カフェの支払いを済ませると吹雪ちゃんとホールに出る。
次の目的である物販コーナーは真ん中のエスカレーターを上がった先にある、とさっき言われたっけ。
「じゃあ、こっちだね」
「はい、ご案内します」
ササッと俺の前を歩く吹雪ちゃん。
行く先はわかっていてもちゃんと案内をするという真面目さが出ている。
吹き抜けの2階に続くエスカレーターを吹雪ちゃんと並んで上がると、そこにはホールの半分ほどスペースの物販コーナーがあった。
ホールの半分と言ってもかなり広い。
物販コーナーというよりは店舗という言い方の方が合っている。
「物販コーナーというよりも店だね、十分に広いよ!」
「ですね、物販コーナーという名前も近々改めるかもしれない、って話も出てました」
雰囲気はアイドルグッズ専門店のそれだ。
ポスター、タペストリーが壁には貼られ、商品棚には色々なグッズが並ぶ。
「いらっしゃませ〜」
そこに現れたのはブレザー制服に身を包んだ長いツインテールの女の子。
あ、あれ?
「君は陽炎ちゃんだね」
「あれ? 吹雪ちゃんに連れられてるのは新任さんだよね、よく知ってくれてるね?」
陽炎ちゃんは名前を呼んだ俺にホォという顔を見せた。
「提督さん、さっき陽炎ちゃんのバッチ当たったんです」
「ああ、なるほど······バッチのイラストに比べて私はどうかな?」
吹雪ちゃんに説明されると、陽炎ちゃんはツインテールを手でなびかせて見せる。
紛れのない美少女。
バッチはディフォルメしたイラストだから可愛らしいのは当たり前だが、本物もイメージも合った可愛らしさだ。
「イラストを何回も見るよりも実物を一回見た方が説得力がある、カワイイね」
「えへへ、さーんきゅ! たくさんグッズあるからゆっくり見ていってね、もちろん吹雪ちゃんのグッズを買って上げるんだぞ!?」
「あははは、無理には平気ですよ、ホントに気に入ったのがあれば」
我ながら中々の褒め言葉に陽炎ちゃんは笑顔でウインク、吹雪ちゃんは苦笑する。
もちろん買うつもりです。
ここまで案内してくれたお礼もあるからね。
「じゃあ、みせてもらうね」
「買い物かごはそちら、何かわからない事があったら遠慮なく聞いてね」
「かごは私が持ってますね」
陽炎ちゃんはレジの方に下がっていき、吹雪ちゃんはかごを持って俺の後ろに立つ。
ううっ······ここまでされて吹雪ちゃんグッズ買わないわけにはいきません。
「まずグッズの基本かな?」
俺が立ち止まったのはブロマイドのコーナー。
沢山のファイルが棚に並べられており、ファイルを見ながら欲しい艦娘のブロマイドを選び、気に入ったのを直接取る形。
どれもが1枚400円となっている。
「えっと······ふ、ふ、あら五十音じゃない?」
「わ、私のを探してくれてるのなら特型駆逐艦というファイルの初めの方です」
「ありがと」
やや控え目に声をかけてきた吹雪ちゃんに礼を言いながら特型駆逐艦と書かれた厚めのファイルを開く。
中身はアルバムみたいな物だ。
「おおっ、吹雪ちゃんの写真が沢山!」
「あははは、ブロマイドは手間がかからないので私みたいな艦娘でも沢山あるんです」
「またまた謙遜を、吹雪ちゃんのページはかなりブロマイドか欠けてるよ、売れてる証拠じゃない?」
吹雪ちゃんのページには空きが多い、という事はファンが抜いていって買っているという事だ。
店舗係の艦娘によって補充もされているのだろうが追いつかないのだろう。
「売れてるなら嬉しいですね〜」
「ちゃんと売れた分だけ本人にも還元されるんでしょ?」
「それは企業秘密です、すいません」
「言いにくいだろうねぇ、じゃあ俺も2枚ばかり買わせてもらうか」
吹雪ちゃんと話しながら俺はファイルから抜いたブロマイドを彼女の持つカゴに入れた。
ブロマイド2枚だけじゃ、もちろん寂しい。
俺は近くの棚に飾られていた「特型駆逐艦一番艦吹雪」と書かれたタオル、そして特型駆逐艦姉妹と書かれたポスターも入れる。
飾られた見本によると吹雪ちゃんと何人かの艦娘が一緒に映ったポスターの様だ。
「あと、これも買うかな······」
吹雪ちゃんのディフォルメされたイラストの描いてある湯呑み。
「ふぶき」と平仮名で名前が書いてあるから、これはバッチにも使われている絵柄なのかもしれない。
「こんなに、ホントに良いんですか? 値段は見ていられるとは思いますけど、そんなに安くないですよ?」
「もちろんだよ、俺は普段使いしちゃうからキレイにはとっとけないかもだけど」
「私はそういう方が嬉しいです、決して安くはないのにありがとうございます」
確かにグッズという物は安くない。
アイドルにしてもアニメにしてもそれは共通する所だろう。
でもいいや。
自分のグッズが売れるのを見て喜ぶ吹雪ちゃんと笑顔を向け合う。
「宜しかったら······他の艦娘のグッズもあるので見てくださいね」
「わかった」
そうだね。
陽炎ちゃんや朝霜ちゃん、曙ちゃんとみんな美少女揃いのこの劇団だ。
他の娘もよく観てはいないけど、きっとレベルが高いに違いない。
俺は店内を見渡して、店の中心に特設コーナーのあるのを見つけて歩み寄る。
「今回の特設コーナーは航空母艦の皆さんですね」
「俗にいう空母の人達だね」
「そうです、私達駆逐艦が護るべき大切な方々です、劇団でももちろん花形を飾る人たちが多いんです」
航空母艦赤城さん、かぁ。
壁にかけられた等身大のタペストリー。
そこには黒髪ロングの美人さん。
胸当てをした弓道着の上着、短い赤袴、腿までの白く長い靴下に草履。
空母を現す飛行甲板を鎧の様に付けている。
「スゴイ格好だねぇ、コスプレだ。」
俺の思わず出た言葉に、
「コスプレじゃありませんよ、艤装です、艦娘が舞台に立つ際の戦闘用の艤装······言うなれば私達の本当の姿です」
「ああ、そうか、みんな船なんだもんね」
吹雪ちゃんがクスッとしながらも、直ぐに注意してきたので俺はコクコクと頷いた。
いわゆる艦娘の舞台上での正装というヤツなんだな。
ブロマイドを思い返してみれば、吹雪ちゃんも船を思わせる部分を背負って、手には小さな主砲のような物を持っていたのもあった。
「そういえば吹雪ちゃんのブロマイドにも艤装を付けているのもあったね」
「はい、ホールやカフェ、物販コーナーやイベントに出る時は装備品は危ないので外しますが、本舞台では艤装を付けていきますね」
「本舞台?」
「あ、説明不足ですいません、本舞台というのは大劇場でおこなわれる長編の舞台の事です、金曜日、土曜日、日曜日に週3回おこなわれる舞台興行です」
「メインイベントって事だね?」
「はい、基本的には月で舞台は変わっていきます、その日にはホールもカフェも沢山の人で賑わいます」
「ぜひ、見てみたいね」
「後で本舞台のご予約等を詳しく案内しますね」
キッチリとスマイルを決める吹雪ちゃん。
本舞台を一回は見てみるのも良いとは思う。
取材を考えるなら噂される著名人を見かける可能性もあるのだから。
「宜しく頼むよ、ぜひ見たいからね」
吹雪ちゃんにそう答えてから、再び特設コーナーに目を移す。
本舞台にイベントか。
それらに参加できれば関係する著名人をさぐれるか?
噂の著名人達がどう劇団に関わっているかはわからない。
パトロンみたいに女優個人を囲っている可能性もあるか。
それはそれでスキャンダラスではあるが······余程の大物を掴まないとインパクトは薄い。
「············あ」
そんな事を考えながら、ふと目に入っただけの大きなポスターに俺は足を止めた。
「この娘······可愛い、凄くいいな」
取材云々の思考が飛んだ。
そのポスターに思わず素直に呟いてしまった。
いや、ここまであった艦娘達も、吹雪ちゃんを始め十二分に可愛らしかったのだが······
思えば、この出会い!? がこの秘密の取材を予想外の方向に吹き飛ばしてしまったのである。
続く