「……もう10分も連絡がないよ。桜花お姉ちゃん」
両目を赤く腫らし涙声で身を屈めながら玲里は桜花に言った。
まさか琉奈姉貴が……そんな筈はない!。
あんなに強くて折れない心を持って着飾らない美しさを備えてる自慢で大好きな姉が……!。
心の中で必死に否定したい桜花だったが現実は残酷に彼女にのしかかる。
琉奈に何かが起きた。あの強い姉を打ち負かす何かが……。
頭の中が雪原のように真っ白になる。
姉は生きているのだろうか……。
自分が取るべき行動は……。
「け……い……さ、つへの通報……」
誰に言ったわけでもなく姉に言われた言葉を復唱した。
……強いて言うならば自分自身を落ち着かせる為かもしれない。
ナンバーキーを3回押すとスマホのディスプレイに119と白い文字が表示される。
この数字の羅列が今の桜花や玲里にとっての希望だ。
お願い……助けて!。
鳴り響く着信音の中桜花は必死に望んだ。
ガチャと相手と電話が繋がる音が鳴る。
恐怖に置かれた桜花を歓喜の心が満たす………。
だがそれは一瞬に終わった。
『只今忙しくて対応出来ません。御用がある方はメッセージを残してください』
「……なんで。どうして!?」
ピー、という機械音声だけが無情に鳴り響く。
「なんでなのよっ!」
誰にあたっていいか分からない衝動に駆られた桜花はスマホを壁に叩き付けた。
「はぁっ、はぁ、はぁ……」
「……桜花お姉ちゃん……?」
姉の豹変振りに驚くも心配そうにスマホを拾い桜花に差し出すと、顔を動かさず玲里からスマホを取った。
「……どうしたの?」
「……忙しくて対応出来ないってさ。何?日本の警察って人気の料理店か何かなの?」
力無く笑い罅割れたスマホを静かに床に置いた。
自宅という本来なら安堵出来る場所にいながら彼女達は今絶望という部屋に閉ざされたのだ。
なんでだろう……最悪で危険な状況なのに……なんか落ち着く。
好きでもないけど……嫌いでもないな……。
『この感じ』
この感覚を前にも桜花は味わっている………。
2年前の高校1年生の時に彼女は同級生の石井
その日から半年間彼女は病院に行く以外家から一歩も動けなくなった。
毎日あの光景が脳裏に焼き付き彼女を苦しめる。
頭が熱くなり爆発しそうになったり、リストカットして何度も死のうとしたがその度に親や姉妹に止められた。
……なんで。止めるの?。
私なんて穢された汚い人間なのに。
死ぬことすら許されないの?。
『ズルいよそんなの。皆のエゴで私を生かそうとしてさ』
ドクン、と鼓動が心臓からではなく頭の中で聞こえた。
あの頃に精神も身体も回帰仕掛けてるのを肌身に感じた。
あれ、この感覚ってこんなに
矛盾する2つの感覚が彼女の中で折り重なっていく。
「うふふ。ねぇ、玲里1つ聞いていい?」
「ど、どうしたの……急に…」
こんな状況下で不意に笑いながら自分に質問しだす桜花に戦慄した。
何故こんな恐怖の真っ只中で笑っていられるのだろう?。
ァハハ。とまた笑いながら髪に手を当てガクンと下を向きながら話しだした。
「どうして私を死なせてくれなかったの?」
桜花が豹変した…。
顔は笑っているが目は一切笑っていない……どころか殺気すら帯びていた。
格闘家でも軍人でも況してや心理カウンセラーでもないただの一般人の玲里にも察知出来る程の……。
信頼してた姉は仇なす存在になってしまったのか……?。
「そんなの…決まってるよ!」
物怖じしながらも玲里も言い返す。
「桜花お姉ちゃんに死んでほしくないからだよ!」
涙を流しながら玲里は本心を告げた。
しかし待ち受けていたのは―――。
「はっ、何それ。アンタ学校の教師にでもなったつもり?」
冷淡な姉の言葉だった。
「いい子ちゃんの玲里教えてあげる……綺麗事じゃ人は救えないのよ。分かりやすいように今から実践してあげるね」
「いやぁ!来ないで!」
桜花は右手に大きなカッターナイフを手にして玲里に迫りくる。
「姉に対して酷い事を言うのねぇ……ほら、ちょうどいいでしょ?綺麗事で私を止めてみなさいよ?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
凶刃が桜花の歩みと共に玲里に迫りくる。