「この辺りでいいじゃろ」
初春ちゃんと俺はホールの隅に移動する。
「悪いね、忙しいんでしょ?」
「気にするな、観覧予約の提督が少し早く来たくらいで外に追い返したとなったら私が提督の推しの艦娘に怒られてしまうわ」
なるほどね。
「ところで今日は誰の観覧コース予約なのじゃ? 到着を知らせておこうかの」
耳に装着した小型のインカムのバーを口元に伸ばす初春ちゃん。
吹雪ちゃんも付けてたヤツだ。
駆逐艦の艦娘は何かと色々とやって忙しいのだろう。
その辺りは実際の太平洋戦争の日本軍の駆逐艦も物資人員輸送から護衛、哨戒にもちろん戦闘と戦艦や巡洋艦よりも駆けずり回ったのと同じだ。
「俺が予約したのは蒼龍ちゃんだよ」
「ほぅ、そうか蒼龍先輩か」
初春ちゃんはそれを聞くとインカムを伸ばして何やら何言か報告するとインカムバーをしまう。
「うん、やはり案内は30分からになるの、それまではゆっくりとお話じゃ」
「有り難いね」
取材のチャンスだな。
俺は素直に思う。
「ここに来るのは2回目なんだけど、やっぱりここは大きいよね?」
「そうじゃな、立派な劇場じゃ」
「だったら親会社って立派な会社なんだろうな~、どんな会社なの?」
「うむ、わらわは艦娘カフェの駆逐艦として所属しているだけじゃからな、そういう事はよく解らぬな」
「艦娘カフェに雇われていると?」
「所属の駆逐艦じゃ、あと雇われているのではないぞ!? 艦娘カフェ連合艦隊の所属として奉公しておる身じゃ」
ふぅむ。
吹雪ちゃんもそうだったけど徹底してるね。
あくまでも連合艦隊という中に所属している駆逐艦の吹雪なり、初春なりという事か。
あまり突っ込んでも初春ちゃんが気を悪くするのも良くないな。
「連合艦隊? じゃあ誰が一番偉いの?」
「それは旗艦の長門先輩じゃ、我ら連合艦隊を取り仕切っておる」
長門。
実際の連合艦隊でも戦艦長門は国民的な人気を持つ旗艦を勤めていた。
この艦娘カフェでもリーダー的な存在なのだろう。
会えたとするなら取材も捗るに違いない。
「長門さんかぁ、会いたいけど今は初春ちゃんがいてくれるからいいや」
「上手いことをいいよるわ」
扇子を口元に当てクスクスと笑う初春ちゃん。
うんうん、カワイイですね。
「初春ちゃんや蒼龍ちゃんは仲間の艦娘は何人くらいいるんだい? 随分といそうだけど」
広いホールを忙しげに回る娘、提督と愉しげに歩く娘、カフェエリアで働く娘と視界に入るだけでも10人は越えている。
裏にはまだいるのだろう。
「そうじゃのう······今日は公演日でもあるから出演者や裏方に回っている者も含めて、軽く50は越えて出撃しておるだろうな」
出撃。
艦娘達は出勤をそう言うんだね。
それにしても······
「多いね、いや、まぁこれだけの劇場をカフェや物販コーナーも含めて回してるんだから当たり前か、じゃあ今日休んでる艦娘を含めると全員では?」
「全員なら100は軽く越えとる」
「100!?」
「うむ、軽くと言ったから130くらいかもしれん、とにかく気づいたら仲間が増えておるからな、その辺りはホームページでも視た方が早いぞ?」
予想を越えた人数。
俺は思わず声を上げてしまうが初春ちゃんは扇子をパタパタとさせて平然としている。
「何せ劇場には艦娘しかおらんからな、設備の委託業者や取引先の人間はおるが基本的にはここで働いているのは全員艦娘じゃ」
「······なるほどね」
さっきも初春ちゃんが言っていたが裏方も全員艦娘という事だ。
まぁ、全員が女性という事となる。
しかし多いと思う。
「じゃあローテーションで艦娘は出撃を回っているのかな? 週何回とか何曜日とか決めて」
「······それもあるがカフェはここだけではないぞ!?」
「え?」
「ここは秋葉原鎮守府じゃ、規模は異なるが横須賀鎮守府もあるのじゃ」
「そうかぁ~、じゃあ横須賀でも同じ感じで」
「ここ程ではないがの、基本的には同じことをしておる」
他にも店があるのか。
そう考えると初春ちゃんには教えて貰えなかったが運営会社は相当な規模でこの事業を展開している。
そりゃ政財界との繋がりもあるか。
「大きいんだねぇ~、そうなれば初春ちゃんみたいなカワイイ娘にはグッズを買ってくれたりコースを予約して貰ったりしてくれるファンも付くでしょ?」
「貴様がなってくれてもよいのだぞ?」
!?貴様。
呼び方にはビックリしたが、初春ちゃんの扇子で顔を半分隠した可愛らしい仕草で相殺された。
それよりもカワイイ女の子が男を誘う瞳。
扇子から覗くそれに背筋がブルッとなってしまう。
「も、もちろんだよ、早く来ちゃった俺の暇潰しに付き合ってくれたしね、帰りにでもグッズをちゃんと買わせて貰うよ」
「ふふふっ、本当だと良いがの」
「ホントだよ、ホント」
初春ちゃん。
きっと自分がとびきり上等にカワイイ女の子だという自覚あるに違いないなぁ~。
敵わない。
そんな歳上の俺を見事に転がしながらクスクスと笑っていた初春ちゃんだったが、
「いや······今日は止めておいた方が良いな、推しの艦娘と物販を回るのにわらわのグッズを買うのもどうじゃろうからな」
と、何かに気づいたようにパチンと扇子を閉じて俺から顔を逸らす。
!?
違和感。
ここまで話していた雰囲気が明らかに変わった。
しかし······俺はそれを気づかない振りをする。
何かあるような気がしたからだ。
「平気じゃない? この間の吹雪ちゃんも一緒に他の艦娘のグッズを買ってもどちらかというと喜んでくれたし、蒼龍ちゃんは前に少し挨拶されたけどそういう事で怒る感じしなかったけど? 確かに蒼龍ちゃんの前で初春ちゃんのグッズだけ買うのはどうかと思うけどちゃんと蒼龍さんのも買わせて貰うよ!?」
わざと呑気に言ってはみたがこれは本音もかなり含んでいる。
初春ちゃんの言うことも解らなくもないが、蒼龍ちゃんにはそういう所がある感じはしなかった。
あくまでも俺の低いレベルでの女子への観察眼であったのだが·····
「まぁ、ここでも色々とあるからの、一緒に観覧コースを回るのだから蒼龍先輩に気を遣わせるではないぞ」
初春ちゃんはそう言ってホールの中央の柱にかけられたデジタル時計を見上げ、
「さて、時間も近くなってきたし、そろそろ蒼龍センパイに引き継ごうかの、行くぞ?」
と、俺を優しく促すように手を伸ばしてから歩き出したのだった。
続く