「まだまだ戦えるわよ、何度でも、何度でも、何度でも攻撃機を発艦させて奴らを太平洋から消し去ってやる!」
ツインテールに弓道着という姿の少女の舞台上での迫力の咆哮と共に音楽がやみ舞台が暗転、緞帳がスルスルと下ろされて、
「舞台後半は二十分の休憩を挟んでの再開となります」
と、女性のナレーションが流れ客席の照明がパッパッとつき始める。
「ん~~! 瑞鶴ちゃん、やっぱりガンガン上手くなってるなぁ」
二階個室の観覧席。
俺と一緒にソファーに座っていた蒼龍ちゃんはグッと伸びをした。
「ここで休憩だね」
「そう、20分の休憩、提督みたいに個室で観てる場合はいつでも席を外してトイレに行けるけど下の客席ではそうもいかないからね」
「なるほどね」
2時間を越えるような長い演目。
客も演者にも休憩が必要なのだろう。
観客席の多くの客たちがゾロゾロとホールに出ていく、トイレや物販での買い物を今のうちに済ましておくという事だ。
個室にはトイレまでは無いが部屋を出てすぐに個室観覧提督専用のトイレもあるので慌てて並んで入る必要もない。
「ちょっと席を外すね、ごめんね」
「気にしないで」
蒼龍ちゃんが申し訳なさげに席を立ち、俺は笑顔で首を振った。
トイレかもしれないが無粋な詮索は無用。
それに蒼龍ちゃんが出ていくのは好都合だった。
「······」
蒼龍ちゃんが部屋から出ていくのを見送ると、俺は素早くモニターカメラのリモコンを再び手に取る。
「頼むからこっちはトイレとか行ってないでくれよ」
ここまでの舞台の最中に何度か弄ったモニターカメラの操作を素早く行い、俺はカメラを舞台から観客席の前列を狙う。
観たいのは開演前に偶然捉えたあの席だ。
「いた!」
制服姿のツインテールの少女。
この2階席個室からでは高性能カメラであってもアングルは後方斜め上からだ。
横を向くなり振り返るなりしてくれないか。
蒼龍ちゃんが帰ってこないか、胸が高鳴る。
俺は唇を噛み締めながら彼女の後ろ頭にカメラをズームさせる。
「こっち向いてくれ······」
そろそろ止めるか、観たことがあると思ったのは気のせいかもしれないし······
また蒼龍ちゃんに見つかったら流石に勘繰られるかもしれない、リモコンを元に戻そうとした時、ツインテールの少女がちょうど振り返る。
よし。
スマホをポケットから出してモニターを······
と、思ったが俺の3年落ちスマホくんの立ち上がりが今日に限って遅い。
「おいおい!?」
席からたまたま何か後ろを向いているのだろう、もう数秒も余裕はない。
焦る俺はリモコンのあるボタンに気づく。
録画。
よし、これで。
咄嗟に録画ボタンを押すとモニターに赤い丸が付きカウントがされた。
1秒、、、2秒、、、3秒。
すると彼女は横の大淀ちゃんに呼ばれて席に座り直してしまう。
撮れたか!?
停止ボタンを押すと赤い丸が消える、つづけて再生ボタンを押すとモニターにツインテールの少女が映る。
「よし」
一時停止。
数秒しか取れていないので画面を止め、ようやくカメラを起動したスマホを向け何度かシャッターを切った。
これが何の役に立つかはわからない。
わからないが何かを手繰る糸になるかもしれない。
「ただいまぁ、伊良湖ちゃんのカスタードまん2つ貰ってきたよぉ」
蒼龍ちゃんの元気な声。
ぐっ······何というタイミング。
だが俺は素早くモニターの電源自体を落とし、持っていたスマホを目の前の窓に向けた。
「? 何か撮ってるのぉ?」
「いや、この2階個室から劇場を見下ろす景色って何か壮観だな~ってね、1枚撮ろうかなと、駄目かな?」
「ん~~、演劇中は駄目だけど休憩中ならいいかな? ブログとかやってるの?」
蒼龍ちゃんはテーブルに皿に乗ったカスタードまんを置きソファーの俺の横に座る。
その様子からして俺のやっていた事には気づいていない様だ。
ホッと胸を撫で下ろす。
「やってない、やってない、こんな冴えない男のブログなんて誰も興味持たないって」
「そうかなぁ~」
ズイと蒼龍ちゃんは身を乗り出して俺の顔を覗き込んできた。
ぐっ······カワイイ。
彼女に出会ってから何度も何度も思う。
観客席の少女を盗撮していたという事がバレなかった事に安堵していた胸が急に高鳴る。
「前も言ったけど提督の顔立ち私には好みだよ、彼女さん居ないんだよね?」
「ハハハ、リップサービスでも嬉しいよ、俺も前にも言ったけど彼女さんなんていません」
「ふーん、でもリップサービスなんかじゃないよ、私の好みだよ、提督の顔立ち」
ソファーの上。
座る俺の横から身を乗り出して覗き込む蒼龍ちゃんに俺はやや引きながらになってしまう。
詳しい年齢はわからないが相当な年下相手にまるでタジタジな俺。
蒼龍ちゃんの好みすぎるルックスとサービスの良さが嬉しいが女性経験の少ない俺は対応を迷う。
「それにさ、この間······一目惚れした、って言ってくれたでしょ? ホント?」
「う、うん、本当だよ······」
何かの光が宿る蒼龍ちゃんの視線。
それを逸らす事が出来ず俺は息を呑みながら頷く。
「凄く嬉しかったよ」
「うん」
「······」
「······」
見つめ合う俺と蒼龍ちゃん。
え!?
なに?
いや······ゴクリ
またもや息を呑んでしまう。
「ちょっとだけ、サービス······してあげる」
え?
まさか。
次の瞬間、俺の唇に柔らかい蒼龍ちゃんの唇が重なってきたのだった。
続く