次話は多分エロがないです。
あと五話以内に終わらせたい……
――早朝、まだ日が昇りきらぬほどの明け方。
神守清華は浴室で、その瑞々しい裸体を晒していた。
未だ青さが残るとはいえ、女として完成された肉体美である。鍛え抜かれたむっちりとした太腿からくっきりとラインの浮き出た臀部に弛み一つなく、逆に細くくびれた腰と引き締まった腹部には無駄な肉もなく、しかし無骨な筋肉が浮きあがるでもなく柔らかな脂肪に包まれている。
染みひとつない肌、なだらかな肩の下で大きく張り出した二つの美乳は重力に屈して垂れる気配もなく、ツンとした乳首が天上へ向けて立っていた。
数度にわたる凌辱を経てもなお、彼女の肢体は穢れを知らぬ乙女のようであり、憎い敵にボテ腹絶頂を何度も極めさせられた肉体とは到底思えないほど。
ピッタリと閉じた陰唇は黒ずみもなく、形だけは強固にその最奥を守り通しているようにも見える。
――――その割れ目から、夥しい量の愛液が溢れていることを除けば。
「あぁ……どうして……っ」
気だるい倦怠感の中、暖かいシャワーに打たれながら清華は嘆く。
朝目が覚めると、下着が台無しになっていた。
理由など知れている。最近はとみに頻度を増して見るようになった淫夢のせいだ。
あの肉塊の中で散々に凌辱されてから、夜毎に見るようになった悪夢。
夢の中で清華はあの道鏡に犯されていて、それを拒むどころか嬉々として腰を振っていた。その蕩けた表情、媚びの混じった嬌声、いやらしい腰使い……気丈な性格の女退魔師であった清華の面影など微塵も残っていなかった。
一度目の敗北から見始めたあの淫夢に、清華はあまりの不埒さに歯噛みする思いで日の出を迎えた。
二度目の敗北から、淫夢を見るたびに己がこれほどまでにふしだらであったのかと夜毎に枕を濡らした。
三度目に敗北してから、身体の火照りを持て余してぼうっとするようになり。
四度目になってからは、抑えきれない淫熱にとうとう自らを慰めるようになった。
そして今は――
「ぁ……んっ――――」
しとどに濡れた裂け目に、清華の細い指先が入り込む。ぬるりと抵抗なく清華の指を受け入れた淫裂は、指先が火傷するかと思うほどの熱を持っていた。
「はぁぁ……ぁん……」
たまらず漏れる熱い吐息。飛び散ったシャワーの湯で濡れた姿見は、だらしなく蕩けた表情の黒髪少女を写している。
(こんな、こんないやらしい顔で……わたくしは……っ)
胸奥に込み上げてくる自己嫌悪。しかしそれも秒を数えるまでもなく燃え上がるような淫欲の熱に塗りつぶされていく。
ただの一刺し。中指を限界まで膣の奥深くまで突き込んだだけで、後ろめたさは吹き飛んでいった。
「ぁ……ん、くぅぅ……っ」
顔を濡らすシャワーの感触。目の前の鏡に縋りつき、裸身のシスターは自慰に耽る。
空いた手で自らの双丘を揉みしだき、硬くなった乳首を指先で転がす。感極まった声が清華の唇から漏れた。
「ぁんっ……ここ、すご……っ」
指先を鉤爪のように曲げて膣肉を刺激する。男に開発されたGスポットは簡単に見つかった。コリコリと捏ねるように指先で引っ掻くと、痺れるような快感が背筋から脳天へと走っていく。
そして、絶頂は呆気なく訪れた。
「はぁ……はぁぁぁああああ~~~~っ」
ふわふわと登りつめるようなオーガズム。あの男にされた、力尽くで打ち上げられるようなものとはまるで違う。稚拙ながらも丁寧な愛撫。
これで満足するべきなのだろう。欲求不満は自身で処理して、また普段通りに一日を過ごせばいい。こんな衝動、こうして抑え込んでしまえばそれで解決するのだ。
なのに――
「ん――――ふぅぅぅぅ、んっ……」
指が止まらない。
指一本では物足りないとばかりに薬指まで蜜壺に突き込み、ぐちょぐちょといやらしい音を立てて淫裂をほじくり返す。
「足りない……指なんかじゃ、足りませんわ……っ」
あの人のオチンポはもっと太かった。
あの人のオチンポはもっと熱かった。
あの人のオチンポはもっと長かった。
あの人のオチンポはもっと硬かった。
もう二か月も前になるというのに、鮮明に思い出せる。
あの日、肉塊の中で、清華を犯した生の肉棒の感触を。
ゴリゴリとポルチオを捏ねまわす亀頭の硬さ。肉襞を押し広げほぐしていく張りに張った雁首。
そして―――熱湯のように熱い白濁が注ぎ込まれ、腹の中をパンパンに膨らませていく、この世の物とは思えない絶感を。
知ってしまえば二度と戻れない。あれから何度も犯されたが、退魔スーツ越しに感じる肉棒と精液の感触にはいつも物足りなさが伴った。突かれるたびに、注がれるたびに、これがナマであればと不満すら湧いて出たのだ。
いっそスーツを破り捨てて直に入れてくれればよかったのにと、倒錯的な願望すら懐いてしまうほどに。
(いけませんわ……いけませんのに……どうして、こんな……)
自らを律しようとする心の声も、秘部を慰める手が止まらないままでは何の意味もない。
とうとう足に力が入らなくなった清華は、浴室のタイルの上に蹲って呻いた。
「んんっ、ん、ふぅぅうぅううぅぅう……っ!」
声を押し殺しての再度の絶頂。控えめに噴き出した潮がパタパタとタイルに滴り落ちる。
――――結局、浴室での自慰は完全に陽が昇り昼前になるまで続いた。
悶々とした欲求不満を燻らせたまま、清華は街へと繰り出した。
今日は珍しく退魔の依頼が無く、一日が完全にフリーになってしまったためである。最近は心なしか魔の気配が不活性に陥っているようで、こんな風に昼間街中を散策できる日が増えていた。
一年前よりも子連れの通行人が増えた。逆に顔を険しくして足を速める人は減り、雑踏から漏れ聞こえてくる声は和気藹々としている。
喫茶店には参考書を睨みつける学生。ノートパソコンを広げる会社員。ホットケーキにナイフで切りかかる子供とそれを見守る母親。
誰もが命の危険など思いもよらないという顔をしている。このトーキョーの路地裏の暗がりに潜む闇は、自分からは遠く離れた代物なのだと。
そしてそれは―――紛れもない事実なのだ。
着実に、トーキョーは魔都の様相を薄らがせている。
それは咲耶や清華がどれほど奮闘しようと届かなかった安寧であり、ひとりの男が力尽くで成し遂げた偉業でもあった。
どこまでも身勝手に平穏を形にした道鏡。アウトローを標榜し、官憲や退魔師を鎧袖一触とばかりにものともせず、咲耶と、そして清華ですらねじ伏せて凌辱した男。
彼の所業は紛れもなく清華が憎む悪であり、許されざる犯罪者であることに違いはない。しかし同時にその途上で清華以上の人々を救ったのも事実である。
他ならぬ宿敵から自らの存在意義を問われている。そんな現状に清華は暗鬱な溜息をもらす。
(いいえ……いいえ。たとえあの男にどんなに否定されようと、わたくしたちの戦いは無駄ではなかったはず。どんなに辱めを受けようと、屈するわけにはいきませんわ……っ)
首を振って雑念を振り払う。面持ちを新たにした清華は気を改めて久々の休日を満喫しようと――
―――カラン。
ドン、と軽い衝撃。
「あっ!」
「おっと」
雑踏の中で立ち止まっていた清華が悪いとはいえ、背中に誰かからぶつかられた彼女は思わずよろめいてしまう。ぶつかってきたのであろう誰かに腕を掴まれ、ぐいと引き戻されて事なきを得たが、自らの失態に清華は軽く赤面した。
(神守流の担い手ともあろうものが。気の緩み過ぎのようですわね……)
―――カラン。
「前方不注意だった、申し訳ない。怪我はないだろうか?」
「いいえ、こちらこそ急に立ち止まったりして――」
面目なさげに謝罪する男に言葉を返す清華。普段ならば軽く身を翻して躱してしまえる動きなだけに、清華にとって今回のこれは失態と言ってもいいほどの自分の責任だった。
帰ったら改めて鍛え直そうと心に決めつつ、清華は男へと向き直って―――
「え……?」
「む?」
―――鍛え抜かれた長身。見覚えのある短髪。どこにでもいそうな特徴のない顔だというのに、清華はその人物のことを良く知っている。
神守清華の仇敵、道鏡がそこにいた。
「あ、あなたは……っ!?」
「なんだ、神守清華か」
驚愕する清華と反対に、道鏡の反応は淡白だった。面倒くさいモノと出くわした、と言わんばかりに顔をしかめ、軽くため息までついてみせる。とても過去に殺し合いを演じた相手と遭遇した際の反応ではない。
「くっ……!!」
しかし清華の方はそういかなかった。驚愕から立ち直るや足を踏み込み、腰を捻じって身体を回転。竜巻のごとき動きで繰り出す蹴撃は鉄骨すら真っ二つにする威力を誇る。
完全に不意を突いた足刀は道鏡の脇腹に直撃し―――
「阿呆、何考えている」
清華の目ですら捉えきれない踏み込みで間合いを潰された。密着するほど近付かれては、蹴りの威力も形無しに減衰する。太腿の半ばで脇腹を打ったところで膝蹴りほどの痛みすら与えられないのだから。
道鏡は清華の太腿を抱え込み、腰を抱き上げるとくるくると踊るように回転して衝撃を殺しきった。そのさまは傍から見れば、まるで再会した恋人同士が抱き合っているようで―――
「は―――離しなさいっ!!」
「離せばまた暴れるだろう?」
赤面して声を荒げる清華。対して男は呆れた風に鼻を鳴らす。
「前々から思ってはいたが、とうとう脳筋ここに極まったか。こんな人混みの中で暴れて怪我人が出たらどうする」
「うっ……」
「だいたいそんな恰好でハイキックなぞ痴女も同然だろう。もう少し淑やかさというものを身に着けろ」
「うぐぅ……っ」
ぐうの音も出ぬ正論でやり込められた清華が抵抗をやめる。片足を抱きかかえられ男の首に手を回して体を支える二人の姿は、先日まで殺し合っていた仇敵同士には到底みえない。
清華の内心を知ってか知らずか、道鏡は手を離すと踵を返した。あまりにもあっさりと遠ざかっていく彼の背中に、清華は何とも言い難い物足りなさを覚える。
「ま……待ちなさい!」
「あん?」
「ぅ……」
胡乱げに振り返った男に清華は言いよどんだ。
いったい自分は何を思ってこの男を呼び止めたのだろう。出くわせば清華が挑みかかり、組み伏せられて犯されるのが常態になっていて、手つかずに別れようとする男がいっそ信じられないほどだった。
これまでになく混乱した清華の思考は、まるで無関係なことを彼女に口走らせた。
「そ……その恰好は何なのですっ!」
「かっこう?」
オウム返しに問い返し、道鏡は自らの身体を見下ろした。
―――皺の寄った使い古しの白いワイシャツに、下は薄いベージュのスラックス。先ほどから鳴っていたカランカランという音は、裸足に引っ掛けた無骨な高下駄がアスファルトを叩く音だった。
……滲み出る昭和の匂い。トーキョーという大都会に似つかわしくない装いだ。
このまま肩に手拭いでもかけて頭に麦わら帽子でも被せれば、田舎の実家に帰省して親戚付き合いで参加した神社の縁日の木陰で団扇を仰いでいる気楽な兄ちゃんである。
清華の指摘に訝しげな顔で私服を検めた道鏡は、心なしか憮然とした風に、
「似合わないか?」
「似合……わないことはありませんがっ、そうではなく! というか身長まで変わってるではありませんか!?」
夜に対峙したときとあまりに印象が違い過ぎる。あの筋骨隆々とした偉丈夫の姿はどこへ。
明らかに腕や腹回りの逞しさが違うし、威圧感を伴う見上げるほどの大男とは到底思えない印象だった。
清華は混乱の極みにあった。どうして殺し合う仲だというのにこの男は親しげに接してこられるのだ。
対して道鏡の方は呆れた表情を隠しもしない。
「馬鹿かお前は。オフの日にまで界王拳を維持する悟空がどこにいる」
「かい……何なんですの、それ……?」
「―――そうか。そもそもこの世界にはないのかあの作品……」
どこか遠い目で黄昏れる道鏡。打って変わって元気のない雰囲気を隠しもせず、重い足取りで清華に背中を向ける。
「……そもそも世代じゃないんだろうな、なんだよ20XX年って。平成どころか令和すら過ぎてるんじゃないか。これがジェネレーションギャップ―――なるほど、これが自らのおっさん化を自覚する瞬間か……」
「お待ちなさい。どこへ行こうというのです」
「精神的にきつくなってきたからどこぞのラブホかカプセルホテルで横になってくる。銭湯でリフレッシュしたい」
「脆過ぎませんか!? そもそもこの辺りに銭湯なんてないでしょう!」
おかしい。今日の道鏡はあまりにも様子がおかしい。
清華の知る唯我独尊傍若無人な退魔師の姿など欠片もない。いっそ家庭内に居場所がなくて公園のブランコに腰掛ける中年サラリーマンのような風情すら漂わせている。
「いったい何があったのです。今日のあなたはあまりに覇気に欠けていますわ」
苛烈で潔癖な退魔シスターとして知られるようにはなったが、生来のお人好しは微塵も失っていない清華である。困っている人を見たら当然として、たとえそれが積年の仇敵であろうと見捨てるのは居心地が悪い。
その面倒見の良さから、思わず清華は男の背中に手を当てて励ますように声をかけていた。
「今日はオフなのでしょう? 溜め込んでしまうのは身体によくありませんもの。誰にも言いませんから、ここで吐き出してしまいなさい」
「んん……」
清華に背中をさすられて人心地付いたのか、男はむずがるように鼻を鳴らし、
「咲耶に――――――家を追い出された」
とんでもない家庭内事情を放り投げてきた。
「は?」
「俺は普通に育児を肩代わりしようとしていたのにな。あいつときたら『あなたが何でもかんでも世話を焼いていたら初穂の自発性が損なわれます』だと。―――まったく、昔のオトンとオカンみたいなこと言いよって、何なんやいったい」
「は?」
何なのだ、これは。自分はいったい何を聞かされているのだ。あと途中で口調が関西弁に変わるのはドキリとするからやめてほしい。
混乱する清華を尻目に、男の愚痴は続く。
「あいつかてアレやぞ。いかにも子供のためを思ってみたいな風に言っとうけど、本心は自分が初穂に構うのを取られて拗ねとうだけや。夜泣きをあやすときかて、俺が抱っこする方が泣き止むの短いからって明らかに不貞腐れとったし」
「はぁ……」
「それならってんで家事とか諸々全部引き受けようとしたら、今度はそれでキレよる。『あなたはわたしを牛にでもする気ですか』やと。―――家事やらんくらいで太るわけないやろ。淫紋刻んどうねんから体型崩れるとか有り得んっての」
「それで……喧嘩に?」
半ば投げやりになった清華の問いに道鏡は頷いた。
「やることがない。仕事は入れたけど待ち合わせまで四時間以上ある。こうなったら時間までラブホで不貞寝するしかない」
「どうしてそこにラブホテルが入ってくるのです……」
「トーキョーなんて飯は不味いし娯楽は金のかかるモンばっかりや。顔パスで七割引きにできるラブホの方が安上がりやろ」
「ああもう、ラブホテル以外の選択肢はないのですかっ」
もう一生分の『ラブホ』を聞いた気がする。さすがにもう耐えられなかった。
ついに声を荒げた清華。しかし男からの返答は無く、返ってきたのは周囲からの奇異の視線だった。
「あっ…………」
ここは天下の往来、通行人ひしめくトーキョーの路上である。当然、痴話喧嘩同然のやり合いを交わしていた二人は耳目を集めていたわけで。
衆人環視の中『ラブホテル』と大声をあげてしまった清華は羞恥のあまり顔を真っ赤に染めた。
その様子に流石に気を取り直したのか、道鏡は気まずげに頬を掻いて言った。
「あー……その、なんだ。災難だったな……?」
「もう!!」
やけくそ気味に振るった拳が男の胸板を叩いた。技も何もない勢いだけの拳は、男にさしたるダメージを与えるでもなく甘んじて受けられる。
「もう! このっ、もう……っ!!」
「悪かった。今のは俺が悪かった。本当にすまなかったと思っている」
腹立たしさに任せてボカボカと拳を振るう清華。道鏡は彼女がそれ以上暴れられないように腕ごと身体を抱きすくめ、耳元で謝罪を囁き続ける。
清華が落ち着くまでの五分強、二人はまるで恋人のように抱き合っていた。