BIOHAZARD sexual invasion 作:MIYOSHI
大学二年目の夏季休暇。
九歳となったアダムは、同級生のアレクシアと南米を訪れていた。
「ああ、とっても素敵……」
サファリルックで飾ったアレクシアが、普段とは別人のような輝いた笑みを浮かべている。
視線の先にはアダム──ではなく、自身が両手に持っている虫籠。中には不自然な動きを繰り返している頭から柄を生やした蟻の姿が見える。
「脳はどんな状態になってるのかしら。早く調べたいわ」
「はは……喜んでもらえて嬉しいよ」
そう、例の昆虫寄生菌に寄生された蟻だ。
二人はスペンサー家のプライベートジェットを使って、途中アフリカの空港で燃料補給を挟みつつ、熱帯雨林地帯の中央部にある河港都市の空港に到着した。一日半以上の航程だ。
故郷であるイギリスは天候が悪いことが多いが、実を言うと雨が降ることはそこまでない。空気も乾燥していて夏も比較的快適だ。対して、この場所は赤道直下に位置する上、年間降雨量が世界平均の三倍近くあるので、この辺り一帯は乾季だろうと常に高温多湿。
そんな環境ゆえに彼女にはかなり堪えるだろうとアダムは注意を払っていたが、自慢であるその丈夫さは伊達ではないようだ。確かに汗をかいている様子はないのだが、本当に無痛無汗症なのだろうか?
「アレクシア? 体調はどう? 平気?」
「ええ。それより早く蟻が見たいわ」
「良かった。クーラーボックスに飲み物を用意してるから、欲しかったら言ってね」
「ええ。それより早く蟻が見たいわ」
甲斐甲斐しく可愛いガールフレンドを気遣うアダム。アレクシアは蟻に夢中で全く聞いていないが。
どちらにせよ、今や二人は大学公認どころかイギリスで最も有名なカップルとなっている。国中の者達が天才児カップルを微笑ましい目で見守っているのだ。見えないところでセックスしまくっていることも知らずに。
ちなみに、アダムに最も近い存在で見守るべき立場にあるジェシカは留守番中。彼女はこの旅行中に小さな主人がアレクシアを妊娠させるのではないかと対抗心を燃やしていた。
当然同伴しようとしていたが、直前にウェスカーチルドレンが戦闘訓練を受けるという話になり、その対応に追われて諦めざるを得ず。リサに電話で確認してみたところ、就寝中いつも「旦那様……旦那様……避妊を……ああっ、そんな……私が……なのに」とうなされているらしい。
閑話休題。
現在、アダム達は熱帯雨林からサンプルとなる蟻を採取し終えて、研究所から離れたホテルに移動していた。
なぜわざわざ採取しに出向いたのか。それは研究所にサンプルがなかったからだ。
ここ最近、この昆虫寄生菌が発見された熱帯雨林があるアムパロという地域がある国では、麻薬王をボスとした"聖なる蛇達"なる犯罪組織がその勢力を拡大している。
彼らは地域一帯に流れる川の上流区域にダムを建設しており、現在はその発電施設から僻地にも送電できるよう計画を進めている最中らしい。
傍からは慈善事業にも聞こえるが、犯罪組織が何の裏もなくそのようなことをするわけがない。恐らくは、自分達が専有できる大型電源の確保と、その恩恵を与えることによって麻薬を用いずに僻地一帯を支配下に置くことが目的と思われる。
小国なため政府も目立った対策ができていない。もしくは、単にグルなのか。どちらにせよ今の時点で聖なる蛇達の方が力を持っていると言っても過言ではなく、事実上の支配権を持っていると見ていいだろう。
そんな時に保存していた菌を職員のミスで死滅させてしまい、再採取しようにもその聖なる蛇達による妨害が目立つようになって叶わなかったのだという。外国企業の研究機関に自分達のシマで好き勝手させていては面子に関わるからだ。
おかげでその菌はおろか、別の実験材料の調達も滞ってほとほと困っていたと。
元々ここの研究所は南米支部の中でも本社からの注目度が低く、予算の配分も他と比較して少ない状態であったらしい。
そこへ大学在籍中の御曹司から訪問したいという話が飛んできて、莫大な臨時予算が注ぎ込まれた。その一部を使って聖なる蛇達と交渉し、アムパロでの研究活動をある程度容認させたということである。
御曹司様々だ。本人からしたらデートの出汁にしただけなのだが。
「アダム様。アレクシア様。ホテルに到着いたしました。資料や器材などは既にお部屋に運ばれているはずです」
「うん。ありがとう。色々と手を煩わせてごめんね」
「とんでもございません。他にも何かございましたら、何なりとお申しつけください」
助手席から九歳児相手に揉み手をする引率役の研究所長。
運転手は笑うまいと唇を硬く引き結んでいる。目立った成果が出せずここ最近荒れ気味だったのを知っているからだ。
研究所ではなくホテルでサンプルの調査を行うのは、研究所側にアダム達が泊まれるような宿泊施設がないためである。職員のための寮はもちろん存在するが、とてもじゃないがVIPが寝泊まりするには相応しくない。
送迎車であるジープから降りたアダムはアレクシアと共にホテルへと入る。犯罪組織が関わらずとも治安が悪い国のため、当然警護のために周りにはボディガードが二人ずつ同伴している。
泊まるのは街で一番高級なホテル。高地にある三階建てだが面積が広く、タレットになっている部分の部屋は熱帯雨林に流れるアマゾン川が一望できるらしい。要人御用達らしく、内装は途上国であることを忘れてしまいそうなほどに綺麗で高級感に溢れていた。
ロビーに入ると、待機していた研究所の女性職員がホテルスタッフを押しやる勢いで駆けつけてくる。
「お、お待ちしておりましたっ。アダム様、アレクシア様」
「君、搬送の方は完了しているだろうな?」
「もちろんです。こちらがキーとなっておりますっ」
野暮ったい印象を受ける女性職員がキーをアダムに手に渡す。
「おい、タワースイートじゃないのか? あそこが一番眺めが良いと言っておいただろう」
「も、申し訳ございません。そちらは手続きの際に予約済みで……」
「何? 構うものか。もっと金をチラつかせれば──」
「大丈夫ですよ。どうせ景観なんて気にしませんから」
アダムの気遣いにホッとする女性職員。
が、今度はなぜかもじもじと落ち着かない様子を見せ始めた。
「? えっと、どうしました?」
「実は‥…できればでいいのですが、アダム様と握手がしたくて」
「おいおい、君ねぇ──」
「いえ、僕ならいいですよ」
握手だけとは言わず、もっと濃厚なことだって大歓迎だが。
女性職員はアダムの手を両手で握り、感極まったように頬を紅潮させる。そのまま小躍りしそうな勢いだ。
「あ、あのっ! 写真もいいですか!?」
「えーっと、一枚だけで良ければ」
所長も呆れた顔をしている。
微笑ましい光景だが、裏で人体実験を繰り返している組織の一員なのを忘れてはいけない。末端らしい彼女は関わっていないかもしれないが。
「…………」
そんなやり取りをしていて業を煮やしたのか、おもむろにアレクシアがアダムからキーを掠め取る。
「あっ、アレクシア──」
「私、先に部屋に行ってるわ」
心なしか、彼女は少し不機嫌な様子でエレベーターに乗って行ってしまった。「アレクシア様、お待ちを!」と、彼女のボディガード達が追いかけるが間に合わず、閉め出されてしまう。
しまった! アレクシアが目的の旅行のはずなのに、他の女性に目移りするなんて。
「すみませんっ、失礼します!」
「あぁっ、写真……ぅぅ」
何だか追い縋るような声が後ろから聞こえたが、アダムは構わずボディガード達と共に階段を駆け上がる。エレベーターを使わないのは、そちらの方が早いからだ。
そして、目的の階まで上がり切った瞬間──
──ガシャッ!
と、何か硬い物が落ちた音がアダムの耳に届いた。
「アレクシア!?」
慌てて音のした方の廊下へと足を向ける。
目に映ったのは、絨毯の敷かれた床に手を突いたアレクシアと、彼女を見下ろすサングラスをかけた褐色の肌をした男。すぐ近くには蓋が外れた虫籠が転がっており、中の土などが丸ごと零れていた。
「アレクシア! 大丈夫!?」
アダムはボディガード達を置いていく速度で駆け寄り、壊れ物を扱うようにしてアレクシアを安否を確認する。
特に怪我はしていないようだが、彼女は虚ろな様子で零れた土に目を落としていた。
「……ッチ、いつからこのホテルは子供の遊び場になったんだ?」
サングラスの男は舌打ちをし、隣に控えている部下らしき人物に苛立ち混じりの声でそう尋ねる。
そこへ、ボディガード達計四人が一斉に銃を構えてやってきたため、件の男の部下も銃を懐から取り出してお互いに銃口を向け合う。
「これはこれは、随分と物騒だな」
数の差があるにも関わらず、余裕げな態度で応対するサングラスの男。
遅れて、所長が息を荒げながらやってくる。そして、男の顔を見るや否や、「お、お前──いや、貴方は……!」と驚いた声を上げた。
アダムは男の正体を予測する。あの所長が自分達以外に下手に出るような相手は、恐らく例の聖なる蛇達とかいう犯罪組織。そのボスである麻薬王の──
「……ハヴィエ・ヒダルゴ?」
男はアダムの呟きが聞こえなかったのか、所長の方を向いたまま友人にでも会ったかのような笑みを浮かべて口を開く。
「誰かと思えば、所長さんじゃないか。ということは……なるほど。この銀髪のお坊ちゃんが例のアンブレラ御曹司か。で、私にぶつかってきたのがアシュフォード家のお嬢様というわけだな」
「も、申し訳ない、ハヴィエ殿。何分まだ子供なもので……おい、銃を下げろ」
やはり例の麻薬王だったようだ。所長は卑屈な顔でハヴィエに対応し、ボディガード達に銃を下ろさせる。
いくら地域一帯を実効支配しているとはいえ、こうも顔色を伺うような態度で接すれば舐められても仕方ない。今までろくに研究所に予算が回らなかったのは、この所長が原因の一端を担っているのだろう。
「いや、こちらこそ気づけなくて悪かった。何せ視界に入らなかったものでね。さあ、お嬢様。立てるかな?」
わざとらしい丁重さで膝を突いているアレクシアに手を差し伸べるハヴィエ。
「…………」
しかし、アレクシアは彼の手を無視し、長い金髪の隙間から覗く感情の色が見えない目で彼を凝視する。彼女の背中を守るように抱いているアダムも、鮮紅に染まった瞳で彼を睨みつけた。
「──ッ!」
凍えるような瞳と未知の恐怖を呼び起こす瞳に射抜かれ、ハヴィエは弾かれるようにして差し伸べていた手を戻し、銃を忍ばせているジャケットの内側へと入れる。
その動作に反応して、アダムらのボディガード達も再び銃口を彼に向けた。
自身の犯罪組織に所属する者でさえできないような冷酷に満ちた瞳。
どちらも子供ゆえに素人では判別し辛い。だが、犯罪組織のボスであるハヴィエだからこそ、それを感じることができた。
(……な、何なんだ。このガキ共は)
無意識の内に懐に手を入れてしまったハヴィエは、それをさせた目の前の子供達に困惑の色を隠せない。
所長一人があたふたと慌てている中、緊迫した空気が辺りに張り詰める。
「──あなた? 何してるの?」
ふいに、場違いなほどに穏やかで柔らかな声が水を差した。
全員が一斉にその声のした方へと振り向く。そこには、ダークブラウンの長髪をした美麗な女性が立っていた。
まだ若い、二十を過ぎたばかりだろうか。もしかするとその手前かもしれない。いずれにしても、三十半ばと思われるハヴィエとは年の差があるのは明らか。
腰下まで伸びたボリュームのある髪は毛先を民族風の髪飾りで四本に束ねており、真っ白なワンピースが褐色の肌を目立たせると共に清潔感を漂わせている。
加えて、特徴的なぷっくりと膨らんだ珊瑚色の唇が彼女の魅力を引き立てていた。
そんな優艶な女性の身体で最も目につくのは、その張りのある乳房の下でふっくらと丸く盛り上がったお腹。誰が見ても分かる。彼女は妊婦だ。
醸し出る母性と女性の神秘。
アダムは初めて見る妊婦の姿に、アレクシアを抱きながらも思わず目を奪われてしまう。
「何か、あったの?」
物騒な雰囲気を察してか、不安そうな表情を浮かべる女性。
「ヒルダ、どうしてここに! 部屋で安静にしていろと言っただろう!」
ハヴィエが血相を変えた様子でヒルダという名らしい女性に駆け寄る。どうやら彼の奥さんらしい。
「ちょっと、気になって……それより、どうしたの?」
「いや、ちょっと子供とぶつかっただけだ」
「えっ……!」
話を聞いて口元に手を当てるヒルダ。
彼女は座り込んでいるアレクシアとアダムに歩み寄ると、膨らんだお腹に気をつけながらゆっくりと床に正座し、労るように声をかけた。
「大丈夫? 怪我は? ごめんなさい。夫が迷惑かけて」
「ヒルダ、お腹の子に障るから止めるんだ!」
「でも……」
「それにぶつかってきたのは……ああ、くそっ」
ハヴィエは埒が明かないとかぶりを振る。
しょせん、ただの子供だ。何も警戒する必要などない。苛立ちを無理やり捨てて、アダム達に向き直る。
「お前達、悪かったな。さあヒルダ、立つんだ。部屋に戻って安静にしてなさい。いいか? もう絶対に部屋から出ようとするんじゃないぞ」
「はい。二人共、本当にごめんね」
ヒルダは立ち上がると、ハヴィエに肩を抱かれて廊下を去っていった。彼の部下はボディガード達に睨みを利かせてからその後に続く。
「……ア、アレクシア様。大丈夫ですか? 全くあの野蛮な者達は──」
所長が何か言っているか、もはや誰も彼の言葉など聞いていない。
立ち去るハヴィエ達を見届けたアダムは、アレクシアを助け起こそうとして気づく。
虫籠から零れた土にまみれて、潰れて死んだ蟻に。恐らく、ぶつかった際にハヴィエに踏み潰されてしまったのだろう。
せっかくわざわざ現地まで行って採取してきたというのに。
もっとも、徒歩で移動中アレクシアはほとんどアダムにおんぶされていて、さほど歩いていないが。
「アレクシア……」
アダムの手を借りて立ち上がった彼女は、ハヴィエ達が向かった廊下の先を眉間に皺を寄せて忌々しげに睨んでいる。
「……アダム」
「何だい?」
ぽつりと口を開いたアレクシアの瞳は、明確な表情を見せていた。
氷点下の怒りをたたえて。
☣ ☣ ☣
「どうぞ。遠慮しないで、上がって」
「お邪魔します」
夕飯を食べ終わって、日が落ちかけた頃合い。
アダムとアレクシアはハヴィエの妻──ヒルダのもとへ遊びに来ていた。
彼女は妊娠中のため、療養目的でこのホテルを利用しているらしい。もちろん、ハヴィエの意向だ。
「ほら、見て。綺麗でしょ?」
「わー! ホントだ!」
泊まっている部屋は所長が言っていたタワースイートで、窓からは熱帯雨林に流れる広大なアマゾン川が夕焼けの明かりを帯びて幻想的な景色を生み出していた。
「アレクシアも、こっち。一緒に見ない?」
「…………ワー、キレー」
ヒルダに誘われて渋々窓を覗いたアレクシア。
凄まじいまでの棒読みだ。アダムの苦笑いが夕焼け色の窓に映る。
二人はハヴィエが組織の都合か何かでホテルから離れていることを確認して、ヒルダの部屋を訪ねた。タワースイートがどんな部屋か見たいと話したら、彼女は快く、簡単に受け入れてくれたのだ。
そんなお人好しなヒルダはアレクシアの態度にも気づいていないのか、ニコニコと柔和な笑みを浮かべている。
窓に映ったその笑みと大事そうに膨らんだお腹を支えている姿を見て、ドクンと胸を高鳴らせるアダム。
「嬉しい。私、あまり夫以外の人と話ができないから……」
ベッドに腰を降ろしながら声を弾ませるヒルダだが、その声色には少し悲しげな色が混ざっている。それでも、自身が後五ヶ月もすれば出産するからか、いち早く子供達と触れ合うことができたことに心から喜んでいるようだ。
塔に幽閉されたお姫様のような扱いを受けているところからして、夫のハヴィエは相当な過保護なのであろう。
「貴方達のことを聞いて、お話ししてみたいと思ってたの。とても頭が良くて、もう大学に通ってるって聞いたのだけど、本当?」
「はい。一応」
「すごい。私なんて学校にも通えなかったから、友達もいなくて」
言葉が少し拙い印象を受けていたが、どうやらそういった事情があるためらしい。
アダムとアレクシアは当然の如く主要各国の言語を扱えるようになっているが、この国は南米では珍しく公用語が英語。それを活かす機会はそこまで得られなかった。
「お腹の子には、絶対にそんな寂しい思い、させたくない」
愛しげに自身のお腹を見下ろして優しく撫でるヒルダ。
ジェシカもリサを身籠っていた時は、こんな風だったのだろうか。
母性に満ち溢れた慈母のようなその姿。けれども、母としても大人としても未だ拙さが垣間見える。
アダムはそんな彼女から、ジェシカとはまた違う魅力を感じていた。
無意識の内に、股間を大きくしていく。
「…………」
(……うっ)
そんな彼に、アレクシアから突き刺すような視線が注がれる。無言の圧力がアダムを襲った。
ここに来た理由は、もちろんタワースイートを満喫したかったからではなく、ヒルダと他愛もない世間話をしたかったからでもない。
──彼女を、犯しに来たのだ。
「……ねえ、ヒルダさん」
「なあに? あ、お腹、触ってみる?」
「え? あ、はい」
アダムらの企みも知らず、ヒルダはまるで自分の子供に向けるような慈愛に満ちた物腰で接する。蒸し暑さを打ち消すような陽の光に似た笑みに対して、アダムは思わず素の態度で返してしまった。
「じゃ、じゃあ……」
恐る恐るといった様子で彼女のお腹に触れてみる。少し硬い手触りと、確かな弾力。服越しだが、僅かに感じる暖かさ。
この大きなお腹の中には、本当に赤ちゃんが入っている。その事実を受けて、アダムは感動に打ち震えた。
自分がいつもしている行為で、女性は彼女のように妊娠するのだ。ジェシカも、リサも、アリーやローラ達も……そして、きっとアレクシアも。
だが、なぜか未だにその兆しは見えていない。スペンサーは問題ないと言っていたが、本当だろうか? ここに来て、焦燥感を覚え始めるアダム。
「…………」
横から睨みつけてくるアレクシア。
分かっている。分かっているよ。アダムはそう目で返し、絶対これジェシカに怒られる案件だと思いつつ口を開いた。
「……ヒルダさん。赤ちゃんって、どうやって作るの?」
知り尽くしていることをさも知らない風に装い、純粋な好奇心という仮面を被って問いかける。
さすがのヒルダもその質問に「えっ?」と声を零し、目を瞬かせた。頭の良いアダム達なら既に知っているのでないかと思いつつも、何と言っても相手は九歳。そういった知識は教えられていないのかもしれないと考え直す。
「え、えっと……あ、神様が、ね。愛し合ってる人達の間に、授けてくれるの」
彼女は今考えたであろう答えをたどたどしく返した。
残念ながら、そんな分かり切った誤魔化しはアダムやアレクシアのような天才児でなくとも──現実的な考えさえできれば──通用しない。
「まあ、子供だと思って誤魔化そうとするなんて」
アレクシアが非難めいた言葉を投げかける。予想以上の棘のある声色に、ヒルダはビクリと肩を震わせた。
「僕もアレクシアも、ちゃんとした知識が欲しいんだ。ヒルダさんはこうして赤ちゃんを作ってるんだから、本当のこと知ってるんでしょう?」
「あ、ぅ……」
責めるように言い寄るアダムにたじたじとなってしまったヒルダは、彼とアレクシアに目を配らせる。
仲睦まじいであろう二人が将来のことを考えて真剣に聞いていると考えたのだろう。戸惑いながら、そして恥ずかしそうに蚊の鳴くような声で答える。
「その……男の人の、ア、アソコと……女の人の、アソコを……く、くっつけて──」
「アソコじゃ分からないわ。男の人と女の人の、ナニを、くっつけるの?」
「うぅ……」
アレクシアに容赦なく問い詰められ、褐色肌の顔を真っ赤にさせる涙目のヒルダ。
その傍らでアダムは、こんなにも華奢で繊細な大人になり切れていない女性を孕ませたハヴィエに嫉妬心を抱く。
「あ、あの……男の人の、お、お、おちん、ぽを……」
「おちんぽを?」
口端を歪めて反復するアレクシア。
「お、女の人の、お、おまんちょに、入れて……」
「おまんちょ、に入れて?」
少し訛っているのは教育も受けられないような僻地出身だからだろうか。
ちょっと可愛く思いながらも続きを促すアダム。
「そ、それで、お互いが気持ち良くなって、赤ちゃんができるの」
が、そこで切られてしまった。
肝心な部分が抜けている。もちろんそれだけでも妊娠する可能性はゼロではないが。
「ふ~ん。じゃあ、アレクシア。やってみようか」
「ええ」
そう言い合って、何の躊躇もなく服を脱ぎ始めるアダムとアレクシア。
ヒルダは突然の子供達によるストリップショーに目を見開き、身重の身体であたふたとし始める。
「な、なっ、何、してるの!?」
「奥様に教わった通りのことを早速実践してみようかと。お互い教わったことはすぐにでも試してみたくなる性分でして」
アレクシアが純白の下着を脱ぎ捨て、アダムがズボンを脱いで大人相手でも見劣りしないペニスを露出し、お互いに全裸となって見つめ合う。
少女は少年のペニスに両手を添え、少年は少女のお尻を愛おしそうに撫でる。初めてのことを慣れた様子で始めようとしていた。
アダムのペニスの大きさに面食らいつつも、ヒルダは慌てて止めに入る。
「だ、駄目! 子供はしたらいけない!」
「「どうして?」」
「どうしてって……駄目なものは、駄目、だから……」
答えながらも、ヒルダは言い淀んでしまう。
彼女は自分でも学がないことを自覚している。そんな自分より頭が良い子達にさも当たり前かのように振る舞われたら、自身が間違っているのか? 思い違いをしているのか? と錯覚してしまいそうになる。
「僕達、貴方の旦那さんに大事なものを壊されて、楽しみをふいにされちゃったんだ」
「だからこうして別のことで楽しもうとしてるのに、今度は妻である貴方が止めるなんて……夫婦揃ってひどい人達」
「そんな……」
あんまりな言われ様だが、何も言い返せない。
生まれつきの小心者で、いつも自分に自身が持てず、誰に対しても強気に出れず、意見も出せず。ヒルダはそんな、誰かの庇護下でないとまともに生きていけない女性だ。
そも、この時代、南米では強制労働や人身売買が当たり前のように横行している。
家族を養うために働きに出た先で騙されたり、貧困を理由に自身の子供を売る者までいる中で、ハヴィエに見初められて一人だけ安全圏にいるという環境。それがヒルダの消極的な性質を悪化させたと言っても過言ではない。
人知れず罪悪感に近い後ろめたさを抱いていた彼女は、初めて直接糾弾されたことで、夫のしたことも、アダム達のしでかしも、全て自分のせいだと思い込み始める。
「……ご、ごめんなさい。ごめんなさいっ」
「謝るだけなら誰にだってできるわ。大人として、責任を取ってもらわないと」
「責、任……?」
「そう。僕とアレクシアがしちゃいけないなら──」
罪の意識に打ちひしがれるヒルダの膨らんだお腹の上に、アダムがその勃起したペニスの先をポンッと乗せた。
子供らしからぬ立派な男根。セックスをしたくて堪らないとばかりに我慢汁を漏らしている鈴口。
「ヒルダさんが、教えてよ」
ごくり、と誰のものか分からない喉を鳴らす音が響く。
深窓の若き人妻は、ゆっくりと首を縦に振った。
ヒルダは原作ではマヌエラが生まれてから数年後の1991年にt-ウィルスによって両生類のクリーチャーと化します(原作ではその姿でしか登場しません)。
今作ではただの褐色肌の若妻扱いになると思いますが。
また、原作と違ってマヌエラは六年早く生まれる形になるので、1991年時には十一歳、オペレーション・ハヴィエ時は二十二歳になっているはずです。
なんでそうしたかと言うと、まだアダムが小さい時分に他人の子供を孕んでいる人妻との行為を書きたかったからです。少し年齢が変わる程度で大した影響はありません。