BIOHAZARD sexual invasion 作:MIYOSHI
「パ、パパ……」
その頃、アレクサンダーが休憩のために少し席を外したところを見計らって、話しかける者が一人。
一見少女にも見えるが、短い金髪と体格や仕草から少年であることが伺える。どことなく、アレクシアを思わせるような顔立ちをしていた。
「ん? 何だ、アルフレッドか」
ネクタイを締め直していたアレクサンダーは、煩わしげに少年の方を振り返り、冷たい視線を送る。
「ここで何をしている? お前は部屋で大人しくしていろと言っただろう」
「だって……今日は、誕生日パーティでしょう?」
「そうだ。大学卒業祝いを兼ねた、アレクシアの誕生日パーティだ」
「でも、でも……僕の誕生日でもあるんだよ!?」
目元に涙を浮かべながら叫ぶように訴える少年。
少年の名前はアルフレッド。あのアレクシアの、双子の兄だ。
父親であるアレクサンダーが自ら進んでアルフレッドの存在を語ることは少ない。彼はアレクシアの出涸らしに過ぎない存在だからだ。
アルフレッドは学業の成績は並以上だったものの天才の域には入れず、メディアで注目されるのは妹のアレクシアのことばかり。父もそんな天才の妹ばかりを優先し、彼を厄介者とばかりに蚊帳の外に追いやっていた。
「……ああ。そうだったな。分かった。後で好きな物を買ってやるから、部屋に戻っていなさい」
「嫌だ! アレクシアは顔を出してないんでしょう? だったら、代わりに僕のことをお客さん達にもっと紹介してよ! 僕だってパパの──」
「アルフレッド!」
必死の訴えは、父親の怒鳴り声で打ち消されてしまう。
勇気を振り絞っていたアルフレッドの身体はビクリと跳ね、縮こまる。
「……お前に名前以外、紹介するところがあるとでも? そういうことはアレクシアのように優秀になってから言うものだ。これ以上私を困らせないでくれ」
それだけ言って、アレクサンダーは踵を返し、足取り荒く会場へと戻っていく。叱られて俯き、肩を震わせている息子のことなど気にもせず。
現在、アシュフォード家は天才児アレクシアの誕生によって急激に世間の注目と期待を集めている。しかも、その彼女が同じく注目の的となっているスペンサー家の御曹司と親しくしているあって、その傾向はますます高まりつつあった。
アレクシアがアダムと結婚すれば、スペンサー家からの援助を受けることによりアシュフォード家の存続は確固たるものとなるだろう。
必然的に次期当主は期待の持てないアルフレッドということになってしまうが、それはまだまだ先のこと。
もし彼がこのままでも、また改めて優秀な子を
「…………ッ!」
涙を散らして走り出したアルフレッドは、真っ直ぐにある場所へと向かう。
彼が唯一愛している存在。アレクシアのもとへ。
──アレクシア! アレクシア! アレクシア!
聡明で美しく、完璧な僕の妹。
彼女だけは僕の話を聞いてくれる。僕のことを見てくれる。
アルフレッドは盲目的にアレクシアのことを愛していた。この世でただ一人の、自身の片割れなのだから。
だが、この三年間彼女は大学に通うために別邸に移っていて、ろくに話もできていなかった。執事のスコットに我儘を言って訪ねに行っても、大学に入り浸っているのか不在にしているのがほとんど。
きっと、勉強に夢中になってるんだ。彼女は自分と違って優秀だから。
寂しいけれど、無理に邪魔して嫌われたくない。そう思ったアルフレッドは、今日の今日まで我慢してきた。
我慢のしすぎで、果ては精通。以来、彼女の裸を思い浮かべては本能に従って皮も剥けていないペニスを弄り続ける日々。
イケないことをしている自覚はあった。愛する妹を汚しているような自覚も。それでも、内なる欲求を抑えることはできず、慰めに持っていた彼女の写真も今ではカピカピした黄色いシミだらけ。もはや写真としての体を保っていない。
幼いために湧き上がるその欲求を理解できてはいないが、少なくとも、アレクシアを求めるゆえのものであることは分かっている。
そして、もうそれを我慢する必要はない。アレクシアなら、きっと僕を受け入れてくれる。僕のこの気持ちを。
彼は気づかない。アレクシアと話す時は、いつも自分から話しかけていることを。彼女から話しかけてきたことなど、一度もないということを。
気づかないまま、辿り着いた妹の部屋に入ろうとノブを握って回すが、開かない。鍵が閉まっているようだ。
──パンッ! パンッ! パンッ!
──あっ! あぅっ! あぁっ!
「……え?」
扉越しに何か聞こえてくる。
柔らかい物を叩くような音とギシギシと何かが軋む音。そして、短い悲鳴。
いや、悲鳴ではない。悦びが色濃くて、歓喜に満ちている。
十の歳になったばかりのアルフレッドでは理解し切れない。けれども、脳と、胸と、下半身をくすぐるような、少年の心を刺激して止まない不思議な声。
一体誰の声だろう? と考えたところで、思い出す。
自分は誰の部屋に入ろうとしていた? そう、大好きな妹の部屋だ。ならば、この声の主は──
ごくりと唾を飲み込んだ。
未だ股間に響く声が聞こえる中、膝を突き、そっと鍵穴から中を覗いてみる。
「──ふぁっ! は、ぁっ! あぁんっ!」
アルフレッドは飛び出んばかりに目を見開いた。
まず視界に飛び込んできたのは、夢にまで見た、最愛の妹──アレクシアの裸体。
一気にペニスが硬くなるのを感じながらも、すぐに彼女の様子がおかしいことを気づく。
扉の方を向いたその身体は、ベッドに横たわりながら左右に動いている。それに合わせて、アルフレッドと同じ黄金に輝く髪が波打ち、ほのかに膨らんだ乳房と硬く尖った乳首が揺らぐ。
何をしてる? まさか、アレクシアも僕を想って大事なところを弄っている? そう考えるも、彼女の右手はベッドに投げ出され、左手は大股に開かれた自身の左太腿に添えられている。
そのまま流れるように彼女の下半身の方に視線を移動させて、驚愕。
黒光りする巨根で、アレクシアの股間が貫かれていたのだ。後ろから彼女を抱いている浅黒い肌の少年と思われる人物に。
何をしているのかは知識がないアルフレッドには分からない。だが、身体が、心が、拒否反応を示しているのは確かだった。
誰だ? 後ろの男は誰だ?
青い瞳を血走らせ、アレクシアの後ろで腰を振っている輩に視線を巡らせるが、男は彼女の首筋に顔を埋めて舌を這わせているため、その顔がよく見えない。
「──あっ! あっ! ……もっと、もっと激しく、して……アダムぅッ!」
アダム。アレクシアは男のことをそう呼んだ。
アルフレッドは妹のこと以外は銃器や戦争映画といったミリタリー趣味──アレクシアを守りたいがために軍人を目指していた──に傾倒していたため、軍事関係に詳しいが世俗の情報には疎い。
そのため、アダムがアレクシアと共に大学へ飛び入学した少年だということを思い出すまでに、数秒の時間を要した。
離れ離れになっている間に、あんな悪い虫がついていたなんて!
歯軋りし、扉に爪を立てるアルフレッド。
いつも形ばかりの表情を顔に浮かべるだけで、その青い瞳は能面のままだったアレクシア。それがどうだ。今はあんなにも恍惚とした豊かな表情を見せている。
楽しそうに。気持ち良さそうに。とても、幸せそうに。まるで正の感情全てを表現したような瞳。
おかしい! 絶対におかしい!
世界一の天才であるアレクシアが、あんなちょっと頭が良いだけの奴と仲睦まじい関係になるわけがない!
(……ああ、そうだ。そうだよ)
あいつは悪い魔法使いなんだ。アレクシアは魔法で洗脳されているんだ。
だったら、救ってあげないと。王子様である僕が、王女様を救ってあげないと。
焦点の合っていない目を鍵穴から離したアルフレッドは、立ち上がる。
そして、夢遊病者のようなふらふらとした覚束ない足取りで自分の部屋へと向かうのだった。
「アレク、シアッ! イクッ! イクよッ!」
「全部! 全部、出して! 私、も────ッ!」
ビュルルルーーーッ!! ビュプッ! ピュルルゥーーー……!
愛する少女の膣内に──ではなく、射精の瞬間にペニスを引き抜いて、ベッドの傍の床に精子をぶち撒けるアダム。
射精された精液は、彼女への思いの丈を表すかのように凄まじい量であった。
「あ゛あっ! あぁっ……」
「はぁっ、はぁっ…………あら。中に出しても、良かったのに」
アレクシアは汗の垂れた額を拭いながら、そう呟く。役目を果たせずに干からびるだけのそれらを、とても名残惜しげに見つめながら。
「う、うん。ちょっとね……あ、別に中に出したくなかったわけじゃ──」
誤解を招いたかと思い、アダムは慌てて言い繕おうとする。が、アレクシアは身体を振り向かせ、そんな彼の唇に人差し指を当てた。
「クフッ。分かってるわ。貴方は私のことが大好き、だものね」
いつもの少し変わった声で笑みを浮かべ、初めて会った頃よりずっと表情豊かになった瞳を見せてくれる愛しいガールフレンド。
アダムは心中でほっと胸を撫で下ろし、どちらからともなく腕を伸ばしてお互いを抱き寄せ合い、脚を絡ませる。
アレクシアに自身の子を妊娠してもらいたい、孕ませたいという気持ちはもちろんある。
しかし、彼女は既にアンブレラへの就職が決まっている。そんな大事な時期に身重の状態にさせるのはさすがに憚られた。
第一、十歳児がアンブレラに所属するというだけでも前代未聞なのに、その娘がお腹まで膨らませていたら大問題になるのは避けられないだろう。
だからこそ、断腸の思いで外に出したのだ。
現状の願望を持ってして膣内に射精したら、本当に受精するかもしれないと思って。
それに、もう一つ理由が──
「勝ち点」
額を寄せ合っていると、ふいにアレクシアが口を開いた。
そういえばと、気づく。アダムは南米旅行以降、すっかりゲームのことを忘れていた。何せあれ以来、中出しし放題だったのだから。
「ごめん。数えてなかった。えっと……どっちが──」
「1978」
「君が?」
「私と貴方が」
驚くアダムを見て、クフフと小さく笑うアレクシア。
「つまり……同点ってこと?」
「ええ。前回で貴方が追いついて、今のは同時だったもの」
アレクシアはわざとらしく溜息を吐く。「最初は私が余裕で勝つと思ってたのに」と唇を尖らせているが、目尻は満更でもなさそうに下がっている。
「そういえば、引き分けの場合はどうするか決めてなかったね」
「私の物になりたいって言うなら、今からでも遅くないわよ?」
「それは────」
アダムが苦笑混じりに答えようとした、その時だった。
バンッ! という大きな音がすぐ近くで響き、部屋の錠前部分が砕け飛んだのだ。
「──アレクシアッ!!」
何事かと二人がベッドから上半身を起き上がらせると、何者かが扉を蹴破って二人の愛の巣に侵入してきた。金髪の少年だ。
端正な顔立ちをしたその少年の手には、レバーアクション式のライフル銃──マーリンM1895が握られている。大物狩猟を想定した.45-70弾仕様の物だ。
「お兄様?」
「え? アレクシア、お兄さんがいたのかい?」
「ええ。双子の、だけれど」
驚きながらも「何で教えてくれなかったの」と言うアダムに、「聞かれなかったもの」とどうでも良さげに答えるアレクシア。
「おい、お前! アレクシアから離れろ!」
二人の呑気な様子を見てか、ライフルを構えて苛立ちを乗せた怒声を放つ少年アルフレッド。ミリタリー好きとあって、その構え方は子供ながらに洗練されたものであった。
そんな兄に、アレクシアは面倒そうに眉をひそめて口を開く。
「アルフレッドお兄様。私、見ての通り忙しいの。今すぐ出ていってもらえます?」
「いや、アレクシア。彼は僕に用があるみたいだけど……」
「そうだ! お前っ、お前が! アレクシアを操ってるんだろう!?」
ライフルのスコープから顔を上げたアルフレッドが、興奮に唾を吐きかけながらそう叫んだ。
操ってる? アダムとアレクシアは何を言ってるんだとばかりに顔を見合わせる。
「操られてなんかいないわ。お兄様こそ、私が大学に行っている間に頭がどうかなさったのではなくて?」
「ああ、アレクシアにそんなひどい言葉を口にさせるなんて……! 待ってて。今すぐ、僕が助けてあげるからね!」
駄目だこれは。アレクシアは肩を竦める。
彼女はこんな様子だが、アダムとしては大切な人の家族はできれば大事にしたい。自分のことしか考えていない父親のアレクサンダーはともかく、彼は誤解はあれど妹を助けようとしているのだ。
さてどうしたものかと、頬を掻くアダム。
それをよそに、アレクシアは面白いことを思いついたというような顔をして、アダムの腕に自身の腕を絡める。そして、これ見よがしにギュッと密着してみせた。
「ア、ア、ア、アレクシアッ!?」
アルフレッドは予想通りの反応を示す。
鍵穴越しではない、すぐ目の前で愛する妹が悪者とくっついている姿を見て、動揺を隠せないでいる。
「紹介するわ、お兄様。彼はアダム。私のフィアンセよ」
「え」「えっ!?」
突然の爆弾発言を受けて、同時に声を上げる向かい合わせの少年二人。
アダムはどういうつもりかと視線を向けるが、彼女は黙ってなさいとばかりに絡めた腕をさらにきつく締める。
「結婚するのよ、私達」
「や、止めろ! 僕の……僕のアレクシアに、そんなこと言わせるな!」
声を荒げながらも、再びライフルを構えるアルフレッド。
「もうセックスもしたの。数え切れないほどね。お兄様知ってる? セックスって、恋人同士でおちんちんとおまんこを重ねる、とっても気持ちいい行為なのよ」
アルフレッドの脳裏に先ほどの光景が思い浮かぶ。
あれが、セックス。恋人同士でする行為。おちんちんと、おまんこ。
──アレクシアの、おまんこ!
興奮が頂点に達したアルフレッドは、おもむろに自身のズボンをブリーフごと脱ぎ捨てた。
「アレクシア! それなら、僕とセックスしよう! そんな奴よりも、気持ち良くしてみせるから!」
大見得を切ってみせたその下半身に、アレクシアは目を向けてみる。
その股間には、勃起した立派なペニス──ではなく、ぴくぴくと震える小指ほどの大きさの物。
「……………」
フッ、と。鼻で笑うアレクシア。
次いで肌掛けを退け、隠れていたアダムのペニスをさらけ出す。ガールフレンドに密着されて半勃起状態になっている彼の物は、それでもアルフレッドの爪楊枝とは比べ物にならないほどに見事なペニスだ。
アレクシアはそれをこれでもかと兄に見せつけた。
お前はいらない。そう言外に訴えているかのように。
「ア……ア……アレ、クシア……違う。君は、そいつに操られて……」
「お兄様」
アルフレッドは見た。
自身と同じ青い瞳。表情豊かになったその瞳で、蔑むような視線を送る最愛の妹を。
「消えて」
一言、そう告げるアレクシア。
そのままアダムの顔に自身の顔を近づけ、唇を重ねる。アダムはアルフレッドを気にしつつも、恋人からのキスを受け入れ、舌を絡め合った。
──嘘だ。こんなの……嘘だ。
水気に満ちた淫らなリップ音が耳を打つ中、アルフレッドは瞳を震わせる。
アレクシアが自分のことを心中で見下していたことは薄々分かっていた。でも、それは彼女が悪いわけではない。彼女のように天才ではなく、要領の良くない自分が悪いのだと自省していた。
だが、それでも、自分達は双子だ。共に生まれ、共に育ってきたのだ。
既に父から育児放棄も同然の扱いを受けているアルフレッドには、片割れであるアレクシアだけが心の支え。
その彼女にまで見放されたら、一体何が残る? 何も……
揺れる視界の中、アレクシアとのキスに夢中になっている憎き少年に焦点が移る。
力なくぶら下げていたライフル銃を、ゆっくりと構え直した。
そうだ。悪い魔法使い。
こいつが、こいつさえいなくなれば…………ッ!
「──わあああああぁぁーーッ!!」
バァンッ! と、鳴り響く銃声。
銃口から煙と共に放たれる、本来大物の獣を討ち取るための45口径の強装弾。
それは淫猥に満ちた空気を切り裂き、アダムへ向けて吸い込まれるように飛んでいった。
「え」
衝撃と共に血化粧にまみれるアレクシアの綺麗な顔。
同時に目の前のアダムが吹っ飛び、ベッドへ仰向けに倒れ込んだ。
数秒遅れて、アレクシアは錆びた機械のようにぎこちない動きで振り向く。
目に映ったのは、左胸に穴を空け、瞼を見開いてピクリとも動かないアダムの姿だった。
「…………アダム?」
呆然とした表情のまま、わなわなと震える手を彼の頬に添える。
彼は何の反応も示さない。血を垂れ流している唇はいつも聞き流していた歯の浮くような愛の言葉を口にせず、瞳孔の開いている目からはいつも感じていたいやらしい視線も感じない。
いつからだろうか。それらが心地良く感じるようになったのは。
自分以外は下賎な存在としか見ておらず、彼のことだって最初の頃は性行為の実験相手としか思っていなかったはずなのに。
彼とは二度と会話を交わせないの? 一緒に研究も、実験もできないの?
もう、愛し合えないの?
「は、はは……ははははっ! やった! やったよ!」
アルフレッドは反動で倒れたのか、尻もちを突いた状態で喜び勇んでいる。
そんな彼のもとへ、ベッドから降りたアレクシアが、全裸のままゆっくりとした足取りで近づく。
「アレクシア! 良かった、元に戻ったんだね! もう大丈──」
瞬間、アルフレッドの目の前から彼女の姿が消えた。
……いや、違う。アルフレッドの方が背中から床へ倒れて、天井に顔を向けたのだ。
遅れて前頭部が熱くなり、激痛を訴え始める。
明滅する視界の中でそこを触れてみると、ぬめりとした感触。垂れてきたものが口の中に入り、唾液に混じって鉄の味が広がる。血だ。
「ア……アレ、クシア?」
生まれて初めてとも言えるほどの出血に動揺しながらも、首を持ち上げるアルフレッド。
目の前には、正気に戻ったはずのアレクシア。見下ろすその瞳は何の感情も映さず、凍りつきかねないほどに冷たい。
アレクシアが右腕を持ち上げる。その手に握られているのは、いつもチョーカーにつけている赤い宝石。
アシュフォード家正当後継者の証であるその石を、ポタポタと赤黒い雫が滴り落ちているそれを、彼女は思いっ切り兄に向けて振り下ろす。
「アレ──ガッ」 殴る。
「痛゛っ、痛い、よ」 殴る。殴る。
「やめ、やめ、てっ」 殴る。殴る。殴る。
「──ッ────ッ」 殴る。殴る。殴る。殴る。
容赦なく、自身の片割れを無言で殴り続けるアレクシア。
アルフレッドの顔はもはや原型を留めていない。端正な美少年の顔は血だらけで見るも無残に腫れ上がり、前歯も形の良い鼻も折れてしまっていた。
「……………」
気絶してしまった兄を見下ろしていると、傍らに落ちている彼のライフル銃が目に入る。
アレクシアは血の塊となった宝石を無造作に投げ捨て、代わりにその銃を拾う。
最初から邪魔でしょうがなかった。こいつが鬱陶しくて、離れたくて、自ら大学への飛び入学を決めた節もある。
血の繋がり? そんな物あったとて何の関係もない。むしろ、あることすら虫酸が走る。
そうだ。邪魔なら殺してしまえばいい。こいつがアダムにしたように。
「……アダム」
脳裏に撃ち殺されたボーイフレンドの姿が思い浮かぶ。
頬に冷たい何か伝う感触を感じながら、アレクシアはレバーを動かす。そして、アルフレッドの心臓に向けて、ゆっくりと銃口を突きつけた。
────シア
「……え?」
ふいに、自身を呼ぶ声が聞こえた気がして、顔を上げる。
聞き間違うはずがない。この三年間、聞かなかった日などほとんどないのだから。
弾かれるように振り返ると、視線の先で──
「……アレ、クシア」
心臓を撃たれて死んだはずのアダムが、上半身を起こしていたのだ。
「アダム!」
銃を放り捨て、飛びつく勢いで抱きつくアレクシア。
密着したその胸越しに、彼の心臓の鼓動が確かに感じ取れる。
「アレクシア……泣いてるの?」
「そんなの、どうでもいいわ。どうでもいいの……」
こんなにも喜ばしいことがあるだろうか。
失う悲しみを知ったアレクシアは、それを覆せたことに歓喜した。もう、彼以外何もいらないと思えるほどに。
(でも、どうして……?)
そんな中でも、知的好奇心溢れる彼女の脳は、このあり得ない現象の正体を知りたいという欲求に駆られる。アダムは確かに心臓を撃たれた。呼吸も止まり、瞳孔も開いて、どう足掻いでも即死のはずだったのだ。
しかし、撃たれたはずの左胸の銃創はなくなっている。いや、正確にはほぼ治っていると言うべきか。よく見れば、銃創があったであろう箇所には修復途中と思われる跡が残っていた。ベッドのシーツには、体内から押し出されたであろう潰れ砕けた弾丸も散らばっている。
そもそも、至近距離から大口径の銃弾を受けて、貫通しなかったのはおろか、あんな穴だけで済んだ事自体がおかしいのだ。
アルフレッドの狐狩りに付き合わされた際、彼は拘束した狐を例のライフルで間近から何度も撃ってみせ、それはもう酷い有様──アレクシアもちゃっかり楽しんでいたが──にしていたのだから。
「……貴方には、何か秘密があるのね?」
「……うん」
彼はポツリポツリと語り出した。
自身が始祖というウィルスを用いて生み出されたデザイナーベビーであること。生まれながらに始祖に完全適合したこの身体は、類まれない知能と強靭な肉体を秘めているのだと。
「まあ、撃たれるのなんて初めてだから。さっきのは本当に死んだと思ったけどね。他にもまだ分かってないことがあるかもしれない」
「宿主の遺伝子を組み替えて強化するウィルス……素晴らしいわ」
アレクシアは話を聞いている間に完全に傷跡が消えてなくなったアダムの肌を撫で、陶然とした表情でそう口にする。
特にこの死滅した細胞も再生させる能力。理論的には、恐らく老化さえも克服しているはずだ。
(……でも、つまりそれは)
導き出した予想図を前にして、アレクシアは顔を伏せた。
「アレクシア。僕、アルフレッドのことは気にしてな──……アレクシア?」
暗闇の中、取り残されるような感覚。
不安と悲しみに駆られ、震える手で無意識の内にアダムの手を握る。
「……アダム」
だが、俯かせていた顔を上げた彼女の青い瞳は、決意の意思を露わにしていた。
「愛してるわ」
初めてのアレクシアからの愛の言葉。
アダムは目を見開いたのち、すぐに柔らかに微笑む。
「僕も、愛してるよ」
テーブルランプの暖かみある黄色い灯りに照らされた二人の影が重なる。
その影は、しばらく一つになって離れることはなかった。
※注 アダムとアレクシアはまだ十歳です。
アルフレッドは原作でMR7というマーリン社の物がモデルであろうライフルを使ってますが、この時代はまだ製造されていないようなので、M1895で代用しました。
作者は銃に全く詳しくないのですが、調べたところ.45-70弾は一番威力の高い種類なら.22LR弾の30倍以上の威力があるみたいなので、多分強いんですよね? 間違ってる部分とかあったらすみません。
可哀想な目に合ったアルフレッドも、一応救われる予定ではあります。