隷にするのはメリットしかない。集落なのだから、それこそ百人単位で暮らしていることだろう。その全員を性奴隷にしたら……ハジメはさらに力を強めることだろう。
そんなわけで、ハジメ達はハルツィナ樹海へ向かうため、崖登りを開始した。
◆◇◆◇
崖登り。崖の凸凹を足場にして上へ登っていく……のではなく、ハジメが錬成で足場を作り、そこから高く跳躍していく。翼を生やせば空を飛べるノイントは別だが。
ライセン大峡谷では、通常の魔法は使えない。しかしそれは詠唱を必要とする魔法だけの話で、魔力操作持ちで、かつ大量の魔力を持っていた場合は、ゴリ押しで魔法を使えたりする。
ハジメの場合は、もはや少し魔力の消費量を増やすだけで、普段と遜色無く使えていた。とはいえそれは錬成だからであり、他の魔法はさらに影響を受けるかもしれない。
「っと。ふぅ、流石にキツかったな」
「主様は飛べるわけではありませんからね。それに……」
「……ごめんなさい。私、身体を動かすのがあまり得意じゃないから」
「ああ、大丈夫だよユエ」
ハジメは、抱えていたユエを降ろす。ユエも戦闘能力的に、全てのステータスが最低でも一万を超えているのだろうが、そもそも身体を動かすのが得意ではなかった。なので崖登りもかなり危なっかしく、それを心配したハジメが途中から抱えて跳んでいたわけだ。
ただこれは、ユエにとっては嬉しくも悔しくもあった。ご主人様たるハジメに触れられることを嬉しく思い、同時にその手を煩わせてしまうことに罪悪感を感じていた。
「誰にも得意不得意ってのはあるから、そんな心配しなくていいよ」
「ん……ハジメ、ありがとう」
そう言いながら、ユエはごくごく自然に身体を寄せて、手を繋いで甘えてくる。
「あっ、ユエだけズルいです!」
それを見てノイントも身体をハジメに寄せて抱きついてくる。普段はとても堅い性格だが、何かきっかけがあると、子供のようにすぐに甘えてくる。それこそユエ以上に甘えたがりだ。
「ほらほら、いったん離れて。夜になったらいっぱいシてあげるから」
「んっ……はい、申し訳ございません」
とはいえ、いくら甘えたくても、ハジメの命令が絶対ではある。二人はハジメに甘えるのをいったん止めた。そうして目の前に広がる樹海へと足を踏み入れようもした。
「さぁ、じゃあ樹海の中へ……ん?」
その時だった。草陰にあった何者かの気配が動いた。それはハジメに向けて襲ってくる……のではなく、むしろ逆に樹海の中に消えていった。
(なんだ? 水色っぽい髪が少し見えたけど……)
ほんの一瞬しか見えなかったが、草陰には水色の髪の何かが隠れていた。ハジメは急いで“透視”の技能を使って正体を暴こうとしたが、その時には、その何者かとの距離が離れていたので正体は分からなかった。
「まぁ、とにかく進むか」
隠れていた者が気になるといえば気になるが、それで足踏みをしても仕方がないということで、ハジメ達は樹海へと足を踏み入れた。
樹海の中はそこそこ濃い霧に覆われており、視界が悪かった。一応、ハジメが常に“空間把握”と“透視”を使うことで、擬似的に普段通りの視界を作り出すことはできるが。
それにより、どんどん奥へと進む。それと、これは技能を使ってようやく分かったことではあるが、樹海の深い所に行くと、獣道のようなものができていた。実際は獣道というほど細くはないが、誰かが日常的に通っている痕跡はいくつかあった。そこに沿って進んでいくのだ。
「……!」
そして、ある程度進んだ所で、ハジメは驚愕した。
「主様?」
「どういうことだ……何故、待ち構えられている?」
そこには、五十人以上の亜人族が待ち構えていた。まるで、ハジメ達の行く手を阻むように。地上に、木の上に、あるいは空を飛び、全体を包囲していた。
「来たか……! 貴様らにフェアベルゲンは渡さんぞっ!!」
その中のリーダーらしき熊のような亜人族が声を上げ、それと共に一気にハジメ達に襲いかかった。
・南雲ハジメ∶なんか厳重に待ち構えられてて軽く驚いている。
・ユエ∶ハジメに助けられてばかりで、自分は何もできてないので、ちょっぴり罪悪感がある。
・ノイント∶空を飛べるって凄い。
夜刃神様
人間失格0124様
暉祐様
銀河野郎のBOB様
戴天様
ただやん様
古井京魚堂(琵琶湖くじら)様
評価していただき、ありがとうございます。