魔王城にて。赤髪で浅黒い肌の魔人族の男と、金髪に紅眼のオールバックの初老くらいの男が会合していた。とはいえ、赤髪の魔人族の男は跪き、金髪の男は玉座に座っているので、単純な会合と呼んでいいのかは疑問ではある。
「フリードよ、今日呼び出したのは他でもない。貴様には、我らに仇なす存在を討ってもらう」
「ハッ……して、その討伐対象とは?」
「見た目は人間族の男だ。名を南雲ハジメと言う。黒髪で背丈はそこまで高くない、おとなしそうな見た目ではあるが……決して侮るな。かの神の使徒を容易に倒してしまうほどの実力だ」
会合内容は、人間族の男……ハジメに関することだった。フリードと呼ばれた赤髪の魔人族は、黙って話を聞き続ける。
「あ奴はどうやら、我らに代わって世界を支配するなどと吐かしているそうだ。フリード、どう思う?」
「アルヴ様を差し置いて……!? 断じて許されざる愚行……そう言う他無い……!」
「その通りだ、奴は確実に討たねばならない存在。故に今回は私も――」
その時だった。
――消えろ。
金髪の、アルヴ様と呼ばれていた男は、跡形も無く消滅した。
「……は?」
あまりに突然のことだったが故に、フリードは啞然としてしまった。それもそうだろう。フリードは自身が神代魔法を得られるほどの強き存在であると自負しており、それよりさらに上の存在であるアルヴ――アルヴヘイト――は、敵わない存在とも見ている。故に、恐怖した。気づかぬ間に、アルヴが滅びたのだから。
そして、啞然としていたフリードの後ろから声がかかる。振り向くとそこには一人の男と、それと複数人の女性が現れる。
「はじめまして、フリード・バグアー。南雲ハジメと言う者です。早速ですが、魔人族の崇める神“アルヴヘイト”を消させていただきました」
「お前が……」
「本当ならあなたも支配したい所ですが……時間が押してるので、殺しますね」
「――!」
フリードが何かを言おうとしたようだが、その時点でもう手遅れ。彼はハジメの手により、死体すら残さず消滅してしまった。
「とりあえず、魔王城は制圧完了。ほぼ全員を殺したのは惜しい所だけど……時間が無かったし仕方ない」
この魔王城にはもう、魔人族は一人もいない。ハジメ達が一人残らず殺して回ったからである。一応何人か、ハジメのお眼鏡に叶う者達に関しては捕縛したが、99%は殺したと言っていいだろう。
ハジメは、今までアルヴが座っていた玉座に座る。自分が王となったかのような、圧倒的優越感を感じてしまう。全てを支配するのはあと少しだ。そう思うと、今までの道のりを思い出さずにはいられない。
「主様」
「……どうしたノイント?」
物思いに耽っていたハジメだったが、ノイントの声ですぐに真剣な表情へと戻った。
「魔王城前に配置した魔物が全滅しました」
「おっと……やっと来たね」
清水幸利を女体化させて奪い取った魔物を魔王城前に置いていたが、どうやら全て撃破されたらしい。軽く三万程度はいたはずだが……どうやら、とんでもなく強い存在が近づいているようだ。
ズドンッ!!
そして、魔王城の玉座の間の扉が勢いよく開く。そこから、ハジメの見知った顔の人物が多くやってきた。
「ッ! やっぱり、お前だったか!」
「……ようやく来たね、天之河光輝。本当に待っていたよ」
そのリーダー格、天之河光輝。彼を見て、ハジメは立ち上がる。
「それにしても……よく僕が生きてるって分かったね? 一切の痕跡も残さずに動いていたはずなんだけど……」
「お前のしたことは全て分かっている! オルクス大迷宮で魔人族と共謀して俺達を陥れた! そしてお前は死んだように見せかけた! そうだろう!?」
「えー……確かにオルクス大迷宮で死んだように見せかけたのは事実だよ、うん。でも魔人族と共謀ってのは違う……まぁ、もう関係無いか」
ハジメは続ける。
「言っちゃうけど、僕の目的は、この世界を支配することだ。人間族も魔人族も亜人族、全員を奴隷にし、僕が世界の頂点に君臨する。そんな世界を作る。……さぁ、お前に止められるか?」
「……確かに、俺だけでは無理かもしれない……だが! 俺達には神がついている!!」
その瞬間、ハジメの後方で光の柱が放たれる。
「うっ、あ?」
その狙いは、ユエ。明らかにユエを目掛けて放たれた光の柱は、降り注ぐ光は、益々輝きを増し、荘厳さと不気味さを増していく。
その瞬間、ほんの一瞬だけ、ハジメは歓喜を包み隠したような歪な表情になるが、すぐに焦燥感を前面に出したかのような表情となる。
「クソっ……ハァァッ!!」
流石はハジメとでも言うべきか。その規格外のステータスから放たれるただのパンチ一発で、柱は一瞬で粉砕された。
纏わりつく不気味な光の粒子を振り払い、ユエがいた場所に向かって手を伸ばすハジメ。しかしその表情を見た瞬間、ハジメは
「エヒトの名において命ずる――“動くな”」
「ッ!?」
それはあまりにも唐突で、理解し難い現象だった。ユエの口から飛び出した“名”と、その命令に己の体がなす術なく従ってしまったこと。まるで、体中の神経を遮断された挙句、標本のように固定されてしまったかのようだ。
「ッ……がァァっ!!」
しかしすぐに、ハジメは奇妙な力による拘束を脱する。精神を落ち着かせて一気に力を振り絞る感じに。
「平伏せよ」
「クッ……」
しかしすぐに、ハジメは恐ろしいほどの力で押さえつけられる。おそらくは、重力魔法に近しい何らかの手段で。
「諦めろ南雲! 俺達にはエヒトがついている! お前に勝ち目は無い!」
「ぁあ……? 諦めるわけ……んぐぅ!?」
「流石はイレギュラーといったところか。まさかこうもあっさり“神言”を解くとは。それにこの重力の枷でも動こうと藻掻く姿は初めて見たものだ。だがしかし、いくら強くなろうが、我に逆らうなど不可能――“四方の震天”――“螺旋描く禍天”」
空間を爆砕する衝撃波が四方からハジメを襲い、同時に頭上からハリケーンのように渦巻く重力の砲撃が墜落する。
攻撃の嵐がおさまるとそこには、血塗れになり、片腕と片足が千切れ、腹部の肉が大きく抉り取られた、無残な姿のハジメがあった。しかし、まだ息はあった。
「まだ生きているとは……おや?」
普通なら生きている方がおかしい出血量。それにも関わらず、ハジメは動く。
「ハァ……ハァ……ゲボっゴホっ……一つだけ……言いたいことがある……」
「ほう? せっかくだ、遺言くらいは聞いてやろう」
客観的に見れば、ハジメの敗北は確定的だ。エヒトも光輝も、そして周囲の者の大半も、そう思わざるを得ない状況だ。……ハジメのことを、ハジメの能力を知らない者達は。
「…………エヒト、その身体から抜けるな。そして永遠に黙れ」
「……!?」
ハジメの言葉に反応し、口を動かそうとした
その様子を見て、ハジメは高笑いを上げる。見てみると、傷はまたたく間に癒えていき、たったの数秒で、無傷の状態へと戻ったのである。
「フフフッ……ハッハッハッハッハ!! エヒト! ユエの肉体に憑依したその瞬間、お前の敗北は確定したんだよ!」
「……!!」
ハジメの能力の大半な、肉体的に女性である存在にのみ効果を発揮する。だが逆に言えば、肉体が女性であれば、魂など関係無いとも言える。
それはエヒトとて同じこと。ユエの肉体に憑依した時点で、エヒトはハジメの命令には逆らえなくなった。それどころか、喜んで従ってしまうほどだ。
「さぁエヒト、命令だ! ユエの魂魄に一切の干渉をすることなく、お前自身の魂魄を消滅させろ!」
「……!! ――!!」
ハジメの命令に、
「っ、ぉおっ……♥♥」
抜け殻になったように小さく喘ぐユエを確認すると、ハジメは光輝の方に目を向ける。光輝は理解ができない状況に呆然とするしかできなかった。
「神がついていると言っていたけど……残念ながら、神は今、僕がこの手で消滅させた。後はお前一人。お前一人では、何もできないだろうな」
煽るように、見下すように、ハジメは口を動かす。それと同時に、今この場にいるハジメの性奴隷達と、光輝の仲間達を別の場所へと転移させる。
「ッ! 仲間はどこにやった!?」
「ああ……ハイリヒ王国の王都にいるよ。もし僕を倒せたら、その時は行ってみるといい」
「お前は……お前は絶対に許さない! 俺が! 必ずお前を倒す!」
その言葉と同時に、光輝が光りに包まれる。先程の光の柱とか、そういう次元じゃない。神の後光のような、まるで祝福を与えられたかのような神々しい光。そしてそれは、光輝の身体へと入っていった。
「っ……厄介だよ、本当に」
外見上は変わらない。しかしハジメはその身体を一目見ただけで、光輝に起きた変化を理解した。光輝の変化したステータスが、分かってしまった。
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天之河光輝 17歳 男 レベル:∞
天職:勇者
筋力:9999999999999999
体力:9999999999999999
耐性:9999999999999999
敏捷:9999999999999999
魔力:9999999999999999
魔耐:9999999999999999
技能∶全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・寵愛[+強運][+超成長][+活性化][+思考誘導][+奇跡]・言語理解・南雲ハジメからの攻撃を無効化する・南雲ハジメへの攻撃は必ず命中する・南雲ハジメは傷を再生できない・南雲ハジメとの戦闘では必ず勝利する
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見ただけで恐ろしい。全ての技能が使用可能で、かつ全てのステータスが9999兆という、意味が分からない数字だ。しかもここに、身体強化系の技能だったり、限界突破系の技能での上乗せがされたら、しかもその時間制限が完全無制限だったら。恐ろしいにも程がある。
というかそもそも、その能力により得た技能なのだろうが、その影響でハジメの攻撃が無効化されるのも痛い。これでは完全無敵と、そう言う他ない。
「天之河光輝。残念だけど、いつかお前は負ける」
「そんなことはあり得ない! 俺がお前を倒して、世界を救う!」
そうして、戦いの火蓋は切られる。
「……ぁ」
勝敗は、一秒も経たずに決した。
ドサッ……
勝者は、天之河光輝。光輝の奇跡にも似た能力は、ハジメの持つ“自動再生”の技能を完全に無効化していたのだ。結果、ハジメですら認識できない速度で身体を縦一文字に斬り裂かれ、再生できずに死亡した。
◆◇◆◇
『セーブファイルをロードします』
・南雲ハジメ∶即死。ハジメではどれだけ努力しても、光輝には絶対に勝てません。
・天之河光輝∶完全無欠の化け物。どんな技能でも使えるし作り出せる。流石はプロット段階のラスボス。
・エヒト∶ユエに憑依するという行動方針のため、どうあがいてもハジメに負ける。
Ken 2000様
霧島 紅夜様
評価していただきありがとうございます。