周りの艦娘と提督のカップル達が移動を始める。
撮影をしていた陸奥提督と最上ちゃんも即興の撮影会を終えてホールへの通路に歩き出す。
「じゃあ俺達も劇場に行くんだよね?」
蒼龍ちゃんに訊くと、
「だね」
彼女は俺の言葉に頷きつつ俺の右手を取り最上ちゃん達とは正反対、待合室の奥に続く扉に向く。
あれ?
反対じゃない?
「蒼龍ちゃん? こっちでいいの? 他の娘達は向こうにいっちゃったけど?」
「読まなかった? 私達はこっち」
えっ?
何のこと?
首を傾げる俺。
ははーん、蒼龍ちゃんはそう言いたげな表情からクスリと笑った。
「私達は違うんだよ? こっち」
よく見ると······あと二組、俺と蒼龍ちゃんと同じように奥の扉に歩いていく艦娘と提督がいた。
「赤城さんと霧島さんね」
蒼龍ちゃんが教えてくれた。
赤城さんは前に2階の販売スペースでポスターで観た事がある。
弓道着に胸当て、袴姿、空母の艤装に黒髪セミロングが似合う。
霧島さんは眼鏡にショートボブカットという知的な印象を与える整ったルックスに巫女服にも見える着物に主砲の付いた戦艦の艤装。
航空母艦赤城と戦艦霧島をモチーフとした二人。
『赤城さんと霧島さんか······2人ともタイプは違えど相当なレベルの美人だな』
もちろん蒼龍ちゃんもそうなのだが俺は2人を見て素直に思う。
観覧コースでは赤城さんは蒼龍ちゃんよりも高額な料金設定だったし、タブレットを観た中で覚えはないが霧島さんもかなりの高額なコース設定料金だろう。
艦娘の中でも料金設定の低い駆逐艦の娘達でも決して安い金額ではない。
逆に言うならそんな料金設定でも予約が埋まるくらいのルックスレベルでなければ艦娘としては勤まらないのかもしれない。
「さ、私達も行こう」
「あ、ああ」
赤城さん組と霧島さん組に続く蒼龍ちゃんに俺は大人しくついていく。
他の多数の組とは別の出口から出て通路を歩いていくと俺達の三組はエレベーターの前で止まる。
エレベーター!?
どういうこと?
劇場は1階でしょ?
俺が不思議がっていると······
「お先に失礼します」
先頭の赤城さんは俺達や霧島さんの組に頭を下げると提督の手を取りエレベーターに乗り込む。
「1組ずつね」
エレベーターのスペースはまだまだ余裕があったが蒼龍ちゃんに声をかけられる。
扉が閉まり、回数を示すランプが2階まで上がってから再び1階に帰ってきた。
「ではこちらも」
今度は霧島さんの組。
そして······エレベーターが帰ってくると今度は俺と蒼龍ちゃんの番だ。
「どうぞ」
「ありがとう」
促されてエレベーターに乗ると、蒼龍ちゃんも俺に並んでエレベーターに乗り2階のボタンを押す。
なるほどな。
俺達は2階席なんだ。
蒼龍ちゃんにも聞かれたが俺はその説明をよく読まなかったんだな。
でも2階席というのは1階席よりも高級な扱いなのだろうか?
最上ちゃん達の1階の席の方が舞台に近くて見易いと思うのだが。
そんな事を考えていると······
ぎゅ······
蒼龍ちゃんが俺の右腕に身体を預けながら腕を絡ませてきたのだ。
右腕に伝わる柔らか且つ重量感のある感触。
ぐっ······やっぱデ、デカイ。
「!?」
焦ったが何とか顔には出さないようにする。
ホールでも待合室でも親しげに提督の腕を取ったり、手をずっと繋いでいた艦娘もいた、これくらいは営業的なサービスの一環なのかも······しれない。
「提督かわいいなぁ~、今日は基本これでいい?」
焦ってるの見透かされてる?
そんな俺に蒼龍ちゃんは舌をペロッと出しながら悪戯っぽく訊いてくる。
ぐっ······かわいいっ。
でも緊張するっ。
俺はドンドン沸き上がってくる己の感情を何とか宥めながら、
「も、もちろん! 嬉しいよ」
そう答えるのがやっと。
二階に上がるまでのエレベーターの十数秒にもならない時間の間、右腕に伝わる二房の果実の感触に魅惑され続けたのだった。
「この部屋だよ」
2階に上がったエレベーターから出てすぐ、何部屋か並んだドアを蒼龍ちゃんは俺の腕を取りながら開く。
そこは広くはないが大きめのソファーとテーブルが置かれた個室。
部屋の前面は半分くらいガラス張りで舞台を眺められるが、テーブルに置かれたモニターは更に近く舞台を映し出していた。
「こ、個室だったの?」
驚く俺。
個室!?
2階席じゃないのか!?
「やっぱ読んでない! 戦艦、正規航空母艦、その他一部の艦娘の観覧コースは劇場観覧は特別観覧室に案内になります、と書いてあったでしょ? ちゃんと説明は読もうね!」
ふぅ、とわざとらしく息を吐く蒼龍ちゃん。
そうか、だから赤城さんと霧島さんが一緒で最上ちゃんは違ったのか。
前面のガラスから1階の客席を見下ろすと最前列の方に他の観覧コースの提督達が艤装を解いた(流石に邪魔なのだろう)艦娘と2人1組用の席に座っているのが見えた。
『こっちは推しの艦娘と2人っきりで、向こうは2人っきりではないけど最前列で舞台を観られるのか』
花形役者扱いの正規空母と戦艦という特別な扱いや高い観覧コース設定料金の差という事か。
「こっちは舞台の音はマイクで拾えるから結構細かく聴こえるし、モニターカメラも部屋専用で追いかけられるからモニターで何処を注目するかも出来るよ」
蒼龍ちゃんはリモコンを見てせくる。
凝ってるなぁ。
特別室とはいえどうしても遠目になってしまうのをこういう機能でカバーするという事か。
「それに気兼ねなく下のカフェから配達を頼んで飲食も出来るし、舞台に気にせずお話もできちゃうね」
それはそうだ。
飲食はともかく舞台最前列では舞台中に艦娘とお話に夢中になるわけにはいかない。
情報収集をしなければいけないという点に置いては舞台上演中の間、艦娘と色々と話せるのは大きい。
『······でも』
「さ、座って、提督」
この個室の中、艤装を部屋の隅に置くと2人かけのソファーにバフッと腰を降ろし、横の空いた所をポンポンと叩く蒼龍ちゃん。
『俺はこんなカワイイ娘と2人っきりで、上手く情報を聞き出すなんて器用なことが出来るんだろうか』
喜ばしいのかそうでないのか、複雑な状況に俺は苦笑いを浮かべながら大人しく彼女の横に座ったのだった。
続く