円城咲耶が道鏡に鳥取へ置き去りにされて、三か月が経った。
あれから退魔業は進めているものの、男が姿を現す形跡はない。手放した魚には興味がないというのだろうか。
あの日浮かび上がった淫紋は光りこそしないものの健在で、きつい角度で秘所のみを隠すハイレグコスチュームでは覆いきれていない。布地からはみ出る淫紋の両端が視界にかかるたび、言いようのない羞恥心が湧き上がってくる。
――この三か月で妖魔はさらに数を減らしていった。
名の通った退魔師である咲耶ですら、これまで三度の依頼しかかけられておらず、そのうちの一つは依頼人が重複して依頼したという道鏡に先取りされてしまった。アングラサイトから繫ぎを取って金額交渉、そして解決まで四日と掛からなかったという。
驚くべき任務遂行速度。依頼の間に退魔省や円城家を挟む咲耶には到底追いつけない所業だった。
そしてそれは彼の悪名高い『魔胎都市』トーキョーですら例外ではなかった。
まるで飢えた猟犬の群れを兎の詰まったケージに放ったようだ。恐らく道鏡はトーキョーの異変は例外なく無償で叩き潰しているらしく、そこの抜けた盥の中身のように妖魔の目撃例は減少していった。
欲望と退廃の空気に満ちていた巨大都市は、いつの間にかかつての清濁入り混じった商業都市へと様相を変えようとしている。
――逆に、それを良しとしない人間は確かにいる。この日本で暗闘を続ける既存の退魔組織である。特に退魔省と名家の荒神家はこの状況の変化に難色を示した。
状況が好転したからと言って、急激な変化を喜んで迎えるモノばかりではない。退魔を生業とする者にとって、この変化は食い扶持を減らされる拷問に等しい。
弱き国民のためと称して政府より予算を受け取る退魔省。そして強力な妖魔を調伏し使役する荒神家は特に顕著な拒絶を示した、特に荒神家は、暴力的な活躍を見せる新参者は邪魔以外の何物でもないと、当主自ら断言する始末。退魔省も、男が出所不明の肉塊妖魔を使役しているとの情報から魔神の手先ではないかと疑っている。
かといって彼の道鏡を取り込もうと声をかけても、男が迎合する気配は微塵も見せない。
「名乗り見りゃアウトローってわかるだろ」と身も蓋もない返しで誘いを断り、包囲していた一個小隊の軍人を構えていた銃器すべてを破壊することで無力化してのけた。接触前に縁日でひょっとこのお面を着けられていたために、顔写真すら撮ることができなかったという。
では武力で排除するか。それも難しい。
というより、荒神家や『イバラの姉妹』がすでに試したあとだという。結果としては惨敗で、イバラの姉妹は得物を破壊された上記憶を抹消され、すんでのところで逃げ延びた荒神の術師は切り札の式神をすべて失ってしまった。完膚なきまでの大敗である。
勧誘のために軍人を差し向けた退魔省も言わずもがな。彼らはもはや道鏡の始末に匙を投げかけていた。
残る希望を託せるとすれば――――それこそ、日本最強の退魔師に任せるか。
まつろわぬ退魔師、道鏡の捕縛、あるいは討伐。
退魔省、荒神家の連名で渡されたその指令に、円城咲耶は何とも言い難い思いを抱いた。
とうとうこうなってしまったか、という諦観。
あの男に勝つことができるのか、という不安。
負けたらどうなってしまうのか、という微かな期待。
もし負けたら、今度こそ……不埒な想像に身震いがする。
抗えない快楽に組み敷かれる悦び。逞しいオスに征服され、何もかも投げ出して奉仕するメスの本能。
ぞくぞくとした感覚が背中を走る。思わず身をよじれば、何もしていないのに乳首がぷっくりと膨らみはじめ、膣奥がジュンと湿り気を帯びたのが感じられた。
何もしていない、されていないのにこの有様。このままでは勝ち目など万に一つもないことは、どんなに浮き立った頭でも理解できる。
そもそも敵は道鏡。肉体面では断じて及ばず、巫力ですら人智を凌駕した身体能力で弾き飛ばす慮外の男。咲耶の持つ切り札、神剣アグネアで斬りかかろうとも、まともに当てられる絵面すら思い浮かべない。
――――だから、一計を案じた。
実力の及ばない相手だからこそ、罠にかけて止めを刺す。これ以外にないと判断した。
たとえ道鏡とて――否、道鏡を名乗るならばこそ相応しい罠。彼は餌に必ず食いつくと、咲耶は確信していた。
――――クリスマスも間近な、トーキョーの繁華街。
以前は散発的に発生する妖魔のせいで人影もまばらだったものの、今年の冬は随分と人混みが増えた。行き交うカップルたちは幸せそうに笑いあい、営業するデパートからは会社帰りのサラリーマンがプレゼントを抱えて出てくる。サンタクロースの仮装をした喫茶店のアルバイトが客引きの声を上げ、カフェテラスでは酒やコーヒーを片手に想い人を待ち合わせる男女の姿。
そんな中、デパートの柱の陰で佇む円城咲耶の姿は、否応なく人目を引いた。
何しろ、身に纏うのが退魔師としての仕事着である。ピッタリとした白いニーハイブーツは脚のラインをくっきりと見せつけるし、剥き出しの尻と太腿は只人からすれば破廉恥同然。肌の淫紋が見え隠れするハイレグのクロッチは、土手高の恥丘がこんもりと自己主張している。
そして何より卑猥なのが上半身だ。肩紐もないビスチェのような白衣装は、咲耶の頭ほどもある柔らかな巨乳を半分ほどしか覆っていない。あまりの巨乳さに横乳がまろび出て、角度次第ではピンク色の乳首すら零れてしまうほど。
あまりに淫猥。場にそぐわない恰好。
いっそ娼婦ですら恥じらう破廉恥な服装は、素材となる布地の稀少さはもちろんであるが、退魔業の特徴ゆえでもある。主に咲耶が相手する魔性は孕魔や淫蟲といった女を標的とする妖魔であり、それを引き寄せるためには過剰なほど肌を露出させた衣装が適していた。
いわばこれは立場に応じた最適な戦闘服……なのではあるが、それでも周囲から向けられる数奇の視線は耐えがたいものがある。
「んっ……」
(くっ……確かに待ち合わせの場所はあの人に任せましたがっ、他に人目を忍べる場所はなかったのですか……!?)
周囲の視線から身体を隠すように白い長手袋に覆われた両手を回す咲耶。視線を遮るための右腕が豊満な美巨乳に押し当たり、むにゅりと形を変える。そしてそのさまがさらに視線を引きつけることに彼女は気付いていない。
冬の肌寒さもあり、太腿をもじもじとすり合わせて縮こまる。そんな居たたまれない時間をどれほど過ごしたところだった。
「あー……。まさかとは思っていたが、そんな恰好で来るとはなぁ」
「あっ」
ばさり、と背後から暖かい感触。いつの間にか近寄っていた男に、咲耶は黒いロングコートを羽織らされていた。
コートに残る男の体温に咲耶の心臓が跳ね上がる。
「いつからいたんだ? まだ時間まで30分あるだろうに」
肩を抱き寄せられる。いやらしい目的はないのだろう、コート越しに咲耶の二の腕を優しく摩擦する道鏡の顔には、彼女を気遣う様子しかない。
しっしっ、と周囲を軽く威嚇する道鏡。それだけで咲耶に突き刺さっていた視線は霧散し、視姦に興じていた男たちは無念そうに立ち去っていく。
まるでオスがメスの所有権を周囲に主張するような仕草。モノ扱いされたというのに、不思議と不快感が湧かないのは何故なのか。
「あなたは――」
「うん?」
何かを言いかけた。何を言おうとしたのかは、顔を向けられたときに吹き飛んでしまった。いや、むしろ舌に乗せた「あなた」という単語が、やけに甘く感じられたからか。
思わず顔を背け肩に乗った手を払いのける。ぶらりと宙を躍った男の左腕に、今度は咲耶から腕を絡めた。
「……行きましょう。ここは、寒いです」
「む――――あぁ、そうだな。少し早いが、店を開けて貰うとしよう」
奪い取った男の左腕を抱きしめるように組み付く。腕に当たり布地越しに擦れる乳首、思わず漏れた熱い吐息ともつれる足元。寄りかかった男は、咲耶の身体を揺るぎもせずに受け止めた。
「足がかじかむのか? 無理もない、そんな恰好ならな。――酒は飲める歳だな? 温めたワインを出してもらおう。それと、少し腹に溜まるものも食べた方が良い――」
「ん――――」
夜が更けていく。
寄り添うようにしてネオンの先へ歩み去る二つの影は、溶けあうようにして人ごみの中に消えた。
そして――
――――トーキョーの一角、とあるラブホテルの最上階スイートにて。
オートロックの扉が閉まるのすら待ちきれず、二人の男女が絡み合っていた。
「ん……ふぅ、はぁぶ……キス、キス……っ」
「む、むぉ……」
積極的に絡もうとしているのは咲耶だ。
靴を脱ぐ手間すら惜しんで道鏡の首に腕を絡め、背中を壁に押し付ける勢いで唇を奪う。足りない背丈は男の腿に跨って補おうとする。
首を伸ばしてキスをねだるたびクロッチ越しに股間がこすれ、溢れた愛液が男のスラックスに透明な糸を引いていた。
「じゅぶぅ、れろぉ……あ、はぁぁぁ……」
(キス、おいしい……おっぱいもあたるぅ……)
抱き着いた咲耶と男の間に挟まれ柔らかく潰れる乳肉。互いの胸同士でいやらしくこね回され、それだけでスパークするような感覚が走った。
「あっ……んふぅ……」
軽く達した咲耶の身体を受け止めると、今度は男が唇を落とした。接吻ではない、荒い息が続く互いの唇を触れるか触れないかで合わせるだけの、もどかしい駆け引き。
互いの熱い呼吸を奪い合い、互いの舌先をチロチロとくすぐり合い、どちらが我慢できなくなるかを競うような、意地の悪い前戯だ。
「はぁぁあぁん……っ」
咲耶の指先が男の胸元をまさぐる。ジャケットの下にあるワイシャツのボタンを外し、はだけた先にある厚い胸板に息を呑んだ。高鳴る衝動のままに舌を這わせる。
「ぐ、ぬぅ……っ」
六つに割れた男の腹筋がビクンと震えた。咲耶の愛撫によほど驚いたのだろう、わずかな達成感とともに舌での奉仕に没頭する。
腹筋の割れ目を舌先でなぞり、鳩尾を鼻先でくすぐってさらに上へ。胸板のごつごつとした感触を舌で味わい、今度は男の乳首へとかぶりつく。
「あむぁ……れろ、ちゅぶ……」
以前やられたことの仕返しだ。軽く歯を立てて甘噛みし、胸の肌のむにむにとした感触を愉しんで、舌で乳首を刺激する。みるみると硬さを得ていく口の中の物体に、思わず笑みがこぼれてしまった。
「んん……もっと……」
手持無沙汰な手を伸ばした先には、男のズボンがあった。そろそろと這わせた咲耶の指先に硬い感触が返ってくる。まるでもう一本足があるような太さの――
「あ、はぁ……!」
こんな特技が自分にあったのか、と驚くほどだ。
手探りでスラックスを留めるベルトをするりと抜き取り、淀みない手つきでホックとジッパーを外して邪魔なズボンをずり下ろす。下には地味な単色のボクサーパンツと、その足穴からはみ出た巨大な男根があった。
(あぁ、やっと……!)
跪き、今度こそボクサーパンツを下ろすと、待ちかねたように肉棒が雄々しく屹立した。既に興奮しきっているのか、鈴口からはトロトロとした先走りが零れ出ている。
目の前で視界を塞ぐ、巨大な肉棒。あの日咲耶を散々苛めた憎い敵。
据えた臭いが鼻をつく。いつもなら顔をしかめて背けるというのに、今は不思議とずっと嗅いでいたいとすら思ってしまう。
(おおきい……これが、こんなものが、わたしの中に……?)
生唾を呑み込み剛直へ目が釘付けになる女退魔師。熱い吐息を吹きかける女に辛抱できなくなったのか、男はその長大な逸物を咲耶の顔に張りつかせた。
焼けた鉄のように熱い肉の塊。その熱さも、その硬さも、触手では決して味わえなかった感触だ。
肉棒を鼻筋に沿うように当てられた感触に、まるで顔を踏みつけられたような被虐の感情が湧き上がる。肺いっぱいに吸い込んだ雄臭に内側から汚されるような、背徳的な感覚。
差し出した両手には、ずしりとした睾丸の感触。この中にあの想像を絶する量の子種が詰まっているのかと袋の中にある玉を弄ると、それに応えるように肉棒が震えた。
びくりと震える亀頭。鈴口の先からドロリ白泡混じりの先走りが溢れた。裏筋を伝って滴る精液を、咲耶は躊躇いなく舐めとる。
(からい……でも、先走りでこの濃厚さだなんて……)
噛みしめるように嚥下したあと、咲耶は再び男の男根へ顔をうずめた。青い血管が浮き出る怒張、その幹を啄むように唇に挟む。
「はむ、む……んふぅ……」
幹の伸びやすい皮を遊ぶように唇で甘噛みする。チュウチュウと吸い立ててから顔を離せば、赤い接吻痕が肉棒にくっきりと残っていた。
「あ、ははぁ……っ」
思考が酩酊していた。正常な判断など捨て去っていた。ただ自分なら
「あ――ォ――――」
鈴口へのキス。スライドするようにどんどん口奥へ。顎が外れそうなほど大きく開かれた咲耶の口へ、巨大な肉棒が入っていく。
「な――ぐぅ……っ」
思いもよらなかった、という顔の男の苦悶の声が耳に心地いい。
亀頭を越えてから少し楽になった。舌を波打たせて裏筋を刺激する余裕もあった。しかし半分を咥えこんだ辺りで行き詰まった。
喉奥に突き当たる亀頭の感触。えずいて吐き戻すという人間として当たり前の生理衝動を、咲耶は何でもないことのように圧し留めて、
「ん、ぉ……」
さらに、奥へ。
喉奥を更に超えた奥深く、食道まで使ったディープスロート。
調教師に身体の奥深くまで刻み込まれた奉仕の絶技。触手によって直接教え込まれた、舌や喉どころではなく、消化器官にまで用いた人外の技。
「が、はぁ……!?」
男が初めて切羽詰まった声を上げた。それに満足感を覚えた咲耶は躾け込まれた技を使って追い込みにかかる。
舌のざわめき、喉のひねり、食道の蠕動。
喉が塞がれた窒息感すら快感に変わった。夢見るような心地で、女は肉棒に軽く歯を立てて、
「まずっ、ええい……っ」
引き剥がされた。
ゾロリと喉奥から触手よりも太いものが引き抜かれる感触、ぼやける視界。目の前には咲耶の口から糸を引く赤黒い亀頭。ぶるりと震えた陰茎は心なしか直径を膨らませ、鈴口を開いて、
濁流のような射精が咲耶の顔面を襲った。
「あぁっ、んはぁ……!」
咳き込みながらも正面から受け止める。十秒経っても終わらない白濁の噴射に、見る間に咲耶の顔が白く染め上げられていく。口に飛び込んだ精液を舌で転がしながら飲み込み、女は恍惚とした笑みを浮かべた。
「――やってくれたな」
荒い息で男が言う。肩で息をする咲耶に顔を近づけると、どちらともなく唇を合わせる。
へたり込んだ咲耶の股間。秘裂から溢れた愛液はクロッチを完全に濡らし、絨毯に水溜りを作っていた。
息を整えながら咲耶が言った。
「…………シャワーを、浴びて、きます」
あぁ、と男が頷く。身体に残った衣類を外して放り投げ、キングサイズのベッドへと向かっていった。
よろよろと立ち上がる咲耶。覚束ない足取りで浴室に向かう彼女の瞳は、情欲と使命の相反する炎が燃えていた。
ブーツを脱ぎ捨て、白い長手袋を取り外し、もはや卑猥さしか残さないビスチェも脱ぎ取る。ぷるんと淫猥に振るえる巨乳は、浴びた精液の洪水のせいでニチャニチャといやらしい音を立てている。
生まれたままの姿で浴室に踏み入った咲耶は大きく息を吐いた。
謎めいた退魔師、道鏡を討伐するため、咲耶に残された最後の手段。その手筈を整えるために――