※この作品はR-18です。

ようこそ! 艦娘カフェ   作:ろごたいぷ

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第12話「彼女の横顔」

「決戦南太平洋海戦!」

 

 そう書かれたパンフレットを蒼龍ちゃんは俺の膝の上にポンと置く。

 

 

「あ? これが今日の劇?」

「そうだよ、今日のはシリアス劇だよ」

「へぇ~」

 

 ソファーの上。

 自然に甘えるように俺に寄りかかってくる蒼龍ちゃんの身体の感触。

 緊張しながら俺は平静を必死に装ってパンフレットを開く。

 映画のパンフレットの様な作り。

 主演を務める艦娘の劇への意気込みのインタビューや出演をする他の艦娘達の写真が載せられている。

 

「お金かかってるねぇ、本格的なパンフだね」

 

 ペラペラと色々なページをめくる。

 航空母艦瑞鶴、翔鶴、瑞鳳と説明が付いた少女達がカラーページを彩る。

 皆が相当なレベルの美少女達。

 

「一般のお客様には売ってるものだからね、観覧コースの提督にはもちろんプレゼントだよ、持って帰ってね」

「ありがと」

 

 蒼龍ちゃんに笑顔を返して再びパンフに目を落とす。

 パンフ一つも良くできている。

 艦娘カフェ。

 劇団とカフェ、グッズ販売が主な事業。

 当然かもしれないが興業として成り立っているのだから都内で100人以上の劇団員を抱え込む規模で事業を展開できているのだ。

 人件費だって安くはない。

 しかし劇場興業で出番がない時であっても今の蒼龍ちゃんのようにファンと観覧コースを回ることで役者に利益を出させる。

 本業が役者であろう彼女らに別の適性を問う物になってはしまうが人気役者を遊ばせないという難題を見事に解決している。

 経営に詳しい訳ではないがここのトップは相当な手腕があるに違いない。

 

「ええっと······ここって支配人みたいな立場の人はいるのかな?」

「え?」

 

 俺の問いに蒼龍ちゃんは軽く首を傾げた。

 

「いわゆる責任者とか、まぁ社長とか」

「それなら連合艦隊旗艦の長門さんだよ、あと陸奥さんがサポート役だから、会社に例えると社長も副社長かな? ほら」

 

 蒼龍ちゃんはテーブルの上のパンフに手を伸ばして1番初めのページを開く。

 そこには······

 

「連合艦隊旗艦長門より挨拶」

 

 

 と、いうページがあった。

 凛としたイメージを感じさせる女性が小さな丸写真で文章の上に載っていた。

 蒼龍ちゃんよりも歳上にみえる美人。

 手書きの達筆で今回の舞台について艦娘達の努力を披露しつつ、関係者の協力や来場の提督、一般客への感謝を表す大人の文章が書かれていた。

 長門という艦娘の存在は初春ちゃんから聞いていたから知っているが······

 

『まだ二十代前半の女の子だよな? それがこれだけの劇場を秋葉原に建てて、これだけの規模の劇団を経営出来るものなのか?』

 

 思わず眉をひそめてしまう。

 答えはNoだからだ。

 宝くじが当たった、ちょっとしたマネートレードで儲けた程度で出来る規模じゃない。

 この長門という娘が経営の中心にいるのはアリだが、彼女が独力で艦娘カフェを立ち上げた、というのは絶対に納得できない。

 何か政財界に何かの繋がりがある方が自然だ。

 

「パンフもらっていいかな?」

「ええ、さっきもプレゼント、って言ったよ?」

「ああ······ゴメンゴメン」

「何か集中してないなぁ!?」

 

 グイッ······

 何か情報を得なくてはというモードになって散漫になっている俺に顔を近づける蒼龍ちゃん。

 

「してる、してるって、蒼龍ちゃんとのせっかくの観覧コースなのに集中してないとかないって、ただ緊張してるだけだって!」

「そう? ならいいけどぉ······こんな事を言うのもなんだけど決して安くないコースなんだから、精一杯楽しみましょ」

「もちろん、もちろん」

 

 苦笑いをしてしまう俺。

 確かに仕事も大切なのだが······蒼龍ちゃんとの時間も楽しみたい。

 

「はい、あーん」

 

 不意に目の前に現れる爪楊枝に刺さったホカホカの湯気を立てるたこ焼き。

 横の蒼龍ちゃんが差し出してくれたのだ。

 

「ありがと、おおっ、ウマイ······でもけっこう熱い」

「火傷したら大変、ごめんね、はい、コーラ」

 

 ホフホフと口の中でたこ焼きを転がす俺にすぐにコーラを飲ませてくれる蒼龍ちゃん。

 好みストレートの女の子がこんなに可愛らしく世話してくれるなんて素直に嬉しい。

 口の中のコーラの冷たさとたこ焼きの熱さの微妙な混ざり合いも気にならないという物。

 

「そろそろ、はじまるね」

 

 蒼龍ちゃんがそう言うと2階個室から見下ろす劇場ホール全体の電気が暗くなり舞台にスポットが当たる。

 いよいよ舞台の始まりだ。

 

 

 舞台劇。

 俺は観劇の経験は無かったけど、今回の主役であろう艦娘翔鶴、瑞鶴姉妹、瑞鳳という美少女たちが必死に演じる舞台の熱はすぐに感じた。

 

『凄いな······艦娘をアイドル的な売り方をしつつ、毎日真面目に演劇にも取り組んでるんだな、そうでもなきゃここまで見せられる舞台にはならないよな、それに』

 

 詳しくはわからないが舞台演出も見事で効果音や照明、そして見事な音楽もそれを盛り上げる。

 

「えっと······」

 

 高名な作曲家でも関わっているのかな、と蒼龍ちゃんに聞こうとしたが······

 モニター越しに舞台を見つめる蒼龍ちゃんの横顔に声をかけるのを躊躇した。

 鋭い眼差し。

 形の良い唇を真一文字に結ぶ。

 その真剣さは舞台に上がっている翔鶴、瑞鶴姉妹と同等か、それ以上の雰囲気を感じさせる。

 

『······まるで舞台監督か、舞台女優同士のライバルでも観るような』

 

「そ······」

「え? あ? ああ、ごめんね! ついついカワイイ五航戦の二人の演技にチェック入れちゃってたわ!」

 

 俺の視線に気づいたのか蒼龍ちゃんはハッと我に返った様な表情をしてから笑顔を向けてきた。

 

「第五航空戦隊の翔鶴、瑞鶴姉妹は蒼龍ちゃんからしたらまだまだの後輩って事かな?」

「そうそう、下手な演技して台詞飛ばしてたら後で稽古つけてやろうかと思ってね」

 

 へへへ、と笑う蒼龍ちゃん。

 第五航空戦隊とは日本帝国海軍の正規航空母艦「翔鶴」「瑞鶴」を基幹として編成された航空戦隊であり、真珠湾攻撃にも参加した第一航空艦隊にも組み込まれたメジャーな航空戦隊。

 ちなみに蒼龍ちゃんの第二航空戦隊は実際の歴史上でも彼女たちの先輩的な存在と言ってもいい。

 だからこその発言と態度なのだろう。

 

 

 この態度がいわゆる提督という客の前での『設定』というものなのか、ある程度劇団内での立場も現しているのだろうか?

 

 

 彼女の笑顔を見ながらも俺は艦娘カフェという劇団の規模や徹底した何かに記者としてのアンテナの微かな反応を感じていたのだった。

 

 

続く

 

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