少し序盤は暗いかも……
最後はいつものイチャラブになるのでご安心下さい。
番外編:病める氷の皇女は愛熱に蕩ける-1
処女雪のように穢れの無い裸体を晒す美少女がいた。
シミが一つも無い純白の肌を、透き通るような肌と表現することがある。彼女の肌が正しくそれであり、まるで雪の妖精であるかのように美しい。
太もも付け根まで伸びた長髪も肌と同じく真っ白であり、瞳の色と乳首や局部だけ違う色であった。特に桜色のプックリと膨らんだ乳輪やピンと勃った乳首は、周りの肌が白いからこそ目立っている。男女を問わず、絶対に視線が誘導されてしまうだろう。
美しいだけでなく彼女の肉体は、男好きのする豊満さでイヤらしかった。
大きく実った果実のような乳房。普段はドレスに隠れて見えない、元気な赤ちゃんが産めそうな安産型の大きなお尻。お尻の大きさにも負けない、ムッチリとした肉付きの良い太もも。
男が欲情する要素が詰まっているのに、ウエストはキュッと括れている。乳房が人並みより遥かに大きいのに肩も華奢であり、女が羨む要素もしっかりと兼ね備えていた。
正しく反則のような、魅惑の肉体である。
そんな彼女はアイスブルー色の瞳を涙で潤ませながら、親に置いて行かれた子供のような心寂しい眼で男を見詰めていた。彼の胸板にしな垂れ掛かりながら、少女は震える声で語り掛ける。
「私を罰して――――私を壊して。私には……私にはもうっ…………マスターしかっ…………もういな……い…………のっ」
涙を流しながら体を震わせる女を男は強く強く抱きしめた。
心が壊れてしまいそうな彼女を、繋ぎ止める鎖になれるようにと願いながら。
すすり泣く女の耳元で、男は彼女の名前を呼んだ。
――――アナスタシア
―――――――――――――――――――――――――
"英霊の座"には、時間の概念が存在していない。
そこには人々に信仰された英霊達の魂が記録されており、カルデアの英霊召喚もこの記録が元になっている。
ロシア帝国、最後の皇帝であったニコライ二世の末娘である、"アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ"もその例外から外れていない。生前、ロシア帝国が保有していた秘蔵精霊である"ヴィイ"と死の間際に契約したことで、魔術師のクラスとして召喚される適性を持っている。
カルデアにも魔術師として、アナスタシアは召喚された。
マイナス100度を軽く下回る絶対零度に等しい冷気を操り、広範囲のあらゆる存在を片っ端から凍らせる程の力を持つ。
彼女が使役するヴィイと呼ばれる、精霊ないし妖怪は厳密には存在していない。
ロシアの文豪であるゴーゴリが執筆した怪奇短編小説『ヴィイ』で登場した想像の産物である。しかし、その全てが虚像と言う訳では無く、ヴィイに似た伝承が東スラヴ神話に幾つも存在しており、それが原型となっていた。
ヴィイはその東スラヴ神話の存在としての、バロールを祖とする魔眼を持つ。
その魔眼であらゆる結界を打破し、時には城塞の弱点すら見つけ出すことが可能である。
本来のアナスタシアは、史実そのままに召喚された場合、「歴史の闇に呑まれた悲劇の皇女の一人」として、良くても幻霊としての力しか持ち得なかった存在である。しかし、"とある理由"で彼女は上記のように、サーヴァントとして十分過ぎる程の力を保有していた。
――この力を持つ"原因"が、アナスタシアの心を蝕んだのだが……
他のサーヴァント達と比べてアナスタシアが変わっている点があるとすれば、彼女はマスターと"未来"で縁を作った“フライングで召喚された”存在だったことである。これは英霊の座に時間の概念が存在していないために起こる現象だった。
人理修復の途中で召喚されたアナスタシア。
始めは生前の父が治めていたロマノフ帝国の人民によって、自分を含めた家族や使用人を殺害された過去から、マスターに対しても強い警戒心を見せていた。
自分の使役するヴィイ以外を信用しようとせず、マスターが近寄ることすら許そうとしない。
正しく何者をも凍てつかせる、氷のような態度を取っていた。周囲の者達も態々、見えている地雷に突っ込むような酔狂な真似はしない。アナスタシアは自ら望んで、孤独になっていった。
しかし、マスターはアナスタシアが許してくれる範囲で、彼女との交流を図ろうとする。
近寄ることが出来ないならと、マスターは手紙でのやり取りを試みた。拙いながらも彼女が故郷で使用していたフランス語で手紙を書き、アナスタシア宛てに送ったのだ。
始めは手紙を返す気どころか読むつもりも無かったアナスタシアだったが、内容が気になってしまい中身をチラリと確認する。警戒していた自分が馬鹿らしくなる程に、呆れるほど何気ない日常が綴られているだけだった。
その後もマスターから送られてくる手紙の内容に、大きな変化は無かった。
仲良くして欲しいなど催促するような言葉も無く、季節ごとに起きるイベントやこれまでの特異点攻略についてが面白可笑しく書かれていた。アナスタシアがマスターからの手紙を楽しみにするようになるのに、そう時間は掛からなかった。
そして、手紙の中には食堂のおすすめメニューや娯楽になるような暇を潰せる場所、何か困ったときに相談すると助けて貰える英霊などの情報が随所に織り交ぜられていた。それはアナスタシアがカルデアで生活しやすくなるための情報であり、相手には気付かせないようにしているがマスターからの気遣いや優しさが詰まっていた。
そのことに気が付いたアナスタシアは、マスターに絆されてしまう。
彼は自分を騙したりする積もりがなく、生前に彼女が慕った姉達のように優しい人なのだと嫌でも分かってしまう。
アナスタシアは今までマスターから送られてきた手紙の束を、シワにならないように優しく抱き締める。
これまでの失礼な態度からマスターに謝るべきだと考えたが、素直になれないアナスタシアは顔を伏せながら彼に言った。
『まあ……壁越しに喋るくらいなら、構いませんが』
その言葉を聞いたマスターは、本当に嬉しそうに笑う。
アナスタシアのこれまでの態度を責めたり、謝らせたりすることも無く、ただ『ありがとう』と彼女にお礼を言った。彼女は白い頬を真っ赤に染めながら、コクリと小さく頷いた。
この出来事の後からアナスタシアは、マスターに心を少しずつ開いていく。
『まあ……同じ部屋にいるくらいなら、いいです』
マスターと同じ空間に居たいと思ってしまい、彼を自分の部屋へと招き入れるようになった。
まだ、マスターの目を見ることは出来なかったが、それでも扉越しでは無い会話は、彼の表情の変化や身振り手振りが見れて楽しかった。
少しずつ自分のことを、マスターに話せるようになっていた。
『あらマスター、いらっしゃい。ちょっと待ってね、今お茶を入れるから。皇女といっても、末期は自分一人でいろいろとやれるようになっていたのよ』
気付けばマスター専用のカップを用意していた。
彼とのお茶の時間を心待ちにしている自分がおり、アナスタシアは花の咲いたような笑みを浮かべてマスターを部屋へと迎え入れる。自分から話題を出すことも増えた。
マスターの自分と同じ青い瞳を、見詰めることが出来るようになっていた。
本当のアナスタシアは落ち着いた見た目に反して、天真爛漫で悪戯好きである。何事に対しても積極的であり、見た目以上に子供っぽい所が多かった。
マスターの紅茶に砂糖の代わりに塩を入れる悪戯を仕掛けたり、生前に父親のパイプを吸ったことがあると自慢してきたり。まるで悪戯好きの妹のような茶目っ気があった。
実際、アナスタシアには三人の姉がおり、家族への深い愛情を持っている。
世間一般から隔離された環境で育ったことと、幽閉された上で死刑で家族諸共、殺されたからだろうか。楽しそうに家族との温かな記憶をマスターに話しながら、その顔にはどこか影が差していた。
そんなアナスタシアの手を優しく握って、マスターは彼女の家族との思い出をもっと聞かせて欲しいとお願いをする。彼の手の温もりを感じながら、彼女は石を詰めた雪玉を姉にぶつけて昏倒させてしまって大泣きしたことを話した。
――アナスタシアの部屋には、二人分の笑い声が響いた。
『…………掴んだ手を離さないで。私の目の届くところにいて。私の声を聞いたら、いつでも返事をして。私はもう失いたくないの』
アナスタシアはマスターを家族と同じ位、大切に思うようになっていた。
その手の温もりが恋しくて、彼の姿を見るだけで安心してしまう。自分の悪戯を笑って許してくれるマスターの声が聞きたくて、この幸せをまた失うのが怖くなっていた。
マスターは優しい声色で『大丈夫だよ』と声を掛け、アナスタシアの手を両手で握り、彼女が安心できるまで傍にいる。きっといつかお別れが来ると心の奥底で分かっていながら、彼の言葉と温もりにアナスタシアは幸せを感じていた。
せめて最後までマスターと共にと願い、この奇跡のような時間を噛み締める。
――――そして、死闘の果てに全ての特異点の攻略と魔術王ゲーティアとの決着がついた。
ゲーティアと相打ちする覚悟でソロモンとしての全てを破棄する、第一宝具を使用したロマニ・アーキマンもとい"魔術王ソロモン"だったが。
しかし、ダ・ヴィンチとの間に出来た子供が世界に引き留める楔となり、魔術王ソロモンから完全に切り離されて、“ただのロマニ”として生き残ってしまった。
ゲーティアの攻撃で消滅したかに思われたマシュ・キリエライトも、フォウもとい第四の獣キャスパリーグの助力があり復活。
結果的に終局特異点で行われた、最終決戦で犠牲は無かった。
マーリンとギルガメッシュが腹を抱えて爆笑する、完全無欠のハッピーエンドを迎えたのだ。
その後の亜種特異点の攻略も苦戦をしつつも成し遂げ、カルデアとサーヴァント達の役目も完全に終了。
マスターと契約していたサーヴァント達も英霊の座に退去することになり、本当のお別れがやってくるかに思われたが……
“異聞帯のアナスタシア”がカルデアを氷漬けにした。
アナスタシアがされた理不尽な蹂躙を、異聞帯とは言え自分が行ったのだ。
多くのカルデア職員が殺され、生き残った一部の人間は虚数潜航艇シャドウ・ボーダーを使用して、命からがらの逃走を開始。
唯一カルデアが幸運だったことは、一部の女性サーヴァント達が英霊の座へと退去していなかったことだ。そのお陰で、守られた命が本来の歴史よりも遥かに多かった。
逃げ出した彼らが三か月間の潜伏後に見たのは、白紙化された地球だった。
カルデアが命懸けで守った世界は、約三ヶ月で滅亡してしまった。それと入れ替わるように、異聞帯と呼ばれる違う歴史を辿った世界が地球上の各所に発生したのだ。
奇しくも特異点と同じ七つの世界を破壊するための旅が始まる。
新たに"ゴルドルフ・ムジーク"を所長に据えた新生カルデアが始めに向かったのは、異聞帯のアナスタシアがいるロシアであった。
その世界では平均気温がマイナス100度前後という人がどうあっても生きられない環境であり、異聞帯の王"雷帝"主導の元で人は魔獣との合成種“ヤガ”として生きていた。強くなければ生きられない弱肉強食しかない世界をマスターは駆け抜ける。
異聞帯のアナスタシアやそのマスター"カドック・ゼムルプス"。そして、異聞帯の王であるイヴァン雷帝と死闘を繰り広げた。
多くの悲しみや怒りがあったが、それでも世界を取り戻すためにマスター達は勝利を収める。それが一つの世界を終わらせることだと知りながら。
――結果、異聞帯を世界に固定している、空想樹の伐採を達成。
ロシアの異聞帯を破壊した新生カルデアがようやく一息をつける段階になった時、マスターはアナスタシアを再召喚した。このタイミングまで彼女を再召喚しなかったのは、彼が異聞帯のアナスタシアの姿を見せたくなかったからである。
マスターも無駄であるとは分かっていたが、何も知らないままいつもの無邪気なアナスタシアでいて欲しかったのだ。しかし、時として運命は残酷である。アナスタシアは異聞帯の自分の記憶の一部が共有されていた。
アナスタシアはマスターの身体に縋りつき、『ごめんなさい』と涙を流しながら謝り続けた。
自分の居場所だと思っていたカルデアを奪った記憶が、アナスタシアに深い深い罪悪感を抱かせている。
あれは異聞帯の自分が行ったことだと頭では理解出来ていたが、同じ自分という存在が親しい人々を手に掛け、あまつさえマスターに悲しい思いをさせてしまったことに、心が悲鳴を上げていた。
アナスタシアは本来ならば英霊となることも出来ない、ただの十七歳で亡くなった少女である。気にせずにいられる程、心の強い存在では無かったのだ。
マスターは泣き縋るアナスタシアを抱き締めながら、彼女に『アナスタシアのせいじゃない』と慰め続ける。アナスタシアは、自分が愛した温もりであった筈なのに、今は余計に罪悪感が増していくだけだった。優しい言葉や慰めでは無く、罵倒や怒りをぶつけて貰った方が何倍も気が楽だったのだ。
この罪悪感を晴らすためには、どうしてもマスターからの"罰"が欲しかった。
今の自分がマスターから与えて貰える罰は何かとアナスタシアは考える。
マスターの深い優しさを知っているからこそ、殴ったり罵倒したりはしてくれない確信があった。それ以外に何が罰になるかを考えに考え抜いた彼女は、一つの答えに辿り着く。
何かを決意したアナスタシアは、目元の涙を拭いながらマスターにあるお願いをする。
「――――いっ、今から……マスターの部屋にっ…………行きたい……です」
「うん……今日はゆっくり話そうか」
マスターは快くアナスタシアを部屋へと招く。
彼女の傷付いた心を少しでも癒せるように、一晩中だって慰めるつもりだった。
二人は無言のまま部屋に入る。
カルデアの私室と比べて、シャドウ・ボーダーの私室は狭かった。
そんな違いに気付いただけで、アナスタシアの心はズキズキと痛んでしまう。楽しかったお茶会の記憶ですら、今は心苦しい思い出に変わってしまいそうだった。
「少し待ってて。今、お茶を淹れるから……」
「…………はい」
マスターはアナスタシアが少しでも落ち着けるようにと、温かいお茶を淹れる準備を始めた。入り口付近に立つ彼女に、背中を見せるような位置取りに自然となる。
アナスタシアは徐に自分の衣服を脱ぎ始めた。
ドレスの留め具を外してストンと足元に落として、身に着けていたショーツなども全て脱いでいく。マスターが布が擦れる音で振り返った時には、既にアナスタシアは全裸だった。
――――そうして、場面は冒頭へと戻る。
――――――――――――――――――――――――――――
「私を罰して――――私を壊して。私には……私にはもうっ…………マスターしかっ…………もういな……い…………のっ」
涙を流しながら体を震わせるアナスタシアを、マスターは強く強く抱きしめた。
すすり泣く彼女の耳元で、彼が混乱した様子で問い掛ける。
「アナスタシア――どうしてこんな」
「私はっ……罰が欲しい……ですっ。マスターに少しでもっ…………自分を壊して……欲しいですっ。でもっ、マスターはやさしいから…………私を責めないっ。だからっ、だからっ……せめて私を…………女として貪ってっ。あっ、愛情は要らないですっ。ただマスターが気持ち良くなるだけのエッチでっ……私を使って下さいっ」
アナスタシアが考えた罰は、マスターの慰み者になることだった。
彼が気持ち良くなるためだけに、自分の体を使って貰おうと考えていたのだ。そうやってマスターからの罰を受けようとしていた。
少女として夢見た男に愛されながら処女を捧げるのでは無く、何の愛情も無くただ肉欲をぶつけるためだけに処女を奪われたかったのだ。
それがきっと罰になると信じていたから。
マスターはどうするべきか迷っていた。
ここで断ればアナスタシアがもっと心を病んでしまうと、漠然とだが理解出来ていたからだ。しかし、彼女を物を扱うような慰み者にすることも死んでも御免だった。
悩んだ末にマスターは決断する。
「分かった。今からアナスタシアを抱くね」
「――――っ。ありがとうございます……私をこわし――」
アナスタシアの言葉を遮るマスターは、首を左右に振って否定する。
彼女を強く抱きしめて離さないと言外で伝えながら、自分の想いを口にした。
「そんなこと絶対にしないよ。多分、アナスタシアは嫌だと思うけど言うね」
――――愛してる
マスターは涙で濡れるアナスタシアの青色の瞳を、見詰めながらハッキリとそう言った。
アナスタシアの心を蝕む氷は、まだ溶けない。
創作活動を継続していくため、FantiaとpixivFANBOXを開設しております。
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