一人で魔法陣の部屋に閉じこもったハジメ。その目的は、光輝を無力化するための概念魔法作りだ。
ぶっちゃけた話をすると、光輝を無力化するにしても殺すにしても、結局は彼の能力を何らかの形で無効化する必要がある。そうしなければ、彼は完全無敵だ。
悪魔から能力の詳細は聞いている。その能力は確かに非常に強力ではあるが、安定性に欠けるものだった。しかしそこに光輝の性格が合わさると、欠点の無い究極の能力に化ける。
光輝の全ての能力を総合して端的に言うと、願ったことを全て現実にする能力だ。異常なほどの強運で都合の良いイベントを引き起こし、周囲の人間の思考を都合の良い方向へ誘導し、人間離れした成長率で努力を確実に実らせることで、結果として願ったことを現実にする。
それでも願ったことが現実にならなかった場合は……超常的な現象を引き起こす。その現象には一切の際限が無い。超人的な身体能力を得ることも、過去を改変して不都合な存在をなかったことにすることも、なんでもできる。
とはいえ、弱点もある。それは、強く願う必要があるという点である。
強く願う必要があるため、意識の外にある事柄に対して干渉することはできない。つまり認識していない存在に対しては、能力を行使することはできないのだ。また、いくら願ったことのためでも、深層意識で拒絶してしまうような事象は起こせないという制約はあったりする。
また、その能力の都合上、精神面が、特に信念の類が揺らいでしまうと、能力が機能しなくなるのだが……光輝の場合は、そもそも自分のことを心の底から正しいと信じ込んでいるため、信念の類はそう簡単には揺らがない。こういう面でも、中々に厄介である。
「くっそ……考えれば考えるほど難しい……!」
はっきり言って、光輝の能力は、彼の性格も合わさって隙が無い。それに、能力を完全無効化する手段を得たとしても、それを行使するのも難しいだろう。というか能力を行使する前に、ハジメの方が死んでしまう可能性の方が高い。
そう考えれば考えるほど、生存欲求が高まっていく。たとえ光輝に殺されたとしても、その経験を持ち帰って復活できたら……ゲームみたいに、セーブ&ロードできたなら、どれだけ安心できることか。
「ダメだ、まずは勝つことよりも生き残ることだ……たとえ死んでもその知識さえ持ち帰ることができれば……いや、それをアイツに気取られてはいけない。だがそういう場合は……」
そういった考えで、ハジメは生き残るための概念魔法の開発を始めた。まずは理論から詰めていく。
最も近い例のゲームで考える。ゲームでは基本、セーブファイルを読み込むことで、続きから始めることができる。ではそのセーブファイルの中には何が入っているのか。もちろん、データとかそういう話ではない。
さらに言うと、ゲームのプレイ中に電源を切った場合、プレイ中だった世界はどうなるのか。もちろんこちらもデータ的な意味ではない。
セーブファイルの仕組みを詰めていくと、ハジメはあることを思いつく。
「バックアップ……そうだ、世界そのものをバックアップするんだよ……! 平行世界を形成し、もし仮に僕が死んだとしても、そちらへ人格を移すようにする……! そして元いた世界は消去する……そういう仕組みを作れば……!」
ハジメは、元々自分が好きだったゲームを元にして、自分が絶対に死なないための仕組みを作る。原案はセーブファイル。それが読み込まれる際に、ゲーム内で起きていることを擬似的に再現する。このイメージを元に、最初の概念魔法を作ることにした。
◆◇◆◇
ハジメが概念魔法作りのために閉じこもってから半日ほどが経過した。
その間、性奴隷達は別室で待機していたのだが、案外そこまで不安になっている人はいないらしい。やはり人が多いためであろうか、不安はあまり感じていないらしい。
「……ハジメ様、調子はどうなのでしょう?」
「そう不安がるでないアルテナよ……と、言いたい所じゃが、妾も不安じゃな。こうも遅いと、確か天之河光輝じゃったか? 其奴に追いつかれるのではないか?」
ハジメがいる部屋、神代魔法の魔法陣が存在する部屋の扉の前に、今はティオとアルテナが来ていた。他の人達も、部屋の前まで様子を見に来ていたようだが、最初から一切の変化は無いみたいだ。
ここまで何も無いと、流石に不安になる子達もいるというものだ。特に比較的賢い人達や、ハジメに対する依存度が強い人達は、その傾向が強い。
依存度が高い人達はともかく、賢い人達が不安になる理由は、ハジメを追いかけてきているという光輝の存在だ。
ハジメは詳しく伝えてはいないが、能力やその驚異は香織や雫から伝わっている。それを知った中でも聡明な人達は、その光輝に追いつかれ、ハジメが殺されてしまうことを恐れていた。
「ああハジメ様……急いでください……! 急がないと敵が来てしまう……!」
「ご主人様……!」
ハジメのご迷惑にならないためにも部屋には入らず、扉の目の前で祈る二人。その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴコ……!!
地響きのような音が響く。いや、実際に地面が揺れていた。震源は二人のすぐ近く。扉の向こう側だ。目の前だからすぐにそれが分かった。
それとほぼ同時に、ここにいる性奴隷達が全員扉の前に集結した。慌てた様子で、何が起きたのかとやって来た。
それから一分ほどの静寂が続く。何も起きないことに、不安を感じ始めたその時、扉がゆっくりと開いた。そこに現れたハジメは、右手には黒い背表紙の小綺麗な本が、左手には鞘に納まった短刀が握られていた。
「おっ、待っていてくれたのか。それじゃあ半分くらいの人達には、しばらく異空間で待機していてもらうよ」
部屋から出てくるやいなや、ハジメは言う。すると言葉通り、半分以上の人達は、この場からいなくなった。残ったのは、ユエ、シア、アルテナ、ティオ、ノイントの五人だけである。
「今回は少数で行く。あいつを倒すための概念魔法は準備した。後は、今のこの状況のバックアップを用意するだけだ」
ハジメは右手に握られた本の一ページ目を開く。
――南雲ハジメを使用者として登録し、新規のセーブファイルを作成しますか?
本を開いた瞬間、そんな音声が流れたが、すぐにハジメは頷き、本を指で軽く叩く。すると本の周りから、特にハジメの周りの空間から、見たこともないような文字が大量に浮かび上がる。それらは本へと吸収されていった。
――作成完了。以降、使用者である南雲ハジメの死亡時に、強制的にセーブファイルがロードされます。
そして、空間に浮かび上がった文字が全てが本に吸収される。
これが、ハジメの作り出した第一の概念魔法“ぼうけんのしょ”の力だ。込められた概念は『バックアップ』というものだ。
まずこの概念魔法には、事前準備が必要となる。それが先程ハジメが行った、セーブファイル作成というものだ。すると、セーブファイルを作成した時点と寸分たりとも違わない、同一の平行世界を作り出すことができる。
そして、使用者であるハジメの任意のタイミングか、あるいは死亡する直前に、平行世界へ使用者であるハジメの魂魄のみを転移させるのだ。
「よし。じゃあノイント、アーティファクト使って清水幸利を女体化させといて。んで、回収した魔物は魔人族領にある魔王城前に置いといて」
「かしこまりました」
「それで、残りの皆は僕と一緒に“幻術”を発動させて魔王城へ忍び込むこと。ノイントも仕事を終わらせたら、ここに合流して」
「「「はい!」」」
そうしてハジメ達は、空間魔法で各々の目的の場所へと転移するのであった。
・南雲ハジメ∶とりあえず準備は完了。まぁ死なないしいいでしょ、とか思ってる。ネタバレすると、この後地獄を見る。
・遠藤浩介∶ハジメに完全に忘れられている。
ここで概念魔法についての私の解釈や、この作品における設定について、軽く説明したいと思います。
この作品で概念魔法を使っている存在といえば、原作の方々以外にも、地球の神々がいます。ですが原作通りだと、どうしても地球の神々が概念魔法を使いまくれるのに説明がつかないので、私なりに解釈を行った結果、以下の考えに至ったのです。
まず、概念魔法を作るには『神代魔法の知識×意志力×イメージ力』の乗算で、一定以上のレベルに達しなければならないと、私は考えました。
この三要素の中でもイメージ力に関しては、原作では何も説明が無かった気がしますが、これはいわば、概念魔法がどういう理論で動くか、というものです。ある意味では、これも神代魔法の知識の一部に入るのかもしれませんが……。
また、イメージ力は、特に概念魔法を物質化させる際には重要な役割を果たしているように感じます。というのも、原作で登場した概念魔法はほぼ全て、形状から性質をある程度予測できるようになっているからです。
例えば“望んだ場所への扉を開く”クリスタルキーであれば、扉を開くイメージから鍵が連想されます。そして解放者達が作った“神殺し”の短剣は、文字通り殺すための剣が用意に連想できます。
こういった点から、イメージ力というのが、概念魔法においては中々に重要な要素となっているのではないかと考えたのです。
こういう設定にしたため、原作と比べるとあまり意志力の高くないハジメが概念魔法を作ることができたのです。今作のハジメは、原作よりも意志力は低いですが、それを補っても余るほどの神代魔法の知識とイメージ力があったため、作れたのです。
というか原作を考えても、あの解放者七人が頑張っても生涯で三つしか作れなかったのに対して、ハジメとユエで割と短期間で作り出した時点で、意志力以外にも重要な要素があると予想できます。
そして解放者とハジメの違いを考えてみると、やはりイメージ力というのに落ち着いたのです。オタクであり、地球で様々なものを見てきたハジメだからこそ、あんなにすぐ概念魔法を作りだせたのだと思います。