が、二人は離れません
それは或る秋の月夜の晩
やけにズキズキと鼓動が軋むのは
もしかしたらその予兆だったのかもしれない
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(無惨様だわ!無惨様は私が困っている時に現れて助けてくれる…不思議な方ね…)
突然現れた無惨の元へ琴葉は走ろうとするが、童磨に簡単に阻止される。
「教祖様退いてぇ!放してお願い!」
「俺を信じろって言ってるだろう」
「嫌ッ!嘘つき!信じないわ!」
琴葉を掴んで離さない童磨の元へ、まるでヒーローのように無惨が近付いて来る。
颯爽と歩を進める無惨に味方するかのように秋の夜風が彼の髪を梳かし、その風に揺れて木々がざわめくのと同時に童磨の胸もざわめき始める。
(なぜ無惨様はここへ現れた?)
それもタイミングが良すぎる。
位置は把握されているにしても何故今現れる必要があるのだろうか。
もしかしたらまた血を分け与えに来たのか?
いや、それはありえない。
だとしたら何故。
「無惨様!助けて下さい!」
琴葉は無惨が童磨と同じ人間を喰う鬼であることを知らず助けを求める。
無惨が人間の心を持たない鬼であったとしても、外見は善人そうな紳士なので琴葉にその正体がわかるはずもない。
「琴葉、この方はねぇ・・・」
「この方は…何だ童磨、言ってみろ」
「俺が崇拝…いや、尊敬している・・・」
そこまで言って童磨は黙った。
鬼の始祖だと言うわけにはいかない。
(無惨様はいったい何がしたいんだ!?)
童磨は足元からじわじわとドス黒い闇が広がっていくのを感じた。
けれどすぐに気を取り直し、
「あなた様がなぜこのような場所にいらっしゃるのでしょうか?」
童磨は伊之助を抱いた琴葉を背後へ庇うように隠しながら無惨に問いかけた。
「そんなことはどうでもいい。琴葉さんはおまえから逃げたがっているようだが」
「ただの痴話喧嘩でございますのであなた様が気に病む必要のないことでございます。どうぞお引き取り願えますか」
これ以上琴葉にちょっかいを出すな、鳴女が何処かへこの方を転送してくれないかな、という童磨の心の声が無惨に聞こえたが、ぶちギレはしない。
まだ癒やしの効果は継続されていたのだ。
「童磨、私は貴様のその物怖じしない所は長所だと思っている」
「それはどうもありがとう存じます」
ニコ~ッと笑う童磨を、いつもなら無惨は鬱陶しいと思うのだが、今夜の無惨は器が大きかった。
不敵な笑みを浮かべる無惨に、童磨のほうが無惨を鬱陶しいなと思ってしまう。
いや、琴葉に手を出されたあの瞬間から、童磨の中で無惨は既に鬱陶しい存在へと変化していたのだ。
しかし無惨の意図がわからないばかりか、その呪いの前では童磨は
「あ、あの・・・」
琴葉が童磨の背後から半分顔を出して、助けて欲しいと無惨に眼で訴える。
無惨は琴葉のそのSOSに頷いた。
と、いうかそのつもりでここへ来たのだから。
理想のおマンコと珍しい血を持つ琴葉を、童磨から略奪するために。
「童磨、美しい女性が困っているのを私が見逃せない
「へ?」
そんな話は初耳だよと童磨は思う。
「さあ琴葉さんこちらへ」
あくまでも紳士的に無惨は琴葉に手を差し伸べたが、なんと童磨がニコニコしながらその手を払い除けてしまった。
場に重たい空気が流れ、それを察した琴葉はいても立ってもいられず叫んだ。
「ぼ、暴力はダメですッ」
すると無惨が、
「心配いりませんよ琴葉さん、私も暴力は嫌いですから」
あくまでも紳士を演じる。
無限城に召集された際に見る無惨とは全く別人格の無惨に、さすがの童磨も呆気に取られてしまった。
この二重人格の無惨の毒牙に琴葉をかけさせるわけはいかない。
そして、童磨はやっとその意図に気が付く。
(まさか、一夜の気まぐれじゃなくて無惨様は真剣に俺から琴葉を奪おうとしているのか?)
それも、強奪ではなく手順を追ってきちんと奪おうとしているようだ。
無惨が人妻好きだとは知っていたが琴葉の夫は既に他界しているし今は人妻ではない。
つまり無惨は他人の所有する美女を略奪するのが趣味なのだと童磨は思った。
(無惨様はやることがいつも陰険だなあ・・・でもそこが無惨様の良いところだ)
飽きたら喰えばいいだけの話だし、楽しそうだと童磨は思うが琴葉をその他大勢にされるわけにはいかない。
童磨の心の声はもちろん無惨に読まれていたが、童磨はお構い無く心の中でペラペラと喋る。
(う~ん・・・でも、人の彼女を取ろうなんて、真面目な俺にはできない真似だよ)
貴様の真面目の基準など知らぬと思いながら、無惨は童磨の心の声を聞き流し、理解したなら話しは早いと思った。
「童磨、琴葉さんが逃げ出すようなことをしたとは、私はおまえを見損なった」
「先ほども申した通り良くあるただの痴話喧嘩でございますので、あなた様には関係の無いことでございます」
思わずいつもの調子でニコリとしながら口走ってしまった後で、童磨はそろそろヤバいかなと思った。無惨の意思ひとつで童磨は、鬼達は、いとも簡単に消されてしまう存在、無惨のコマでしかないのだ。
けれど死んでも琴葉を誰にも渡さない、渡したくないという童磨の気持ちは揺るぎない。
すると、童磨の背後にいる琴葉が震える声で答えた。
「あの…無惨様、実は教祖様とわたしはお付き合いをしてました。でも、色々あって別れ話が拗れてこんな夜更けにわたしが教祖様から逃げるようなかたちになってしまったんです。でも、でも、教祖様は悪くないんです…わたしが我儘なだけで…」
琴葉は童磨が信者を殺したから逃げて来たなどと言えなかった。
童磨の正体を知らない琴葉は童磨を罪人にしたくはないので童磨を庇ったのだ。
「そうですか・・・私は我儘な女性は好きですよ。特にあなたのような美しい方の我儘は大好物です。さあ琴葉さん、私と一緒に…」
「ちょっとお待ち下さい」
無惨の
「よく聞け童磨、私が琴葉さんを助けるのはこれで三度目だ。一度目は売春宿が居並ぶ裏通りで、二度目は寺院に掘られた穴の中から、そして今この瞬間」
「!?」
そう言えば琴葉がラブホテルで、助けてくれた男がいたと言っていたことを童磨は思い出す。
まさかその男が無惨なのだろうか。
だが穴とは何のことなのか童磨にはわからない。
「一度目は強姦、二度目は殺害が目的、何れも貴様の信者が仕組んだ罠であることを知っているのか?」
「殺害!?」
「そうだ。美しいが故に命を狙われ虐められ痴漢行為をされる彼女を私が救って何が悪い。私はな童磨、琴葉さんとは運命だと思っている。漸く巡り会えたと言ったところか」
「は!?」
メルヘンなことを言う無惨に、童磨の不快感がMAXに近づく。
「それに童磨、貴様は一人の女では満足できない男だ。以前寺院にハーレムを作っていたじゃないか、今はどうなったのだ?」
「え?ハーレム!?」
琴葉がいち早く反応した。
(聞いたことあるわ…沢山の女性を住まわせて性的な関係を結ぶことよね)
明治維新後に生まれた琴葉にとっては一夫一妻が常識で、沢山の女を
しかし、童磨に女の影があることを以前から感じていた琴葉は二つの点が線で繋がった気がした。
(そうよ、わかっていたはずなのに…!わたしは教祖様に遊ばれてたんだわ…なんてひどいの!まだ浮気のほうがマシよ!)
愛してしまった男が人を殺した上に、その男に弄ばれていたと知った琴葉の心のダメージは大きかった。
一方の童磨は、心当たりがあった。
童磨は何十年か前に、琴葉のように行き場のない多数の女性達を寺院で世話していたことがあった。
もちろん今も保護活動はしているが当時はもっと大規模だった。
やたら食欲旺盛な時期で謂わば食料用の家畜みたいなものだったが、遊びに来た玉壺にハーレムを作ったんだよと冗談で言ったことがあった。
おそらく玉壺が無惨にそれを告げ口し、無惨はそのことを言っているのだろう。
しかし、ハーレム
(無惨様は琴葉に俺の悪いイメージを植付けようとしている、実に陰険なお方だ)
琴葉の美しい顔は怒りと悲しみに満ちており、童磨は琴葉の心がますます自分から離れて行くことに焦る。
「あっはは…ちょっと待って下さい…ハーレムとはいったい何のことでしょうか」
とぼけようとする童磨に、琴葉は大きな瞳に涙をいっぱい溜めながら叫んだ。
「わたしを騙したのね!やっぱり教祖様は嘘つきよ!愛してるとか
「どうしてそんなこと言うのかな?誤解だよ琴葉…俺は本気で」
童磨の言葉半ばに、
「はなして!!!!!」
琴葉は渾身の力で童磨の腕を振り払う。
そしてほぼ同時に、
バチ───────ン
琴葉のビンタが童磨の頬に炸裂し、琴葉は溢れる涙を拭いながら体を翻し無惨の元へと駆け出す。
「いて…」
童磨は胸に手を当てた。
ズキンズキンと、痛いのは頬ではなく、心臓だ。
「くっ くっ く」
見事にフラれた童磨に、そして上弦の弐にビンタを喰らわせた人間の少女の威勢の良さに無惨は思わず笑ってしまう。
童磨がハッとして見た時には手遅れだった。
琴葉は無惨に肩を抱かれていたのだ。
ただ伊之助だけがそっちへ行きたいというように、小さな手を童磨へ伸ばしていた。
気がつけば書きはじめてから1年過ぎてました(;゚∇゚)
次回、童磨に異変が!