BIOHAZARD sexual invasion 作:MIYOSHI
「あっ! あっ! あっ! あぁっ!」
あのオリエンテーションの日以来、アダムとアレクシアは勉強、ではなく、
それはもうサンデーローストを白く染める勢いで、土日も研究活動と称して例の地下研究室を貸し切り、猿のようにお互いの肉を味わい合っている。
「んんっ! んぁっ! あっ、は、激しいわ! アダ、ムぅ!」
もちろん、朝から晩までぶっ続けというわけではない。
アレクシアは遺伝子組み換えによって類まれない知能と、偶然か否かは定かでないが性交に特化した肉体を得ている。だが、それ以外はほとんど並の人間と同じ。純粋な体力はアダムに到底及ばないのだ。
そのため、このゲームは公平を期すべく、先に相手をイカせた方が勝ち点を得られる、ということになった。
「っ! ア、アレ、クシア……も、出……!」
「クフッ。いい、の? また私が、んっ、勝ち点を、頂いてしまうけれど」
「そんなこと、ぐっ、言いながら……締め──ッ゛!」
アダムに正常位で突かれながらも、アレクシアはとどめとばかりに膣を締めつける。
ビューーーーッ! ビュルルーーッ!
限界の近かったペニスは急激な刺激を受けて、あっけなく臨界点を超えてしまう。
そのままアレクシアの未熟な子宮に──ではなく、七歳という年齢では一切縁がないはずのコンドームに射精した。
「──あ゛あっ! あぁ……」
「んぅっ……はぁ……はぁ……クフフ、もう立派な大量殺人者ね。早漏さん」
「こんなにっ、我慢できないのは……アレクシアだけだよ」
自身の膣から抜かれた、未だガチガチに勃起したままの剛直からコンドームを外してあげるアレクシア。
ちなみに、このコンドームは滑りも良く破れにくいと評判のアンブレラ製。使っているのはXLサイズだが、このままアダムと共にペニスも成長すれば、特注品が必要になることは間違いないだろう。
「あら? 私のせいなの? むしろ感謝して欲しいぐらいだわ。貴方の射精量を制御できるようにしてさしあげたのだから」
なんと、アダムはその異常な射精量を自力で制御できるようになっていた。
コンドームは1Lの水を入れることができて、非常時の水筒代わりとしても使える。つまり、アダムの馬をも超える射精量を難なく受け止められるということだが、それでも膣内でコンドームをそこまで膨らまされたら、いくら丈夫なアレクシアでも堪ったものではない。
そのため、アレクシアは大量射精を抑制できないのであれば、コンドームを着用してようが外で射精をするよう彼に約束させた。
アレクシアのことが大好きなアダムは、彼女の中で果てることができないという制約が耐えきれず、ジェシカ達相手に頼み込んで死に物狂いで訓練し、見事100mlまで射精量を制御する技術を会得したのである。もちろん、彼女達からはしばらく白い目で見られたが。
「別に君のせいにしてるってわけじゃ──」
荒い息を整えながら弁解しようとするアダムを尻目に、アレクシアは彼のペニスから外したコンドームを呷る。小瓶ほどの量が溜まった精液がドロリと垂れ落ち、彼女の突き出した舌を伝って喉へと落ちていく。
「んっ……じゅる……」
ごくりと喉を鳴らして、中身を綺麗に飲み干すアレクシア。
別に彼女がコンドームに溜まった精液を飲むのは初めてではない。今となっては恒例のことで、行為の後の水分補給のようなものだ。
それでも、上流階級の令嬢からそんな婬猥な光景を見せつけられれば、ふつふつと再び欲望が湧き上がってくるというのが男の性である。
「ア、アレクシア。もう一回……」
「ダメ。今日はもう疲れたもの。それに、今実験が良いところなの。貴方だって、例のマウス実験、軌道に乗ってきてるのでしょう?」
「ああ……うん、そうだね」
もちろん、セックスばかりに耽って学生としての本分を全うしていないわけではない。今だって、実験の合間を縫って行為に及んでいたのだから。
授業の方は二人で席を並べて、教授から一対二での指導を受けていた。大学側が個人指導に注力しているため、大半は少人数セミナーの形を取っているのだ。
が、オリエンテーションの時も言及していたように、そんなものは二人にとって無意味で時間の浪費以外の何物でもない。
それを納得させるため、今後三年間のカリキュラム全てを理解し尽くしていることを証明するレポートを各教授に提出した。ついでとばかりに指導内容への間違いの指摘や、彼らの携わっている研究についてのアドバイス、公開している論文への意見を添えて。
教授陣は顔から火が出るような思いをした。無理もない。子供らしい純粋な残酷さを持って、プライドを八つ裂きにされてしまったのだから。
当然、彼らは大学上層部へ猛抗議した。あのクソ生意気な子供達は何のために大学に来ているのか──まさか大学をヤリ部屋同然にされているとは誰も思うまい──と。学ぶ気がないのであれば、退学にすべきだと訴えた。
しかし、学長を含む上層部が首を縦に振るわけがない。
二人はそれまで最年少卒業者であったアレックス・ウェスカーをも超える天才であり、今や大学の広告塔。それに、自身の子の学び舎ということでスペンサー家とアシュフォード家からは多額の援助を受けている。
結局のところ、教授陣は子供達に講義を行わないということで決着がついた。好きにすればいいと投げたのである。アダムとアレクシアの要望通りとなったわけだ。
その決着がついたのには、一部の教授陣による擁護が起因する。元より大学側はほとんどの授業で出欠を取っておらず、自己責任として学生達の自由意志を尊重する体制を取っている。いくら特別措置を取っている彼らでも、それは例外ではないとしたのだ。
「ア、アダム君……アレクシアちゃんが相手してくれないなら、私が──」
「いえ、旦那様。私がお相手しますわ」
「ありがとう。じゃあ僕は実験の進捗を確認するから、その間先生とジェシカで奉仕してもらえる? やっぱり出し足りなくて集中できないから」
「ええ。もちろんっ」「かしこまりました。旦那様」
椅子の上に立ち、マウスから採血するべく注射器を取り出すアダム。そんな彼の股間に縋りつき、射精したばかりのペニスと睾丸にむしゃぶりつく全裸の中年女性とスーツ姿のジェシカ。
中年女性の方は生物学の教授で、二人を擁護した教授陣の内の一人だ。今行っているマウス実験も彼女らのがん細胞についての研究を手伝ったものである。
この大学は女性の地位向上に貢献したことでも有名で、女性教員の数は他大学よりも多い。彼女のように未婚、既婚問わずほとんどが四十か五十を超える年齢の中年・初老の女性だったが、アダムにとって魅力的であれば年齢など関係ない。
彼は例によって自然を装った誘いをかけ、乗ってきた教員らに遠慮なく欲求をぶち撒けた。アレクシアの前だろうと構わず。彼女に吐き出せなかった分を教員で補ったのだ。
これまで子供達が研究中に問題を起こさないか、それを見守るための監視員として女性教員達が交代で傍に控えていた。彼女もその内の一人で、今では全員、この通りアダムの恋人兼性処理係と化している。
一方で、擁護した内の男性教授は、アレクシアの子供らしからぬ性的魅力にやられた──つまりロリコンである。あわよくば秘密の関係を持てないかと企み、実際に手を出そうとして逮捕された輩が一人出てしまって以降、鳴りを潜めているが。
女性陣の大体はアダムとその秘密の関係を持っているというのに。彼女らの地位向上に貢献した大学でこのようなことが起きるなんて、何とも皮肉である。
「じゅる…‥れろ……んっ、アダム君、気持ちいい? おばさんのフェラチオ、気持ちいい?」
「ああ…‥最高だよ。先生」
「ん……ちゅっ、ぢゅるる……せ、先生、次は私が先っぽを──」
関係を持った教員達は、アダムの精液を浴びたり膣に受けるようになってから、なぜか肌ツヤが良くなったり皺が少なくなったりしているらしい。どんな美容用品よりも効果があるということで、自身が監視員となる日が待ち遠しいと言っているほど。
特に目の前の教授は、今まで研究漬けで女を捨てたような人物だった。アダムに求められたことでようやくそれを意識するようになり、加えて見違えるように女性的になった自身を自覚して、余計に彼にのめり込んでいった口だ。
「ッ……出すよ。ジェシカ、零さないで、ねっ!」
「ん゛んっ! ん゛ぅ゛ぅ、ゴクッ、ゴクッ……」
「ああっ! ジェシカさん、ずるいわ!」
「……もう、相変わらずのお猿さんっぷりね」
そんなこともありながら、アダムとアレクシアは授業を受けずして学期末試験で最も優秀な成績を収めた。そして、現在に至るのである。
ゲームの方はアダムの勝ち点が514に対し、アレクシアは621。完全に負け越している。
アレクシアは足コキや前立腺責めまであらゆる責めの手をあっという間にマスターしていき、アダムを翻弄していた。
このまま続ければ負けは確定だ。何とか巻き返しを図らなくてはと、アダムは意気込む。
「ふぅ……そういえば、アレクシア。来年の夏季休暇なんだけど、何か予定はある?」
「いいえ、特には。お父様の社交パーティに付き合わされなければ、いつも通り研究かお猿さんとのセックスの每日よ」
「良かった。なら、一緒に南米へ行かない?」
アダムはジェシカと教授のお掃除フェラを受けながら、アレクシアに最近南米の熱帯雨林で発見された昆虫寄生菌について話した。
その菌は主に蟻に寄生し、宿主の行動を支配して自身の成長と胞子の拡散に適した場所へと移動させるという。つまり、蟻をゾンビ化させて自身の意のままに操るという驚くべき生物である。
蟻と言えば、アレクシアの研究対象。今だって主に日本に生息するサムライアリ、その他種を奴隷として働かせる習性と遺伝子について研究中である。セックス中でさえ容器の中の蟻塚から目を離さないほどの熱心さだ。
目的は蟻ではなく菌だが、彼女であれば必ず興味を引くはず。昆虫寄生菌は現在アンブレラ南米支部が研究中だが、休暇を利用してそれに参加、もといデートへと誘う。
「まぁ……その菌って、冬虫夏草の一種かしら? ぜひご相伴に預かりたいわ!」
アレクシアは予想通り食いついてきた。それはもう年相応の子供のように。アダムの手を両手で握り、表情をほとんど見せなかったその碧眼をキラキラと輝かせて。
「うん。でも、条件があるんだ」
「条件?」
初めて彼女とセックスした時の意趣返しだ。
アレクシアは父親がアンブレラの幹部ではあるが、彼女自身は現時点でアンブレラとは直接の関わりを持っていない。そのため、研究に参加するにはアダムの口添えが必要不可欠。
「簡単だよ。旅行中は、コンドームなしの生中出しを許して欲しいんだ」
内容を聞いたアレクシアは期待に輝かせていた顔を、スッといつもの澄まし顔に戻す。いや、付き合いの長いアダムには分かる。その眉尻は戸惑いを表すように少し下がっていた。
「それは……貴方が勝者となって、晴れて私を物にしたらの話ではなかったかしら?」
「うん。でも、やっぱりこのままじゃ満足できないから……別に、嫌ならいいんだよ。その代わり南米行きの話はなかったことになるけど」
「………‥」
大好きな相手を困らせるのは少し心苦しいが、ゲームに勝つため、ここは心を鬼にしよう。
しばらく悩むアレクシアだったが、やがて観念したのかのように溜息を吐く。
「はぁ……分かったわ。条件を飲みましょう」
「やった! じゃあ、手配しておくよ」
二人の恋人に奉仕させながら、意中の少女を旅行デートに誘ってガッツポーズを取る少年。端的に言って、最低である。
「……いつも思うのだけれど、貴方、周りの女性に膣内射精ばかりして、問題ないのかしら?」
「ああ……えっと、妊娠のこと?」
アレクシアは彼女にしては珍しく、常識的なこと──そして最も重要なこと──を指摘した。
丁度お掃除フェラを終えたジェシカも、二人の会話を聞いてピクリと反応を示す。教授の方は一心不乱にペニスに舌を這わせ続けていて聞いていないみたいだが。
「その、僕の精子の場合、なぜか相手が妊娠できないみたいなんだ。精子は量が多いってだけで特に問題ないのは確認済みだよ? 調査は父様に任せっ切りだけど……」
「なるほど。中出しし放題でセックス大好きの貴方には都合が良いわね」
「好きなのは否定しないよ。でも、それは相手を愛してるからこそさ。正直言って、まだ相手を妊娠させることには戸惑いがあるけど、もしそうなったとしても自信を持って責任を取ってみせる」
既にそれができる財力も持っている。彼は無責任に不特定多数の女性を抱いているわけではなく、その全ての相手を愛するつもりでセックスに励んでいた。
自身の膨大な性欲の処理だけさせてヤリ捨てるような真似は、ジェシカによって良心を育てられたアダムにはできなかったのだ。
(旦那様……)
断言してみせたアダムを見上げて、ジェシカは彼の成長を我が事のように嬉しく思い、笑みを浮かべる。そして、初めて彼の子を妊娠するのは
「……そう」
対して、自分で聞いておきながらどうでもよさそうに、そして少しばかり要領を得ていない様子で相槌を打つアレクシア。
彼女にはアダムの言う"愛"というものがよく分からなかった。
父アレクサンダーは、アンブレラ社での立場や衰退しつつあるアシュフォード家の再興しか頭にない。そのため、スペンサーに息子がいるという情報を得てからは、娘とアダムの間で婚約関係を結ばせるべく躍起になった。
そう。アレクシアが最初から彼に興味を示していたのは、父親から唆されたからだ。アンブレラ御曹司と懇意にしろと。段階をすっ飛ばして初手セックスにはなってしまったが。
今では彼のことも気に入ってる──自分以外の人間を気に入ったのは初めてだ──し、セックスはとても気持ちいい。
周りの愚民共のおかげで溜まっていくストレスも発散できて、研究も大変捗る。愛というのを知らなくとも、何ら問題はないのだ。
だからこそ思う。
そんな物が必要なのだろうか? そんな不確かな物にこだわる必要があるのだろうか?
実家に残されている無能な兄も、一応血を分けた双子の兄妹ということで邪険に扱わないでいたら、勝手に勘違いして依存するようになった。
あんな鬱陶しいものが愛だというのなら、不要だ。セックスという繋がりを持って、互いに利害が一致しているのであれば、それでいい。
合理的なアレクシアはそう結論づけ、以降はひたすら無心で研究に集中するのだった。
☣ ☣ ☣
「……オズウェル様。準備が整いました」
「うむ」
時が過ぎ、場所は変わってアンブレラのヨーロッパ支部第二研究所。
主な照明は二つの無影灯のみとなる、薄暗い空間。
まるで罪の意識を映すかのように、白に染まった部屋。
同じく白一色の装束とガスマスクを纏った複数の男性が、無影灯の明かりのもと、青色の手術用ドレープがかけられた台を囲んでいる。
その様子を一つ上の階から窓越しに覗く二人の影。
初老の男性と、執事服に身を包んだ男性。オズウェルとパトリックだ。
「しかし、本当によろしいのですか? 彼女は……」
懸念を口にしながら、パトリックは白装束の男達がいる部屋に目線を向けて見下ろす。
上からならよく見える。ドレープがかけられた台に乗せられている人物。ストロベリーブロンドのボブカットで、年若い、もう二年ほどで成人する年齢であろう少女。直接的な関わりは少ないが、パトリックも顔は見知っている。
彼女は、ウェスカーチルドレンの第一次候補者。アダムのメイドで恋人の一人でもある、ヨナ・ウェスカーであった。
全身麻酔をかけられているのか、瞼を閉じて死んだように眠っている。
ウェスカーチルドレンはアダムの身近にいたいがため、訓練を受けて護衛として働きたいと言い出した。そうして戦闘訓練を受け始めた彼女らに身体検査と称して、ウィルス実験の被験体としているのだ。
「分かっている。だが、算出された期待値を考慮するなら、実験には遺伝子が優れた第一次候補者を使わざるを得ないのだよ」
オズウェルは胸を痛めているかのようにもの憂げな態度を見せる。もちろん、形ばかりの見せかけに過ぎない。
ヨナの主人──アダムは現在、大学の夏季休暇を利用して、アシュフォード家の令嬢と南米へ旅行に行っている。もちろん、彼はこの実験について聞かされてはいない。
「その点、彼女はアダムへの自己アピールが少なかった。クールで無口な、目立たない子だ。あれだけいるのだから、そんな子が一人減ったとしても問題なかろう」
「アダム様は納得するでしょうか?」
「あの子には彼女達が同じ孤児院の孤児であるということしか話していない。本当の親が見つかって、引き取りに来たとでも言えばいいだろう。もしくは、訓練の事故で死んだとでもな」
そう言葉を切り、手元のマイクで白装束の男達に「始めたまえ」と伝えるオズウェル。
許可が出された男達は慣れた様子でテキパキと動き出す。そして、注射器を受け取った男がヨナの静脈に針を差し込み、緑色の何かを注入していく。
注入されているのは、始祖の改良型。アダムが大学に入学した年にアンブレラの共同創業者であるジェームス・マーカスが開発に成功した、"t-ウィルス"だ。
「今さらではありますが、既にアダム様という完成形がいるというのに、なぜ?」
「何を言う。アダムは始祖に完全適合しているのだぞ? ならば、それを改良したウィルスを開発すれば、あの子をより強大な存在とすることができるということではないか。ひいては、万が一のことがないようあらゆる実験を重ねておく必要がある。私の執事なら、そのぐらいは説明しなくとも分かって欲しいものだな」
「……申し訳ございません」
それに、もし誰かが適合できれば、その女はアダムの子を妊娠できるかもしれないし、そこから不妊問題を解消する糸口も見つかるかも知れない。スペンサーにはそういった打算もあった。
加えて、このt-ウィルスを用いた生体兵器の開発も進んでいる。それらを紛争地を含む各国の政府やゲリラに売り込みことで、アンブレラは天文学的な利益とパイプを得る。より巨大な組織へと拡大していくだろう。
だが、それは表向きの目的。最終的には劣等種のみを抹殺するウィルスを開発することが目標である。アダム計画の隠れ蓑とすると同時に、それを完遂させるための道を整備、舗装していくのだ。
人類を庇護する傘と銘打ちながら、その裏で違法な研究を進めて人類を地獄へと引きずり込む準備を着々と進めていく。アンブレラとはそういう企業である。
『オズウェル様。処置が完了いたしました』
「うむ、様子を見よう」
後はウィルスが全身に回るのを待つだけ。
五分、十分、三十分と、結果を待つだけのもどかしい時が過ぎていく……
「……変化が見受けられないな。もしや、適合したのか!?」
実験の成功を期待してか、オズウェルは窓に張りつくようにして前のめりになる。
『……いえ、オズウェル様。そうではないようです』
しかし、実験担当者からは困惑の色が混ざった否定の返答が返ってきた。
「何? しかし、他の者達のような初期症状は──」
「はい。確かに発熱はおろか、大脳新皮質の壊死も見受けられません。ですが、遺伝子変異も確
認できないのです」
t-ウィルスを投与された者は、発熱と共に全身の掻痒感を訴え、ウィルスの毒素を受けて大脳新皮質が壊死、知性と記憶の欠落が発生する。
そして、遺伝子変異により体内の細胞が活性化。急激に加速する新陳代謝を補えない場合、細胞分裂と壊死の均衡が崩れ、肉体が腐乱してしまう。つまり、ゾンビのような状態になるのだ。
無論、それは適合できなかった場合の例。
ウィルスに適合できた場合、その毒素の影響を受けずして、細胞活性化による肉体強化という恩恵を得ることができる。
しかし、ヨナにはその遺伝子変異の兆候すら見受けられないようだ。
『研究記録によると、遺伝子の相性関係に基づく抗体因子が十人に一人の確率で存在するようです。恐らく、彼女もその内の一人かと』
「だが、いくら抗体因子があったとしても直接投与されて何も起きないと言うのは……よし、もう何人か連れてきている実験材料がいるはずだ。引き続きそれらにも投与を試してみたまえ」
「オ、オズウェル様!?」
主人の遠慮のない言葉にパトリックは思わず狼狽してしまう。
確かに、ヨナ以外の第一次候補者を含めた十名ほどのウェスカーチルドレンを麻酔で眠らせた状態で連行している。だが、彼女達まで犠牲にすれば、さすがのアダムも不信感を抱きかねない。
「落ち着け、パトリック。代わりを用意してやればどうにかなるだろう」
パトリックの静止も聞かず、オズウェルは実験担当者達に作業を急がせる。
ジェシカやリサを連行していないのがせめてもの救いか。アダムに向ける愛情は本物だというのに、人の心を全く理解できていない男だ。だからこそ、このような非道を平然とやってのけるのであろう。
そして、実験は続き──
「なぜだ? なぜ、何の変異も起こさない?」
皺だらけの顔を歪めて疑問を口にするオズウェル。
あれからアダムの邸宅から連れてきた娘達の全員にウィルスの投与実験を行ったが、誰一人適合はおろか変異の兆候させ見せなかったのだ。
これではまるで、連れてくる際の言い訳として使った身体検査をそのまま行っているようなものである。
『オズウェル様……驚くべきことですが、娘達全員がt-ウィルスの抗体を持っているようです』
「そんなことはありえん! 何か原因があるはずだ! 早急に調べたまえ!」
『は、はい!』
オズウェルは苛立ちをマイクにぶつけるようにして、罵声にも似た命令を吐き捨てた。
落ち着くこともままならないのか、乱暴に椅子から腰を上げて観察室の中をウロウロと歩き回り始める。
「お、落ち着いてください。オズウェル様」
「ええいっ! お前は黙っておれ!」
主人を気遣うパトリックに癇癪を起こしながらも、ぐつぐつと煮え返った脳内で原因を突き止めるべく壁に手を突く。
これ以前にも、男性ウェスカーチルドレンの一部や、実験材料として集めてきたホームレスや不法滞在者などの男女にウィルスの投与実験を行っている。その全員が適合できず、代謝促進を補うために新鮮な肉を求めて彷徨う亡者と化してしまった。
確かに、全員が抗体因子を持っているというのは確率的にありえない話ではない。だが、オズウェルが言うように直接ウィルスを投与されれば、完全抗体でもない限りどう足掻こうともその強力な毒素に負けてしまうはずなのだ。
何か彼女らに共通点があるはず。オズウェルは思いつく限りの要素を並べる。
性別が女性。優れた遺伝子。二十代以下の年齢。頭脳明晰。容姿端麗────
「……!」
途中で、はたと彼は気づく。
そうだ。彼女達は全員、日常的にアダムとセックスしている。彼の精液を、身体は元よりその体内に大量に注がれているのだ。
それこそが他の者にない、彼女らの唯一の共通点。
ブツブツと呟いていた主人が打って変わって静まり返ったことに、パトリックは首を傾げる。
オズウェルはそんな彼を尻目に、今にも高笑いを浮かべそうなニヤついた笑みを浮かべながら、再びマイクを手に取った。
「どうだね? 何か分かったかな?」
『も、申し訳ございません。オズウェル様。まだ原因の方は──』
「いや、いいんだ。無理を言ってすまない。原因の究明は私の方で引き継ごう」
『オ、オズウェル様が、直々にですか? し、しかし……』
急に態度を変えた雇い主に困惑を隠せないでいる担当者達。
「少し事情があってね。君達も続けての実験で疲れただろう。よくやってくれた。特別報酬を出しておくから、ゆっくり休みたまえ」
『あ、ありがとう、ございます……』
彼らは皆一様に顔を見合わせ、この世の終わりだとても言いたげな絶望した表情で実験室を後にしていった。
オズウェルの性質を知っているゆえに、この後自分達が用済みとして処分されるのはないかと考えているのだろう。その心配は徒労に終わるわけだが。
「……ふふふ、必ず見つかるはずだ。神となりし者の寵愛を受けた、その証が──」
若い学生達と乱交したりしてるみたいな描写も入れたかったのですが、隙間がありませんでした。
一応言うと、作者はもちろん留学経験など皆無の底辺なので、大学の描写で間違っている箇所など多々あると思いますが、ご容赦ください。
後、t-ウィルスに関して。
「t」は小文字と大文字で表記揺れする場合があるみたいですが、今作では「t」で統一いたします。
また、抗体持ちと適合者は別物ですのでご注意ください。
次回はアレクシアと南米旅行となります。
よろしくお願いいたします。