1話
繁栄と堕落を繰り返すたび孕む闇を深めていく享楽の巨大都市、トーキョー。
蛍光灯とネオンの光は都会を不夜の街と変えはしたが、引きかえのように隠れた闇はどす黒く底知れなくなっていく。
科学と妖魔の入り乱れる混沌の坩堝と化した彼の都市を、ある者は『魔胎都市』と呼んだ。
そんな巨大都市の一角に、小さな研究所が鎮座している。
――――否、研究所などと呼ぶのはおこがましい。
それらしく外面を取り繕っているのは外観と、精々エントランスの一部のみ。扉を一つ開ければ、内部は肉壁と触手に満ちた地獄のような光景が広がっていた。
この内部でいったい何を『研究』していたのか。
この施設の『所長』を称する者の情熱は、たった一つの対象へと向けられていた。
エントランスを抜けて廊下の奥深く、偽装された肉部屋を通り抜け地下室のさらに地下。
悍ましいピンク色に蠢く床を踏みしめて辿り着いた先に、まるで祭壇じみた大部屋がある。そこに、ひとりの女があられもない恰好で捕らえられていた。
癖のない紫の長髪を背中に流した、一目見て美人と分かる女だ。通りすがれば十人中十人が振り返るであろう美貌である。
豊満に実った双丘は赤子の頭ほども大きさがあり、安産型の腰から尻にかけてのラインはずしりと重量感さえ感じさせる。肉感的な太腿は、ともすれば女自身のウエストに届こうかというほど太く、ムチムチと音を立てそうなほど異性の目を引く艶めかしさを発している。
女は肉壁とそこから生えている触手に四肢の自由を奪われ、大部屋の壁際で宙吊りにされていた。
いや――――果たしてこれが宙吊りといえるのか。判断は難しい。
腕は上腕の半分まで、脚は太腿のほぼ半ばまで。呑み込まれるような形で手足を拘束され、強引に大股開きに開脚させられたまま胴体だけは剥き出しにさせられている。
手足を拘束している肉壁は絶えず色を変えながら不気味に蠢き、女の手足に断続的な刺激を与えていることが察せられた。
人としての尊厳を踏み躙り、劣情のままに女の身体を弄ぶための束縛。捕らわれたが最後、無限に続く快楽と辱めによって、いかなる高潔な聖女ですらも惨めなメスへと作り変える魔の研究所。
それがこの研究所の正体である。
――――円城咲耶。
これがこの施設に囚われている女退魔師の名である。
一桁の年齢の頃より退魔業へと明け暮れ十年足らず、二十歳にもならないこれまでの間に滅してきた妖魔の数は百を超える。清浄かつ無尽蔵な生命力と神具、そして護符を用いた戦闘スタイルに正面から相対して生存してみせた敵は存在しない。
鮮烈たる彼女の戦歴は現役最強の呼び声高く、それだけに恨みと欲情の目も多く向けられていた。
そのなれの果てがこの媚態である。
咲耶の肉体目当てのとある富豪が出した罠依頼に、彼女はまんまと捕らわれた。人の善性を信じすぎる彼女の悪癖の発露であり、それを逆手に取られた巧みな罠である。
裏で富豪と手を組み咲耶を捕らえた妖魔は、その足で富豪を裏切り亡き者にした。今頃脂ぎった薄毛の中年男は、脳漿を蟲に啜られながら咲耶を犯す夢に酔い痴れていることだろう。
そして咲耶の身は魔界一と名高い調教師のもとへ預けられ、わざわざ彼女のためにのみ建てられたこの研究所で凌辱を受けることになる。
全ては、近く魔界より召喚される魔神への贄とするため。
生命力に満ち、高潔な精神を持つ彼女を淫らな痴女へと落とす――――彼らの仕える魔神の最も好む所業である。
「ォ……ほぉ……っ」
肉壁の蠕動が触手越しに伝わったのか。手足を拘束され、一糸纏わぬ裸体を中空に固定されている彼女が恍惚の吐息を吐いた。そのたびに巨大に成長した二つの乳房がプルンと誘うように震えてみせる。
熱気の籠った呼吸を繰り返す彼女の視界は塞がれていた。
鼻から顔の上半分を昆虫のような妖魔――フェイスハガーに取り付かれているのだ。
蟲魔の腹から分泌されるフェロモンは咲耶の鼻腔へと直接噴霧され、淫毒をもって肺を犯し常時発情状態を維持させている。日に二度蟲魔の下半身から伸びる肉棒は遠慮なしに咲耶の可憐な口へと突き込まれ、肉棒への奉仕の仕方を教え込むと同時に、注ぎ込まれる淫毒混じりの白濁液は彼女がその日を生きながらえるための貴重な栄養となっていた。
「ぉ、ぉおォっ」
ビクン、とひときわ大きな痙攣。
だらしなく半開きになった口から涎が零れ、珠のような汗が上気した乳房を伝った。
肉床からは一本の触手が垂直に伸びている。
咲耶の足元に空いた穴から伸びる赤子の腕ほどの太さの触手は、まるでプラグを挿入するかのように彼女の秘裂へと差し込まれていた。
触手は緩慢に脈打ちながらグネグネと動き咲耶の膣内を刺激し続け、それに応じるように彼女の肉穴からは夥しい量の愛液が触手を伝って滴り落ちていく。足元の穴は排水口のように愛液を受け止めると、巨大な生物が嚥下するように蠢いた。
――――そう。この研究所を巨大な生物と見立てた場合、これこそが主な捕食行動。
最強の退魔師の肩書通り、円城咲耶が肉体に秘める生命力は人類最高峰に位置する。彼女が今まさに垂れ流している様々な体液もまた同様に、魔性に生きる妖魔たちにとってはこれ以上ない芳醇なご馳走なのだ。
特にこの手の淫魔に属する妖魔は、獲物の発する淫気からも生命力を奪う。女が発情し、より淫猥に堕ちた末に搾りだす精気は極上の代物だった。
淫魔は
さながら半永久機関。魔界随一の調教師が考案した調教システム、その最高傑作のひとつ。獲物の調教と肉体改造を限りなく手間を減らしたうえで過不足なく進めるための機械的システム。
そこに慈悲も享楽も介在しない。いくら咲耶が許しを乞おうと慈悲を哀願しようとも、聞き届ける人手すら惜しんだこの施設では虚しいだけだ。
咲耶の生命力から換算するに、この研究所は残り半年はつつがなく稼働し続け、女退魔師に快楽を与え続けるだろう。
「い……グ、ぅ……っ」
調教は九割が完了している。既に咲耶の精神はへし折れていた。
最初は負けまいと眦を決し、歯を食いしばった。
五日後には泣き叫び、慈悲を乞うた。
十日経つ頃には一転して緩慢になった責めに物足りなさを訴え、
半月後には自ら刺激を求めて触手への愛撫を絡め始めた。
そして今、円城咲耶が捕らえられて4週間が経とうとしている。
ひと月前、任務に挑もうと意気込んでいた彼女とはもはや別人である。
もともと豊かではあった巨乳は、乳首にむしゃぶりつく特製の淫蟲の作用によってふた回り以上育て上げられ、全身性感帯と化した肌は尻をはたかれるだけで愛液を垂れ流す。日に数度口に突き込まれるフェイスハガーの肉棒に悦んで舌を絡め、今もなお咲耶の膣内へ抽挿を繰り返す触手へと、苦悦の籠った声とともに腹筋と膣筋を使って奉仕するあさましい女退魔師。
――――否。もはや彼女に退魔師としての自覚が残っているかすら怪しい。
『出荷』のための準備はほぼ整っている。彼女が完全に堕ちるまであと一歩、調教はその寸前にまで追い込みが完了していた。
残り三日程度もすれば、咲耶を供物として捧げる祭壇の用意も終わるだろう。
魔神の召喚が為されれば、彼女の末路は決まりきっていた。円城咲耶がその精神を人外の快楽によって粉々に粉砕され、魔神の体内にて死ぬまで弄ばれる。
その後のことは状況次第だ。豊潤な栄養源として魔神に消化されるか、人間界を侵略する尖兵を生産するための苗床にされるか、砕け散った精神をつぎはぎされ、仮初めの人格とともに魔神の手先として蘇るか。
どちらにせよ、祭壇へと『出荷』されれば円城咲耶という存在はこの世から消え去るであろう。
「もっと……お、くぅ……っ」
――――もっとも、咲耶がその未来を嘆くか悦ぶかは、その顔に浮かべる蕩けきった表情が全てを表していたが。
「――――無様だな。最強の退魔師といえど、捕まってしまえばこんなものか」
唐突に、何者かの声が響いた。
男の声だ。フェイスハガーに顔の上半分を塞がれている咲耶にはそれ以上はわからなかった。
突如として肉触手の蠢く調教室へと現れた『誰か』は、侮蔑の色を隠しもせずに吐き捨てる。
「意気揚々と敵の罠に突っ込んであえなくチン負け……いや、この場合は触手負けか? ――ともかく、あからさまに淫魔が蔓延る敵中に女退魔師を放り込むのがどうかしている。女の拝み屋なぞ精液の臭わない場所で霊障でも祓わせておけばいいんだ」
ぐちゃぐちゃと、硬い革靴が肉床を踏み躙る音。男といえど嗅げば発情を免れない淫臭が立ち込める中、何者かは動じた風もなく拘束された咲耶へと歩み寄った。
(誰……? 男の人……? 男の……チン――――あぁっ)
そして咲耶の思考は、救助が来たと喜ぶ以上に触手に染め上げられていた。
匂いがする。
何より求めた、雄の匂い。
魔神に捧げられるために限界まで焦らされた身体は、我慢がきかないほどに疼いていた。
「は、やく……はやく、ソレを……」
「うん?」
熱のこもった声で訴えかける。訝しげな男の声に、もどかしげに声を上げた。
「欲しいの、足りないの、気が狂いそうなのっ。はやく、はやくチンポを、チンポで、チンポが欲しいっ! 早く私を無茶苦茶にしてぇ……ッ!」
「――――――」
羞恥など日々の調教で吹き飛んでいた。恥も外聞もなく肉棒をねだって叫ぶ咲耶に、男は一瞬言葉を失い、
「…………いいや、ダメだ」
ずるりと咲耶の膣から触手を引き抜くと同時に、節ばった指を突き込んだ。
「ヒ……ぃぃぃいいいイいい!?」
ひと息に、それも二本同時。
待ちに待った快楽にたまらず咲耶が絶叫する。焦らしに焦らされた身体が歓喜の声を上げた。連続で絶頂に導かれた秘裂が勢いよく潮を噴き上げる。
それまでホースほどの太さの触手が物足りない責めを繰り返し、イクかイカないかの狭間を行き来させられた咲耶の身体は、ただの指の抽挿で呆気なく絶頂する。
「むぅ……これは……」
突き込んだ指を締め上げる膣の動きに男が思わずといった声を上げた。
それもそのはず。咲耶の身体は触手の調教によって徹底的に奉仕の動きを躾け込まれた。上腕部から先、太腿から先が固定され、身体の自由がきかない中、膣内を緩慢に刺激する触手から白濁液を搾り取るため、肉襞の一つ一つで愛撫する技術を編み出すほどに。
咲耶の肉穴は吸い付くように男の指先を引き込み、肉襞がまるでそれぞれが別の生き物のように複雑に蠢いて絡みつく。
最上位の淫魔ですらこれほどの動きがこなせるのは一握り。咲耶の人間として最高峰の肉体と淫事への才能が可能とさせた超越の絶技である。ただの男であれば指先であろうと与えられる快感に数秒で射精に達するに違いない。
しかし足りない。ただの指ではもはや満足できない。
自由にならない身体の、腰と腹筋をゆすりながら咲耶が叫んだ。
「指じゃイヤ! 指だけじゃいやぁ……! はやくおチンポを下さいぃ!」
被虐心をそそられる悲鳴だった。男なら誰もが目の色を変えて襲い掛かるであろう媚びを含んだ声色。感情など持たない触手でも、この声を上げればわずかに太さを増すほどに。
しかし、目の前の男は数少ない例外だった。
「ダメだ」
「おッ――――おぉぉォぉおお!?」
Gスポット。
抉るような指の動き。普通なら苦痛を覚える刺激でも、開発されきった咲耶の身体は存分な快楽を脳に伝達する。
もだえ苦しむ女退魔師を尻目に、ぐちょぐちょと音を立てて秘裂を掻きまわしながら男は言う。
「生憎と、お前は“まだ”身体ができてない。――媚びれば必ず与えられるなどと勘違いするなよ、淫売」
「いぃぃいいっ!? イクイクイクいっ、ひぃあああああ!?」
ガクガクと身体を痙攣させてイキ狂う咲耶。男は彼女を激しく責めたてながら微かに舌打ちした。
「また随分と出来上がったものだ。これだけの淫毒、一体どれくらい溜めこんだ? 解毒に何年かかるやら」
「んぉおおおぉお! またイクまたイク止まらないいぃいい!?」
「うるさいぞ、陰茎が苛立つだろうが」
「んごぉ!?」
ぺちん、と男が投げやりにフェイスハガーをはたくと、それを合図と見たのか淫蟲から肉棒が伸び咲耶の口を塞いだ。同時に鼻腔へ噴き込まれる淫霧。数秒もかからず咲耶は目を蕩かせて肉棒へ舌を絡めた。
――――が、
「よし――――ここか」
「ぉ――――ゴぁ!?」
衝撃、撃熱。
焼きごてを当てられたかのような凄まじい熱感が下腹部を襲った。
目も鼻も口も塞がれた咲耶に状況はわからず、刻み込まれた調教が触手を噛み切ることも許さず、もはやくぐもった悲鳴を上げる以外にない。
「お――おおおぉぉお!! ゴォォアアアオア!?」
――そして何よりも恐ろしいのは、この激感ですら肉悦へと変換してしまう咲耶の肉体だ。
変わり果ててしまったという実感すら、膣の内側から湧き立つマグマのごとき熱量に追い立てられて虐悦混じりの悲鳴へと変わった。
「なるほど、なるほど……逆変換を利用すれば多少はマシになるか? 時間はかかるが……まぁ、その辺りは当人の責任ということで」
「んおおおお!? お……ご、ォオオオ!?」
「間抜けな悲鳴だな、円城咲耶。――――そら、もう終わったぞ」
一体どれほどの時間が立っただろうか。
丸一日責め続けられたような気もするし、五分も経っていないようにも感じられる。
気が付けば咲耶を責めさいなんでいた男の指は引き抜かれ、咲耶の顔を覆っていたフェイスハガーも引き剥がされていた。
息も絶え絶えと朦朧とする意識の中、嘘のように引いていく快感の残滓。いったい何事かと戸惑う余裕すら彼女にはない。
顎を掴まれた。強引に上向かされた咲耶は、夢見心地のまま唇を塞がれる。
「むぅ!? ……ん」
ゾロリと歯を舌で撫でられる感触。たまらず開いた口の隙間に、男の舌が強引に入り込む。
絡み合う舌と舌。本能にまで刻まれた調教の成果が、咲耶の蹂躙される口内に快感を叩き込む。
男が流し込む唾液を躊躇いなく嚥下し――――一瞬、先ほどまで指を突き込まれていた秘部が疼くのを咲耶は感じた。
「――――円城咲耶。お前に、のろいとまじないと警告を残してやる」
唇から糸を引きながら顔を離した男が言った。初めて見る人間、平凡な顔つきに鍛え上げられた肉体を背広に包んだ男だった。
「のろい……?」
朦朧とした意識の中、咲耶が返した。立て続けに押し寄せた快感に限界を迎え、今度こそ意識を失おうとしている。
言葉の意味すら理解できないまま鸚鵡返しにした咲耶の言葉に、男は鼻を鳴らし、
「お前は力を得るだろう。しかしそれは振るえば破滅に向かう力だ。心しておけ。このまま身を引き、淫魔の関わらない退魔業に徹するならよし。五年もすれば呪も引く。しかしまた触手だのナメクジだのが闊歩する淫獄に身を置けば、その力は瞬く間にお前自身に牙を剥くだろう」
「ぉ……」
何を言い返そうとしたのか、それは咲耶にすらわからない。
明滅する視界。今度こそ意識を失う寸前の咲耶に、男の声が響いた。
「身を引け、円城咲耶。さもなくば――――全てを棄てる覚悟を決めるんだな」
崩壊する肉欲の研究所の中、打ち棄てられるように取り残された女の下腹部には、桜の花弁のような紋様が刻み込まれていた。