※この作品はR-18です。

オルタはお嫌いですか?   作:濁り丸

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 誤字修正、本当にありがとうございました。


第二話:暴君と主人は支え合う(ディープキス)

「……居るぞ。取り敢えず入って来い。話はそれからだ」 

 

「うっ、うん。お邪魔します」

 

 

 金属製の自動扉が開かれた。

 マスター"藤丸 立香"は戸惑い気味に、アルトリアオルタの部屋へと入る。

 

 何故か部屋の明かりが全て消えているため部屋全体が薄暗く、視覚から入ってくる情報が殆ど無い。したがって最初の知覚情報として入ってきたのは嗅覚からのものだった。

 

 濃厚でうっとりするように甘く繊細な花の香りが、マスターの鼻腔に自然と入ってくる。記憶を掘り起こすとそれがジャスミンの匂いであることが分かった。ジャスミンは香りの良さから別名"花の王"とも呼ばれており、古くから世界各国で愛され、香水の原料にもなることで有名だ。

 

 部屋中に濃密な花の香りが広がっているのでは無く、仄かに薫る程度であるのが余計に居心地の良さを覚えてしまう。どれだけ良い匂いでも強すぎれば、それは刺激になってしまのだ。

 

 ジャスミンの良い匂いに女性の部屋に入って来たのだと、急速にマスターの脳が理解を始める。悪いことをしている訳でも無いのに、気恥ずかしさや気まずさを感じてしまう。

 

 無言でいることに耐えられなくなり、マスターは一先ず疑問に思っていたことを口にする。

 

 

「ダ・ヴィンチちゃんは詳しく教えてくれなかったんだけど、何か用件があったから呼んだんだよね? ――やっぱりマスターとしての力不足とかかな……それなら本当にごめん! アルトリアオルタが弱い人間が嫌いなことは知ってるけど、もう少しだけ力を貸して貰えないかなっ」

 

 

 これは全てマスターの本心である。自分の不甲斐なさを誰よりも理解しているからこそ、今回のアルトリアオルタからの呼び出しも叱咤やカルデアから退去したいという内容なのかと思っていたのだ。

 

 表面上はいつものポジティブで元気なマスターに見えるが、明らかに精神的な疲労や卑屈さのようなものが垣間見えていた。常に自分の不甲斐なさを呪い、それを心の底から恥じている。

 

 ――それは心の闇と定義して良いものだ。

 

 既に特異点Fを含めて五つの特異点を攻略しており、その中で何度も死を覚悟するような目にも遭っている。度重なる死線と常日頃から善悪を問わないサーヴァント達との関係構築。本人にも認識が出来ていない根本的な部分で疲れやストレスが溜まっているのだろう。

 

 アルトリアオルタはダ・ヴィンチが話していたマスターのストレスや負の感情が蓄積されていることが、間違いでは無かったのだと確信出来た。

 

(やはりマスターにはストレスや負の感情を吐き出す場所が必要か。私が思っていた以上に今の状況は精神的な負荷が激しいようだな)

 

 

「……私は別に責める気持ちは無い。マスターは過酷な環境下で、本当に良く頑張っている」

 

「はははっ、ありがとう。だけどまだまだ足りない所ばっかりだから、いつかアルトリアオルタにも一人前のマスターだって思って貰えるように頑張るよ」

 

「――――っ、今日はマスターの労いをしようと思って呼んだ。いつまでも立っているのも辛いだろう、こちらに来い」

 

 

 ベッドの縁に座るアルトリアオルタは近くのフロアライトの電気を点けた。ベッドの周辺だけが淡い光で照らされる。微光で浮かび上がるのは当然アルトリアオルタの姿なのだが、その恰好がマスターを驚かせた。

 

 アルトリアオルタは最終再臨の衣装に似たネグリジェを身に纏っていた。紺色の薄手の生地で出来た短いワンピースのようなデザイン。しかし、華奢な肩や胸元、シミ一つない背中、眩しい太ももから先が全て露わになっている。女の肌は真珠に例えられることもあるが、彼女よりも真珠のような肌という例えが相応しい者もいないだろう。

 

 透き通るようなきめ細かい白肌と僅かな光沢を放つ紺色のネグリジェのコントラストは、磨き抜かれたブルーサファイアが嵌め込まれた精巧な銀細工のように美しい。今この瞬間を写真に収めれば、それだけで美術品としての価値が生まれそうな艶姿である。

 

 

「おい、聞こえているのか?」

 

 

 いつものシニヨンの髪型は解かれており、背中まで伸びたホワイトブロンドの髪が下ろされていた。髪型だけで相手に与える印象が大きく変わるものだが、いつもの凛々しさが全て可愛らしさに変換されている。元々、少女のような容姿だが、より幼く見えるせいでインモラルな色気が感じられた。

 

 きっと湯上がりなのだろう。頬が僅かに上気しており、髪も若干湿っている。瑞々しい肌が更に潤っているため、陶器のような肌に視線が自然と吸い寄せられてしまう。

 

 健全な青少年であるマスターも例に洩れず、アルトリアオルタの魅力に完全にやられている。理性でどれだけ抑え込もうとしても、本能が彼女の肢体を見詰めてしまう。

 

 普通の精神が弱い人間であれば、無理だと分かっていても手を出そうとする者の方が多いことを考えれば、十分に紳士的ではあるのだが。

 

 一体どれ程の間、見惚れていたのだろう。ハッと意識を取り戻したマスターは頬を紅潮させながら、その場でクルっと回って後ろを向く。

 

 

「あっ、アルトリアオルタっ! ご、ごめん。凄い綺麗で見惚れてしまって――――っ、何言ってるんだろう!? とっ、とにかくごめんっ」

 

 

 完全に脳が混乱している初心なマスターの反応に、アルトリアオルタはクスリと笑ってしまう。口元を手で隠しながら、空いている片手で自分の隣であるベッドをトントンと叩く。

 

 

「ふふっ、私は近くに来いと言ったんだ。私の隣が空いている、座って話すぞ」 

 

「いっ、嫌……その恰好のままだと。せめて上に何か羽織ってくれると助かります……はい」

 

「見たければ見ても良い。それよりも本題に入りたい。早くしろ」

 

 

 何度か迷ったそぶりを見せたマスターだったが、観念したのかなるべくアルトリアオルタの方を見ないようにしながら、彼女と一人分程の間を空けてベッドの縁に浅く腰掛けた。

 

 今も視線がバタフライでもしているかのように泳いでおり、油断するとアルトリアオルタの方を見てしまうため、悪魔の囁きや欲望を跳ね除けるように視線を壁に戻す作業を何度も繰り返している。

 

 火を見るよりも明らかな童貞っぽさ全開のマスターは、さっさと用件を終わらせて、この良い匂いのする部屋から退散しようと覚悟を決めたらしい。

 

 

「そっ、それで用件って何かな?」

 

「――そう緊張するな。その状態では碌に話しも出来ないだろうから、酒でも飲みながらゆっくり話そう。これは中々の上物だぞ?」

 

 

 アルトリアオルタはワインのボトルと二つのグラスの置かれた小さなテーブルを指差しながら言う。初めから部屋にあったのだが、マスターはアルトリアオルタに見惚れていたせいで見落としていたようだ。

 

 かなりの酒豪であるアルトリアオルタは手慣れた手付きでワインボトルのコルクを外し、二つのグラスに鮮血のような赤ワインをトクトクと注ぐ。片方は自分に、そしてもう片方はマスターへと渡す。

 

 

「飲め――話はそれからだ。仮にも王から酌をされた酒だ……飲めぬとは言わせんぞ」

 

「いや、まだ未成年なんだけど」

 

「どうせ外の法は働いていない。それに私の生きた時代では既に成人しているだろう。マスターは色々と考えこみ過ぎだ。たまには羽目を外すのも必要なことだぞ」

 

 

 受け取ったグラスを少しの間だけ見詰めたマスターだったが、意を決したようにグイっと赤ワインを呷った。想像していたぶどうジュースとは完全に別物の酸味や渋み、そして酒精を感じる。今まで味わったことの無いものだったが、鼻を抜けるイチゴやチェリーのような香りも良く、素直に美味しいと感じられた。

 

 

「んっ、美味しいね……」

 

「ふふっ、言っただろう中々の上物だと。どうやらマスターは行ける口のようだな。ほらっ、グラスを出せ」

 

 

 アルトリアオルタはマスターの乾いたグラスにワインボトルを傾ける。

 それからお互いに何度かお酌をしながら、無言で何も無い壁を見ながらグラスを乾かしていく。殆ど音のしない無言の状況だったが、その無言の間が苦痛に感じるわけではない。マスターが久しく忘れていた"慌ただしくない時間"がゆっくりと過ぎていく。

 

 マスターが最後の一滴をアルトリアオルタのグラスに注ぎ終わった頃、ゆっくりと彼女は話を始める。その声はいつもより幾分か優しい声色だった。

 

 

「――マスターは私の過去を知っているか?」

 

「それは……うん。アーサー王伝説なら今を生きる人間だって聞いたこと位はあるよ。アルトリアオルタが選定の剣を引き抜いて、王に選ばれた所からが始まりだよね。それから聖剣エクスカリバーを湖で手に入れたり、円卓の騎士を作り上げて――」

 

「大層な話では無い。民が望む理想の王になろうとした、愚かで孤独な女の話だ。多くの騎士を失い裏切られ、最後はアヴァロンに消えた…………マスターは私のようにはなるな」

 

 

 アルトリアオルタの言葉にマスターは驚いたような悲しむような、その二つがぐちゃぐちゃに混ざり合った表情をした。急速に乾く口内をワインで潤すと、ばら撒かれた硬貨の中から単語を探すようにゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

 

「元々、俺にはアーサー王のように強くは生きられないよ。いつだって誰かに助けられながら、小さな歩幅で一歩ずつ、前に進むことしか出来ないポンコツだから。きっと、俺以外の候補者が生きていれば"もっと上手く"出来たんだ」 

 

 

 マスターの持ったグラスの中の液体を小さく震わせながら、神に懺悔でもするように心の内を告白していく。酒精が思考と理性を鈍らせたからこそ、出てきた虚勢を取り払った本音だった。

 

 

「アルトリアオルタはAチームって知ってる? カルデアの爆発が無ければ、特異点攻略の最前線で活動予定だった、魔術師としてもマスターとしても優秀な人達。Aチームの内一人でも爆発から逃れていれば、七つの特異点の攻略もとっくに終わってたかもしれないんだ。もっと犠牲も少なくね…………」

 

「それは……」

 

「うん、分かってる。たられば何て話しても意味がないよね。世界中で一人だけ生き残ったマスターは俺しか居ないんだから……絶対に人理修復は成し遂げるよ。例え――――っ」

 

 

 きっと、その言葉の続きは『死ぬことになっても』だった。最後まで言えなかったのは、アルトリアオルタがマスターの震える肩を抱きしめたからだ。

 

 国のために独りになった女が、世界を救うために独りになろうとしている男に寄り添う。まるで過去の自分と未来の自分が交錯しているようだ。全く違うモノ同士のように見えて、二人の本質はまるで同じだった。

 

(マーリンが私でなくてはならないと言った理由がようやく分かった。過去の自分(マスター)を救えと言いたいんだな。そして、私に王ではなく、人として、女としての幸せを手に入れろと……お前の思い描く"美しい絵"は、本当に悪趣味だ)

 

 マスターを抱き締めるアルトリアオルタも、今にも泣きそうな顔をしていた。自分はこんなにも痛ましい存在だったのかと思い知らされているからだ。

 

 赤い弓兵が『過去の自分ほど殺したいものは無い』と、言っていた理由が漠然とだが理解出来てしまう。辛い道に進むのが既に分かっているのに、それを止めない方がおかしい。

 

 

「――やはりマスターは私と同じだ。誰かのために最初に自分の幸福を切り捨てようとしている。それでは人の心が分からない"人間モドキ"になるぞ」

 

「でもっ、他に道なんて無いよ。一人の犠牲で七十六億の人間が救われるなら、考える必要もない計算じゃないか。元々、幸運だけで拾った命。あの時の爆発でとっくに死んでたと思えば気楽だ」

 

 

 マスターの持っていたグラスが床へと落ちる。砕けたガラスの欠片と床に広がる赤い液体は、マスターの未来を暗示しているようだった。

 

 

「違う。私の結末は知っているだろう。人の心が分からない王は何も守れず消えるだけだ」

 

「それならっ、どうすれば良いんだ! どうすればっ……」

 

 

 マスター自身も自覚出来ていない涙が、アルトリアオルタの白い肩を濡らしていく。その涙の理由が悲しみなのか、苦しみなのか、恐怖なのかすら分かっていない。ぐちゃぐちゃになった感情がただ出口を求めて、涙と嗚咽に変換されて外に出ていく。

 

 とっくの昔にマスター"藤丸 立香"は限界だった。

 彼はまだ二十歳にもなっていない、ただの心根の優しい少年でしかない。魔術や死、波乱から最も遠い所で産まれ生きてきた一般人だった。それが訳も分からぬままカルデアに連れて来られ、いつの間にか人類最後のマスターとしての責務と重圧だけを押し付けられた被害者だった。

 

 ひび割れた心を責任感と使命感で補強していたから、平気に見えていただけだったのだ。

 

 アルトリアオルタは両手でマスターの頬を抑える。涙で潤む蒼の瞳をジッと見詰めた。恐怖して、怯えたような、それでも前を向こうとする彼の姿は、彼女が生前に愛した国の民に似ている気がした。

 

(良いだろう……マスターは私が最後まで支える。サーヴァントとしてでは無く、マスターを"愛する女"としてだ)

 

 ある種の義務感や同情、憐憫であったマスターへの想いが、確かな恋心や愛情に変わっていく。

 

 その想いはとても強く、今のアルトリアオルタの霊基を通じて彼女の本体がいる"座"に、記録では無く記憶として刻まれていく。それは心の底から"強い衝撃"が無ければ起こらない現象であり、アルトリアオルタの座に藤丸 立香への愛が永遠に残るものだった。

 

 

「私にもどうするのが正解なのかは分からん。私自身が失敗した人間だからな」

 

「そんなっ……」

 

 

 答えは無いのかと絶望するマスターに、アルトリアオルタは聖母のように微笑む。

 

 

「だが、マスターを私と同じ末路にはさせん。

 似た者同士、これからは二人で心を分かち合おう……んむっ♡」

 

 

 マスターの唇をアルトリアオルタが奪う。

 唇同士を触れ合わせるだけの幼稚な接吻であるが、本当にお互いの心まで繋がり合ってしまうような感覚があった。

 

 互いの体温と唇の柔らかさを感じながら、一生の記憶に残るファーストキスが交わされる。長い間キスは続き、自然と合図をする訳でも無く二人同時に唇が離れた。

 

 二つの荒い呼吸が部屋に木霊する。

 

 アルコールによるものでは無い赤みが頬に差していた。混乱しているマスターとうっとりとした表情を浮かべるアルトリアオルタは、鼻先が擦れ合う距離で言葉を交わす。

 

 

「アルトリアオルタっ……なんで」

 

「ふふっ、私は決めたぞ。もうマスターを離さん……一生傍で心を繋ぎ止める楔になろう。過去の私と同じ人間モドキになど、死んでもさせんから覚悟しろ――――んっ♡♡」

 

 

 二度目のキス。

 その後はマスターが話そうとしても三度、四度と矢継ぎ早に唇が重なるせいで言葉が続かない。互いの鼻息が顔に掛かるこそばゆさすら楽しく感じながら、アルトリアオルタはキスを繰り返す。

 

 何度目のキスかも分からなくなった頃、気付けば二人の体勢が変わっていた。

 ベッドに仰向けになるマスターと、その上に覆いかぶさるアルトリアオルタ。誰が見ても愛し合う男女の姿にしか見えない。アルトリアオルタの思いを表すように、両手とも恋人繋ぎで手を握っている。

 

 

「――ぷはっ♡ はぁ……キスとはここまで心が満たされるモノだったのだな」

 

「駄目だっ……今ならまだ間に合うから。止めてくれっ」

 

「私は暴君(オルタ)だから絶対に言うことなど聞かない。もっと深く繋がろうっ♡ ――――んむっ♡ ちゅるっ♡ じゅるっ♡♡」

 

 

 再びキスを止めようとするマスターの唇が塞がれ、更にアルトリアオルタの舌が口内に入ってくる。目を見開き驚くマスターを無視して、彼女は内頬や歯茎を舌で舐めた。口は固く閉じられているので、それ以上先に進むことは出来ないが、そんなことは殆ど抵抗にもなっていない。

 

 

「じゅるるるっ♡♡ ちゅぷっ♡ んむっ…………ぢゅっ♡ ちゅるるっ♡♡」

 

 

 口内に溜まった唾液を音を立てて啜られ、逆に唾液を流し込まれる。アルトリアオルタの舌先が二人の唾液を掻き混ぜ、半分ずつ分け合うように互いの口内に入っていく。赤ワインのイチゴやチェリーの香りが未だに残っているせいで、より唾液が美味しいと感じられてしまう。

 

 

「はぁっ♡…………はぁっ♡……マスターの唾液美味しい。マスターも私の唾液は美味しいか?」

 

「――――っ」

 

「強情だなっ♡ だが、マスターも知っているだろう? 私は負けず嫌いだっ♡ れろぉ――っ♡♡」

 

 

 アルトリアオルタはもう自分のものだと主張するように、マスターの唇を優しく何度も舐め上げる。動物のマーキングのようにマスターの唇を唾液でベトベトにした。その唇に愛情を伝えるようなキスを繰り返し、お互いの唇がふやけるまでキスを続ける。混ざり合ってしまうような錯覚を覚える程の快感に酔ってしまう。

 

 

「――ぷはっ♡♡ はぁ……お互いに忘れようの無いキスをしてしまったぞっ♡♡ これからマスターが私以外とキスをしても、一生忘れられなくなってしまったなっ♡♡♡」

 

「はぁ…………はぁ……俺と一緒だとアルトリアオルタが不幸になるっ……一緒には居られない」

 

「ふふっ、この期に及んでまだ私を思いやっているのだなっ♡♡♡ そんな所も好きだぞっ♡」

 

 

 アルトリアオルタはマスターの耳元で吐息混じりに『愛しているっ♡』と囁き、耳を軽く舐めた。何度も何度も耳元で愛を囁きながら、愛される幸せと喜びをマスターに刻み付けていく。それは正しく人の心繋ぎ止める楔だ、愛と幸せがマスターの心の壁を優しく溶かす。

 

 人間というものは一度知ってしまった幸福は忘れられないものだ。それが強い幸せであればある程、拒むことも手離すことも出来なくなっていく。

 

 

「……マスター♡ 私にだけは弱い所も醜い所も全部見せろっ♡ 全て受け止めてやる……ちゅぷっ♡♡ ちゅっ♡ ちゅっ♡ ちゅっ♡ ちゅるるっ♡♡ 私もマスターのモノだっ♡♡♡ んむっ……れろぉ♡♡ じゅるるるっ♡♡」 

 

 

 その後もディープキスは繰り返され、次第に苦しくなっていく呼吸によって思考や理性が弱まっていく。歯茎を丹念に一本ずつなぞられていく内にマスターの口を閉じる力も弱まっていき、遂には口が開いてしまう。

 

 

「――――っ♡♡ じゅじゅっ♡ ちゅるるっ♡♡ ぢゅっ♡ ちゅぷっ♡♡」

 

 

 マスターの口内にアルトリアオルタの舌が入り込み、唾液濡れの舌と舌が絡み合う。力の入って硬くなったマスターの舌をほぐすようにアルトリアオルタの柔らかい舌が動く。

 

 まるでマッサージのような心地よさによって、マスターの舌がプリンやゼリーのように蕩けていく。気付けばアルトリアオルタの舌に導かれて、口の外まで舌が伸ばされていた。お互いの舌を舐め合いっこをしたり、相手の舌に吸い付いて表面の唾液を啜ったり、恋人同士のするキスの中でも相当ディープなキスが繰り返される。

 

 

「ぢゅるる゛る゛っ♡ んむ゛っ♡ マスター誓えっ♡♡♡ 私と一緒になると……♡♡」

 

「……はぁ…………はぁっ、本当に良いんだね。アルトリアオルタが思ってるより、俺は弱いし醜いかもしれないんだよ。失望さ――――んっ」 

 

「んっ♡♡ ちゅぷっ♡♡ んん゛っ……私がマスターの全てを愛するから、マスターも私の全てを愛せっ♡♡ もう、それだけで良いっ♡♡ んむっ……ちゅるるっ♡♡ じゅぷっ♡♡」

 

 

 このアルトリアオルタの言葉で、マスターも完全に陥落してしまった。

 

 もしかするとこれは共依存に近しい歪な恋と愛なのかもしれない。しかし、二人にとってこれ以上に幸せな男女の関係は無かった。"独り"だった二人が本当の意味で支え合う相手を手に入れたのだから。

 

 マスターは上体を起こす。するとアルトリアオルタがマスターの腰の上に跨るような体勢になった。彼女は全身をマスターの身体に預けているため、相手の体温や心臓の鼓動まで全てが伝わってきた。興奮で汗ばんだ体が触れ合っているが、それが不快感ではなく心地よさに感じる。

 

 お互いに見詰め合ったまま舌を絡ませ合い。ゆっくりと唇が離れる。まだまだ繋がっていたいという思いの表れのように、唇の間には銀の糸で伝っていた。

 

 荒い呼吸音が響く部屋の中で、マスターはアルトリアオルタに先程の返事をした。

 

 

「はぁ……はぁ……あっ、アルトリアオルタの全てを愛するから、俺の傍にいて下さいっ」

 

 

 アルトリアオルタは全てを魅了する微笑みを浮かべた。

 返事の代わりに唇同士を合わせるだけの短い接吻を一つして、誓いのキスを交わす。それは死がふたりを分かつまでよりも更に重い誓いのキスだ。例え死を迎えようとも永遠に相手を愛する誓いなのだから。

 

 

 

 ――――その夜、女の部屋からは愛を囁き合う声と口を啜る水音、リップ音だけが木霊していた。

 

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