箒を堕としたハジメは、IS学園へ戻ってきた。分身やらノイントが化けた偽物だとかがいるが、通常の人間では絶対に認知できない速度で、ハジメと箒はそれらと入れ代わり、戻ってきた。
「織斑君、分からないところあったら訊いて下さいね。何せ私は先生ですから」
ちょうど授業中で、一夏が授業を理解できずに百面相しているところを、真耶先生に心配されているところだ。
「山田先生……」
「はい、織斑君。なんでしょうか?」
「ほとんど全部分かりません……!」
そう本心を言うと、流石の真耶先生も、困惑してしまう。なんせ今の所、入学前の事前学習さえしていれば、理解はそこまで難しくない範囲の話しかやってきてないから。
「え、えーっと……織斑君以外で、この段階で分かっていない人は、どれくらいいますか?」
シーン………。
当然、女子達は全員内容を理解していた。というか事前学習をやっていれば、これが普通なのだ。
「織斑。入学前に支給された参考書はどうした」
と、ここで教室の隅で腕組みをして立っていた千冬姉が口を挟んできた。一夏は特に何もないように、
「古い電話帳と間違えて捨てました」
といった。そして当然のように、出席簿でぶん殴られる。
「必読と書いてあっただろう馬鹿者が」
不服そうな表情をしてはいるが、残念ながら、今回は一夏がすべて悪い。ハジメも心の中で「残当」と呟いていた。
「再発行してやるから、一週間以内に全て頭に叩き込め」
「え!? あの分厚さを一週間」
「やれ。いいな」
「はい……」
そして、有無を言わさぬ千冬の言葉に逆らうことができない一夏だった。
◆◇◆◇
ニ時間目が終了して、ハジメは一夏へ近づく。後々は女体化させて性奴隷にするつもりではあるが、だからといって友達にならないというわけではない。
「やぁ。確か織斑一夏、だっけ?」
「ああ、織斑一夏だ。えっと君は……」
「南雲ハジメだ、これからよろしく」
「こちらこそ」
とりあえず軽く挨拶を済ませ、ハジメは適当に話題を振る。
「んで、授業は大丈夫か? あの参考書はまったく読んでなかったり……?」
「ああ……開ける前に間違えて捨てちゃったから……」
「おいおい……まぁ、アレだ。こればかりは僕も何もしてやれないから、なんとか頑張って」
流石にこの有様には、ハジメも苦笑いしてしまう。というかそもそも、必読と書かれた本を電話帳と間違えて捨てるとは如何なものか。
「ちょっと宜しくて?」
一夏といくらか会話している最中、急に横から入ってきた人物が一人。
「「ん?」」
突然のことなので、当然ながら一夏は適当な反応になるし、ハジメの方も、未来予知で最初から分かっていたことではあったが、急に割り込んでこられたため、適当な反応になってしまう。
「まあ! なんてお返事ですの!? わたくしに話しかけられること自体光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」
そう叫ぶ目の前の女子生徒。鮮やかな金髪が一際目に引いていて、彼女の白い肌と青い瞳を見れば、白人なのはすぐに分かる。緩やかにウェーブがかかっているその髪はいかにも高貴なオーラを醸し出している。
彼女はセシリア・オルコット。現状では、IS学園の一年生の中で唯一、専用機を持つ生徒だ。もちろん、専用機を持つというだけあって、ポテンシャルは中々のものである。
ただハジメは、この時点で『あっこれめんどくさいやつだ』と直感した。こういう類の人とはまだ関わったことがなかったので、同時に新鮮にも感じていたが。
だが一夏が、ただでさえ機嫌の悪そうな彼女をさらに怒らせる言葉を口にする。
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」
「知らない!? このセシリア・オルコットを、イギリスの代表候補生、入試首席のこの私を!?」
「……一夏、最初の自己紹介聞いてたか? 一応全部言ってたぞ?」
「え、あ……そうなのか」
どうやら自己紹介の時、一夏は千冬のことで頭がいっぱいになっていたようで、まともに話を聞けていなかったみたいだ。ただ流石にこれは、ハジメも『もう少しちゃんとしろ』と思っていた。
「なあ、質問いいか?」
「ふん。下々の者の要求に答えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、なんだ?」
その瞬間、周囲ではガタタッと、聞き耳を立てていた女子達が崩れ落ちる。ハジメも流石に看過できず、コツンと一夏の頭にチョップした。
「あたっ!?」
「おいおい……IS学園に入るんだから、それぐらいは知っとけよな……」
当の一夏は、なんでこんな風になっているのか理解ができていない模様。そんな様子に苛立ちが有頂天になったセシリアは震えていた。
「あ、あ、あ……」
「あ……?」
「貴方、本気で仰っていますの!?」
そして、凄まじい剣幕で甲高い声を発するセシリア。流石にここまで怒らせた一夏のことを、ハジメは擁護しなかった。悪いのは、一切の知識すら持たない一夏だから。
そんなセシリアは、一周まわって冷静になったのか、こめかみに人差し指を押さえながら何か念仏のようなものを唱えている。
「えっと……オルコットさん、大丈夫ですか?」
「信じられない、信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。この人はテレビも新聞も見てないのかしら……」
「ああ、うん……」
対して、一夏はすっとぼけたかのような態度で、ハジメに尋ねてくる。
「で、代表候補生って?」
「一夏……代表候補生ってのは、スポーツにおける国家代表IS操縦者の、その候補生として選出される選手のことだ。ほら、サッカーや野球で代表を選出するために候補に選ばれた人が選定試合に出たりするだろう? そういう人達のことだよ。まぁ、いわゆるISの
「そう、エリートなのですわ!」
エリートという言葉を強調して説明を行うと、セシリアは調子を取り戻し、気分良さそうに胸を張る。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡――幸運ですのよ。その現実をもう少し理解して頂ける?」
「そうか。それはラッキーだ」
「馬鹿にしていますの!?」
流石にここで、ハジメも一夏に付き合いきれなくなったというか、フォローが面倒臭くなったので、気配をスッと消して自分の席に戻って、外から眺めることにした。
「大体、貴方ISのことについて露程も知らないのに、よくこの学園に入れましたわね。もう一人の殿方はともかく、少しくらい知的さを伴っていても良かったと思うのですが、期待外れでしたわね」
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、貴方のような人間にも優しくしてあげましてよ」
セシリアが随分と傲慢で上から目線に見えるが、一夏の知識の無さを考えると、そうなるのもやむなしと思えてくるのが面白いものである。
「ISのことでよく分からないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「入試って、あれか? ISを動かして戦うやつ」
「それ以外に入試などありませんわ」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「は?」
あっさりと一夏の口から出た衝撃の事実。それにセシリアはあんぐりとしてしまう。
「わ、わたくしだけと聞きましたが……?」
「女子ではっていうオチなんじゃないのか?」
ピシリ。聞こえるはずのない嫌な音が聞こえた気がした。
「つまり、わたくしだけではないと……?」
「いや、知らないけど」
「あなた! 貴方も……ってあれ?」
「ああ、僕のことですか?」
「そうですわ! 貴方も教官を倒しましたの!?」
なんか呼ばれた気がしたので戻ると、物凄い剣幕で詰め寄ってくるセシリアに、わずかに後ずさるハジメ。
「いえいえ。相手が織斑教官だったんで……それなりに耐えることはできたと思うし、攻撃もある程度は当てられたけど、最終的には負けちゃいました」
セシリアは、安堵しているのかいまだ興奮しているのかいまいち分からない表情して、今度は一夏の方へ詰め寄る。
「お、おい。大丈夫か?」
「大丈夫かとお思いでして!?」
「わ、分かった。分かったから少し落ち着こう」
「これが落ち着いて――」
ここで、三時間目のチャイムが鳴る。
「っ……! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
流石はエリートというか、優踏生というか。チャイムに気づくと、セシリアはそう言い残してさっさと席に戻っていった。
◆◇◆◇
なんやかんやあって、初日は終了した。全寮制ではあるものの、ハジメは一週間前に入学することに決まったので、部屋を用意する時間がなかった……はずなのだが、無理矢理用意してくれたみたいだ。
だが、同じ男子である一夏とは別の部屋らしい。これに関しては、色々と面倒な事情が絡んできているみたいだが……。
鍵のプレートに記された2031室を見つけると、軽くノックして、自己紹介をして鍵を開ける。
「お邪魔しまーす」
部屋を開け、少し進むと、広い部屋へと出た。そこには大きめのベッドが二台と、勉強机が二つ。それと一人、
「お帰りなさいませ。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、わ・た・し?」
水着姿の上にエプロンをつけただけの、青髪の女性が現れた。普通なら、こんな姿で迎えられて驚くはずだが、最初からこうなることを分かっていたハジメは、無言で彼女を見ていた。
だが女性の方は、まさか一切の反応が無いとは思いもしなかったからか、ハジメの前で手を軽く振る。
「ちょっとぉ〜、私のこと見えてる?」
「……見えてます。それで、確かあなたは生徒会長の更織楯無さんですよね? なんでここに?」
そんな女性が何故こんな場所にいるのか、まさか正体がバレたのではないかと警戒していると、楯無が説明してくれた。
「ノリ悪いなぁ……ま、いいや。それで私がここにいる理由だけど、私と同じ部屋になったから! ……ってのを、聞きたいわけじゃないよね?」
「はい。そもそも学年が違うじゃないですか」
「そうね。南雲君は一年生で、私は二年生。なのになんで同じ部屋になったかというと……まぁ、監視と護衛ってところね」
「監視と、護衛?」
「そう。現状では二人しかいないIS操縦者だから、何かあったら困るのよ」
ISは、女性にしか動かせないとされてきた。だがそんな中、ハジメと一夏の二人だけは、何故か適合ができたのだ。そんな人達を、裏社会の人達から守るために、ハジメに護衛がついたわけだ。
「織斑君の方は、姉という強力な後ろ盾がある。けど南雲君にはそういうのが無いでしょ? だから織斑君よりも先に、あなたを保護する必要があったのよ」
「……そんなに、保護が必要なんですか?」
「案外大人ってのは悪い人が多いのよ。それに身近な危険で言うと、三年前に出てきた“黒騎士”もいる。というか危険度で言うと、そっちの方が大きいかもね。最近だと、台湾の代表候補生の一人を倒して誘拐したみたいだし」
「なるほど……でも、じゃあ監視というのは?」
楯無の言うことは、納得できる内容だったが、これでは監視という理由の方の理由は分からない。それに関しても、楯無は説明してくれた。
「あなたの能力を警戒してのことよ。確か三月に、二機の暴走機体の片方を起動させて、それでもう片方を鎮圧したでしょ?」
「ああ、はい。そうですね」
「その時、鎮圧されたISのコアが、粉々に破壊されていたのよね」
ハジメにIS適性があることが判明したのは、本当に一週間ほど前のことだった。
日本で研究されていた二機のISが、突然暴走し始めたのだ。そのISの片方が墜落したところにハジメがおり、それを起動させ、もう片方を一撃で機能停止させたというのが、判明経緯だった。
まぁこの事件は、ハジメがノイントに色々命令して、日本のとある企業が保有するISを暴走させていただけ、というのがオチではあるのだが。
だが、その時に鎮圧されたISのコアは、粉砕されてしまっていた。今まで、絶対に壊れることはないとされてきたコアが。
「今まで誰も壊せなかったISコアを、たったの一撃で壊した。上層部は、それほどまでに高い才能を危険に感じているみたいね」
「そうなのか。なら、仕方ない……のか?」
全ての真相を知っているハジメだったが、適当に納得した風を装う。
「とりあえず、これからよろしく」
「よろしくお願いします」
そういうわけで、ハジメは楯無と同じ部屋で生活を行うこととなった。
◆◇◆◇
そして夜。ハジメは魔法で極限まで気配を消し、楯無の眠るベッドの前に立つ。
「さぁ〜てと、仕込みしますかね……」
楯無の顔の前にまで手を持っていくと、魔法陣を展開していく。数秒間の発動の後、魔法陣は消え去った。
「準備完了。明日からが楽しみだ」
・南雲ハジメ:人間を超越した存在ではあるが、他人の気持ちや感覚はそれなりに理解はできる。
・織斑一夏:人間なのにも関わらず、他人の気持ちや感覚を全然理解できていない。
・セシリア:プライドが高いイギリス代表候補生。専用機持ちで入学試験で教官に勝ってるし、普通に強い。
・更織楯無:学園最強の生徒会長。ハジメが黒騎士だとは気づいていない。ナニカサレタヨウダ。