※この作品はR-18です。

BIOHAZARD sexual invasion   作:MIYOSHI

30 / 31
 


Ep: Donna 1(1982)

「アダム様ぁ、大丈夫? なんだかぼーっとしてたけど」

「ありがとう。心配ないよ」

 

 例の花畑を離れたアダムとダニエラ。二人はそのまま正面にあったエレベータを使って地下を移動し、洞窟から崖棚へと出る。

 

「ここが……」

 

 そして、ついに辿り着いた。

 絶壁から轟き落ちる滝。それを背にして、細かな水飛沫と濃霧に包まれた屋敷。

 

 ──ベネヴィエント邸。

 

 白布を纏ったようなその美しくも儚いその佇まいを見て、アダムは滝の音が響く中でもどこか閑靜な印象を受けた。

 

「やだぁ、犬小屋みたいな陰気なお家。でも、私とアダム様の別荘ってことなら悪くないかも」

「こら。そんなこと言ったら駄目だよ、ダニエラ」

 

 ダニエラを窘めながら、屋敷に歩み寄るアダム。

 玄関の扉にはドアノッカーもなければ、呼び鈴も見当たらない。仕方なく、彼は目の前のノブに手をかけてみる。鍵が掛かっていなかったらしく、扉はガチャリと音を立てて内装を覗かせた。

 

「お邪魔しまぁす」

 

 注意深く足を踏み入れるアダムの横で、無遠慮にズカズカと入り込んで玄関ホールを物色し始めるダニエラ。

 

「ふぅん、結構綺麗にされてるじゃない」

「…………」

 

 姑にでもなったつもりなのか、丸テーブルに指を滑らせて埃の有無を確認する彼女。それを尻目に、アダムは吹き抜けの階段に飾られた肖像画に視線を向ける。

 

 黒髪の綺麗な顔をした女性と、ウェディングドレスを纏った人形。ドナとアンジーだ。

 どういうわけか、アダムには並んで描かれているその二人の姿が重なって見えるような気がした。

 

 そうして肖像画に見入っている彼に、勝手に動き回っていたダニエラが声をかける。

 

「ご主人様、地下に続くエレベーターを見つけたわぁ」

「地下? そうか、じゃあ二手に別れて彼女を探そう。僕が地下へ行くから、ダニエラは二階を──」

「あん、駄目よぉ。私が地下に行くわ。こんな陰気臭い所、何があるか分からないんだから」

「でも……」

 

 偵察を買って出る彼女にアダムは渋り、頷いて返すことができない。

 いくら斥候として連れてきたといっても、ジェシカという最愛の人を失ったのもあって、大事な存在をわざわざ危険な場所へ向かわせる気にはなれなかった。

 

「それなら、いっそ二人で──」

「もう、心配性なんだからぁ。大丈夫よ。その代わり、ベネヴィエントを見つけたらご褒美、ちょうだいね?」

 

 ダニエラはウィンクしながらアダムに投げキッスを贈り、扉の先にあるエレベーターで地下へと向かってしまった。

 しょうがないとばかりに溜息を吐く。見たところ二階の部屋数は少ない。さっさと調べ終えて、彼女と合流しよう。

 

 そう決めたアダムは足早に階段で二階へと昇り、ゲストルームと思われる部屋などを調べる。だが、案の定ドナの姿は見当たらなかった。

 

「……これは」

 

 一つだけ。部屋のベッドの上に気になるものが転がっていた。

 アダムにとっては見慣れた物。自身とも相棒とも言える存在。そう、ディルドだ。

 

 それは木彫りでできているにも関わらず完成度が高く、色を塗れば本物と見紛うほどの出来であった。相応に使い込まれているようで、つんと来るような匂いが染みついている。

 ドナの愛用品だろうか? そう思いつつ香りを堪能したアダムは再び探索を再開する。

 

 その後、一応隠し通路などがないかと仕掛けを探してもみたが、所々人形が飾られているだけで収穫はなし。

 

 ならばと、急いで階段を降りてエレベーターへと走る。

 元々手動だったであろう蛇腹式の扉をボタンを押して開き、ダニエラと合流するべく地下へと向かった。

 

 ガタガタと揺れながら低速で動くエレベーターに焦燥感を覚えるアダム。

 チンッという音と共に再び開いた扉から一秒でも早くという思いで飛び出し、辺りを見回して口を開いた。

 

「ダニエラ! どこ!?」

 

 呼びかけるが、返答はない。

 壁に塗装剥げやカビが目立つ廊下。どこまで行っても、不気味なほどの静けさに自身の足音が響くだけ。

 

 いや、僅かにだが、聞こえてきた。喘ぐような女性の声が。

 

「……ダニエラ?」

 

 声のもとへ向かうべく、奥へと足を進める。

 どんどん大きくなっていく声と共に、視線の先に見えてくる両開きの扉。警戒心を抱きながら、アダムはゆっくりとその扉を開いた。

 

 

 

「──ぁ……あぁ! んあ゛あぁぁんッ!!」

 

 

 

 部屋の中央にある作業机。

 その上に仰向けになった全裸のダニエラが、海老反りになって盛大に喜悦の声を漏らしていた。

 プシュッ! プシュッ! と秘部から潮が噴き出し、床に雨となってばら撒かれる。

 

「一体、何が……」

 

 誰かに襲われているわけではない。

 彼女の周りには誰もおらず、ただ一人自慰をせずとも机の上で快感に身体を波打たせていた。

 

「はあぁ、ああ……ご主人、様ぁ……! もっと、もっと……私だけに夢中になってぇ……!」

 

 そう歓喜に満ちた声を漏らして涎を垂らすダニエラ。その瞳は焦点が合っていない。

 どうやら、彼女は頭の中で妄想のアダムと激しく愛し合っているようだ。

 

 原因は分からないが、とにかくダニエラを正気に戻さなければ。そう考え、アダムは彼女にもとへ走り寄ろうとする。

 

 だが──

 

「!?」

 

 掻き消えるように、一瞬にして彼女の姿が目の前の机から消えてしまった。

 蝿に変異したわけではないだろう。部屋中に響いていた喘ぎ声も、停止ボタンを押されたかのようにぷつんと断ち切れる。

 

 

 ──ヒヒッ、キャハハハッ!

 

 

 瞠目するアダムの耳に、ダニエラの喘ぎ声と入れ替わるようにして甲高い笑い声が背後から届く。

 弾かれるようにして振り返ると、そこにはウェディングドレスの人形──アンジーが目と鼻の先にいた。

 

「ッ、ドナ!」

「キヒッ、何言ってるの? 私はドナじゃなくてアンジーよ。あなたをずっと待ってたの」

 

 カタカタと口を鳴らし、宙を舞って薄汚れたドレスの裾を翻すアンジー。

 あくまで違う存在だと言いたいらしい。アダムはそんな彼女を睨みつける。

 

「……ダニエラをどこへやったの?」

「知りたい? じゃあ、かくれんぼしましょう! アンジーをいっぱい楽しませて! もちろん、ご立派な角が生えたあなたが鬼だからねぇ!」

 

 答えを言わず、アンジーは喜々とした笑声を響かせながらくるりと反転し、アダムが来た道を戻る形で廊下を飛び去って角を曲がってしまう。

 

「ま、待って!」

 

 アダムはすぐさま駆け出し、アンジーを追いかける。

 最中、始祖の力を使う気にはなれず。むしろ、使えないという意識がなぜだか湧き上がる。そのため、後を追う形で角を曲がった時には既に彼女の姿はどこにもなかった。

 

「……くっ」

 

 再び廊下を走り、エレベーターで一階へと戻ろうとする。

 が、エレベータの前まで来て気づく。廊下の途中に壁の色と同じ白い扉があったことを。

 

 壁を突いて飛び跳ねるようにして廊下に戻り、件の扉を開け放つ。

 物置だろうか? 扉を潜った先の部屋は、並んだ棚に人形作りの道具や資材などが積まれていた。

 

 棚の壁に挟まれる形で、奥へと進む。奥にあったのは、埃の溜まった机とその上に積み重なった資材箱だけ。

 ふと気配を感じたアダムは机の向こうを覗き見てみる。案の定、そこには陰に隠れる形でアンジーが床に座り込んでいた。

 

「見つけた!」

 

 駆け寄り、アンジーを両手で引っ掴んで掲げるアダム。

 首を下げて力なく足を広げていた彼女は、それと同時に打って変わって激しく動き始めた。

 

「キャハハハッ! 見つかっちゃったぁ!」

「さあ、ダニエラの居場所を教えろ!」

「ダーメ! 言ったでしょう? アンジーのこと、いっぱい楽しませてくれなくちゃ!」

 

 そう返したアンジーはアダムの手を振り解き、再び宙を飛んで何処かへと行こうとする。

 また隠れるつもりだろうか? そうはいかない! アダムは素早くベルトを外し、再び手を伸ばした。

 

「きゃっ!」

 

 背を向けた小さな身体を鷲掴み、引き寄せる。

 そして、間髪入れず彼女のドレスを捲り上げ、ドロワーズを脱がす。続けて、まろび出した一物を露わになった目の前の一本筋に突き出した!

 

 

「 あ゛あああぁぁーーッ!! 」

 

 

 喜色の混ざった悲鳴を上げるアンジー。

 球体関節の人形である彼女の秘所は、不思議なことに生身の女性と全く遜色がなかった。廃教会で襲った時には筋の形があるだけだったにも関わらず。

 

 胴体部分の中身がほとんど膣でできているのか、アダムの巨大な剛直を根本までとはいかないがその大半をずっぽりと受け入れている。

 その肌はまるで人間のように柔らかく揺れ、ズパァンッと肉打ち音がよく響いた。

 

 ズルッと男根が膣から引き抜かれ、股間と股間の間に透明な汁の橋が作られる。彼女は宙をよろめきながら、下手人であるアダムをかっ開いた丸い瞳で睨んだ。

 

「んぅ、あぁ……! い、いきなりなんてひどぉい。はぁ、はぁ……レディの扱いが、なってないって、言わなかったかしら?」

「そうだね。でも、粗相を犯すようなお転婆レディにはお仕置きも必要だよ」

「~~ッ!」

  

 アンジーは憤慨した様子を見せながらもいそいそと乱れたドレスを直し、再び宙を飛翔して物置部屋を飛び出していった。

 彼女の顔がどこか高揚したように見えたのは決して気のせいではないし、光の加減によるものでもないだろう。

 

 ズボンを脱ぎ捨てたアダムは下半身を晒し、先走り汁を垂らしながら部屋から出ていったアンジーを追いかける。

 左右に伸びる廊下を見渡すが、やはり既に彼女の姿は見えない。

 

「────」

 

 今度は神経を集中させて特異菌の気配を感じ取り、迷いなく左──エレベーターのある方へと向かう。そのままエレベーターには乗らず、向かって右手にある扉を開く。

 その部屋には本棚が壁に並んでいた。恐らくは書斎だろう。

 

「……そこだな」

 

 アダムは本が積み重なった机の傍を通り過ぎて、部屋の隅へ。一直線に歩き進み、棚と壁の隙間──帽子掛けの裏に隠れていたアンジーを拾い上げる。

 そして、彼女が何か言う前に再度ドロワーズを引きずり降ろし、熱り立った屹立で突き上げた!

 

 

「 ぁ、んあ゛あぁぁーーぅッ!! 」

 

 

 甲高い嬌声を上げるアンジー。そのままアダムはオナホを扱うように、けれども優しさを込めて彼女の身体を上下に動かす。

 ずりゅッ! ずりゅッ! ずちゅッ! と数回突き上げたホールからずぬりとペニスを抜くと、彼女はバタリと重力に従って床に倒れた。

 

「は、ぁ゛……ほ、ホントに、お猿さん、なんだから。自分の娘にもこんなことするつもりなのぉ?」

「もちろん、あの子がそれを望むならね。家族なら尚更、沢山愛してあげないと」

 

 アンジーは息を荒げながらも、ふらふらと弱った虫のように浮かび上がる。

 "家族"という単語に、ピクリと反応したように見えた。

 

「フッ、フフ……そう。そんなにエッチなことが好きなんだぁ」

 

 それでも、笑みを零しながら。

 しなだれかかるようにしてアダムの首に棒切れのような細腕を絡める。

 

 

 

「──それじゃあ、貴方の望む世界を与えてあげる」

 

  

 

 その言葉と共に、唇に柔らかい感触。

 刹那、アダムの眼前にいたはずのアンジーが忽然とその姿を消した。まるで先のダニエラのように。

 

 続けて、カタリと乾いた音が書斎に響く。

 音のした方を振り向くと、並んだ本棚の前にスクリーンらしき白い幕が下ろされていた。

 

 アダムは首を傾げながらもその幕に近づいてみる。すると、正面にある机に置かれた映写機が独りでに動き出してスクリーンに何かの映像を映し始めた。

 

(僕に……何か見せたいのか?)

 

 興味を惹かれるアダム。アンジーの気配はまだ掴み取れていないため、大人しくカラカラと音を立てて映し出される映像に目を向ける。

 

 次々とスクリーンに浮かび上がる、見目麗しい女体の数々。

 身体を見るだけで分かった。その主は、愛して止まない自身の恋人達の肢体だ。

 

 ダニエラ、カサンドラ、ベイラ、オルチーナ。イングリドを始めとしたドミトレスク城の使用人。加えて、学生時代のアドバイザーや大学の教授。ご近所の女性達や人妻達で構成された私邸のメイド達。

 映像の中の裸体は踊り続ける。ローラ、フェリシア、ヨナ、イルマ。それにアリーといったウェスカーチルドレン。未だ南米の地で娘マヌエラと共にアダムのことを想い続けているヒルダ。

 

 そして、アレクシア。ガールフレンドの幼い裸。四つん這いになった彼女は、アダムが毎日のように追いかけ回していたお尻を向け、その綺麗な亀裂をこれでもかと広げて見せた。

 彼女と入れ替わる形で現れるリサ。少し気恥ずかしそうにしながらもスレンダーな美しい身体を晒し、その場に腰を降ろしてM字開脚。映像を見るアダムに対し、精一杯アピールしている。

 

(……ああ)

 

 最後は、予想通り。最愛の人、リサの母親──ジェシカだ。

 母性溢れる肉感的な身体。柔和に満ちた、まさに女体の中の女体。聖母たる姿がそこにあった。

 

 思わず、アダムは彼女に向けて手を伸ばしかける。

 

(……違う) 

 

 しかし、アダムはその誘惑を振り切り、腕を下ろした。

 

「今、僕が会いたいのは……君だよ。ドナ」

 

 その呟きと共に、映像がピタリと停止する。

 続けてフィルムが自動的に巻き戻っていき、再びカタカタと動いて別の映像を映し始める。

 

 スクリーンに浮かび上がったその内容は、先の恋人達のものではない。

 人形を抱えた、少女の姿だった。

 

 

 

 ☣  ☣  ☣

 

 

 

 あれから、母親に火傷を負わされたあの日から。

 ドナの父親は娘に対して関心を持たなくなってしまった。

  

 醜い顔になってしまったからだろう。その視線はとても冷たくなった。理想の存在(・・・・・)でなくなった少女は愛する価値がないとばかりに。

 火傷を負わせた張本人である母は何のお咎めもなし。家政婦を脅して口裏を合わせ、あの出来事はドナ自身が鍋をひっくり返したということにされたのである。家政婦はそんな雇い主の狂気に巻き込まれるのを恐れ、そのまま暇をもらってしまった。

 

 それでも、ドナは父に愛されようと懸命だった。

 少しづつ少女という年齢から離れていっても。何度も何度もそれとなく彼に身体の関係を求め、教えてもらった奉仕をし続けた。ただひたすらに、家族を欲して。

 

 そんなあくる日の十四歳の年。父が良いことを思いついたというような顔で提案した。

 

『ドナ、私の子供を産んでくれないか?』

 

 成長していく娘にますます興味を失っていた彼が、唐突にそう言って笑顔を向けてきたのだ。

 

 実の父親の子供を産む。それがさらに道を踏み外す行為であることは、学校に通っていないドナでも本能的に分かっていた。そして、新たな少女を産み出そうという彼の魂胆も。

 

 だが、父との子を産めば、今度こそ本当に愛してもらえるかもしれない。

 あんな母親のことは忘れて、自分を妻として、家族として迎えてくれるかもしれない。

 

 ドナは首を縦に振らざるを得なかった。

 そのまま一縷の望みをかけて、父に未成熟な身体を委ねようとして──

 

『……貴方』

『何だ。またお前か……』

 

 行為の現場で居合わせてしまったのだ。あの母親に。

 

『どうして、その子ばかり……貴女には私という妻がいるでしょう!?』

『いい加減にしろ!』

 

 父はうんざりだと言わんばかりの目で詰め寄ってきた母を睨み、まるで野次馬を払うかのように手で払った。

 彼女は払われた手を握り、絶句した顔でその場に立ち尽くす。

 

『見て分からないのか? 私は愛すべき少女を作っている最中なんだ。妻だというなら尚更、邪魔をしないでくれ』

 

 そう突き放し、再び腰を動かし始めてドナの幼い膣内を蹂躙する父。

 

『さあ、ドナ……作ろう。私達の娘を』

 

 本当に骨の髄まで人形師なのだろう。この営みも、彼にとってはただの制作作業に過ぎない。きっと、女の子が産まれるまでこの行為は続くのだ。

 それを理解したドナは、かつてと違い真顔で腰を振る父の下で一筋の涙を流す。

 

 

『…………ッ!!』

 

 

 涙にぼやけた視界の中で、ゴッという鈍い音が部屋に響いた。

 同時にドナに挿入されていたペニスが抜け、父がベッドから床へと転がり落ちる。

 

『ぐっ……ぁ……』

 

 耳に届く苦悶の声。何が起こったのか分からず、ドナは上半身を起こしてベッドの脇を覗く。

 そこには、床に蹲った父の姿。彼が手で抑えている後頭部からは夥しい量の血が。

 

『お、お前……何、を……ッ』

『……だって、こうするしかないでしょう? 貴方を私の物にするには』

 

 母の手には机の上に置かれていた金杯。先祖が愛用していたというその盃からは、ポタリ、ポタリと赤黒い血が滴り落ちている。

 伸び切った髪から覗く彼女の顔は、これ以上ないほどの笑みを浮かべていた。そのまま、血で汚れた金杯をゆっくりと振り被り──

 

『や、止めろっ!』

 

 襲い来る一撃を何とか避けた父は、這々の体で立ち上がり部屋から飛び出す。

 母は気の触れた笑い声を漏らしながら、愛する夫を追いかけた。

 

 ドナは目の前で起こったことに動揺を隠せず、手探りで傍らに寝かせていたアンジーを抱き寄せる。カチカチと歯を鳴らし、震える手で胸に抱いたアンジーを掻き抱く。

 

 止めないと……止めないと!

 例えどんな人間であろうと、二人は唯一の肉親。ドナは意を決し、アンジーを抱いたままベッドから下りて部屋を出た。

 

 両親を追いかけるため、裸のまま廊下をひた走ってエレベータで一階へ。ホールに出た彼女は、外から響く二人の声を聞きつけて玄関扉を開け放つ。

 まず目に入ったのは、地面に転がった金杯と点々と作られた血の跡。姿の見えない二人を探して、ドナは辺りを見回す。

 

『──離せ! 離さんか!』

 

 刹那、聞こえてくる父の声。

 目を凝らして見ると、霧の向こうにある崖端で父と母が揉み合っていた。

 

『おとうさまっ! おかあさまっ!』

 

 必死に呼びかけるドナ。

 だが、その声は無情にも滝壺が立てる轟音で掻き消される。

 

 

 

『 ──うあああぁぁぁぁ……!! 』

 

 

 

 そのまま、二人は絡み合うようにして崖から落ちてしまった。

 

『……あ……ぁぁ』

 

 何もできず呆然とそれを見届け、その場に膝から崩れ落ちるドナ。

 

 父の断末魔に混ざって、母の笑い声が耳に響く。

 あの歪んだ笑顔が、ドナにとって最初で最後の母の笑顔となろうとは。

 

『…………あは……ははは』

 

 そんな彼女もまた、母と同じ顔を浮かべて壊れた笑みを零す。

 溢れ出た涙が、胸に抱いたアンジーの瞳に落ちて彼女の頬を伝うのだった。

 

 

 

 ☣  ☣  ☣

 

 

 

 

 

「…………」

 

 映像を見終わったアダムは、映写機の乗った机に手を突いて俯く。

 突いた手は血が滲むほどに強く握られ、怒りと悲しみを表すように小刻みに震えている。

 

 その時、スクリーンが音を立てて床に崩れ落ちた。端の本棚が横へと独りでに動き出し、裏に隠された小部屋が露わとなる。

 

 誘われるようにして、小部屋へと入るアダム。

 ランタンの頼りない灯りで照らされたそこには複数の人形が飾られており、その全てが彼の方を食い入るように見つめていた。

 

 いや、違う。一体だけ、背中を向けて隅に座り込んでいる人形がいる。

 まるで素直になれず意中の相手から隠れている少女のような姿。アダムはそんな彼女に歩み寄り、割れ物を扱うようにそっと拾い上げ、後ろから優しく抱きしめてあげた。

 

「──あっ……ッ」

 

 人形──アンジーは思わずその温もりに身を委ねかけ、慌てたように抜け出す。

 そのまま小部屋の突き当たりの壁をすり抜け、再び姿を晦ましてしまう。

 

「……ドナ」

 

 アダムは瞳から赤い閃光を走らせ、その壁を破壊する。

 塵埃が舞う中、黒電話が置かれた廊下を抜けて準備室を通り過ぎ、ダニエラが悶え喘いでいた例の工房と思われる部屋へと再び戻ってきた。

 

 アンジーの姿は見えない。特異菌の気配も感じ取れない。

 だが、濃厚な雌の匂いが工房の奥から漂っているのがはっきりと分かる。

 

 匂いを辿って奥へと進んだアダムは、角を曲がった突き当りの扉を開け放つ。その先は明かりの一切ない暗闇となっており、さらなる地下へと続く階段があった。

 一歩ずつ、一歩ずつ。靴音を鳴らしながら、ゆっくりと階段を下りていく。警戒のためではなく、驚かせないようそっと歩み寄るように。

 

 階段を下り終わった先──地下の袋小路には、古井戸が闇の中にポツンと佇んでいた。そんな異様な光景を前に、常人なら恐怖の余り逃げ帰ってしまうだろう。

 だが、そんな裏切り行為をアダムがするはずもない。期待と動揺の混じった雌の匂いはその古井戸から漂っているのだから。

 

 恐れる必要など、どこにあるだろうか。

 部屋に籠もりきりの愛しい人を訪ねるべく、井戸の縁から身を乗り出して中を覗き込む。

 

「!?」

 

 その時、アダムの背中に強い衝撃が走った。

 彼の小さくて軽い身体は、ひっくり返るようにして井戸の深淵へと真っ逆さまに落ちていく。

 

 だが、すぐにパシャンッ! という水飛沫と共に底に着水。暗闇のせいで相応に深く見えたが、大体4mとそれほど深い井戸ではなかったようだ。

 底に溜まった水は、雨が多く降った後のように濁っている。凍えるような冷たさが襲うが、それに気づかないほどにアダムは胸を熱くさせていた。

 

 なぜなら、水に半分浸かった自身の上に──

 

 

「──はぁ……はぁ……ッ」

 

 

 逢いたくて堪らなかった女性が覆い被さっているのだから。

 

「ふ、ふふ……捕まえ、たわ」

 

 彼女──ドナは荒い息を漏らしながらも、垂れ下がった黒いベールから覗くピンク色の唇で笑みを作る。

 どうやら、先の隠れんぼはアダムを誘い込むための罠だったらしい。鬼はアダムではなく、彼女の方だったのだ。

 

「ん、っ……」

 

 ドナが、はやるような息遣いで服のボタンを一つ一つ外し始める。そして、ボタンを外し終えた彼女は、震える手で前を開いてその下の肌を外気に晒した。

 

「……ッ」

 

 ぷるんと震えて露わになる、ほど良い膨らみの乳房。

 アダムは魅惑の果実を目の前にして、鼻孔を膨らませる。

 

 形や大きさはダニエラ達三姉妹と比べれば差があるし、オルチーナの圧倒的な爆乳を相手にしたらインパクトに欠けるだろう。

 だが、元々の肌白さとこの冷たさに浸されてなお、彼女の柔乳はそれに勝る興奮に赤みがかり、乳首は期待に硬く尖っている。

 

「いかないで……行かせないわ……」

 

 うわ言のように呟くドナ。ベールの下で、熱に浮かされたような赤く染まった顔で唇を引き結み、上衣を肩脱ぐ。

 最初はゆっくりと。途中から逸る気持ちを抑えられなくなったのか、乱暴にロングスカートごと脱ぎ捨てる。

 

 ドナ・ベネヴィエント。稀代の人形師にしてオルチーナと同じ四貴族の一人。

 普段から下着の類は付けていないのだろう。彼女の一糸纏わぬ姿が今、暗闇に慣れたアダムの眼前にさらけ出されたのだ。

 顔は黒いベールで隠されたままなのも相まって、その女体がアダムの男を駆り立てたのは言うまでもなかった。

 

「安心して……ダニエラは私の部屋で貴方と愛し合ってるから」

「ぼ、僕と?」

「そう……私も、ずっと貴方に逢いたかったの」

 

 籠もりきりの生活を過ごしているがゆえに、青白くて細身な肢体。

 だが、よくよく見ればお尻や腿といった女の部分は、乳房と同じく身動ぎする度に柔らかく揺れるほどの肉つきを誇っている。

 

 完全に男を誘うために備わった媚肉。あの父親に散々弄ばれ、それでも愛を求め続けた末にできたであろう身体。そう思うと、アダムは激しい怒りと嫉妬心に駆られてしまう。

 一方で、ドナは愛すべき少年の股間に手を伸ばし始める。

 

「……もう逃げ場は、ないわ」

 

 意を決したように、ドナは懐から一輪の黄色い花を取り出した。

 それと同時に、周囲に霧のような白い気体が沸き上がる。霧はあっという間に井戸の底を埋めていき、目の前の彼女の姿が見えなくなるほどにアダムの視界を塞いだ。

 

「これは……」

 

 アダムが困惑する中、霧の中からドナではない女性が這い寄ってくる。

 一人ではない。この狭い空間の許容量を明らかに超えるほどの複数の雌がアダムの身体へと我先に抱きついてきた。

 

『アダム……』『アダム様……』

『ご主人様ぁ……』『アダム君ぅ……』

 

 抱き慣れた感覚と聞き慣れた声。

 そう、彼女らはアダムの恋人達だった。まさに、先の映写機が映し出した映像をそのまま現実に再現したかのような状況。

 

 左手にリサ、右手にアレクシアがその滑らかで細い腕を絡め、その肢体を密着させている。

 背中から抱えるように極上の柔らかさを与えてくれているのは、オルチーナ。脚にはヒルダやローラ達ウェスカーチルドレンの少女達がしがみつき、足先を争うようにしてベイラ、カサンドラ、ダニエラが艶かしく舌を這わしている。

 

 

『……旦那様』

 

 

 そして中心から、姿を消したドナと入れ替わるようにして最愛の人(ジェシカ)が姿を現す。

 

 ジェシカは聖母のような微笑みを見せると、ゆっくりとその至高の女体を密着させてアダムと口づけを交わした。

 香りも、柔らかさも、暖かみも、全て本物そのもの。まるで彼女が生き返ったかのようである。

 

 一生、このままでいたい。

 そう思えるほどの極上の心地良さに、身を委ねたくなってしまう。

 

 だが──

 

 

 

「 ……ダメだッ! 」

 

 

 

 アダムの一喝が、井戸の底に響き渡った。

 

 




次回は日曜に投稿いたします。よろしくお願いいたします。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。