少し無惨様が出ます
季節は秋。
朝晩は少し涼しくなったものの、日中はまだまだ暑い日が続く。
琴葉は風俗店に売られて以来、久しぶりに街へ来ていたのだが、一緒に来たはずの信者二人とはぐれてしまい困り果てていた。
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──数時間前。
「買出しですか?」
琴葉は万世極楽教の熱心な信者で、経営者だという中年の派手な女性に声をかけられた。
この女性は信者というより熱烈な童磨のファンでしょっちゅう童磨に会いに来ており、保護されている信者達を影で取り仕切っていた。
「そうなのよ、当番の子が体調崩しちゃってね、代わりに行って下さらないかしら?」
「あの、でもわたしは……」
琴葉は悩んだ。
童磨から寺院の敷地内から出ないように強く言われていたからだ。
それを信者達も知っているため買出し当番から琴葉は外されていたし、そもそも信者でもないので、いつからか童磨専用使用人のような存在として扱われていた。
「ごめんなさいね、伊之助ちゃんもいるしやっぱり無理よね…他の方をあたってみるわ」
立ち去ろうとする信者の女性を琴葉はひきとめる。
「待って下さい。わたしでよければ代わりに行きます」
買出しに行くには山道を一時間ほど歩く必要があり大変だ。それを自分だけ免除されているのは忍びないと琴葉は思ったのだ。
「ありがとう琴葉さん、感謝します。伊之助ちゃんはよろしければわたくしと他の信者達で預かります。さすがに連れて行くのは危険だし大変だわ」
「ありがとうございます」
そんなやり取りがあり、琴葉は街へやって来た。
しかしこれはこの女性信者が仕組んだ罠であった。童磨に恋するこの女は琴葉をどうしても排除したかった。
使用人の分際で童磨に可愛がられて、毎晩童磨が琴葉の部屋に通いエッチしていることがバレバレだったからだ。
女は呪いの藁人形に釘を打ち付ける。
「嘴平琴葉…男達にまみれ破滅するがよい…もう二度とこの寺院へ戻るな!!おほほほほほほほほほほ」
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(はぐれた場合の待ち合わせ場所は多分この辺りのはずだけど…)
琴葉は万が一迷子になった場合の集合場所の地図を見ているのだか方向音痴なのでよくわからなかった。
そして何やら怪しい雰囲気で気がつく。
(ここってもしかして)
琴葉が思った通り、現在地は売春ストリートだった。
女自らが男に声をかけたり、逆に男から声をかけて何やら成立すると仲良く腕を組んで立ち去るのを琴葉は目撃する。
近隣には琴葉が売られた風俗店もあり、連れ込み宿も建ち並んでいる。
琴葉にはそれが特定できなかったがとにかく危険な雰囲気を感じ取った。
もう一度地図に眼をやるがよくわからない。
そして数人の男達がヒソヒソと話しながらこちらを指差しているので、言い知れぬ恐怖を感じた琴葉は蹄を返し立ち去ろうとしたその時に男に腕を掴まれた。
「緑の眼をしている。間違いない、この女だ」
「ウホッ、別嬪だよこの女の子」
「ぐへへへへへへへへ」
「何するの?はなして!」
琴葉は禿げ頭と肥満と毛むくじゃらの気持ち悪い三人組の男達に囲まれてしまった。
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その頃、童磨は黒幕の女性信者に捕まっていた。
「本当に教祖様はいつ見ても凛々しいお顔ですこと」
「やあやあ、ありがとう」
「わたくしがもう少し若ければ…教祖様は熟女はお嫌い?」
「嫌いなわけがない」
「まあっ♡」
さすがの童磨もこの女の対応には苦慮する。
女は毎回じりじりと童磨に接近しておもむろに胸を押しつけてきたり、おもむろに唇を奪っては舌を挿れてくる。
どうやらそれ以上の関係を望まれているようだが、この女では全く勃起しない童磨は、
「ははは、これ以上はやめておきましょう」
毎回微笑みながら拒否する。
女は拒まれる理由を琴葉のせいにしていた。
(あの女狐!どのような夜のもてなしを教祖様にしているのか!悔しや!あの女さえいなければ!)
そして激しく琴葉に悋気しており、思い込みも激しい危険な女だった。
女は童磨の食料にするには食べ頃が既に過ぎており、それにかなりの成金なので寺院にとって役立ちはするので野放しにされていた。
その時、失礼しますと声がして蓮の花が生けられた花瓶の水を取り替えるからと信者が入って来た。
この仕事は琴葉の役目なのになあと童磨は思う。
「ねえ琴葉は?」
童磨は入って来た信者に話しかけたのだが黒幕の女が答える。
「教祖様、琴葉さんなら街へ買出しに行かれましたわ。わたくしは止めたのですけど息抜きしたいからと言って子供をわたくしと信者に無理やり押しつけて楽しそうに出かけて行きました」
女は平然と嘘を吐く。
「山道や街に詳しい信者二名と一緒ですのでそのうちお帰りになるでしょう。さあさあこちらにお座りになって下さい。肩をお揉み致しますわ」
「・・・・・」
童磨は思った。
琴葉は俺の言いつけを守ることができなかったのかと。
何度も指切りげんまんをして約束したというのに。
『琴葉、おまえは騙されやすいから俺の許可なしにこの寺院の敷地から出てはいけないよ、わかったね?』
『はい教祖様、わかりました!では指切りげんまん致しましょう。ゆーびきりげーんま~ん♪』
童磨の脳裏に、琴葉の透き通るような歌声と、小指と小指を絡めたその光景がよみがえった。
帰ってきたらまた教育すればいい、それからエッチの時にお仕置きをしてやれば…と、童磨は軽く考えていた。
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一方、琴葉は男達から何とか逃げて細い裏通りに入り小さな死角に息を潜めて隠れていた。
個性のぶつかり合いのようなこの三人組は不細工なだけでなく相当溜まっていた。
「あの女何処へ行きやがった?」
「絶対このへんにいるはずだよ、オーイ出ておいで~!あ、ボク一番ね」
「待てよオレが先だ」
男達の順番でもめる声が聞こえてくる。
琴葉は男達がこのまま立ち去ることを祈りながら縮こまって震えていた。
しかし執拗く探しており立ち去る気配がない。
(伊之助はちゃんとご飯を食べたかしら…ごめんねぇ伊之助…母さんいつも悪い方へ行ってしまう…それから教祖様…約束を破ってしまってごめんなさい)
琴葉が隠れた小さな死角は華奢な女性一人ならなんとか入れそうな場所で、動かずに同じ体勢でいるのはかなり辛い。
琴葉が隠れてから結構な時間が過ぎているというのに男達はまだ探すのを止めない。
「僕、あの女の子に童貞捧げたいよ~」
「そんなことどうでもいい!金をもらってんだぜ!早く見つけるんだ!童貞なんざそこのソープで捨ててこい!」
「嫌だよ、性病になったら洒落にならないよ」
今の会話を琴葉は震えながら聞いた。
(え?お金をもらってる?誰に?どういうことなの?こわい…こわいわ!誰か助けて!!助けて教祖様!!)
その時、
「ぐへへへへ、みーつけた」
「きゃあぁぁあぁあ」
琴葉はとうとう見つかってしまった。
脚と腕と髪の毛を掴まれて死角の隅から引き摺り出された琴葉は、夫から受けた暴力がフラッシュバックして、助けを呼ぶために叫びたいのに声が出せず全身が硬直してしまう。
「ねえこの女の子さ、大人しくなったしここでしちゃおうよ。ボクが一番ね」
「しゃーねーな、おさえててやるからやれよ」
「人が来たらまずいからな、早くやっちまおうぜ」
童貞だという肥満体の男は体臭と口臭がすごく鼻をつんざくような臭いに琴葉は息ができなくなる。
(近づかないで!来ないで!嫌よ気持ち悪い!!)
硬直した琴葉の身体からは血の気が引き、まるで死人のような顔色になる。
しかし容赦なく肥満の男は鼻息を荒げながら琴葉の着物の裾を捲り上げた。
男達は三人とも自身の魔羅をしごいて、
琴葉は恐怖すぎて助けてと叫ぶ声さえ出せない。
こんな気持ち悪い男達にレイプされるくらいなら舌を噛み切って死んだほうがマシだと思うが、自分は伊之助の母親だ。
死ぬわけにはいかないと思った時、琴葉の身体が動いた。
琴葉はデブ男を渾身の力で突き飛ばし、残る二人の男達の間をすり抜けて走った。
「た、助け、、、て」
「待てゴルァ──────ッ!」
そして幸運にも視線の先に歩く通行人を見つける。
「げ、人が」
「も~~~!ボクの童貞どうしてくれるんだよ!」
琴葉は
(…美しい……女……)
(…この人……)
その通行人は偶然通り掛かった鬼の始祖、鬼舞辻無惨だった。
眼が合ったほんの刹那、無惨と琴葉は言葉では表現できない何か、そう、シンパシーのようなものを感じたのだが、本当にそれはほんの一瞬で瞬く間に清浄される。
「どうされましたか?」
「助けて下さいお願い!わたしあの人達に…」
無惨は状況をすぐに察した。
「行きなさい、早く」
「あ、ありがとうございます」
琴葉はそのまま振り返らずに走った。
(良かった!助かったわ。人の多い通りはどっちかしら…そういえば今の男の人……)
琴葉は通り掛かった無惨から童磨に似た香りを感じた。
その後無惨は醜い男達に触れるのも穢らわしかったので、部下の鬼を呼び寄せ静かに始末させた。
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やがて陽は沈み暗くなっても琴葉は寺院へ戻らず、帰って来たのは一緒に行った男女の信者二名だけだった。
童磨は伊之助を抱っこしながら出迎えた。
「ご苦労だったね、あれ~、琴葉は?」
成金の女性信者はすでに帰宅していたが、この二名は女に金でスポイルされていた。
「琴葉さんとは途中ではぐれてしまったのですが、探していたら偶然お見かけして…見知らぬ男性と楽しそうに腕を組んで歩いていましたので声をかけられませんでした」
「教祖様、あの子もうこの寺院には戻らないと思います」
「へ?」
──まさか、琴葉に逃げられた!?
もし琴葉がこのまま帰って来なかったとしたら伊之助はどうなるのだろうと童磨はふと思った。
(俺が育てるのか?…いや、そんなことより)
その男は誰だ?
もう戻らない?
本当に琴葉は逃げたのか?
買出しはフェイクだったのか?
童磨は少し低徊してからそんなはずはないと考え直す。
あの日から琴葉の懐き具合は急上昇だし毎晩仲良くエッチもしているしケンカもしていない。
それに何より伊之助を置いて琴葉が逃げるはずがない。
だとしたら琴葉は見知らぬ男に騙されて連れていかれた!?
「・・・・・」
「あぶ~う~」
伊之助は童磨の胸に顔をすり寄せてきた。
おっぱいが飲みたいんだなと童磨は思う。
童磨も琴葉の母乳を昨晩飲んだっきりなので禁断症状が出始めたのか苛々としてしまう。
(琴葉のやつ、また俺に探させるつもりなのか?)
信者に探しに行かせるにしても外はもう暗くなり人間の眼で探すには限界がある。
「・・・・・・・」
童磨は琴葉を探しに行こうと思うのだが、彼は探し物が不得意だった。
しかし真実を確かめる必要がある。
(もし本当に逃げたのなら容赦はしない、必ず探し出して喰う)
けれど、どう考えても騙された説の方が濃厚だと思う童磨は、
「この子を頼むよ。多分おっぱ…ミルクを飲みたがってるから与えてくれるかな」
信者に伊之助を預けるとその場を足早で立ち去る。
「教祖様、まさか琴葉さんを探しに?」
信者の問いかけも童磨の耳には届いていなかった。
琴葉に会いたい。
声が聞きたい。
おっぱいが飲みたい!!
琴葉のおっぱい!!
しかし街に着いたとして、ただ闇雲に探しても見つかるはずがない。
あの時は風俗に売られたという情報があったが今回は何もないのだ。
寺院の門をくぐった所で童磨が立ち止まった時、
「ワンッ ワンワン」
犬の鳴き声がして振り向くと、無限城に呼ばれた日に琴葉を犯していた茶色い犬がいた。
童磨は即行で殺してやろうと思ったが犬は童磨に何かを訴えかけているようだった。
「おまえまさか琴葉の居場所を知ってるのかい!?」
「ワンッ!」
玉壺殿もそのうち出演させたいなあと思ってます
挿絵追加:練習中