優花と奈々と妙子、三人と何時間も交わり合い、下校の時間となったので、ハジメは優花と共に家へ帰った。
そして家でも何度も性行為を繰り返し、夜十二時を回った頃にようやく就寝した。
……はずだったのだが。
「……なんだ、ここは?」
ハジメはふと、目が覚めた。しかしそこは家のベッドの上ではなく、壁も床も天井も、玉虫色に染まった奇妙な空間だった。
「やぁ久しぶり」
そんな声がした方向を向くと、そこには少年がいた。あの時、不良から助け、ハジメに能力を渡してくれた少年……悪魔が。
「……! あなたがここに呼び出したんですか?」
「まぁそうだね。ところで……もう四人も性奴隷にしたみたいだね? 女の子を支配して好きなように扱えるのって、気持ちいいでしょ?」
「まぁ、はい。あんな可愛い女の子と好きなだけセックスして、それだけで喜んでくれる。どれだけたくさんの子とヤッても、何も文句を言わない。最初は罪悪感があったけど……今はもう、ね」
「それはよかった」
ここで悪魔は一呼吸置いて、続けた。
「さてと、君をここに呼んだ理由を説明しよっか」
「はい。何で呼んだんですか?」
「実はね。君に能力を与えたのには、能力を利用して、やってほしいことがあったからなんだ」
「やってほしいこと……?」
「そう。んで、やってほしいことというのは……『天之河光輝という男の処分』だね」
「処分……」
「あっ、勘違いしないでほしいんだけど、殺害を命令しているわけじゃないからね? あくまで処分、上手く彼を無力化してほしいんだ」
悪魔がハジメに能力を渡した理由。それはハジメが能力に適した精神性を持っていたというのもあるが、一番大きな理由は、ハジメに『天之河光輝という男の処分』をしてほしかったからなのだ。
「……それなら、あなたが手を下せばいいんじゃ?」
「それができれば苦労しないよ。神とか悪魔はね、人間を直接害するような行動が取れないんだ。もしそんな行動したら、僕は犯罪者になっちゃって、他の神や悪魔に追われることになるんだ」
「だから、人間に能力を与えて……ん? え? 待って。その天之河光輝って人、能力が無いと処分すらできないの?」
悪魔の話を聞いていたハジメは、素朴な疑問を感じた。わざわざ悪魔が人間に能力を渡してまで処分したがっている天之河光輝という男は何者なのか。そして天之河光輝はそれほどまでに強いのか、と。
「正直、能力が無いと太刀打ちできないと思うよ。なんせ天之河光輝は、神様に愛されまくった人間だからね」
「神様に、愛された……?」
「そう。神様に愛されまくった結果、あらゆる分野に高い才能を持つだけに留まらず、超常的な能力まで得てしまったんだ。天之河光輝本人に自覚は無いだろうけどね」
神に愛されし者。
人間は生まれる時、神や悪魔、実を言うとどちらも同じ存在だが――人間より上位の存在に、様々な才能を授けられる。
才能は多岐に渡る。勉学の才能、スポーツの才能、芸術の才能……あるいは人間としての魅力や運なども、ここで決まると言ってもいい。
この才能があればあるほど、少ない努力で大きな成果を出しやすくなるのだ。逆に才能が低くても、家庭環境の影響や、膨大な努力量があったりすると、才能が高い者に追いつくこともできる。
ちなみにだが、悪魔いわく、ハジメは光輝の対極にいるようだ。つまりは神にほとんど愛されていないのだ。才能を1〜100までの数値で示すと、ハジメには20以上の才能が存在しないのだという。
だがハジメは、ゲームクリエイターと漫画家の両親の仕事を手伝えるほどには創造的な仕事ができるし、特に勉強しなくても、学校の授業についていけた。これらに関しては、家庭環境の影響があった、と言うべきだろう。
小さい頃からオタクとしての英才教育をされてきたハジメは、創作系統の仕事に興味を持ち、そして自分から両親の仕事を手伝っていたのだ。そんな環境もあり、創作関連の才能は低いにも関わらず、仕事を手伝えるレベルになったのだ。また、仕事をする過程で様々な知識を覚えた。その中には数学や英語等の知識が必要なものも多く、特に理数系科目に強くなったのは、これが理由だろう。
そして、ここからは光輝の話。ハジメの時と同じように、才能を1〜100までの数値で示すと、光輝の才能は全て90を超えており、いくつか100のものもあるほどだ。
これだけなら良かったのだが……光輝は、神に愛され過ぎた。神は光輝に才能だけに飽き足らず、超常的な能力も与えたのだ。
ただ、超常的な能力を与えられたからといって、処分対象になるわけではない。処分対象になるには、能力の所持者が相応に危険な存在だと認められる必要がある。
「……ということは、その天之河光輝は、能力を悪用していたりするの?」
「いいや違う。光輝の中で危険なのは、その思想だ。簡単に言うと、この世界は全て自分の思い通りになるって、無意識的にそう思ってるんだ」
「……ん? それのどこが危険なんですか?」
「ああ、言葉足らずだったね。光輝の言う思い通りってのは、犯罪なんて存在せず、ケンカをしても即座に仲直りする、イジメなんて存在しないし、もしあったとしても、注意すればすぐになくなるものだと思ってる。そして、周囲にそれを強要する。……つまりは、世の中の負の側面を絶対に認めない、とても自己中心的な思想なんだ」
人間というのは、案外愚かな存在だ。ちょっとした嫉妬や怒りといった感情だけでイジメを起こすし、それらはそうそう無くならない。そもそも、犯罪の事件が報道されている時点で、人間に少なからず悪い面があることは明白だ。
そして人間はまた、自由な存在でもある。自分で思考をして、自分で行動をする。基本的には、誰かに強制されることは何一つとして存在しない。契約の結果、金銭を対価に指示に従わなければならない、ということはあるが。
しかし光輝は、それを認めない。彼は今までの人生で、失敗や挫折を全く経験しなかった。故に自分が全て正しいと、心の底から思い込んでいるのだ。
自分が正しいから、周りの人は自分の思い通りに動くに決まっている。もし従わない人間がいたら、自分の思い通りに動かない人間がいたら、その人は悪い人間であるか、あるいは、他の悪い人間に唆されていると判断する。
「しかもその思想に周囲が同調してしまうんだ。彼の持つ才能や魅力、それと超常的な能力のせいでね」
「能力?」
「そう。今の君みたいな能力を、光輝は五つ持っている」
悪魔の述べた光輝の能力は以下の五つだ。
①強運:天之河光輝にとって都合の良い事象が起こる確率が50%から90%に上昇し、都合の悪い事象が起こる確率が50%から10%に減少する。この確率変動は不可逆であるが、地球内でのみ作用する。
②超成長:頭脳や身体能力が、常人の数倍の速度で成長するようになり、かつ成長限界が消失する。しかし成長すればするほど、成長速度は低下し、最終的には常人と同等の速度になる。
③活性化:必要な時に必要なだけ、身体能力や脳が活性化される。この能力に副作用は存在しない。ただし過剰に活性化させようとすると、解除時に一時的に身体が動かなくなる。
④思考誘導:周囲の人間の思考を誘導することができる。光輝に対して負の感情を持たない人に対してなら誰にでも効果を発揮する。ただし洗脳ではないので、思考を強制することはない。
⑤奇跡の力:何らかの超常的な力の影響下に入った場合、それの光輝に対する影響を無効化するか、あるいは軽減する。また、その超常的な力への対抗能力を一時的に修得し、使えるようになる。ただし後者の能力の使用にはクールタイムが必要で、連続発動はできない。
「光輝自身は、自分の持つ能力を認識していないだろうけど……こんな感じの能力を持ってるんだよね」
「これは……いや、えげつないでしょ。普通に考えて、物理的に倒すとか、そういうのは無理な気がする」
「まぁ無理だろうね。君にできるのは、あくまで性奴隷を作ること。一応、性奴隷を作れば身体能力が上がったりはするけど、それはあくまでオマケみたいなものだし」
ハジメの言う通り、光輝と正面から戦うのは無謀と言ってもいいだろう。そもそもハジメの能力は戦闘向きではないし、対する光輝は戦闘向きの能力だ。真っ向勝負を仕掛ければ、勝敗は決まっているようなものだ。
「とりあえず、光輝を上手く処分してくれればそれでいいから。光輝を野放しにしてしまえば、近い将来……彼が社会人になった時くらいに、大惨事を引き起こす可能性が非常に高い」
「具体的には確率はどれくらい」
「今のまま進めばほぼ100%だ。最低でも日本の人口の50%は、光輝の手により殺される。そして彼は、世界最悪の殺人鬼として後世に語り継がれることとなるだろう」
今までは失敗や挫折がなくても、いつかは味わうことになる。年齢を重ねていけば……社会人になれば、その機会は多くなっていくし、挫折しやすくなる。そしてもし、もし光輝が社会人になって初めて挫折を経験したら、どうなるか。
悪魔はこう推測していた。光輝はきっと、社会全体を悪とみなす。そして社会を、光輝の思う正常に直すために、まずは内閣や国会、裁判所に関わる人間から殺していくことだろう。そうなれば、日本という国は滅びてしまう。
「そういうわけだから、頼むよ」
「……分かりました」
「そんな不安にならないでよ。ただ光輝の思考回路を変えてもらうだけでも問題無いからさ。能力が強いといっても、現実改変してくるわけでもないし、そこそこ気楽にいってもいいと思うよ?」
そんな言葉と共にハジメは肩を軽くたたかれると、意識が沈んでいった。周囲の景色は歪み、身体から力が抜けていく。
「……それともう一つ。
最後の最後に、そんな言葉が聞こえた気がした。
◆◇◆◇
「……ッ!?」
奇妙な夢を見て、目覚めるハジメ。窓の外を見てみると、空が少し明るくなってきている。隣で寝ていたはずの優花はいないが、おそらく朝食を作ってくれているのだろう。
「あの夢は……って、ん?」
ハジメはふと、自分の勉強机に目を向ける。そこには、寝る前には無かった一枚の地図が置かれていた。地図を見ると、そこには八重樫道場までの道筋と、そこの電話番号が書かれていた。
「八重樫鷲三……僕と同じで、悪魔に能力を与えられた人間、か……」
ハジメは自分のスマホから、道場の方へ電話をかけた。するとこんな朝早くなのに、ワンコールですぐに出てくれた。
『この番号は……奴から聞いている。南雲ハジメ君だな?』
「はい」
『やはりか。儂は八重樫鷲三だ』
電話越しに聞こえてきたのは、年老いた男性のものと思われる声。そしてその老人は、八重樫鷲三と名乗った。どうやら既に、ハジメのことを知っているようだった。
『儂と同じで、悪魔から能力を与えられたようだな。最も、かつて儂に与えられた能力とは異なるようだが』
「では、あなたの能力は?」
『簡単に言えば、破壊能力だ。物質として存在するモノであれば、それが本来の機能を失うまで破壊することができる。……悪魔の話だと、分類的には“憤怒”の力だな。能力的に、君より戦闘能力が高いのは確実だ』
電話越しなので簡単な説明だったが、それだけで危険な能力であることは明らかだった。敵対したらまずいと、ハジメは容易に理解できた。
『そして君の能力は、分類的には“色欲”の力だと聞いている。男だから……女性を堕とす能力だな』
「悪魔に聞いたんですか?」
『大まかな情報だけだがな。それに儂は、今までに一度“色欲”の能力持ちと戦って殺している』
「えっ!?」
『儂の能力の都合上、暴走した能力者の殺害依頼がよく来るものでね、今までに八人殺している。ただ安心するといい。息子に能力を受け渡したから、儂はもう能力を持っていない』
怖いことを言ってきたので、思わず身構えてしまったハジメ。確かに殺し屋としては、これ以上にない有用な力だろう。
『とにかくだ。学校が終わったら八重樫道場に来なさい。君の受けた依頼に、儂も協力しようではないか』
「……はい」
そういうわけで、嫌でも行かなければならない予定ができたのであった。
◆◇◆◇
そうして学校が終わり、地図を見ながら八重樫道場へ向かうハジメ。隣町なので、けっこう時間がかかってしまった。
立派な垣根に囲まれた広い敷地と、その中に大きな日本家屋、というより屋敷があった。その佇まいからは歴史を感じさせられる。正門の脇にある家名は――“八重樫”だ、つまりは八重樫道場は、ここにある。
ここでふと、ハジメは一つ、思い出したことがあった。
(そういえば、香織が何か言ってた気がするなぁ。八重樫……雫だっけ? なんかここと同じ苗字の友達がいるんだっけか?)
ちょっとした考えが浮かんだが、別に大して気にすることもなく、インターフォンを鳴らした。
『はい、どちら様でしょうか?』
直ぐに対応したのは女性の声だ。若々しくも、とても落ち着きがあって耳に心地いい、大人を感じさせる声音だ。
「南雲ハジメといいます」
『南雲ハジメさん……はい、話は聞いていますよ。そのまま中へどうぞ』
「では、お邪魔します」
ハジメは、正門に手をかける。そして、押し開きながらもう一度、母屋に向けて作られた道を歩いていく。
道場が併設されているためか、敷地がとてつもなく広い。八重樫といえば“八重樫流”という剣術が有名であることは、隣町に住むハジメも知っている。噂だが、中学生の門下生の内の二人が、凄まじい実力なんだとか。
そして母屋にたどり着くと、扉を開ける。そこには白髪に皺の深い顔立ちの男性がいた。おそらくは、この人が八重樫鷲三だろうとハジメは推測した。
「どうもはじめまして」
「うむ。こうして出会うのは初めてかな? 儂が八重樫鷲三だ、初めまして」
「南雲ハジメです」
そう軽く挨拶を交わすと、鷲三はとある場所へと案内してくれることとなった。この敷地には二箇所に道場があるらしいのだが、その内の今は使われていない方へと向かった。
「さてと、座るといい」
「はい」
道場に着くと、その真ん中に座るように促される。鷲三が座るのを見て、ハジメも滑らかな床にあぐらをかいて座った。
「一応、悪魔から与えられた依頼は聞いている。『天之河光輝の処分』だな?」
「はい。なんでも協力してくれるそうですが……その人物について、知っているんですか?」
「当然だ。なんせ光輝は道場の門下生だからな」
これにはハジメも驚かざるを得なかった。ただそれよりも、門下生の処分を手伝ってもいいのかという困惑の方も大きかったが。
「ハッハッハ、驚いているようだな。まぁ正直な話、儂らもあまり手を下したくはないのだがな。だが力を与えた悪魔からの依頼だ、従わねばなるまい」
「……そうですね。でもどうして僕に依頼が来たのでしょうか? 電話の時の話だと、あなたの息子さんが能力を持っているはずでは?」
「本来ならそうなるはずだが、今回は相手が悪い。直接戦闘だと、光輝には誰も勝てないだろうからな。そういうのもあって、戦闘特化の儂らには依頼が来なかったのだろう」
それほどまでに、光輝は、光輝の能力は強いのだという。確かに言われてみれば、どんな能力者が相手であろうと、光輝は自身の能力で相手のメタ能力を修得してしまう。となると、普通に戦うと分が悪くなるのは必然であった。
「今回の依頼は、おそらく君の能力が最適だ」
「そうなんですか?」
「ああ。あの悪魔が与える能力には七種類あるが、その中でも君の持つ“色欲”の能力は、直接的な戦闘能力においては最弱だ。だが代わりに、他のどの能力よりも、他人を操る力に長けていると言ってもいい」
「直接が無理なら、間接的に……環境を変えていく」
「それができるのが、君の能力の長所だろう。そして今回の場合は、その長所が活きる。別に光輝の殺害依頼というわけではないんだから」
そう。あくまでハジメが受けた依頼は、光輝の処分である。処分であり、殺すことが依頼ではない。やるべきことは、光輝の性格や思考を変えること、あるいは光輝を殺害すること。あるいは……光輝を女体化させ、性奴隷にすること。
「とはいえ、だ。君も念の為、戦えるようになった方がいい。明日からここに来るといい、儂が鍛えてやる」
「えっ?」
「大丈夫だ、今回は状況が状況だから、お金は必要無い」
こうしてハジメは、八重樫道場で鍛えられることとなった。もし逆らったらどうなるのか、分かったものじゃないので、ハジメは従わざるを得なかった。
・南雲ハジメ:悪魔から依頼を受ける。八重樫道場の忍コースに強制入門させられることに。
・八重樫鷲三:とんでもなく強い。悪魔の依頼で、暴走した能力者を殺しまくった実績あり。現在は能力を息子の虎一に継がせたので無能力者である。
・八重樫虎一:今回は出てきてない。能力者であり、めちゃくちゃ強い。ちなみにだが、娘の雫に能力を継がせるつもりはないらしい。
・天之河光輝:神に愛され過ぎた結果、生まれながらの超絶ハイスペックな能力者となる。その結果、挫折を知らずに成長し、神達に危険視されるようになった。
カラクト様 神林 生死様 八奏様
ヤマトナデシコ変幻自在様 crime様
syamaku様 炉土様 三悪様 松影様
評価していただき、ありがとうございます。