琴葉の部屋から無限城に転送された童磨は、その場に立ち尽くし微動だにしない。
鳴女は明らかに童磨の様子がおかしいことに気がついたが、全く童磨に関心がない鳴女は琵琶を抱えたまま沈黙を決め込む。
すると突然童磨が沈黙を破り、
「琵琶の君!俺を今いた場所へ飛ばしてくれるかい?」
彼らしくない狼狽したような表情で懇願してくるので、鳴女は少し戸惑う。
けれど鳴女は無惨の命令にしか従わない。
「それは出来ません」
「後生だから頼むよ・・・あの方が、俺の彼女を・・・」
「え?」
童磨に人間の彼女ができたらしいということを、鳴女は風の噂で聞いて知っていた。
玉壺が言いふらしており、おそらく上弦の鬼達の耳には届いているに違いない。
耳を疑う噂だったが、本人の口から聞かされて噂は真実だったのかと鳴女は思う。
そしてどうやら童磨の彼女に無惨が手を出したのだと、鳴女は女の直感でわかってしまった。
けれど鳴女は面倒なことには関わりたくない。
それが痴情の縺れとなれば尚更である。
「琵琶の君!!」
「・・・・・」
おそらく童磨は無惨の手から彼女を守りたいのだろう。
童磨なら自分の女の一人や二人、息をするように差し出すだろうと、そんな先入観で見ていた鳴女は意外だなと思う。
まさか童磨がこんなに人間臭い部分が残る上弦だったとは。
それともその彼女と付き合って変わったのだろうか。
「頼むよ!」
「・・・・・」
鳴女としては修羅場を見たい気もするが、無惨の命令で
罰せられるのは鳴女である。
それを察した童磨は鳴女に背を向けながら謝罪の言葉を口にした。
「俺、無茶を言っちゃったね・・・ごめん」
「・・・・・」
鳴女は何も答えない。
そして同情する気もない。
ただ早く帰ってくれないかなあと思うだけである。
“必要ない。貴様の中古の女など”
童磨の脳裏に、無惨のあの日の台詞がよみがえる。
(琴葉が可愛いから、気が変わったってことか?はは……参ったなぁ)
あの頃の童磨なら、まだ琴葉をペット扱いしていた童磨なら、顔も可愛いしあっちの具合も最高なのでお好きにどうぞと琴葉を無惨へ笑顔で献上できたかもしれない。
けれど今は可憐な琴葉を誰にも渡したくない。
童磨は目隠しされた琴葉が無惨の男根でよがる姿を見てしまった。
その姿も可愛かったけれど、自分ではなく他の男のモノでと思うと経験したことのない胸の痛みが襲いかかる。
それも、よりによって相手は鬼舞辻無惨、童磨がどうこうできる相手ではない。
まるで重い鉛を飲み込んだように胸が苦しくて、童磨は立っていられずその場に座り込んだ。
琴葉と出会ってから顕著となってきたこの感情の波を、童磨はうまく抑制できない。
(無惨様は俺を横浜へ飛ばした後、また寺院へ戻って…俺がいないのをいいことに琴葉に手を出したんだ)
そもそも何故あの方は琴葉の部屋にいたのか、あの時すでに琴葉はパンティを履いてなかった。
犬ではなくやはりあの方が脱がせたのだろうか、いったいどんな手を使ったんだと童磨は思う。
(まず、俺が青い彼岸花の情報を掴んだことであの方は寺院に来た…それで琴葉を見つけて可愛いから声をかけてパンティを奪った…そして俺の友人だと名乗ったあの方を琴葉は部屋へ招いた…)
雨も降り出して、琴葉はそうせざるを得なかったんだろうと、童磨は考える。
それに、無惨の見た目はとても
それに加えて女性に警戒心を抱かせるような男臭さがないのだ。
(それで俺を横浜へ飛ばした後で何か正論を吐いて琴葉をまるめ込んだ。いや、あの方なら口説くことなく何か術を使って女の一人や二人誑かすのは容易いだろう・・・む~、でもパンティは・・・)
童磨が頭を抱えながら思い悩む姿を背後から眺める鳴女は、無惨が早く
童磨はあれこれ推理して、ムラムラした無惨が琴葉を誑かしたのは間違いないが、それはよくある一夜限りの情事。
そして目隠しされた琴葉はたぶん、俺に抱かれていると信じてたのではないかと言う結論に辿り着く。
(あの目隠しはそういうプレイじゃない。単純に相手が誰かわからなくするための・・・)
童磨は無惨の性癖など知らないが、場所が琴葉の部屋だったこと、あのお漏らし用の布まで敷いていたのできっとそうに違いない、だとしたら俺が見なかったことにすればまるくおさまるのではないかと思う。
「く・・・」
童磨の胸が張り裂けそうに痛むが、琴葉を手放すという選択肢は童磨にはない。
手放したくないもの、それが童磨の混沌とした心の中にまだハッキリと輪郭を保っている。
童磨はまた懐から琴葉の写真をごそごそ取り出して見つめる。
(琴葉ごめん、おまえを守れなかった・・・)
相手が無惨でさえなければ、無惨でさえなければあの暴力夫のように殺して、童磨は山へ捨てただろう。
「ねえ琵琶の君!」
童磨は四つん這いで鳴女に詰め寄る。
「あの方は何時に
「後から、としか聞いてません」
「え~!」
後ってどのくらい後なんだと童磨は苛立つ。
今頃まだ琴葉とエッチの続きをしているのだろうか。
琴葉にキスをして、おっぱいを吸って、おマンコにハメまくっているのだろうか。
その光景を想像して、童磨の眼に涙が溢れたが、同時にムラムラとして俺も琴葉に溺れたいと思う。
そして、
(あの方のことだ…まさか気がすんだら用済みで琴葉を殺して喰・・・・・・・)
美味しそうに血を滴らせて琴葉を喰う無惨の姿が童磨の脳裏に浮かび上がり、その妄想で童磨自身も涎が垂れてくる。
けれど童磨は決して琴葉を喰わない。
だって、琴葉は初めてできた彼女で、そして、愛しているから。
無惨が無限城に現れたのは、それから半刻ほど経過してからだった。
「待たせて悪かった」
現れるなり無惨がそんなことを言うものだから、童磨も鳴女も跪き
あの無惨が嘗て謝ったことなどあっただろうか。
それに無惨は心なしか爽やかな、清々しい顔をしている。
童磨は琴葉とエッチをしてスッキリしたんだなと思うと心中穏やかにはいかず爪を手のひらに食い込ませて拳を握りしめる。
髪を乱し、和服の胸元を大きくはだけさせて現れた無惨はとても野性味に溢れ、さっきまで女を抱いてました的な雰囲気を漂わせていた。
いつも神経を尖らせてピリピリしている血色の悪い無惨よりも、こっちの野性的な無惨のほうが機嫌が良い分ややマシかもしれないと鳴女は思う。
そして、私の直感は正しかったと確信した。
(琴葉は?琴葉はどうなったんだ!?)
童磨の頭の中は琴葉のことでいっぱいだった。
「貴様の頭は女のことしか考えられないのか?いつからそんな女々しくなった?」
無惨が揶揄しながら童磨の前に立ち、見下す。
「……今夜はまだ会っていないので」
「フン、まあいい、よくやった童磨。おまえが持ち帰った球根から何れ青い花が咲くやもしれぬ。だがこれはまだほんの第一歩にすぎない。変わらず情報は集めろ」
「…はい、勿論でございます」
「・・・・・」
俯く童磨の思考は全て無惨に読み取られていた。
(ふむ、童磨のやつ見なかったことにするつもりか…そんなにあの娘が好きか…随分とご執心じゃないか。だがあの娘にはその価値がある。童磨は本能でその価値を見抜いている)
しかし情に欠ける童磨のことだ。
今は熱心に執着しているようだが離れれば女のことなど三日もすれば忘れるだろうと思う。
良くも悪くも童磨はあっさりしすぎて引き摺らない性質である。
無惨は琴葉に目隠しをしたままエッチを終えた。
数えるのを忘れたが何度も射精した無惨は間違いなく癒やされていた。
最高に気持ち良かった。
同時にイきたいという琴葉の願いをラストの射精で叶えられたことも誇らしく、無惨の世界が広がったのだ。
『あはぁぁん❤️教祖様もっとぉ❤️』
『教祖様好きぃ❤️イっちゃうイっちゃうーッ』
『愛してます!あぁあぁあぁあ❤️』
琴葉は最後まで、童磨に抱かれていると信じていた。
けれど無惨は別に琴葉の心に興味はない。
欲しいのはその血と肉体である。
(琴葉はどうなった?琴葉に会いたい!)
俺を早く寺院へ帰してくれと心の中で叫ぶ童磨の脳天に無惨は指を突き刺した。
「褒美だ童磨、私の血をふんだんに分けてやろう」
「ぐッ」
童磨の頭部から血飛沫が飛び散り、口からは血を吐く。
「ガハッ ア ア ア」
そして眼からは涙のように赤い血が流れ出す。
「この血に順応してみせよ、さもなくば死ね」
「アッ ア ア ガ カハッ」
無惨は悶え苦しむ童磨を一瞥してから、
「鳴女、私は帰る」
乱れた髪をかきあげながら言った。
「はい」
ベベベンと琵琶を奏で、鳴女は現在無惨が根城としている華族の屋敷へ無惨を飛ばした。
鳴女は童磨が無惨の血で悶える姿を見ていたが、童磨がすぐに正気を取り戻したので驚いてしまう。
無惨が言うところの順応を童磨は果たしたのだろうか。
童磨は自分の心臓の鼓動を確かめるかのように胸に手をあてた。
俺は本当に琴葉を愛しているのか?
“男なんてみんなそう!!わたしのおっぱいが目当てなんでしょう!?”
違う、おっぱいだけじゃない、俺は琴葉の全てが好きなんだと童磨は思う。
辛い過去と可憐な容姿、頭の悪いところも全てが。
───けれどまた今夜みたいなことが起きたら、そこに生まれる精神を苛む感情をすべて抑え込み、純粋に琴葉を愛し続けることなどできるのか?
(…いや、そんなことさせなければいい・・・絶対にさせやしない!)
足掻く、と童磨は心に決める。
「琵琶の君!」
今まで
「あの方は帰られたしもういいだろう?俺も帰りたい!」
「わかりました。では上弦の弐様の寺院へ…」
「頼むよ!」
ベベン
やっと帰ってくれた、と、鳴女は思うのだった。
ちなみにラストはハッピーエンドです
が、まだ終わりが見えませぬ( ;∀;)
お読みいただきありがとうございます