幼馴染を忘れられなくて童貞34年極めたらリア充になれた話 作:味噌村 幸太郎
ため息をつくとこの後どうするか悩んだ。
とりあえず観光か? いやいや、いいよ。早く福岡に帰りたいわ。
イッチーん家にも行かなきゃならないが、電話したら夕方までは無理らしい。
近場から離れるのも面倒なので、近くにある時間を潰せるところを考えながら歩いていると、俺の目には懐かしい学び舎が映っていた。
「なついなー♪」
祭日のせいか、グラウンドに子供たちの姿はなかった。
なにも考えずに、リュックサックを学校の中に投げ入れ、自分自身も校門に足をかける。
「おっこらせと……」
リュックサックをその場に置くとグラウンドに向かう。
そこで俺のスイッチが入ってしまった。
「うおおおお!」
昔、運動会の時に走ったように、全速力でグラウンドを円状に走る。
「くあああ! きついな。けど、こんなに小さかったのかよ、運動場って」
なぜか笑いが止まらなかった。
神埼も俺の手から水のように通りすぎていった。
俺が名古屋から引っ越すことが無かったら、今頃は神崎の隣りを歩いていたのは俺だったのだろうか?
子供だった俺に何が出来た? 大人の都合で引っ越したのに。
俺にとって神崎 明日香はこのくらい20年間を支えてきた唯一の光りだ。
彼女だけが俺の支えだった。どんな時も彼女の思い出でやってこれた。
これから、俺はなにを糧に生きればいい?
「こらぁ!」
グラウンドには左右に階段がある。それを登った先に校舎はある。
校舎の入り口、手前には学校の旗があり、柱の下から1人の女性が俺を見て叫んでいた。
「なにをやっているの! 学校は立ち入り禁止です!」
「げっ! 見つかったか!」
昔はこんなの見逃してくれるだろうに、時代のせいか…と思いつつ、校門に向かって全力で走る。
が、さっきの急なマラソンのせいか、100キロの巨漢は俺の足に多大な負担をもたらせていたようだ。
途中で右のかかとに激痛が走り、つまづいてしまった。
「ぐわ!」
顔を地面に強打する。
「大丈夫!?」
上下ジャージを着た白髪の女性が近寄ってくる。
不法侵入で逮捕されると焦った俺は、すぐさまその場で土下座した。
「す、すいません! あの……この学校の子供を誘拐に来たんじゃないです。決して不審者ではありません! この小学校の卒業生です!」
「卒業生…」
「はい! ここを20年以上前に卒業しました! 正確には卒業する前に転校したのですが…」
女性を見上げる。彼女は俺の顔をまじまじと見つめる。
「あなた。ひょっとして…本田くん?」
その女性の顔をよく見るとなんとなく見覚えがある。
年齢は50代ぐらいだろうか? ショートカットでつり目、一見かなり怖そうな女性だが。
「もしかして、木村先生…すか?」
俺の問いに女性はニッコリと笑顔で答えた。
「久しぶりね! 本田 広くん!」
そう言いながら、俺が起きるのを手伝ってくれる。
「先生、こんなとこでなにやってんすか?」
「それはこっちのセリフよ」
担任だった、木村先生に「特別だからね」と言われ、かつて学んだクラスに案内されていた。
「なっついい! こんなに小さかったんすね!」
昔、座っていた机に座る。
「みんなそう言うわね。あら席を覚えてたの?」
「もちろんすよ。先生こそ、俺を覚えてたんすか?」
「そりゃ本田くんは出来が悪かったしね」
「ひでーな」
久しぶりに出会った先生はこの20年の空白を忘れさせてくれる。
いつまで経っても教師と生徒は変わらないのだろうか。
「それで、どうして学校に来たの?」
俺は今日起こったことを先生に包み隠さず全て話した。
なぜだろう。さっきのおばさんにも話せたが、かつての担任教師に対する安心感は半端ない。
「そう…それは辛かった、というか。寂しいわね」
「はい……」
「でも、あなたぐらいの年になれば、皆、家庭を持っているのは普通のことじゃないかしら?」
胸の中をメスでいじくりまわされている気分だった。
「…でも、俺にとって神崎さんは……また違う存在だったんすよ」
「わかっているわ」
先生の答えにとても驚いた。
「え? 先生、俺が神埼のこと好きだったの、知ってたんすか!?」
「当たり前よ。あなたが授業中いつも神埼さんの背中を目で追いかけてたのはまる分かりよ。ひょっとしたら、他の生徒たちも知っていたかもね」
口が塞がらなかった。
「そんなの気がつかないと教師失格よ。でも本田くん……女性は神埼さんだけじゃないわよ?」
先生の気遣いがまた辛い。
「けど……」
「とにかく家庭を持った彼女はもう忘れて、新しい出会いに向けてあなたも頑張りなさい。仮に神埼さんが独身でも今の無職のあなたと家庭を持てる思う?」
仰る通りで……。
昔からだが、この先生はやんわりとストレートパンチを出してくるな。
「……」
黙りこむ俺の肩を優しく叩く。
「まあ落ち込まないで。観光ついでに名古屋で手羽先でも食べて帰りなさい」
「は、はい……」