「たくさん買われましたね、ありがとうございます!」
吹雪ちゃんとエスカレーターを降りる。
彼女の手には俺の買ったグッズの入った袋。
自分で持つと告げたのだが提督に物を持たせて自分が手ぶらなんて出来ません、と断られてしまった。
「私についてきてくださいね、受付で次回予約等の説明をしますから」
エスカレーターを降りると吹雪ちゃんはホールの入口近くの隅に向かって歩く。
そこには長机とパイプ椅子が置かれており、対面一組ごとに簡易的な仕切りが数カ所用意された場所になっている。
「ここが受付なんです、こちらにどうぞ」
勧められた手前の椅子に座ると吹雪ちゃんが奥側対面に座り、置かれていたタブレット端末を取り出す。
ここまでは立派な施設のイメージがあったがここは少し質素だ。
「本日は提督着任おめでとうございます、最後に次回からの来店のご予約の説明をさせて頂きますね」
「宜しくね」
笑顔で頷くと吹雪ちゃんはタブレット端末を少し操作してから、画面をこちらに向けてきた。
「基本的には本鎮守府のご来訪は予約制となってます、カフェと物販コーナーを艦娘と回る基本1時間のご遊回コース、本劇場開催時のみの艦娘と一緒に劇観覧の後にカフェと物販コーナーを回る観覧コースがございます、予約の必要のないご来訪は劇場一般チケット、イベントチケットをお持ちか、予約やチケット取得を直接窓口に来られた方ですね」
「予約済で来るのは遊回と観覧コースなんだね? あ、初回も予約がいるんだね?」
「そうです、今日みたいなイベントも本舞台もおこなわれていない場合は観覧コースもないので、今日の提督のような新着任、次回の予約を取るかやチケットを買いに直接受付に来られた方を除いては皆さんがご遊回コースの方々ですね」
なるほどな。
今日は本舞台もイベントもない、そんなに忙しくはない日なのかもしれない。
新着任という初回さん。
俺も本来ならば予約が必要だったが、吹雪ちゃんの親切で新着任コースを回れた。
感謝だけど、今日がもし本舞台のおこなわれている日だったら忙しくてダメだったかも。
吹雪ちゃんと楽しく話をしながらゆっくりと施設も回れたし、運が良かったのだろう。
「じゃあ、カフェは1人でフラッときて入ることは出来ないんだ?」
「そうですね、基本的には一人で入ることはありませんよ、艦娘と一緒に入りますね、物販コーナーはその限りではないので予約に来られた提督や演劇を見にきたお客様も入れますけど」
「へぇ~、物販コーナーは入れるんだ、カフェも一般も入れた方が流行ると思うけどね」
「そうすると遊回コース、観覧コースの提督さんが長い時間待ってしまう恐れがあるんですよね、特に本舞台の時は劇場を訪れる一般のお客様が多いですから、カフェのキャパシティをすぐに越えてしまうので」
なるほど。
収容数百人規模の演劇の前後でカフェが一杯になるのは当たり前。
それでお高いであろうコース予約をしていて入れないのはショックだもんな。
そうやって調整してるんだな。
そう言えば······
「お客様、ああ······本舞台の劇場やイベントにきた人はお客様でコース予約した人は提督なんだね?」
「え!? そうです、そうです、ちょっと気になりましたか?」
「ひょっとして艦娘が付いてる人が提督ということ?」
「はい、でもお客様も提督も私達には大切な方々なんですよ」
そういう呼び方の区別があるのか。
吹雪ちゃんは笑いながら答えた。
「それで、ここで次回の予約を取るか、チケットを取るかをすれば次がスムーズなんだね?」
「そういう事です、恐れ入ります、ここで各々の説明をもう一度しますか? 気になるコースを詳しく話しますけど?」
そうだな。
俺は考える。
とりあえずは本舞台の劇やイベントのチケットはいいだろう。
艦娘が付いてくれないので情報を集められないし······舞台と小劇場に立ち入るだけでは情報収集としても不足だろう。
残るは遊回コースと観覧コース。
このうちのどちらかだろう。
「じゃあ、遊回コースと観覧コースについて詳しく説明してくれるかな?」
「はい、では遊回コースから、これはご指定された艦娘と一緒にカフェでお食事とお茶を楽しんだ後で物販コーナーを回ります、所要時間は一時間ほどです」
これは今日、吹雪ちゃんと回ったコースとほぼ一緒だよな。
今日は公演はしていないから観覧コースの客はいない筈で、カフェにいた周りの感娘と客達は遊回コースなのだろう。
やけにゆっくりしていたのは1時間という長めの設定時間からか。
物販コーナーで20分ほど時間を使うとしてもカフェで40分はいれる計算だ。
「かなり余裕のある予定だね、推しの艦娘とそれだけいられたら満足だね、えっと······このお値段は」
「こちらはご指名の艦娘によって変わりますね、リストがありますからタブレット端末でご検索ください、表示されているお値段にはカフェや物販コーナーでの食事やお買い物は別になりますね、あと遊回コースお土産の福袋が最後に付きます」
カフェや物販コーナーが会計別なのは今日と同じ、当たり前だよな。
俺はタブレットを受け取って画面を見る。
遊回コース艦娘予約選択画面となっていて、まだ誰も画面には出ていないが右上に検索用に名前を入れる欄があった。
「ちょっと見てていい?」
「もちろんです、劇団専用の予約アプリなので検索は平仮名で結構ですよ」
まずは······吹雪ちゃんだな。
遊回コースは値段が理解しやすい。
ここで吹雪ちゃんを1時間客が拘束する単価がそのまま出るからだ。
8000円。
その表示と共にセーラー服の吹雪ちゃんが画面には映し出される。
うーむ、これは安いのか高いのか?
単価がそのまま出るとはいったがお土産代を考えるとこんな物か?
いや、風俗ならめちゃくちゃ安いんだが······違う、違う、内容が違う。
もちろん他の娘も。
ツインテールの可愛かった陽炎ちゃんと······
8000円······同じだ。
じゃあ、あの気っ風の良さそうな正確にスラッとした脚が印象的だった朝霜ちゃん。
7000円······あ、少し安い。
人気云々言ったら朝霜ちゃんに失礼だけど、これは経験年数やこの中からお給料を貰う本人の意向もあるのかもしれないので、大きな要素ではあろうが人気だけを表した指針にはならないだろう。
「えっと······じゃあ、赤城さん······あれ?」
検索欄に平仮名で赤城と入れたが予約不可の表示が出る。
「あ、赤城さんは遊回コースにはエントリーがありません、基本的には大型正規航空母艦、戦艦、その他一部の方は遊回コースにエントリーしてないんです······えっと、その皆さんは観覧コースにはエントリーしてます、あ、あと当たり前ですが舞台に出番のある艦娘は観覧コースにはエントリーがありません」
そうなんだ!?
正規航空母艦や戦艦の艦娘はやっぱり花形という立場なんだな。
いわゆる1時間単位の細かい仕事じゃなく、観覧コースという仕事をするという事か。
あと舞台に出番のある人が観覧コースにいないのは当たり前ですよね?
じゃあ······
「観覧コースについて説明してくれる?」
「はい、タブレット画面上部のコース切替を押してもらえますか」
「うん」
その通りにすると、画面が観覧コースという名前に切り替わる。
「観覧コースは本舞台のおこなわれている日のみのコースとなります、まずは来賓待合室での指名した艦娘との顔合わせの後、劇場来賓席での本舞台鑑賞、その後にカフェでは特別のお食事がでまして、物販コーナーという流れになり、鑑賞コース用のお土産もあります、時間は本舞台の題目によるのでハッキリとは言えませんが、3~4時間くらいになりますね、昼と夜の部がありまして内容は同一です」
遊回コースに2人での舞台鑑賞が付いてるんだな。
それだけ長い時間、艦娘と一緒。
そういうコースか。
多分、遊回コースよりお土産も豪華なのだろう。
それなら、まずは。
吹雪ちゃんで検索すると······
6万円。
お高い!
スゴい。
でも吹雪ちゃんの拘束時間が最大4時間プラス来賓席という場所での舞台鑑賞、カフェコーナーでは鑑賞コースのみの特製メニューが出る、更に土産が豪華なら?
ううん、得なのか何なのかわからん。
でもファンならありか。
憧れの舞台女優さんとデートみたいなシチュエーションなんだから。
えっと······あ、あった、あった。
予約状況確認。
「あら? 吹雪ちゃんは今週と来週埋まってるね、再来週もあと一枠だ」
「すいません、お陰様で」
やっぱり埋まるんだ。
こんな吹雪ちゃんが人気がない訳がない。
昼と夜の部が1日にあって、週三回の公演。
1月を4週と考えると、月24回。
スゴいお金か動く。
それなら······この娘は、、、
埋まってるだろうな。
予約の申し込みは1ヶ月先まで設定できるみたいだが、一杯なんだろうなぁ。
そう思って······ダメ元である名前を打ち込む。
「あれ?」
空いてる?
それもほとんど空いている。
吹雪ちゃんが人気があるのか?
俺は検索画面に戻り、朝霜ちゃんや陽炎ちゃん、赤城さんと予約状況を確かめたが、全員がほぼ埋まっているか、なんとか1、2枠か空いてるくらいだった。
何でだ?
値段かな?
朝霜ちゃんや陽炎ちゃんは吹雪ちゃんと大差がない値段、赤城さんはなんと10万5000円。
赤城さんが高いのはもちろん格なのだろう。
舞台でも花形なのに違いない。
それでも予約は一杯、それは額に誰も文句がないという事なのだろう。
でも······その娘は9万7000円。
赤城さんには敵わないが高額。
ここの舞台女優としても代表格なのだろう。
それでも予約はほぼ空いてしまっている。
ええ、人気がないのか?
それとも······
いや、深く考えても仕方ない。
「えっとさ、吹雪ちゃん、じゃあ一番近くでこの娘との予約をお願いできる?」
予約受付の画面のままタブレットを吹雪ちゃんに差し出した。
「かしこまりました、遊回コースにエントリーがないので、鑑賞コースのみになりますけど宜しいですか?」
「そうだね」
「じゃか、直近なら次の金曜日昼の部の観覧コースとなります、宜しいですか?」
「いいよ」
タブレットを操作しながらの吹雪ちゃんに俺はやや緊張しながら頷く。
「予約終了しました、では確認します······金曜日、昼の部の観覧コースのご予約です、お付き添いの艦娘は航空母艦蒼龍さんです、宜しいですか?」
「うん」
もう一度頷く俺。
蒼龍。
聞くに勇ましい名前。
しかし、吹雪ちゃんがこちらに向けてきたタブレットの画面に映るのは、さっき俺が思わずポスターに足を止めてしまった短めのツインテールの微笑みを浮かべた女の子であった。
続く