「琴葉何かあったのかい?」
琴葉の顔を見てすぐ童磨は琴葉にそう問いかけた。
浮かない顔してるから、と続ける童磨と琴葉はそれだけの関係を重ねたということだ。
童磨は人の顔色などわからなかったし、気にしたこともなかったが、琴葉の顔色はわかるし気にもする。
当初は飼い主とペットという関係だった童磨と琴葉は、けれど毎晩身体を合わせ、体温を馴染ませて交わるうちにすっかり形を変えていた。
「え、と…最近女性の信者さんが減ったなと思って…」
童磨と琴葉と伊之助は三人で風呂に入っていた。
ラブホテルの風呂に似せて寺院の風呂を改修してから、三人で入れるようになったのだ。
童磨は鬼となってから好物の酒が飲めなくなったので、入浴剤のように酒を入れてしょっちゅう風呂に入っていたが、今は酒代わりに琴葉を入れている。すると、湯が円やかになって気持ちいいのだ。
「女性は一時的に保護してあげてるのがほとんどだから仕方ないよ。減るのは行き先が見つかったってことだから喜ぶべきことさ」
実は最近女性信者がドンと減ったのは玉壺とのディナーと土産用で消費したのと、無惨の部下の餌になった二人、童磨の消費分など、全て鬼の食料として消えていったのだが、琴葉にそんな真相はわからない。
童磨は女の人数などいちいち気にしていなかったので、極端な消費はやめなきゃなと思った。
「そうですね、喜ぶことですよね…」
琴葉は消費された女性達に顔を合わす度にいじめられていた。
けれど琴葉は自分が悪いせいだと思っており、いじめられている認識がなかった。
しかし、穴に落とされるのは度がすぎており強い殺意を感じた。
それも赤ん坊の伊之助にまで。
一緒に穴に落ちた二人はその日からもう姿を見ることがなかったのでホッとした分、まさか殺されたのではとか妙なことを考えてしまったのだ。
そう言えば穴から助けてくれたあの人はまた会えると言ってたなと琴葉は思った。
あの人が助けてくれなければ穴の中で生き埋めにされたのだろうかと思うと恐ろしくなる。
自分はともかく伊之助はまだ赤ん坊だ。
(やっぱりわたしは出ていくべきなのかしら…でもわたしは行き先が見つからない…)
それに伊之助はこの寺院での生活に慣れて童磨にも懐いていた。
今も湯船に浸かりながら童磨の首にしがみついて頬をすりすりしている。
「みこ~、けっちょー、みこみこ~」
「伊之助、御子は後でだよ。あ・と」
「あ~い!」
「あはは、伊之助はいい子だねえ」
琴葉にはわからない会話もよく二人でしており、父子のように見えないこともない。
「かーちゃ、おっぱ!おっぱ!」
「伊之助、おっぱいはお風呂をあがってからね」
「違うよ琴葉、伊之助は触りたいんだよなあ」
「え?」
伊之助は童磨の言う通り、琴葉のおっぱいを小さな手で揉みくちゃにしてくる。
そして童磨にも、
「ちゅぎ、どうじょ~」
ちゃんとおっぱいをシェアしてくれる優しい子だった。
「まあ、伊之助ったら」
「ぷっ、あっははははは」
童磨は可笑しくて笑った。心から笑った。
(教祖様が笑ってる・・・)
童磨からは本物の香りがしない、そう思っていた琴葉は楽しそうに笑う彼を見て嬉しくなった。
「琴葉、不安やストレスは母乳に良くない。何かあればすぐ俺に言うんだ。いいね?」
そう言って童磨は琴葉の額にキスをした。
琴葉の母乳が大好物の童磨は琴葉の不安や恐怖が母乳に影響を及ぼすことまで研究済みだ。
実際あの河童のような鬼に遭遇してしばらく恐怖心が抜けなかった琴葉は母乳の出が悪くなった。
おっぱいは張って大きくなっているのに乳腺が詰まっているのか勢いがないのだ。
童磨は心配いらないよと囁きながら毎日おっぱいマッサージをしてやり、栄養のある食事も与えた。
それが功を奏してか琴葉はまた美味しい母乳が出るようになった。
「ありがとうございます…わたし、教祖様が好き」
童磨の大切な信者から殺意を感じたなど琴葉には言えなかった。
それに殺意を感じた二人はもうここにはいない。
琴葉も童磨の頬にキスを返す。
「かーちゃ!」
「伊之助にもね♡」
琴葉は伊之助の頬にもチュッとキスをした。
母親の眼をした琴葉は母性に溢れ、優しさの塊のようだ。
その眼差しのまま琴葉は童磨に微笑んだ。
母親の眼で俺を見る、そんな琴葉が好きだと童磨は思う。
いつか太陽の下を二人で歩いてみたいと、眩しい夢まで見てしまうほどに。
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鬼舞辻無惨は世界を支配したいとか、そんな俗なことに興味はなかった。
彼の願いは太陽の克服、ただそれだけだ。
無惨にとって増やした同類はその方法を見つけるためのただの道具である。
千年も生きて人を喰らっているとその味に慣れて、たとえ稀血であろうとその味は彼にとって騒ぐ程のものではない。
けれど世にも珍しい女を見つけた。
無惨でも見逃してしまいそうなほどの珍種だった。
(童磨から奪うのは容易いが・・・あの娘、思った以上に童磨に懐いている・・・あいつのどこがいいのかさっぱりわからないな・・・)
無惨はどうするのが最善の策かを考える。
無惨は無限城で童磨から、琴葉をレンタルしますかと言われたことがあったが必要ないと断った。
童磨のお下がりなど興味なかったからだ。
けれど今の無惨には中古もお下がりもどうでもよくなっていた。
無惨はあの日から母乳の出る女を探した。
醜い生き物は生理的に受付ないので美女限定だ。
けれど無惨の眼鏡に叶う美女などそうそういるわけがなく捜索は難航した。
それでも捜して回って妥協も含め数人だがその夫に成り変わり、母乳を採取して自ら女の乳首を口に含み吸うという行為もした。
けれどそれは全て失敗…ただの骨折り損に終わり結局全員始末した。
無惨はいつからか洋装を好んで着用するようになっており、今日もネクタイをしめて英国紳士風の出立ちでその姿は全く鬼には見えない。
彼はまた太陽の出ない秋雨の日を狙って琴葉の偵察へ来ていた。
「ワンちゃんそんなところに顔を突っ込んじゃダメよ♡ちょっとワンちゃん!そこはエサじゃないの、きゃんッ」
ドサッ
「かーちゃ!!」
「…またパンティ取られちゃった」
万世極楽教の庭にはたまに野良犬や野良猫が遊びに来る。
今の犬は賢い野良犬で、童磨を琴葉の居場所へ導いた茶色の大型犬だ。
琴葉は童磨からその話を聞かされていたのでパンティくらいあげようという気持ちで接していた。
「かーちゃ?ぱんちゅ」
伊之助が子供心に心配そうな顔で琴葉の顔を覗き込んでくる。
琴葉は優しく伊之助の頭を撫でながら、
「いいのよ伊之助、あのワンちゃんはね、母さんのことを助けてくれたの。きっと母さんの匂いを気に入ってくれてるんだねえ」
あの犬は悪い犬じゃないことを伊之助に教えた。
その様子を無惨は木の陰から見ていた。
声をかけようと思ったが、パンティを剥ぎ取られる場面に遭遇してしまい声をかけるタイミングを失ってしまっていた。
しかし無惨は我に返り琴葉に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「え?」
紅い葉が舞散る中、ふり向いた琴葉は美しかった。
絹糸のような長い黒髪を風が梳かして行く様を、無惨の眼はストップモーションのように捉えた。
(絵になる娘だ・・・気に入った)
無惨の複数の脳が刺激され、体内から癒しのようなホルモンが分泌されていることが認識できる。
「かーちゃ!あめ、あめ!」
また降ってきちゃったねえと言いながら琴葉は伊之助を抱き上げて無惨に返事をする。
「大丈夫です。あの、先日は穴から助けていただいてありがとうございました。雨が降って来たのでよろしければこちらへどうぞ」
琴葉が男を屋敷の中に招き入れるのを、
(ほほほ、あの女狐…とうとう尻尾を出したか…ちょうど良い、教祖様へ報告せねば)
そしていつものように凛々しい顔だ何だのと童磨を誉めちぎってから話を始めるのが黒幕の
童磨は長いなあと思いながら扇で顔を半分隠して毎回この女の話を聞く。
また下らない話を延々とされた上に迫られるのかと溜め息が漏れそうになるが、しかし今回の女の話は非常に有益だった。
なんと黒幕は青い彼岸花の情報を持って来たのだ。
この女は成金の経営者のため顔が利き、情報網も広かった。
「横浜ですわ…墓地の裏手に、朱に紛れて一輪だけ青が咲いていたと申しておりました。小高い丘から海が見えたそうですわ…されど見たのはもうひと月以上前とのこと…これがその地図ですの」
童磨は珍しく黒幕の話に食いついた。
「本当かい!?素晴らしい情報だ、礼を言うよ!」
久しぶりの貴重な情報に童磨の心が漣立つのを無惨はその細胞から感じとる。
やがて黒幕はついでと言わんばかりに琴葉のことを童磨に話した。
「琴葉が男と?」
「ええ、以前からお知り合いのご様子…外の男を連れ込むなど琴葉さんは節操のない方ですのね、おほほほ」
「・・・・・・・」
童磨は扇で顔を半分隠したまま黙りこんだ。
そんなことはあり得ないことを知っているので、何か事情があったかこの女が出鱈目を言っているのかどちらかだなあと思う。
「教祖様、わたくしは嘘などつきませぬ故、御覧になればよろしいのですわ」
「そうだねえ、ちょっと失礼するよ」
女は童磨を引き止めはしない。
(万世極楽教の教祖ともあろうお方がどこの馬の骨とも知れぬ女に誑かされるなどあってはならぬ。眼を覚まされませ教祖様!)
その頃琴葉はノーパンのまま無惨の接待をしていた。
無惨は、自分は童磨の友人だと琴葉に名乗った。
評価ありがとうございました(*^.^*)