退魔稼業、始めました☆
いやタンマ、今のナシ。だから引くのはやめてマジで。
ただでさえ米と一緒に炭になった飯盒のおかげでナーバスになってるんだから、これくらい弾けないとやってられないのです。
だからその……うむ、話を戻そう。
『イバラの姉妹』リーゼ・ヘルデブランドの襲撃を掻い潜った後、どうにかイヴちゃんを担いで逃げおおせた俺と取り引き先の小男のおっさんは身の振り方を考え直すことになった。
なにせ相手は教皇庁直属の某イスカリオテのごとき特殊機関である。作品タイトルになってるヒロインが殴り込んできた時点で相当深いところまで探られているに決まっている。
つまり今やこのゴブリンもどきのおっさんは、申し訳程度に白衣を纏った後ろ盾皆無の住所不定無職の自称研究者でしかなくなったワケだ。
そして俺も月収数百万円というぼろい稼ぎ先を失って絶賛ピンチ。それなりに貯金は貯め込んでいるが、無収入という据わりの悪い状況は出来れば避けたい。
さらに意識不明のイヴちゃんも問題だ。親元の方は大丈夫とおっさんが太鼓判を押してくれているが、あれからすぐに運び込んだ病院で裂けた膣の縫合やら中に詰まった精液の吸引やらで割と大きな手術になったと聞く。そして未だに意識を取り戻していない。
つまり俺とおっさんは生活の糧を手にしなければならないし、そもそも健康保険を持ってないイヴちゃんの医療費も稼がなくてはならないのだ。
しかしどうする。真っ当にどこかの会社に就職したところで大半は医療費に持っていかれるし、そもそも退魔師たちに嗅ぎつけられたら何もかも引き払ってトンズラしないといけない。つまり定職に就けない。
かといってフリーター生活では遠からず借金地獄に陥るのは目に見えていた。
どないすりゃええねん、と二人して頭を抱えていたとき、ふと足元を見れば白いフナムシのような何かが。何気なく踏み潰すと白い体液が拡がり、ツンとした異臭が立ち昇ってくる。
――踏み潰した蟲は、ごくごく低級の妖魔だった。
そしてそれが、俺の退魔稼業立ち上げの切っ掛けだったりする。
魔性の退治は簡単だ。貞子やカヤ子ならいざ知らず、この世界の妖魔の大半は人間界に対し物理的な干渉を好んで行う。男は殺して食うし女は犯して孕ませるし、割と即物的な肉食獣のような生態をしている。
そして俺に与えられた転生特典はフィジカル無双。相手がたとえ一瞬だけでも物理世界に顕現したなら、その隙を狙って殴り殺すなど造作もないのだ。
そしておっさんはマネージャーとして俺を補佐してくれることに手を挙げてくれた。主な依頼交渉の場はインターネットを使い、足取りを掴ませないようにこそこそと立ち回ることになるとのこと。
昔取った杵柄というべきか、研究者崩れのおっさんは妖魔の生態に詳しい。物理が通用する妖魔かどうかは、依頼人とメールをやり取りするなかで判別できるのだとか。やだ、この人有能過ぎ……?
かくしてフリーの退魔師コンビ『道鏡』は結成され、一年足らずで討伐数百件を超える超敏腕エージェントとして裏社会に知れ渡ることになる。
御同業の退魔師たちと慣れ合うことはできない。
こちとら魔薬製造の疑いで『イバラの姉妹』に追われている身の上である。俺自身の素性は恐らく割れてないとはいえ、俺の精液のマジカルっぷりが知られれば彼らがどんな対応に出るか想像に容易い。きっとロクでもない末路が待っているに違いないのだ。
……というか、何度か仕事でかち合っていたりする。そしてあいつらお決まりのように突っかかって来る。そして何やら感づいた様子で殺気立ってくる。
そうなったら俺としては反撃するしかないわけで。イイ感じに首絞めたり口覆ったりして意識落として、ラブホに連れ込んで俺の体液を摂取させて、それを媒介に淫紋刻んで、それの効果で記憶を封印して……
……ちなみに淫紋を用いた記憶封印は、円城咲耶にやったように体内の淫気を燃料にして発動し続けるものだ。
淫紋は彼女たちが一線を引き十年もすれば消えてしまう程度のもので、その頃になって俺のことを思い出しても「あーそんなこともあったっけなぁ」と他の雑多な思い出に紛れてしまうことだろう。
というか、出くわす退魔師のことごとくが女で、それもやたら別嬪なのはどうしてなんでしょうか……?
男に淫紋なんざ刻みたくもないからそこはありがたいが、それにしたって限度がある。咲耶が捕らわれているところを見たときは、チン負け女に世界の趨勢を託すなと思ったものだが……もしかすると男の退魔師の絶対数が不足しているのではなかろうか。
最近の女退魔師の処理は楽だ。適当に攻撃をいなして、得物を弾いてから投げ飛ばせばいい。仕事に連れて来て待ち構えていた肉塊君がズッポリと受け止めてくれる。
そしたら俺が仕事を終えるまで下水道の中で気を失うほど可愛がってもらって、あとは淫紋を刻んでラブホに放置すれば後始末は完了である。
俺の精液で培養したからなのか、肉塊君が分泌する粘液も淫紋の媒介に使えるのも高得点だ。いちいち俺が女体を弄ったり唾液を飲ませたりするのは陰茎が苛立つし。
――――うん、まあ……そういうことだ。
倒した女退魔師に手はつけてません。処女は処女のまま返してます。
だって下手に手を出しても壊れるやん。あれから一年以上経つけどイヴちゃん「あー、うー」としか返さんのやぞ。淫魔は性技に特化しとる分肉体そのものは脆いっておっさんは言ってたけど、だからって人間なら壊れないって保証はないんやぞ。
俺の巨根の相手が出来るのは天性かつ鍛え上げた肉体持ちで、淫紋の段階を三段階以上に引き上げた人間のみ。そんな女がどこに居るねん。いや一名おったけど。咲耶がいたけど。
一体なんなんだあの現役最強。月一のお仕事くらいなら問題なく淫気が抜けていくはずなのに。次に会ったときには二段階進んでるとかイカレてやがる。よほどお仕事大好き人間なんですか? それとも妖魔の返り血を浴びるのが大好きなサイコパスなんですか?
さすがにあれだけ痛めつけてやったんだから今後は大人しくなるはずだ。大人しくなってくれないとこっちが困る。あんな痴態を見せつけられたら本気で奪いたくなるだろうが。
三か月前だってヤバかったのだ。切なげな顔でよがり狂う姿に、思わず中に出して孕ませたくなった。鋼鉄の意志でそれだけは防いだが、今でも思い出すだけで勃ちそうになる。
――ムラムラした衝動を抑えるには運動がちょうどいい。そんなわけで俺は今、トーキョーにある一大アトラクション施設にいます。
見てください、辺り一面ピンク色の肉壁でいっぱいです。プリプリうぞうぞと蠢くところなんて実にファンシーですね。ビル一棟を丸ごと使っただけはあり、活発に蠢いております。
入場者が女性であれば肉壁にある突起から白濁した淫液のシャワーが降り注ぐのでしょうが、あいにくと俺は男性。紫色の溶解液が噴き付けられました。まぁ効かんがな。
『ちょっとヒロキ! ちゃんと聞いとう!?』
溶解液が服にかからないよう右手で弾き飛ばしながら歩を進める。液の付着した右手からは垢が溶けるジュウジュウという音が響くが、皮膚そのものを溶かす感触はない。
左手に持つスマホからは関西訛りの女性の声。誰あろう俺の今世の母である。
「ちゃんと聞いとうよ。次の休みには帰れる予定やから」
『それ言うて先週の土日も帰ってこんかったやんか。よし子も寂しがっとうねんで?』
「急な仕事が入ったんやからしゃあないやろ。自営業やゆうたかて、まだ売り出し中でいそがしいねんから」
12歳離れた妹のことを出すのは反則だと思う。いや、帰ろうと努力はしてるんだってホント。
『毎回毎回仕事やから仕事やからって……それってほんまなん?』
「ほんまやって、現に今かて仕事中やがな」
『実は彼女やろ』
「――――。なぜにそのような結論に」
あかん、つい前世の標準語が。あ、触手攻撃ですか? すいませんそこ通りますね~。
適当な蹴りと右腕で襲い来る触手を捌き、世間話好きなオカンの追及をどう躱すか思案する。いやホントどうしよう。
『おかしい思っとったんよ。電話してても途中で切るのが多いし、そういうときに限って女の子の声が聞こえとうし』
「いやそれ仕事相手やから。そもそも仕事中に電話かけてくるのやめてっていうとるやん」
『彼女やろ』
「彼女ちゃうし」
『いつ紹介してくれんの?』
「だから彼女ちゃう言うとうやん」
目の前にロックされた肉の扉。蹴り一発で吹き飛ばす。
「だいたい俺モテたことなんてないって高校の頃から知っとるやろ? 俺かて結婚できるならしたいわ」
ほんまにな。
『ヒロキは真面目で優しいねんからええ人見つかるって』
「真面目で優しかったら結婚できるなんて、きょうび小学生でも鼻で笑うわ」
『いいや、見とる娘はちゃんと見とう。彼女さんみたいにな』
「いやだから彼女って誰やねん――――あ」
おっと中核発見伝。逃げられる前に手早く処理しましょうね~。
『なんかあったん?』
「害虫の巣。やっと見つけたわ」
怪訝そうな母に適当な返事を飛ばし、もぞもぞと尻込みする肉塊ににじり寄る。
逃げたい? あぁそう、でもごめんね死んでくれ。
『なんやエライうるさいなぁ。ボイラーでも動いたん?』
「まぁそんな感じ。虫の巣が邪魔で空調が止まっとったんやろ」
ぐぅぉおおおおおお……という魔胎神の断末魔を尻目に踏み潰された残骸を後にする。空間の崩壊まであと幾ばくも無い。『真』のフラグも潰したことだし、さっさとここからおさらばしなくては。
「ちょっと今から忙しくなるから。そんじゃ、次の土日には帰るから」
『ちょっと――』
引き留めようとする母の声をぶっちぎって通話を切り、出口への道を急いだ。といっても、立ちはだかる壁という壁をジャガーノートのごとく突き破るだけなんだが。
何枚かの壁をぶち破って辿り着いたのは、どことも知れない路地裏だった。どうやらビル内で空間が捻じ曲がっていたらしく、変なところに出てしまったらしい。まぁ、どうせトーキョーのどこかだ。今日は適当なラブホに泊まって明日拠点に戻ろう。
前世では抵抗のあった独りラブホに躊躇いが無くなった辺り、人間って死を挟んでも成長するんだなって思います。
「――――む?」
唐突に、スマホが着信を告げた。
取り出してみればメールが一通。仕事用のアドレス宛だ。
やれやれまた土日が潰れたか、と諦観まじりに首を振り、メールを開いてみると。
『あなたのモノにしてください
円城咲耶』
「おファッ!!??」