「ッ!?」
体内からおぞましい量の魔力が吸い出される不快な感覚で、ハジメは目を覚ます。
そこは、氷雪洞窟の最奥だった。概念魔法を作り終え、全ての準備を完了した時にまで、戻ってきたのだ。
(戻ってきた……ということは、僕は死んだのか……)
戻ってきたのは、ハジメの作った概念魔法“ぼうけんのしょ”の効果によるものだ。これにより、死んだハジメの魂魄は、新たに作り出された平行世界のハジメに引き継がれたのである。
ハジメは淡々と、事実を受け入れる。死という、普通の人間では受け入れることすら難しいものを、なんとなく漠然に。
容易に受け入れることができた理由は、ハジメ自身が、何が起きたのかを理解していないからだろう。
ハジメの最期の記憶は、何か凄まじい光に包まれた感覚だ。攻撃があまりにも速すぎたため、身体を縦に真っ二つにされた感覚は感じていないようだ。だからこそ、死を受け入れられたというものだろう。
(でも、あれで死んだとなると……やっぱり“自動再生”が発動しなかった?)
そこから死んだ理由を考え、すぐに結論へ至った。光輝の能力的に、何をしてきてもおかしくない。下手したら、全てのステータスを1にされる可能性すらある。
(とりあえず、光輝に“自動再生”があることを気取られたらダメだな……気づかれなければ、対策はされないはずだ)
ここからハジメは考えた。光輝は、一度見た技能であれば、全て無効化してくるかもしれないと。それを予期し、また魔王城へ向かう。
◆◇◆◇
二回目。一回目の知識を持ち越しているため、エヒトがどの時点でユエに憑依するかも理解している。そのため、今度はエヒトに何かを言われる前に対処を完了させた。
その結果、無事に“自動再生”を発動することなく光輝と向かい合う。
「さぁ、エヒトはもう死んだ。後はお前一人だが……一人で僕に勝てるのか?」
そう言いながら、ハジメと光輝を除いた全員を、魔王城から別の場所へ転移させる。
「ッ! 仲間はどこにやった!?」
「ああ……ハイリヒ王国の王都にいるよ。もし僕を倒せたら、その時は行ってみるといい」
「お前は……お前は絶対に許さない! 俺が! 必ずお前を倒す!」
その言葉と同時に、ハジメは腰に差した短剣を抜き、光輝は大剣の一撃を放つ。
カァァァァァァアアッッ!!
極光がハジメの肉体を破壊し尽くす。しかし破壊された場所から即座に再生する。結果、皮膚付近のみしかダメージを受けず、痛みも少ない。
ハジメはそのまま光輝に目掛けて駆ける。目標はその胸元。そこに短剣を突き刺す。
「喰らえッ!!」
そして光から脱すると同時に、ハジメは光輝の目の前へ現れ、短剣を胸元に突き刺した。肉を突き刺したような感触は無いが、それでいい。この短剣は魂魄にのみ作用し、能力を分離させて奪い取る代物。これもまた概念魔法であるため、通常の方法だと抗うことはできない。しかし……
ブォォォオン!!
光輝の大剣の一撃とその衝撃が、ハジメの身体を吹き飛ばす。威力は変わらない。すなわち、概念魔法は効いていない。
「ウソ、だろ……コイツも効かないのかよ……」
「お前のような奴の攻撃が俺に効くはずがない! これでッ!! 終わりだァァァァ!!」
二回目も、ハジメの敗北で終わった。敗北の要因は、概念魔法を過信したこと。いくら概念魔法でも、ハジメの攻撃である以上、光輝は無力化してくるのだから。
『セーブファイルをロードします』
◆◇◆◇
そして三回目。三度目の正直と言うが、ここでハジメは大きく戦術を変えた。
そもそも、光輝はハジメとの戦闘で負けることがない。これは一回目の時に見たステータス、それと技能からして明らかだろう。
だから、目に見えて分かる技能は可能な限り使わないようにする。一度目は問題無いだろうが、二度目はほぼ確実に、光輝の能力で無効化されるからだ。
とはいえ、結局ハジメは敗北する。当然といえば当然だ。なんせ光輝は“南雲ハジメとの戦闘では必ず勝利する”という技能を作り出しているからだ。いくらハジメが優勢であったとしても、何らかの手段で光輝の力が強化され、ハジメは敗北する。
「な、何故……どうして、再生しない……」
ボロボロになったハジメは演技をする。片腕と片足が千切れ、腹に大きな風穴が開き、体中から大量出血を起こしている身体を見ながら、震えた声で言う。
「これで終わりだ南雲! お前はもう終わりだ!」
「僕の、負け……か…………」
実際は何度か頭を吹き飛ばされているどころか、肉体が完全に吹き飛ばされかけることも何度かあったが、そこは恐ろしいほどの再生速度と、光輝の派手な攻撃で上手く隠し通した。
「ハイリヒ王国、王都へ行くといい……そこに、全てがある…………」
「……そうか」
そう言うと、光輝はハジメに背を向けた。勝利を確信し、ある意味で慢心しているのだろう。ボロボロで、常識的に考えたらいつ死んでもおかしくない状況なので、放置したのだろう。
ハジメは絶好の隙を狙うため、一瞬で肉体を再生させて短剣を振りかぶるが……
「――ッ!」
またしても、ハジメは死んだ。光輝はハジメの死に気づくことなく、その場を去っていった。
おそらくは、光輝の能力が勝手に発動したのだろう。光輝が『敗北者が攻撃できるはずがない』という考えを持っていたが故に、その考えに反する行動を取ろうとしたハジメは無条件で即死したのだ。
『セーブファイルをロードします』
◆◇◆◇
五回目。片手で数えられるギリギリの回数だ。今回は、前回の作戦を少しだけ変える。ボロボロになり、自分の負けを認めるまでは前回と同じ。
しかしここからが違う。光輝をハイリヒ王国へ行かせるのだ。そこへ向かわせ、仲間と会わせ、完全に油断しきった所を倒す。そういう作戦だ。
そしてハイリヒ王国には、ハジメが転移させた男子生徒達が全員いた。
「皆! 南雲を倒したぞ!」
「「「うぉぉぉぉぉおお!!!」」」
帰還した光輝が、ハジメを倒したことを伝えると、男子達は歓声を上げる。光輝による思考誘導の影響を強く受けていたため、彼らのハジメへの恨みは非常に強い。そんな人が負けたとなれば、喜ぶのも当然なのだろう。
光輝がクラスメイトに囲まれて称賛を受ける。その様子を、物陰に隠れたハジメはじっと見る。そう、ハジメは負けてはいたが、まだ死んではいなかった。
前回と同じく、自分の敗北を確認して安心しきった所に、攻撃を仕掛ける予定なのだ。時間はそこそこ置いているので、能力の効力が切れている……可能性がある。
「ついに……南雲は死んだのか!」
「ああ。もし生きていたとしても、もう片腕と片足が無いし、大量に出血していた。あそこから再生してやって来るとか、そういうのは
その時だった。
「グふっ……!?」
ハジメはバランスを崩して倒れた。そしてすぐに、倒れた理由を理解する。
身体が、ボロボロになっていたのだ。片腕と片足が無くなり、鳩尾辺りには大きな風穴が空いており、他にも身体のいたるところの肉が抉れていた。そう、再生する前と同じ状態に戻っていたのだ。
何故か。
それは光輝の言葉によるものだ。ハジメの傷が再生するなんてあり得ない。そう言ったため、過去が改変され、ハジメの持っていた“自動再生”の技能が発動しなかったことにされたのだ。もちろん、今も発動しない。
(意味が……分かんない……)
ハジメの理解を超えた理不尽な能力。どうやって能力を奪えばいいかを考えて絶望しながら、ハジメは誰にも気づかれることなく、出血多量で死亡した。その表情は、苦痛に満ちていた。
『セーブファイルをロードします』
◆◇◆◇
それからハジメは、何度も何度も死んだ。様々な手段を用いて光輝から能力を奪おうとするが、奪えない。
そもそも光輝が強すぎるのだ。ただでさえ単純なステータスが高いのに、技能までイカれている。その技能の影響でハジメの敗北は確定しており、最低でも大怪我は確実。そこから何をするのかが重要なのだが、何をしても能力は奪えなかった。
そうして十四回目の死亡を迎えた時、ハジメはあることを思い出したのだ。
◆◇◆◇
十五回目。本来なら、大迷宮から出たらすぐに魔王城へ向かうのだが、今回は少々寄り道をする。あることをするために、ハジメはとある場所へと向かった。
「……やぁ、待たせたね」
「……」
そこには、一人の人物がいた。ずっと、ハジメが忘れていたある人物が。
ハジメはその人物に、短剣を渡した。光輝を倒す決定打になるであろう概念魔法の込められた短剣を。
「お前のやることは簡単だ。僕の合図と同時に、それで光輝を突き刺す。鎧を纏っていたとしても、この短剣はそれを貫通するから、そこは気にしなくていい」
「……」
「それと、僕が合図するまではずっと隠れていること。君なら隠れてなくても認識されないかもだけど、念には念を、ってことで」
「……」
ハジメの声は、少しだけ震えていた。それは恐怖というより、むしろ緊張と歓喜の合わさったような、どこか高揚した感じの声だった。
「さぁ……これで終わりにする」
ハジメは再び魔王城へ向かう。今度はもう一人を連れて。
・南雲ハジメ∶十四回の理解不能な死を経験した末に、とあることを思い出す。
・天之河光輝∶なんでもアリな超絶チート能力で、十四回もハジメを殺した。ちなみに、ハジメから一切のダメージを受けていない。
・遠藤浩介∶対光輝戦の最強の切り札。その影の薄さは、光輝の能力すら欺く。