フェアベルゲンを出て、ライセン大峡谷へとやって来たハジメ達。以前までは三人だったが、現在では、新たにフェアベルゲンで手に入れた性奴隷であるシアとアルテナも引き連れていた。
シアもアルテナも、どちらも種族は違うとはいえ亜人族だ。そしてどうやら、亜人族は例外無く固有魔法を持っているようだった。
何故この事実が今まで判明していなかったのかといえばそれは単純で、魔力を持つ亜人族の個体がいなかったからだ。何らかの固有魔法を使用するための身体構造はあれど、それを動かすのに必要な魔力を持たない、故に固有魔法を使えない。そんなのであれば、気づけるはずがないのだ。
しかしフェアベルゲンの亜人族は、ハジメの性奴隷となった。これにより、全員が魔力を手に入れ、何らかの固有魔法を扱えるようになったのだ。
シアの場合は“未来視”が固有魔法だ。数秒先の仮定の未来を視ることができる能力だが、未来が確定している場合は、それなりに先の未来も分かるらしい。ハジメの性奴隷になったことで、複数の確率の高い未来が同時に視えるようになり、彼女の素の身体能力等を加味すると、近接戦ではかなり強くはあった。
そしてアルテナの固有魔法は“植物変異”というもののだ。これは魔法で植物の遺伝子に干渉し、性質を変化させる魔法のようだ。いわば、植物にのみ作用する“練成”だ。立地にも左右されるが、かなり強力な固有魔法であることは間違い無い。少なくとも、このライセン大峡谷ではそこそこ効果的に働いている。
「うーむ……迷宮らしきものは見つからないなぁ……」
それで、ハジメ達がわざわざライセン大峡谷まで戻ってきた理由だが、それは、この大峡谷のどこかにあるとされる迷宮を探すためである。
詳しい場所までは分かっていないが、様々な文献から、七大迷宮の一つがこの大峡谷にあるとされている。さらにハジメ達は、オスカーの手記などを確認したりしているので、この情報に確信を持っていた。
七大迷宮で手にすることができる神代魔法は非常に強力だ。少なくとも、現在修得している生成魔法は非常に役に立っている。他の神代魔法を手にすれば、悪魔の依頼を達成する確率を上げることができるかもしれない。だからこそ、迷宮を探しているのだ。
しかし、大峡谷も中々に広い。今日で探索三日目であるが、それらしき場所は見当たらない。見つかるのは魔物だけで、それらを適当に倒すばかりである。
「ハジメ様ぁ、魔物と戦うのも飽きてきましたよぉ……」
「ん、ああ。さっきから見た感じ、色々と慣れてきたみたいだし仕方無いか」
一応“幻術”を使えば、魔物から存在を認識されないようにすることはできる。しかし魔力が分解される環境下での上手い戦闘方法を模索するために、あえて闘い続けてきた。
が、それも今日で三日目だ。ハジメや魔法主体のメンバーは、魔力の上手い操作方法を見つけ、普段と遜色無い形で魔法を扱えるようになったし、シアに関しては、ハジメに作ってもらった巨大槌“ドリュッケン”の扱いにも慣れてきた。だから正直、彼らにとってはそこらの魔物程度は大したことなかった。
なので“幻術”により、ハジメ達は姿を完全に消した。いや、その場にはいるのだが、ハジメ達以外は、どんな生物であろうとハジメ達を認識することはできなくなった。
「さて、訓練は終了して、探索に専念しよう」
そうして、二つのグループに分かれて効率良く探索を行うのであった。
◆◇◆◇
それから約三十分後のこと。
「ハジメ様っ、ハジメ様ぁっ!」
シアが物凄い勢いでハジメの方へと飛んできた。シアは別グループに行かせており、ハジメ達の方にはいないはずだった。
「どうしたんだ?」
「大迷宮っ、見つけました!」
「おおっ!」
シアの言葉を聞き、別部分を探索していたハジメとユエは、シアについていった。するとそこには、壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。
〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟
堅苦しい感じの雰囲気の場所に似合わない可愛らしいフォントの文字。これにはハジメも思わず目を細める。
「ん〜……大迷宮……だよな、うん。ミレディ・ライセンというと……」
「ん、解放者のミレディ……これは確実」
ハジメとユエとノイントに関しては、オスカーの手記などの内容を知っており、解放者の中心的メンバーの名前程度は分かっていた。
その中の一人がミレディ・ライセン。そしてその名前が記されているここは、ほぼ確実に大迷宮だろうと察することができた。
「あー……でも、面倒そうだなこれ」
大迷宮を見つけて驚いてはいたが、すぐにハジメは冷静になり、大迷宮を分析した。ハジメの技能であれば、迷宮が異空間にある、とかでもない限りは、大迷宮の全貌が即座に分かる。それを理解したハジメは、大迷宮が面倒そうだと評した。
「主様、何故面倒そうなのですか?」
「ああ。下手したら即死のトラップが大量にあるからね。ついでに迷宮がやたら広いし、何故かどこにも繋がってない部屋がいくつもある。多分これ……時間毎に迷宮の形状が変わるぞ」
「確かにそれだと、少々面倒そうですわ。ですがハジメ様、ここからどうされるのですか?」
「簡単だ、迷宮をぶっ壊して進む。奥の方にやたらでかい反応があるから、そこまで迷宮を破壊する。多分そこがボス部屋だ」
そう言って、ハジメは何も無い壁に向けて“分解能力”を利用した魔法を発動する。その瞬間、強い光が周囲を白に染めあげた。
そうして出来上がったのは、小さな穴だった。その先には、明らかに人工的に作られた空間があった。
「僕が道を作る。みんなは後ろをついてくるように」
そう言うと、ハジメは極太の光線を何度も放ちながら、壁を分解して奥へと進んでいった。
◆◇◆◇
そうして約五分後。ハジメ達は最奥と思われる空間へとたどり着いた。そこにいたのは……自分達の数倍以上の大きさはあるであろう、巨大なゴーレムだった。
「ちょっ……ちょっと何が起きてるの!? 誰も入ってきてないはずなのに! えっ? というか誰がどうやってここまで迷宮ぶっ壊しやがったの!?」
最も、かなりのパニックに陥っているようだが。
それもそのはず。現在のハジメ達は、単純に目に見えないだけではなく、ありとあらゆる魔術的な観測すらをも無力化してしまう状態だ。つまりは、どんな方法を使っても、ハジメ達を認識することはできないのだ。
だからこの迷宮の主っぽいゴーレムにとっては、突然迷宮がぶっ壊れたようにしか見えなかったのだ。驚くのも無理は無い。
そこで、ハジメは“幻術”を解いて、姿だけは見えるようにした。ユエ達に関しては、まだ解かずに後ろで待機させている。
「やぁ、こんにちは」
「えっ……あ゙っ!!」
姿を現すハジメ。それを認識したゴーレムは一際大きな声で驚くと、ビシッとハジメに対して指を指した。
「アンタ! 異世界から召喚された覇王ね!?」
「えっ? 覇王……まぁ確かに天職は覇王だけど……」
「あぁ〜……あのクソ神を監視してたら、突然アンタがその監視網に入ってきたから……やっぱりねぇ」
ウンウンと、納得したかのようにゴーレムは頷くが、ふと思い出したかのように、また喋りだした。
「おっと、自己紹介がまだだったね! 私がこの大迷宮の主、ミレディ・ライセンだよぉ〜!」
凶悪な姿に似合わない、明るくて軽い挨拶で、ゴーレムは自分のことをミレディ・ライセンと名乗った。だがハジメには分かる。彼女が嘘をついていると。
「ではこちらも、南雲ハジメといいます。で、ミレディ・ライセンの本体はどこですか?」
「……ッ! へぇ……この身体が本体じゃないって分かるんだ。あんまり褒めたくはないけど、流石は覇王ね……」
声色からして、なんとなく複雑な感情でハジメを褒めているようだ。覇王というのに、何か嫌な想いがあるのは容易に想像できた。
「うん? ミレディさんは、覇王に嫌な想いでもあるんですか?」
「あるもなにも……あのクソ神の天職がそれなのよ。この世界を弄んでやがるアイツが……!」
「クソ神……エヒトのことか?」
「そう! あのクソ神がいなければ、人間族と魔人族との戦争なんて起きなかった! 亜人族は差別されなかった! 全ての元凶がアイツなのよ!」
ミレディは解放者の中心人物の一人だった。故にエヒトへの殺意や憎悪は人一倍強いのだろう。エヒトの悪口を言う時は、おぞましいドスを効かせた声である。
「そうですか……あっ、そうだ」
「……ん? なに、どうかした?」
「ミレディさんに、一人会わせたい人がいるんです」
そう言って、ハジメはノイントにかけていた“幻術”を弱め、目視などで認識できるようにした。もちろんだが、魔術的にはどう頑張っても観測できない。
「はじめまして。
「えっ……は?」
「神の使徒を手懐けたので。確か他の神の使徒や、エヒトとの連絡機能もあったようですが、それも消し去っています。なので安心してください」
「手懐ける……はぁ? いや、え? 何をどうやって使徒をこんな従順に手懐けたのよ!?」
とにかく、ミレディには理解不能の連続だった。神の使徒を従順にしただけでなく、おそらく肉体改造を行い、根本の機能を変更している。そしてここまでしているともなれば、神代魔法を超えた何かを使っているとしか思えなかった。
が、今ここに来ている以上、神代魔法を全て得ていないのは確実。ではどんな方法を使ったのか。目の前の男は何をして従順に躾けたのか。一切の理解ができなかった。
「とにかくです。僕はとある依頼を達成するために、神代魔法を手に入れに来ました」
「え、えぇ……確かに、ここを攻略すれば神代魔法を手に入れられるわ」
とは言うものの。
(ぶっちゃけなぁ……迷宮ぶっ壊したのって、多分この人でしょ? 無理だって。速攻で吹っ飛ばされて終わりだって)
ミレディ的には、ハジメと戦いたくなかった。なんせ確実に負けると確信していたから。しかも負けたら負けたで、色々と修復しなければならないのだが、それにも時間がかかりそうなので、なおさらだった。
「……なら、南雲ハジメだったっけ? 本当は私と戦う必要があるんだけど、アンタはいいや。確実に私に勝てるだろうし」
「なら、残りの四人は戦わなければならないということですね?」
そう言って、残り三人も見えるようにした。これにもミレディは驚くかと思いきや「……まぁ、なんとなく想像はついてたよ」と呆れたように言っていた。
◆◇◆◇
こうして戦闘は始まったわけであるが……あまりに一方的だった。
ユエもシアもアルテナもノイントも、確定したステータスこそ分からないものの、その身体能力や魔法の威力などからして、全てのステータスが軽く三万程度は超えていると予想できる。それが四人も集まれば、ミレディが圧倒されるのも必然であった。
そうして最後に残ったのは、無傷な四人と、グシャグシャに
「……強い、ね。流石は覇王の仲間だ。合格だよ」
それだけ言うと、ミレディゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。まるで死した魂が天へと召されていくようで、とても神秘的な光景である。
しかし、これは本体ではない。
壁の一角が光を放っていることに気がついたハジメ達。気を取り直してその場所に向かう。上方の壁にあるので浮遊ブロックを足場に跳んでいこうと、ブロックの一つに跳び乗った。と、その途端、足場の浮遊ブロックがスィーと動き出し、光る壁までハジメ達を運んでいく。
「ハハッ。さぁ本物のミレディさん。今行きますよ」
ハジメ達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していく。どうやら、ミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるようだ。それを察したハジメは、軽く笑ってそう言った。
そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。ハジメ達が近づくと、やはりタイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。
くぐり抜けた壁の向こうには……
「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」
「おっ、これが本体か」
ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。ハジメ達は、小さいゴーレムを見た瞬間、これこそがミレディの本体であると確信した。
「いやぁ君達、流石としか言いようがないね! とんでもなく強い! ということで、さっさと神代魔法を授けちゃおっか!」
するとミレディは魔法陣を起動させる。魔法陣の中に入ると、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。この感覚を初めて経験するシアとアルテナは、かなり驚いている様子であった。
ものの数秒で刻み込みは終了し、あっさりとハジメ達はミレディ・ライセンの神代魔法を手に入れる。
「これは……重力操作?」
「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね! みんなアホみたいに適性が高いみたいだからさ!」
そう言いながら、ミレディは重力魔法のちょっとした詳細についてを語り始める。使い方を知ったとはいえ、実際に教えてもらうとさらに理解が深まるというものだ。
それを聞いて、性奴隷四人は色々と魔法の話をしていた。どうやって使うかとか、どうやってハジメ様の役に立つかとか。そんな中、ミレディはふと思い出したかのようにハジメに尋ねる。
「あっ。そういえば、他の迷宮を攻略したりした?」
「はい。オルクス大迷宮を」
「ヘぇ~オーちゃんのを……」
そう言いながら、ミレディは頷いた。そこに今度は、ハジメの方から尋ねた。
「あっそうだ。こっちからも質問なんだけど、他の迷宮の場所って知りませんか? 場所が失伝してる迷宮も多いみたいなので」
「あぁ~、まぁ長い時間が経ってるからね。じゃあ今から言うから、聞き逃さないようにね?」
そうしてミレディは、ハジメに他の大迷宮の場所を教えていく。それらはどれも過酷な場所や、あるいは想像を絶する場所に位置しており、驚かされていた。
「……まぁこんなものかな?」
「そうですか。ありがとうございます」
「それとそれと! せっかくだから、これもあげよう!」
さらにミレディは大盤振る舞い。大量の鉱石類を出現させた。おそらくは、現在ハジメが持っている“宝物庫”のようなものを、ミレディも持っていたのだろう。
「いいんですか?」
「いいよいいよ! これくらいなら貰ってって!」
そう言うので、ハジメはミレディがくれると言ったモノを宝物庫へと仕舞い込んだ。
「……さてと。私からはこれくらいかな」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「いいのよ。じゃあ、これでお別れの時間かな?」
ハジメが四人に声をかけると、すぐに立ち上がり、ハジメの後ろへと行く。
「……そうだね。最後に一つだけ、ちょっとだけ忠告をしとくよ」
するとミレディは、今までの楽しげな口調から一転して、低い真面目な感じの口調へ変わる。
「南雲ハジメ。もしここから先、今の道を進み続けると言うのであれば……」
その瞬間、ハジメは戦慄した。
「君は地獄を見ることになるだろう」
◆◇◆◇
ほんの一瞬だけ、ミレディから恐ろしいほどの殺意を感じた。そう思った時には、ハルツィナ樹海の入口辺りに立っていた。すぐ近くにはユエ達もいる。
「今までと同じ行動をすると地獄を見る、か……」
とはいえど。今までと同じ行動、すなわち人間族魔人族亜人族、全てを性奴隷にするために動くことが、平和に繋がるのは確実だと、ハジメは思っている。それが倫理的に間違っていることだとしても。
「大丈夫です主様。主様の行動は、主様が決めるべきですから。お好きなように行動してください」
「ああ。……始めたことを止めることはできない。僕は、トータスの神になる」
ハジメは一度、大きな深呼吸をして、人間の住む街の方向へと向かっていった。
・南雲ハジメ∶忠告はされたが、それを無視してトータスを支配することを決心する。
・ミレディ∶忠告はした、後はハジメ次第。
にぽぽだいなんか様
評価していただき、ありがとうございます。