「まずは何か頼もうか? お酒もオッケーだけど飲み過ぎはダメだからね、あんまりだと私止めるよ」
「お酒は要らないよ、もしかして蒼龍ちゃんは呑みたいの?」
「いやいや私はダメ、呑めるけどダメ」
手をパタパタさせる蒼龍ちゃん。
見た目の年齢的には呑んでも問題なさそうだし、なんか呑んだら強そうだ。
俺も呑めない訳じゃないけど強くもないしそこまで好きでもないのでここは断わる。
口には出せないが実は仕事中だし。
蒼龍ちゃんが断わるのも何となく察する。
この観覧コースは昼の部だ。
終わった後にも仕事か舞台などの稽古があるのかもしれない。
「お酒はともかく、メニューはこれね、開演までは少し時間あるから今のうちに頼んでおくといいかも」
「そうだね」
受け取ったメニューを開くと、横から蒼龍ちゃんも覗き込んでくる。
横顔が近い······そして、何だかいい香り。
「じゃあお酒じゃなくっても蒼龍ちゃんも何か頼んでよ、遠慮は要らないからね」
「やったぁ、流石提督、太っ腹! じゃあアイスコーヒーと間宮羊羮もらっちゃおうかな! いいかな?」
「どうぞどうぞ」
喜ぶ蒼龍ちゃん。
普通のカフェに比べ高値なメニューだがその笑顔が見られるならば全然構わない。
ええっと······メニューは下の艦娘カフェと同じだ。
「提督も舞台が終わった後にもカフェで観覧コース特製の食事が出るけど軽く入れておけば? 舞台の上演時間は結構長いからね」
そうだね。
俺は頷きながらメニューを見続ける。
考えたら朝飯も食ってないし、昼もまだだ。
上映が終わるまでは待てそうにもない。
ここで少し食べても上演後には観覧コース特製の食事が入るくらいは空くだろう。
「じゃあ、俺は飲み物はコーラに、この龍驤ちゃんたこ焼きを貰おうかな、あと俺も間宮さん特製羊羮興味があるなぁ」
「美味しいよ、私の頼んだ分を2人で分けてもいいけど美味しくて一人分を頼まなかったの後悔するかも!」
「じゃあ俺も頼むね」
「ありがとうございます、じゃあ頼んでくるね」
蒼龍ちゃんは席を立つ。
そういえば駆逐艦の艦娘のしていたインカムとかはしてないんだな。
あれば連絡が楽だろうに。
蒼龍ちゃんが部屋を出ていき一人になる俺。
思わぬ個室という空間。
色々な思いが巡るが、取りあえずは自分がここに来ている目的を果たさなければいけない。
『聞きたいのはこのカフェに記事になるような大物が出入りしているのかどうか、だけど他のお客さんの事を聞き出すのは中々しんどいな、案外に蒼龍ちゃんは口が堅いんじゃないだろうか』
あくまでも直感であるが、蒼龍ちゃんは何だか口が軽くは無さそうな気が俺にはした。
『でもただ好みの女の子と観劇したじゃ話にならないからな、騙すようで悪いけど何かは聞き出さないといけないよな』
俺は事件記者。
この艦娘カフェに遊びに来たオタクじゃない。
観覧コースの高い料金だって編集部から経費で出ているのだ。
何かを調べなければいけない。
「あ、そうだ、これで」
蒼龍ちゃんがいない内に······
俺はモニターリモコンを手に取り矢印の付いたキーをグルグルと動かすとモニターに写る画面の景色もそれに合わせて動いた。
二階個室から演劇を観れるように設置されているカメラモニター。
アップなどの操作も出来る。
よし。
舞台はまだ幕が下がっているが、そこが目的ではない、俺はリモコンを動かしてカメラを舞台よりもずっと手前をズームした。
そこは客席の最前列あたり。
一般席とはキチンと区切りがされており、そこには十組以上の艦娘と客が一般席よりもユッタリとした二人一組用の席に座っていた。
「幕が上がれば客席は暗くなっちゃうからな、観覧コースの客をチェックさせてもらうかな」
一応待合室で周りの観覧コースの客はチェックしたがもう一度······
もしかしたらパトロンをしている艦娘と観覧する有名人がいるかもしれない。
ここで言う有名人というのは芸能人ではない。
一般客には顔なんて知られていない政財界の者がいるかもしれないという事。
望み薄ではあるが一応のチェック。
「······」
カメラはアップさせたり引いたりしながら観覧コースの客と艦娘を観ていく。
後方からではあるが高い位置からであるしカメラの性能も良いらしくそれなりに見えるが、客の殆どが青年から中年の男子で顔を見ても見覚えはない。
「ま、そんな簡単に見つかれば苦労しねぇか」
そろそろ蒼龍ちゃんが帰ってくるかも。
自分が記者であると気づかれるとは思わないがなるべくなら怪しい事をしている所は見られたくない。
リモコンを置こうとしたが、
「ん!?」
思わず手が止まる。
たまたまカメラが一人の制服姿の少女を捉えた。
ツインテールの幼げな印象の少女。
艦娘じゃないだろう。
彼女と二人一組の席に長い黒髪に眼鏡をかけた艦娘らしい娘が座って彼女と会話をしている。
それに俺の手が止まったのは彼女の顔に何処かで覚えがあったからだ。
「どっかで見た娘だ!?」
かなりの美少女だ。
もしかしたらアイドル関係か?
いやいや、俺は芸能記者ではなくアイドル関係はかなり疎いのでそれはない。
もちろん有名なアイドル、島村卯月とか渋谷凛くらいは顔はわかるがそういうのではない。
「う~ん」
モニターを観ながら唸る。
考えれば不自然だ。
観覧コースは駆逐艦の艦娘を連れても数万円はかかるという金額だ。
制服を着ている年齢の少女にはいかにも高い。
やっぱりなりに金を持ってる芸能人······だったか?
思い出せない······顎に手を当てようとした時、
「おまたせぇ! 持ってきたよ」
「うわぁぁぁ!」
背後からいきなりの声に俺はソファーから飛び上がらんばかりに驚く。
「な······なんでそんなに驚くかな?」
「あ、いや、その」
振り返るとそこには二人で頼んだものを物を乗せた盆を持つ蒼龍ちゃん。
リモコンは置いたがモニターはその少女と感娘を映し出したまま。
「あ、カメラで遊んで客席覗きしてたでしょ? ダメだよ!? そんな事は!」
本気で怒った様子ではないが蒼龍ちゃんは怪訝に眉をしかめた。
「ごめん、ごめん、暇だったから······つい、それにあの艦娘だれかな? って?」
「あーゆーの好み?」
「違う、違うよ、ほらお客さん、いや提督も女の子でしょ? なんとなく気になっただけ」
「艦娘は大淀ちゃん、お客さんは知るわけないよ······制服着た女子高生覗いちゃダメだよ」
蒼龍ちゃんはわざとらしく不機嫌に答えると、盆をテーブルに置くとリモコンのスイッチを切った。
「いやぁ、そんなつもりは無くてさ」
俺は後ろ頭を掻く。
大淀······帝国海軍の軽巡洋艦。
なら駆逐艦娘よりも更に値段が上がるな。
そんな事を考えたが、
「今日は私と一緒にいるんでしょ? 他の娘を観てるとかないよ」
ソファーの隣に座り、クイッと腕を組んでくる蒼龍ちゃんの膨れ顔と腕に伝わる彼女の感触。
可愛くて······デカイ。
「もちろんだって! ホントにたまたまなんだからわかってるよ、蒼龍ちゃん」
俺は頭の回転を中断させ赤面でそう答えるしか出来なかった。
続く