本番は次話
――あれから、一年足らずが過ぎた。
円城咲耶は変わらず、妖魔との戦いの前線に立ち続けている。
「はぁっ!」
緑生い茂る森の中、裂帛の気合とともに振るわれた一振りの刀がナメクジ型の妖魔を両断する。白く粘ついた体液が辺りに撒き散らされ、残滓が咲耶にも付着するものの、構わず彼女は踏み込んでさらに一閃。節足動物じみた妖魔が斜めに切り捨てられた。
「――――っ」
ブルン、と踏み込むたびに大きく躍動する胸の双丘。これまで惨殺してきた妖魔の返り血で全身が粘液まみれになり、露出した上半球が陽の光を受けテラテラと淫靡な照り返しを放った。
胸の下半分から股間までしか覆わないハイレグのコスチュームは、今や白濁液にまみれ肌に貼り付き、ピンク色の乳首や股間の秘裂まで透けてしまいそうなほど。
――――しかしながら、体調は万全。むしろ妖魔の返り血を浴びるほどに調子は上がっていくようだった。
「目的の場所は……あの方角でしたね」
軽く息を整えた咲耶――――不屈にして最強の女退魔師は、より瘴気の濃い山頂を睨みつけて改めて歩を進めた。
――――あの男が立ち去ったあと、何者かに核を破壊され崩壊していくあの悍ましい研究所に、『イバラの姉妹』の一人が咲耶の救援のために駆けつけ、彼女は無事に保護された。
退魔組織に属する専門の医療機関の診断を受けたものの、結果は完全な健康。調教の後遺症は見られず、むしろ捕らえられる以前よりも活力に満ちていると驚かれるほどだった。
おかしな話である。咲耶が調教師に施されたのは並の肉体改造ではない。性感は数万倍にまで高められ、肛門から腸管にかけてすら肉棒を受け止めるための雌穴となるよう徹底的に仕込まれた。
満月の夜にもなれば発情状態は更なる高みへと押し上げられ、そよ風ひとつで絶頂に昇り詰める浅ましくもいやらしい肉体。あの悦楽は知ってしまえば二度と戻れない。
だというのに、その肉体改造の痕跡すら忽然と消滅したという。
原因は不明。専門の機材を用い長期的な経過観察に身を置けばあるいは判明するかもしれない、と暗に長期入院を進める医師の言葉を断り、咲耶は救出の二か月後には現場へと舞い戻った。
研究所の崩壊は咲耶の功績ということになっている。敵に捕らわれた風を装い、研究所内に隠された核を探り出すや隙を見て逆転してみせたのだと。
あの日現れた男については『イバラの姉妹』の上層部ですら把握しておらず、もし何かを掴んでいたとしても外様の咲耶に開示するつもりも無いようだった。
なにか、陰謀が蠢いている。
確信めいた予感が胸の中に渦巻いている。下手をすると状況に取り残され、取り返しのつかない事態に陥るかもしれないというわけもわからない焦燥感。それに衝き動かされるように咲耶は退魔業に打ち込んでいた。
――――だというのに。復帰してからのこの10か月間、まったくと言っていいほど手がかりはつかめていない。
何かあるとすればあの男――最後の日に散々咲耶をいたぶり、意味深な言葉を残して姿を消したあの男――彼こそが現状打開の鍵となる。そう考えて捜し続けてきたというのに、まるで尻尾を掴ませない。
「くっ……もどかしいですね……」
足場も悪く、鬱蒼と茂る森林の中。行く手を阻む妖魔たちを睨みつけて咲耶は歯噛みする。どうやら妖魔たちはどうあっても自分をこの先に進ませたくないらしい。
――――咲耶が現場復帰してからこれまでの10か月、妖魔の討伐依頼は目に見えて減少していった。
原因は未だ突き止められていない。―――否、原因そのものは特定されているのだ。
発生する妖魔も、陰謀を企てる怪しげな教団も、大掛かりなはかりごとへ踏み出そうとした途端、まるで狙い澄ましたかのように『何者か』に討ち取られている。
日本全国、それどころかアジアの一部に至るまでがその『誰か』の勢力圏であるらしい。そしてその『誰か』は恐るべき足の速さを誇った。
昨日北海道の妖魔を殺したと思えば、次の日には沖縄で堕落したキジムナ―を討ち果たし、明日にはトーキョーにて行われた淫魔神の召喚儀式を術師ごと跡形もなく粉砕する。……たとえ自家用ジェットを所有していたとしても不可能な移り身の速さ。
退魔師の間では噂でもちきりだった。有力な妖魔が頭角を現した次の日には亡き者にされる、まさに無慈悲な死神のような『誰か』がいると。
まるで咲耶たち退魔師のお株を奪うような所業だ。当然のごとく退魔師たちは『誰か』の正体を探ろうと血眼になったし、実際に『彼』の窓口を目の当たりにするところにまで辿り着いたのだ。
フリーの退魔師。名を『道鏡』。
――偽名であると推定されている。恐らくはそうだろうと咲耶も思っている。
道鏡と接触する手段は酷く限られている。アングラサイトをいくつも梯子した先にあるHP、そこに記されたアドレスへ依頼を書き込むのが唯一の連絡手段だという。
そこから仲介人を辿って道鏡本人へ依頼を通せるのだというが……この仲介人が食わせ者なのか、退魔師や政府関係者が絡むといかなる手段かそれを察して途端に行方をくらませてしまう。HPも閉鎖され、改めて探し出さなければならない。
しかし腕前は超一流との呼び声高い。外した依頼は一度としてなく、陥れるための罠依頼も巧みに嗅ぎ取り依頼主へ苛烈な報復を繰り出す。
彼が暴れたあとの現場が常に惨憺としているのを除けば、ともすれば咲耶に匹敵するとの評すら出回るほどだ。
だが、そんな得体の知れない人間を周囲の人間が放っておくはずもない。特に退魔の名家である神守、荒神などはどこの馬の骨とも知れぬ新参の台頭に怒り心頭であると聞く。
咲耶にも伝手のある『イバラの姉妹』もそれは同様だ。悪名高い道鏡の正体を探らんと、各組織の諜報部がたった一人の捜索に血道を上げていた。
まったくの無傷ではいられなかった。月に一度、道鏡の勢力範囲内で活動している『イバラの姉妹』のシスターが行方を眩ますという事件が起きている。
忽然と姿を消した彼女たちは、その誰もが数週間後、衰弱した姿でラブホテルの一室で発見された。攫われていた期間のことを何一つ覚えていないことを除けば、何の後遺症も残さない身体で。
そして今、まさに咲耶が赴こうとする東北地方のとある山中。そこで道鏡の目撃が報告されていた。
「この先に、あの男が……」
中秋とはいえ湿気の籠もった森、そして入り組んだ道程である。白いハイレグの衣装から覗く剥き出しの太腿にはうっすらと汗が滲み、更には妖魔の体液が上から振りかかり足元まで滴るほどだ。ピッタリとしたニーハイブーツの中にもベタベタした感触が入り込み、早く脱ぎ捨てたいという痴女じみた衝動に駆られる。
ひたすらに歩きづらい。しかし疲労は不思議と感じられない。
むしろ肉体の状態はやや動悸が激しいことを除けばこれ以上なく絶好調で、今ならばかつて自分を捕らえた罠ですら正面から食い破れると思えるほどだ。
手に持つ神具『アグネア』の切れ味も衰えなく。たとえいかなる敵と戦闘になろうとも遅れは取らない。
決意も露わに彼女は山中を突き進む。一振りごとに妖魔を斬滅し、むせ返るような生臭い獣臭すら意に介さず。
そして――――
(いた……!)
太陽が中天を過ぎ去った頃、とうとう咲耶は目的のものを見つけた。
山頂に近い傾斜に空いた不自然な洞窟。そこに何者かがいる。
咲耶は手近な木の幹に身を潜めて様子を窺った。相手の正体もつかめず、敵か味方かもわからない今、無策に突っ込むことはあまりにも無謀だった。
そんな彼女のことに気付いた様子もなく、洞窟の入り口で腰掛けている男は深々と溜息をつく。
「あー、クソ。虫は多いし雨は降りやすいし、場所の選択ミスったわ。隠れるなら山の中って、ちょっと安易過ぎやったかねぇ」
顔が見えた。特徴のない顔つきにやや伸び始めた無精髭。一年前と少し変わっているもののあの日咲耶と出会った男に間違いない。
鍛え上げられた肉体をジャケットとスラックスで覆っていて、とても山中に相応しい服装と思えない。しかし男の仕草そのものは慣れた様子で、足元の焚火に飯盒をくべている。
(…………っ。まだ、まだ切り込んでは駄目……)
逸る気持ちを抑え込んで、咲耶は男の様子を窺う。男の仲間がどこかに潜んでいるかもしれないし、ああして無防備な姿を晒しているのも罠かもしれない。無策な行動は避けなければ。
そんな咲耶のことなど知る由もなく、男はひとりごちる。
「でもなぁ、人目がなぁ。せめて『アレ』の主食が女やなかったら、それこそ適当な下水道にでも突っ込むんやけどなぁ」
言質は取れた、と言っていいのだろうか。今あの男は明確に女を食い物にしていると語った。これだけでも問い質すには充分なはず。
訛りの強い関西弁で愚痴る男に、罪の意識は見られない。
「大体アイツもおかしいねん。何で俺がアレの面倒見なあかんのや。いくら俺の精液から生まれたからって、あいつが勝手に作ったものを俺が認知せないかんとかふざけとるやろ。おまけにアレ、誰に似たのか滅茶苦茶面食いやし」
と、そこで男は背後にある洞窟へと顔を向け、
「聞いとるか! デリヘルのぽっちゃり姉ちゃんでもええ筈やろ!? むしろそっちの方がウィンウィンやろが! こっちは生気を回収できて、あっちはマジカルダイエットやぞ! 断然こっちの方がええやろが!」
洞窟からの返答はない。いや――――
ベッ!!
「うおおお!?」
まるで唾か何かを吐き捨てるような音が洞窟奥から響き、砲弾のような速度で何かが飛び出してくる。男は慌てた様子でそれを受け止めると、壊れ物を扱うような仕草でそれを地面へと横たえた。
洞窟からの飛翔物体は、女の姿をしていた。
(あの衣装は……イバラの姉妹の……)
胸と股間の部分は破り捨てられていたものの、修道女を模したラバースーツには咲耶にもよく見覚えがあった。――となると、この一年で起きている退魔師の連続失踪の原因はやはりこの男……?
「女を雑に扱うな馬鹿! 怪我したらどないすんねん!」
洞窟へ向けて怒鳴りつけると、男は手慣れた手つきで用意してあった毛布で女を包む。微かに上下している方を見るに、女の方は死んではいないようである。
身体の方が無事であったとしても、心がどうであるかは定かではないが。涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔と虚ろな瞳に理性の色はなく、粘液まみれの身体は物欲しげに痙攣を繰り返している。
「……それにしても、今度はどこに置けばいいのかねぇ。記憶を封じて出来るだけ場所はばらけさせたとはいえ、いい加減ネタ切れがなぁ」
うんざりした様子の男の声が響く。
「福岡、高知に鳥取、大阪、岐阜、山梨、茨城に青森、海飛んで北海道。この子はアレか、鹿児島のラブホでええか? 遠いなぁ、めんどいなぁ……」
もはやここまででいいだろう。
咲耶は眦を決すると立ち上がり、刀を握りしめて男の前へと歩み出た。
「あぁん? お前は……?」
「一年ぶりですね」
訝しげに目を細める男に咲耶は語りかける。警戒は怠らず、いつでも切りかかれるようにして。
男はその声を聴いて一瞬黙り込むと、納得したように頷いて、
「――――円城咲耶。なるほど、もう回復したのか」
空気が変わる。
それまではどこか剽軽な雰囲気すら纏っていた男の周囲が、重々しい重圧すら感じられるほどに。
億劫そうに頭を掻くと、男は胡乱げな目つきで咲耶を見つめる。
「……それで? 最強の退魔師様がこんな山の中まで何の御用だ? 霊験あらたかな山に登りたいなら東の方に恐山があるぞ」
「あなたに用があって来たのです、『道鏡』」
名を呼ぶと、男――道鏡は愉しげに眉を跳ね上げる。
「――――名乗った覚えはないが?」
「わたしも名乗った覚えはありません。お互い様でしょう」
それもそうか、とひとり頷き、男は今度こそ面白げに口を歪めた。
じゅるり、と洞窟の奥深くから何者かが舌なめずりする音が聞こえる。やはりあの奥に何かがいる。恐らくは相当に上位の妖魔。かつて咲耶の身体を弄んだ邪悪な気配に酷似している。
欲熱のこもった視線を受けた咲耶の身体が、芯から痺れるような感覚すら覚えた。
(なに……この感じ……? これは、恐怖? いいえ、違う。むしろこれは……まさかそんな――)
胸の奥から湧き上がる浮ついた衝動を抑えつけ、咲耶は愛刀の切っ先を男に突きつけた。
「……あなたには魔性と結託し退魔師を襲撃した疑いがあります。大人しくわたしと共に山を下り、身の潔白を弁明するならばよし。さもなくば――」
「さもなくば?」
おどけた仕草で肩をすくめ、男はニヤニヤと笑ってみせた。
「さもなくば、どうする? その手に持つ高そうな玩具で悪者退治でもしてみるか、お嬢さん?」
「…………、弁明の意志はないと?」
「退魔師と慣れ合う気は無くてね。……世界の危機を調教済みの淫乱女とルーキーに任せきるような組織だ、信頼にも値しない」
「――――ならばッ」
取り付く島もない言い草。片方は誰のことだかわからないが、明確に自身を侮辱する発言に、咲耶の思考はこれ以上なく沸騰する。
普段ならばありえない行動。ここまで直情的に走らせたのは、微かに疼く下腹部による焦燥からか。
――そちらがその気ならば、もはや言葉は無用。あとは斬って捨てるのみ。
不安定な山の足場を物ともせずに肉薄する。三歩で間合いに入り込んだ咲耶に、男は目を丸くして言葉を失っていた。断末魔すら残させる気はなかったが。
抜き放った神剣アグネアは鮮やかな紫電を纏いながら煌めきを放ち、吸い込まれるように男の頸へ――
「危ないな、その玩具」
「な――――!?」
無造作に打ちだされた掌底。残像すら滲む踏み込み。
狙い澄ましたかのような一撃は咲耶の持つ刀の柄頭を撃ち抜き、あえなく神剣は咲耶の手から逃れ森の枝葉の先へと飛んでいってしまう。
得物を奪われた。無手の敵に、これ以上なく完膚なきまでに。
「くっ……!」
しかしその程度で敗北を認める円城咲耶ではない。現役最強の称号は伊達や酔狂で得たものではないのだ。
得物が無くとも十全に戦えてこそ、彼女は数々の悪辣な妖魔に打ち克ってきたのだから。
左脚を軸に身を翻し一回転。腰のひねりを乗せた右回し蹴りを道鏡の脇腹へと叩き込む。
神守の武術に及ばずとも、そもそも彼女の身体能力は常人を凌駕している。下級妖魔であればひと蹴りで浄滅する一蹴は、人間であれどまともに受ければ身体を半分に分断しうる。
だというのに――
男は、咲耶の蹴りを防ぎもしなかった。
掲げた腕をすり抜けるように入った右の脛には、まるで芯に鉄塊を仕込んだような手応えが返るのみ。
男の身体はこゆるぎもせず、道鏡は口元に嘲笑を浮かべて、
「クク……」
「あぁっ」
絡みつく男の左腕。
受け止めた咲耶の蹴り足を抱え込むと、道鏡はさらに踏み込んで彼女の真正面へ。膝をつかむ手がスライドし、汗と体液が纏わりつく白い太腿を優しく撫でる。
ぞわり、と背筋が粟立った。そして直感が走る。
いけない。これ以上はいけない。
触れられた肌が焼きごてを当てられたように熱い。それに釣られるようにジュクジュクとした熱が胸の奥から広がっていく。
溺れそうな肉欲の熱。たまらず逃れようとする咲耶。しかし男はそれを許さず、肩に回した右腕で女の首を固定し、その可憐な唇を貪るように塞いだ。
「ォ、むぅ……!?」
ただそれだけで、視界が蕩けた。
歯と歯の間に入り込む太く熱い舌。チロチロと舌先を刺激され、ついに堪え切れなくなった咲耶の舌が迎え入れるように絡み合う。
舌先で味わう男の歯と歯茎は逞しくどこか甘美で、咲耶の肩を掻き懐く男の腕の頼もしさと相まって永遠にこのままでいたいとすら思うほど。
吸い付くように太腿を撫でる男の左手は、根元を辿るように剥き出しの尻を揉み上げる。まるで心臓を鷲掴みされたような性感。たまらず吐き出した熱い吐息は当然のように男に奪われた。
情欲に赤らんだ尻を揉みしだく男の指先は焦らすように咲耶の肛門をつつき、もはやぐしょぐしょに濡れたコスチュームを伝って、盛り上がった秘裂へと――
「~~~~~~ッ!」
「おっと」
限界だった。
男の腕を全力で弾き飛ばし、転がるようにして拘束から逃れる。
淫らな期待に焦がれているのか、胸は早鐘を打つように高鳴り、腰は砕け、足は萎えていた。残った腕も満足に動かせず、乳児もかくやという動きで後ずさる。
「どうした? 続きをしないのか?」
風前と振り返った男が問いかけた。咲耶の身体に起きた異常、その全てを見通していると言わんばかりの視線で。
「あ、あなたは……私の身体に何をしたんですか!?」
「何をした、とはご挨拶な。逆だよ咲耶、俺はお前の身体を治してやっていたんだ」
咲耶の悲痛な問いかけに、嘲笑を浮かべて男は答えた。
「あの研究所でお前が受けた肉体改造を忘れたのか? 淫毒に身を浸しきり、一か月かけて細胞の一つ一つを作り変える魔性の儀式を。性感は数万倍に増幅され、喉の動き、直腸の動きすら肉棒へ奉仕するように躾けられた。そんな代物が、救助されてたった一晩で元通りになるわけがないだろう?」
「でも……! いえ、まさか……まさか―――!?」
「そうだ、俺が
男が手を掲げると、同時に下腹部が焼けつくような感触が。見下ろせば、白いコスチュームの下からぼんやりと光を放つ、何かの模様。
研究所から救い出されたときには刻まれていたものだった。しかし医師の検査を念入りに受け、問題はないと結論されていたはず。
なのにそれが今になって、それも前より大きく広がって発光している……!
「これ……これが……!?」
「馬鹿な女だ――――いや、愚かなのは退魔組織そのものか。あからさまに怪しい刺青跡を、妖気も淫気も発してないからと見過ごしたんだろう?
逆だよ、円城咲耶。その淫紋はお前の全身に巡っている淫気を吸収し蓄積し、生命力へ変換させるものだ。つまりは本来と逆の効果を持つ代物だったわけだが」
つまり、あの一件以降咲耶の肉体が右肩上がりに調子を上げていたのは。この山を登る最中、妖魔の体液を浴びても平気どころか疲労すらしなかったのは。
「忠告を無視したな、円城咲耶。五年も一線を引いていればその肉体から淫気は抜けきり、その淫紋も消え去っていたというのに。むしろこの一年、張り切って毒を浴びていただろう。淫紋の段階が随分と進んでるぞ。
――――人の親切心を蔑ろにするメスには、お仕置きが必要だな」
「いや、いやぁ……っ!」
道鏡の指先に光がともる。それだけで咲耶には男が何をしようとしているのかが理解できてしまった。
甘い痺れの残る四肢を叱咤し、必死の思いでその場から逃げようと地面を這う女退魔師。そんな彼女の背中をどろりとした瞳で見据え、男は端的に処刑を宣言する。
「淫紋反転――――さぁ楽しめ、お待ちかねの淫獄へご招待だ」
瞬間。
円城咲耶の肉体が、歓喜の絶叫を張り上げた。