な、なんだぁぁぁ!?
何が来たんだ!?
その突然の衝撃に驚いたが······
目の前には盆に乗った海老天うどんとオニギリ。
それが思いっきり置かれたのか?
「え!?」
「え、じゃないわよ! これ注文したんでしょ? 私が持ってきて上げたのよ、わ、悪い!? メニュー読んでない? これ私のオススメなんだけど!?」
吹雪ちゃんとの話に入り込んだ所で気づかない間、注文の品がやってきたのか!?
見上げる俺を睨むセーラー服にエプロンの女の子。
パッチリと大きな強気そうな吊り目。
花と鈴のついた飾りで結き、長く流した後ろ髪。
見た目の年齢は吹雪ちゃんや朝霜ちゃんと同期かな?
ええっと······バッチは、と······
「ジロジロ見るな!! このへんたいぃぃぃっ!」
怒鳴られた。
わー助けて、吹雪ちゃん。
この当たりの強さ。
もしかしてメイドカフェによくいると聞くツンデレキャラか。
秋葉原の洗礼か?
「あ、あの曙ちゃん、そちらは新任の提督さんだからお手柔らかに······その」
曙ちゃん、って言うのか。
良く見るとエプロンの腰の辺りにバッチがある。
助け舟ありがとー、吹雪ちゃん。
「まぁ······吹雪がそう言うなら、このあたりにしておいてあげるけど!」
「あははは、是非お手柔らかに〜、はじめまして曙ちゃん、エプロン似合うね〜カワイイよ」
苦笑いを浮かべながらの俺の軽口。
すると曙ちゃんの顔面は見る見る赤くなり······
「か、軽口を叩くな! こ、このクソ提督!!!」
その声がカフェに響き渡った時、俺は見逃さなかった。
周囲の他の客達、いや提督達が生暖かい視線をこちらに向けていた事を。
「嵐みたいな娘だった」
「本当はとても頑張り屋さんの良い娘です、もし気を悪くされたなら······」
「平気平気、わかるわかるよ」
そういうキャラ付けなんでしょう?
あんなに怒鳴っても他の反応がああなんだもんな、名物的なキャラなんだろう。
ともあれば自分が謝ってしまいそうな吹雪ちゃんに軽く手を上げるが、キャラ付け云々の言葉は胸にしまいこんでおく。
何か言っちゃいけない気がした。
「まったく曙は相変わらずだなぁ、吹雪のジュースも色紙も持ってこないでさ」
朝霜ちゃんが吹雪ちゃんの分のジュースと紙袋に包まれた色紙を持ってきた。
「吹雪が頼んだジュースにはイラストコースター付くからさ、これね」
天ぷらうどんセットに付くミニ色紙は紙に包まれていたが、コースターはそのまま朝霜ちゃんから目の前にペッと裏にして置かれる。
一応めくって見る楽しみは残してくれてるのだろう。
「ありがとう······えっと、陽炎ちゃん?」
「お~、陽炎だ、陽炎型1番艦」
「おめでとうございます!」
平仮名でかげろうと書かれたツインテールの女の子のイラストのコースター。
朝霜ちゃんと吹雪ちゃんがパチパチと手を叩く。
「陽炎ちゃんはレアキャラ?」
「もちろんですよ、レアキャラです」
「やったぜ!」
笑顔で答えてくれた吹雪ちゃんに大袈裟なガッツポーズを決めた俺だったが、
「まぁ、誰が出てもレアキャラだよ、みんなこの劇団に1人ずつしかいないんだからさ、誰もがレア」
あっけらかんとした朝霜ちゃんにガクッとなり、
「まさか吹雪ちゃんに騙されるなんてオッサンにはつれえよぉ、ぬか喜びだぁ!」
と、入れた自虐的な泣きを2人に狙い通り笑ってもらえたのだった。
海老天うどんの味は美味しかった。
独身の寂しい身、うどんチェーン店にも馴染みがあるがそれらにも負けていない味とボリュームだった。
俺の食べている間、オレンジジュースをストローで飲みながら、美味しいかな? 満足してもらえるかな? どうかな? といった様子で俺に様々な顔を見せてくる吹雪ちゃんのサービスを考えれば満足度はチェーン店を大きく上回っていた。
「ふぅ~、美味しかった」
手を合わせてご馳走さま。
さて、次はどこの説明かな?
それとも吹雪ちゃんが付き合ってくれるのは終わりかな?
そんな事を考えていたが······
「ご飯食べたから少し落ち着かれていきますか? お茶は無料でおかわり自由です、美味しいお茶ですよ」
吹雪ちゃんの笑顔。
まるで急いていない。
どんどん客を捌いていくのという風が全く無い。
吹雪ちゃんがユッタリなのか。
俺は周囲を見渡すが、さっき俺達がここに来た時にはいた客と女の子の組もまだ何か楽しげに会話を楽しんでいるみたいだ。
「吹雪ちゃん、全然急かさないんだね?」
「え? 急かさない、ですか?」
思わず聞いてしまった。
キョトンとする吹雪ちゃん。
「ほら、時間とか平気なのかな、ってね、こういうのは時間決まってるでしょ?」
「一応はきまってますけど、余裕はありますからあまり気になさらないでゆっくりしてください、お茶持ってきますか?」
「お茶は平気だけどありがたいね、この新着任提督のコースっていうのはどこまで案内してくれるの?」
「この後に2階販売ブースのご案内、次回予約やチケット購入の説明をさせて頂きまして終わりになりますよ」
「結構な時間、吹雪ちゃんと一緒にいれるんだね? ところでこの新着任のコースっていうのはお幾らなの? 野暮だから聞かなかったけど、吹雪ちゃんみたいな可愛い娘にこんなに付き合ってもらえるんだから気になってね、いや今から文句は言わないからさ」
俺は笑顔で吹雪ちゃんに聞く。
結構かかるかな?
メイドカフェなんか10分間メイドさんと遊ぶと2000円とかいう店もあると言うしね。
ここまで吹雪ちゃんはかなりの時間俺につきっきりになっている、かなりいくかも。
でも余程法外な値段を言われなければいい。
吹雪ちゃんは可愛かったし、態度も丁寧。
最近の毒のある世界での取材や女っ気もない粗忽な編集部で仕事で枯れた俺の精神の湖を美少女吹雪ちゃんが清らかな水で満たしてくれた。
多少高くてもいいよ、まぁ······結局は経費ですがね。
「えっと······」
戸惑いの顔を見せる吹雪ちゃん。
どうした?
言いにくい程の金額!?
「提督······説明不足で申し訳ございませんでした」
彼女は椅子から立ち上がり、ペコリと頭を下げる。
え!?
謝らなきゃいけないくらい!?
背筋に冷たいものが走る。
今更サービスを受けなかった事には出来ないし······
流石に焦った俺に吹雪ちゃんはゆっくりと顔を上げてから、
「新着任提督コースは私達駆逐艦娘が新任提督さんにお店の雰囲気や劇場の案内、楽しまれる為のルール、システムを説明する為のものであって、もちろんカフェやこれから案内させて頂く販売ブースで提督がお求めの物は料金が発生しますが、私がこうやって新着任の案内をする事には全くご料金が発生する事はないですから安心してください、ご説明が足らずに不安にさせてしまい申し訳ございませんでした!」
と、謝ってきたのだ。
「えっと、じゃあ今のところは······」
「ここで召し上がられた天ぷらうどんセットと私にご馳走してくれたオレンジジュースの代金です······ね」
マジかよ、てっきりサービス料みたいに吹雪ちゃんを付き合わせた代金が取られると思っていたのに。
そこは無しなのか。
もちろん初回という事もあるのだろうがかなりの太っ腹に俺は驚く。
「これだけお世話になって何だか申し訳ないなぁ〜、少しは吹雪ちゃんに案内のお礼がしたいな」
正直な気持ちを言いながら後頭を掻く俺に、
「それなら物販コーナーにご案内した時に私のグッズでも宜しかったらご購入ください、ホントに気に入ったのがあればでいいですよ?」
吹雪ちゃんはそう朗らかに笑う。
ホンマに朗らか娘。
ええ娘。
よっしゃ。
それくらいは経費じゃなくて自腹で買ったるわ。
「では行きますか? もう少しゆっくりしても全然構わないですよ?」
そんな吹雪ちゃんの優しい調子に、
「何だか早く物販コーナー見たくなったよ、そろそろ行こうか!」
と、俺はなぜか気合いが入ってしまうのだった。
続く