僕の生まれはかなり特殊だった。
前世の記憶があり、男子校に通う僕はクラスでもかなり暴力的な生徒によって犯されてしまい、僕自身男性恐怖症に陥って気付けばお風呂場で手首を深く切り裂いていた。
小さい頃から何かと女の子に間違われ、160㎝と言う低身長も相まって高校生でも男子から告白を数多く受けていた。
そんな僕がどうして…。
手首を切り裂いた辺りから僕の意識は混濁し始めていたが、どれだけの時間が経過していたかは分からないけど気付いた時には生まれ変わっていた。
女の子として…。
僕の前世では、実家が室町時代から続く由緒ある武士の家系だった事から、家の子は強くてはならない…そう教えられて育って来た。我が家では『立花武術』と呼ばれる柔と剛両方を取り入れた殺陣術が受け継がれており、僕が男性では華奢過ぎだからと祖先
立花家では他にも重きを置くものがあった。
祖先である立花宗茂は豊臣秀吉が没した後、関ヶ原の戦いで石田三成に組した過去があった。だがそれは歴史にある通り、徳川側が勝利した事で窮地に陥った。
それらの過去を踏まえて『千手必勝』と呼ばれる言葉を残し、先手では無く未来すら見通す千の手を考え行動せよと言う教えだった。雑学や情勢に戦略、情報戦略を徹底的に把握した上で自身の行動を起こす様に小さい頃から学んでいた。
それでも男に襲われた…。
あの日を僕は忘れる事など出来ないだろうな——凄く怖かったし辛かった、学校の空き教室で行われた行為は見廻りが来るまで行われていたらしいが、僕自身は数十分の記憶以外は意識が混濁していたせいでよく覚えていない。
だからだろうか、今世では前世の慢性的な習慣すら本気で稽古を行なったりしてた。僕があの時女の子じゃなかったから、女の子達が生きて行く中で無意識に回避する処世術が無かった事を反省したし、未だに男子が怖いと思ってしまう。
因みにだけど、恋愛対象が未だに定まっていないけれど男子は怖い存在だと思う反面、女子は女子で腹黒い意味合いで怖い…。
現在はバスに乗り、進学先である『東京都高度育成高等学校』へと向かっている。前世と同じで日本人としては異端な銀糸の様な髪を持ち、瞳の色は綺麗なアクアブルーの宝石眼で周囲を観察する。
そんな中、乗車率が110%越えの車内だけど多くの目を釘づけにする存在を数名感じてた。金髪でガタイが良いかなり変人臭のする男子生徒、そに彼に割と近い位置に佇む金髪セミショートの胸が大きい女の子…黒髮ロングで性格がキツそうな女の子と、向かい側に居るどこか野暮ったい雰囲気なのに無機質な茶髪イケメン。
取り分け女生徒が多い座席に座る僕は、何故か昔から男性に視姦される傾向が強い。前世では男子校だったからだと思っていたが、どうやら僕は女の子の中でも超絶美少女と呼ばれる部類らしい。
キモい…
この言葉が思い浮かぶのは男子達が悪いよね?
すっかり女の子の人生と前世が同じぐらいになってしまい、所作は前世から中性的だと指摘されていたが、今では無意識に女の子女の子していると我ながら思ってしまう。
「ねえ貴方!席をお婆さんに譲ってあげてくれないかしら?」
「……」
「貴方に言っているのよ!?」
「はぁ——実にクレイジーなレディーだね〜何故私がそこの老婆に席を譲らないといけないんだね」
「なっ!?なんて失礼な子なのかしら!貴方が座っているのは優先席なのだからお婆さんに席を譲って当然でしょう?それに貴方は目上の者に対しての口の利き方も知らないの!?」
「実にナンセンスだね〜私が座っているのは確かに優先席ではあるのだが、優先席は優先席であって法的強制力のないものなのだよ。席を譲るかどうかは私が決める事だろう?それと、レディーは確かに疑いようが無く私より年上ではあるが、目上とは立場が上の者を指す言葉でレディーはそれに当たらないでは無いか」
「!?」
そこからは酷かった、OL女性は若者いびりをしたいだけの自己中な偽善を振りかざし、老婆がどうしたいかを完全無視して暴走していた。そんな中で『あざとい』を絵に描いたような女生徒が、歩みを進めて唯我独尊な男子へと近づいた。
「あの…私もお婆さんに席を譲った方が良いと思うよ?社会貢献にもなるだろうし、お婆さんもとても辛そうだよ?」
「はぁ——今日の私はどうやら女性運が無いようだね…確かに社会貢献にはなるだろうね。けど私は社会貢献には興味がないのさ——それに優先席か一般席の違いなど余り問題では無いだろう?私ばかりに矛を向けるなど実にクレイジーなレディー達だ」
「……すみません!どなたかお婆さんに席を譲ってあげて頂けませんか?お願いします」
『承認欲求』この言葉が直ぐに頭をよぎり、彼女の行動理念や言動を終始分析していたが、彼等の近くに座るOLの女性が席を譲ってあげた事で事無きを得た。僕自身が譲れば早々にかたがついたが、僕の座る座席はお婆さんからかなり遠く、走行中に譲るべき場所では無かった為に不介入を決めた。
それにしても、東京都高度育成高等学校の生徒達は殆どが傍観を決め込んでいた様で、生徒達の人間性を若干疑う気持ちが湧き上がった。
無事に学校へと辿り着いた僕は、先頭側にいた為誰よりも早くバスを降りて校舎へと歩みを進めた。ここで、余談ではあるが僕の一人称は私を使用しているけれど、家族や相当に気心が知れた相手になると無意識に僕と言ってしまう。
歩みを進めて1分も経たない内に違和感を覚えた——監視カメラの個数が異常に多く、校舎に向かう途中ここは危険だなと言う場所が意図的に外れた設置位置が存在した。
『東京都高度育成高等学校』の入学案内では、巷で噂の国営にして異質な学校と呼ばれる由縁が書かれていたが、初日にして既に不安が僕の心を締め付けている。
①我が校は全寮制であり、如何様な理由であっても敷地外からの通学を認めない。
②在学中は学外との接触を一切禁じ、緊急性の高い案件以外では決して連絡をしてはならない。
③本校では、入学金・学費・寮費は全て無料
④本校敷地内では、電子マネー決済のみで行われる為銀行と言った現金を扱う施設は一切無い。
もっと細かい内容が書かれているが、ピンポイントで挙げるとここら辺の内容がかなり特殊だ。現代日本で唯一、鎖国された治外法権と言える程厳重な情報規制がされており、この学校の噂は外部に一つも漏れて居ない。
60万平米もある敷地、学校として必要な校舎・講堂・体育館・運動場・プール・各種運動施設に加え、大型スーパーが数件に巨大モールが存在し、飲食店は和洋中全てがある上にラーメン屋やホームセンターなどまである。コスメショップ・眼鏡屋・ドラッグストア・漫画喫茶などまであるのだから思春期の子供に人気なのは当然だろうね。
遊戯系に関しての項目には、映画館・ゲームセンター・スポーツジム・巨大プール・ラウンドワン・漫画喫茶
飲食店に関しては、チェーン店の各種に加えてフレンチや焼肉屋、お寿司屋に蕎麦屋などの変わり種まであるのだ。
ショップ系が一番多い施設だろうが、家電・家具・遊具・服・アクセサリー・鞄・靴・ドラッグストア・眼鏡屋・本・ホームセンター
サービス系も各種あり、ジム・格闘技教室・護身術教室・歯医者・総合病院・警察・運送・理容院・美容院etc
僕が思考の海にダイブしながら歩みを進めていると、校舎入り口の掲示される新入生への案内板を見つけた。そこには全てのクラス表が掲示されており、校舎の簡易案内図も一緒に配布されていた。
僕のクラスはどうやらDクラスらしいけど、僕と同じクラスの表を見て向かう生徒を見て更に不安が募る。
クラスの前まで辿り着くと、教室内では既に半数の生徒が教室内に集まって居た。教室前面に張り出された席順に書かれた『立花 麗華』の文字を見て、自身の席に向かおうと振り返る。先ほど校舎前のクラス表で見掛けた不快な男子生徒が気持ち悪い笑顔でこちらを見ていたのだが、席に辿り着いた瞬間の言葉に背筋が凍った。
「うぉぉお〜何だこの学校!マジ楽園じゃねぇ?美人に美少女ばっかだし、絶対に可愛い彼女を作る!?」
「マジそれな!俺はぜってぇあの銀髪超絶美人をパコパコする!」
「「「「……」」」」
多くの女子達からは既に軽蔑の視線を向けられており、僕を見ながらエッチすると公言している彼に恐怖を覚えた…。僕は不意に前世を思い出してしまい自分の席で震えていた。
「ねえ…大丈夫?」
「キモ」
話し掛けて来くれたのは僕の前の席で、席表で松下千秋さんと書かれた女の子だった。彼女は本気で心配している様で、僕の両手を包んで覗き込んできた——松下さんの声の後に聞こえたのは、僕の後ろに座るマイペースそうな長谷部波瑠加さんの暴言だった。
「あ…りがとう」
気付けば周囲には数名の女子が心配そうにこちらを見ていた。後に知ったのだが、そこに居たのは小野寺かや乃・篠原さつき・王美雨・佐藤麻耶と言う名前のクラスメイトだ。
どうやらだいぶ顔色も悪くなっていた様で、数名の男子すら僕の異常事態が先程僕とヤルと公言した男子だと気付いていた。そんな中で平田君と言うクラスでは一際キラキラを振りまく男子が、職員室にDクラスの惨状を伝えに行ってくれた様で事なきを得た。
僕は余りにも体調が悪くなったせいで、保健室に松下さんと長谷部さんに連れられて向かう事になり、入学式や初期の説明は保険医の星之宮知恵先生によって同様の説明を別途受けた。
その上、体調不良の為説明を録音する事を許してくれたお陰で寮に戻って聞く事が出来た。
僕も自室でだいぶ落ち着きを取り戻すと、ずっと心配してくれていた松下さんと長谷部さんが部屋に訪れて来て、二人は風邪では無いが看病をする為にゼリーやおにぎりと言った食べやすい物を買って来てくれていた。
「ねえ?本当に大丈夫なの?」
「私も、あれはキモすぎて同じクラスで居るのが苦痛だよ。あいつら私の胸もジロジロ見て興奮して——死ねば良いのに」
「ありがとう。だいぶ落ち着いたかな……」
松下さんが言うには、保健室であった茶柱先生がキモ男筆頭山内春樹には警告をしたらしく、法的にセクシャルハラスメントに該当する事や、強姦を匂わせる発言に停学や退学を匂わせた注意をしてくれたらしい。
長谷部さんの歯に衣着せて話さない率直な意見により、クラスの大まかな情勢や人物像が語られたり、今日あった茶柱先生の話に話題転換されて行った。
「それにしても茶柱先生の言い方が変だったんだよね〜ちっぴーはどう思う?」
「ちっちっぴー?「そっ!千秋だからちっぴー」……10万prは正直多過ぎて不安を感じるかな…それ以外にもかなり含みのある言い方が多かったかな」
「レイたんも同じ内容を聞いたんだよね?」
「……えっと、星之宮先生に録音を許されてるからもう一回聞けるけど一緒に聞く?」
「「そうしよ(っか)」」
『毎月1日にpr支給する』
『入学出来た私達の実力が10万prの価値があって支給』
『本校敷地内ではprで何でも買える』
明らかに毎月10万prとは言っていない上に、入学時点での実力を評価して10万prをボーナス支給したように聞こえる。それに入学時点で評価出来る範囲なんて、入試と面接に加えて過去の成績表でしか僕達を測れない——良い子ちゃんにした面接や入試、全部を測れない大まかな中学時代の評価や担任の数行の人物像…。
明らかに過大評価された内容で10万prを支給されている。
今後の支給額に触れて無い事から、来月以降の金額は学校基準の『実力』で測って支給されるかもしれない。
その上『本校敷地内ではprで何でも買える』と言う言葉は、余りにも不自然な言い回しで、普通はprで買い物が出来るとかそう言った言い方をするだろうけど、かなり抽象的な表現だからこそ『何でも』とは本当に何でもかも知れない。
一通り僕の思考を彼女達に伝えると、長谷部さんからは同じクラスの赤髪ヤンキー君が、上級生に『Dクラスの不良品』や『来月は地獄を見る』と言われていたらしく、評価基準はクラスごとである可能性と評価がAから順に低い可能性を見出した。
松下さんからも、コンビニ・自販機・食堂に無料商品が置かれている話を聞き、もしかしたらスーパーなどにもある可能性が高く、商品棚の消費具合を聞いてからは、4月頭と言う事で上級生には貧困層がいる事が容易に予想が付き。それらが『来月は地獄を見る』に繋がって行き、Dクラスは評価が低くなる傾向があり、来月のポイントが低いか又は無い可能性を感じた。
「てか、レイたんってむっちゃ頭良い?」
「確かに頭の回転が凄く早いよね?」
「そんな事無いよ…『千手必勝』先行の先では無くて、どんな状況でも千個の手札を用意する様に育てられたからかな?」
「「言い得て妙だよ(だね)」」
「レイたんの家って結構厳格な家だったの?」
「う〜ん——そうでも無いかな(前世だし)お母さんは優しいし、お父さんはマイペース…お姉ちゃんは天真爛漫だったよ?」
「そうなんだ。私の家は甘々だったけど、私自身はそれじゃあ駄目だと思って自分に厳しくしてたなぁ」
「へぇ〜ちっぴーは意外と現実主義だ〜私何て放任主義家庭で育ったワンパク家族だったよ」
「「なんか分かるね(かも)」」
これが僕の実力至上主義の始まりだった…。