キッチンへの通路を音を立てずに琉奈は歩く。
一体何が待受けているのでしょうか……?。
大男か、それともナイフでも持った人間か?。
いつ相手が襲ってきてもいいように脇を締め、キッチンのドアを蹴り開けた。
しかし待ち受けていたのは琉奈の予想を裏切る者だった。
「ひっ……!」
椅子に座っていたのは4歳ぐらいの少年だった。
咀嚼音は少年のもので余程必死に食事をしていたのかテーブルは味噌汁やらご飯が散らかっていた。
驚いた少年は椅子の後ろにそそくさと隠れる。
「ごめんなさい!」
少年は泣きながら頭を下げる。
これは……わけありですね。
「はぁ…」
予想外の侵入者に琉奈は溜め息をつくと、少年に近付いていった。
「僕ぅ?何処から私の家に入ったんですか?」
少年の頭の高さにまで顔を下げて笑みを浮かべ訪ねた。
勝手に自宅の食事をこの少年に食べられて御世辞にもいい気持ちはしないが……彼はまだまだ子供だ。
こんな幼い子を怒っても仕様がない。
寧ろモラルを教えてあげるいいチャンスだ。
「ひぐっ…
「貴方のお兄ちゃんが私の家のドアを……?。聞き捨てなりませんわ。それが本当だとしたら私は貴方のお兄ちゃんを許す事が出来ません」
こんな小さな子に何をさせようとしてるのだろうか……ソイツは。
人間としてのモラルが欠如している。
先程までいた両親がいないのもその男が関係してるのだろうか?。
そこまで考え翼とあまり歳が大差ないかも知れない事も考えた。
「貴方お名前は?」
「
「翼君に錆爾君ですか……。私は
「ここにいる」
男の声に反応する前に衝撃波が彼女を襲った。
「………くっ!」
頭と身体が痛い……。
食器棚に思いっ切りぶつかったようだ。
……今、
………まるで急に『風』が吹き荒れたような……。
それもそよ風等のチャチなものではなく、『嵐』のような強風だ。
吹き飛ばされた事に加え室内で窓が締めきった状態で風が巻き起こる状態に理解が追いつかない琉奈の襟首を襲った男が掴む。
皮肉にもそれが琉奈を現実に戻した。
「……あら意外でしたわ。翼君とあまり歳が離れてないと思っていましたが……もう分別がつく歳頃の方だったなんて」
「そりゃあ嫌味か?。まぁいいやテメェには何も出来ねぇ。無力なゴミが」
髪を赤く染めた男がそこにいた。
言うまでもなくこの男が翼の兄の錆爾だろう。
背丈は180以上はありそうだ。
「えぇ私は無力です。ですが力を持ったとしてもこんな行動に出る方を私は強いとは思いません」
怯えず琉奈は言い更に付け加えた。
「こんなことしては翼君が可哀想ですよ。錆爾さん」
翼は小さな声で「…お兄ちゃん」と溢した。
錆爾は眉1つ動かさずそのまま琉奈を床に伏せさせる。
「可哀想ねぇ……。俺はそうは思わねぇがな。力ある者が支配する。理性なんて箍は外れた弱肉強食の世界に戻っただけだろが。って言ってもまぁお前には分からんだろうが」
「えぇ、わけも分かりませんし……そろそろ離してもらいますわ!」
手刀を腹にお見舞いした。
怯んだ隙に距離を取ろうとしたが錆爾は全く怯まない。
「……つぅ!」
どころか攻撃したこちらの手に激痛が走った。
まるで岩か鋼を叩いたようだ。
「おいおい。お嬢さん激しいのがお好きなのか?。何にせよ悪手だったな」
以前としてぎっちり彼に拘束されたままだった。
「……ハァッ!貴方人間じゃないんですか!?」
「返答に困る質問だ。まぁ答えるとするならば人間ではあるが特殊な能力を手にしたと言うべきか」
『人を塵屑のように扱えるな』
「一体なんなの……きゃあ!」
拘束されてた琉奈を錆爾は不意に突き放した。
「良く見ればいい身体してやがるぜ。確か伊里愛とか言ったな―――
「世界がどう変わったかその身体に直接教えてやるよ感謝しな」
制服がビリビリと破られ下着が顕になる。
「いや!来ないで!」
距離を取り椅子を投げるが錆爾の身体にぶつかる前に砕けてしまった。
「はぁ。いい加減学べクソゴミが……理性はとっくに死んだんだよ」
「……いやぁ。助けて……!。助けてぇ!」
迫りくる錆爾に琉奈はただただ宛もない救いの声を出すしかなくなっていた。
……尤もその救いの声も錆爾の
「翼。ちっとこの女と遊んで来るわぁ」
「……うん。お兄ちゃん」
「オメェもすぐ分かるぜ。強情な女を黙らせてする時の楽しみがな」
翼はただ小さく頷いた。
「錆鋼龍の幻影。ハッハッハッハッハッハッハッ!」
狂ったように笑いモンスターの幻影を作り出すと琉奈を連れ錆爾はこの世界から消えた。
「これでいいんだ……お兄ちゃんに従ってれば……」
兄に連れてかれず一人残された翼はキッチンで静かに食事を再開させる……。
…
……
………
…………
「はっ、良いざまだわ玲里」
桜花に襲われた玲里は無抵抗のまま身体の至るところに彼女の狂刃を振られた。
腕や腹部、足、顔の至るところから流血している。
「はぁ……やめて……やめて桜花お姉ちゃん……。桜花お姉ちゃんはこんなことしないよ……!」
弱々しくも玲里は言う。
「人なんてすぐ変わるものよ。私は変わったの。そもそもあんな経験して変わらない人間がいるかしら」
そこまで言うと玲里の血に染まったカッターナイフに再び目を通した。
「本っ当、私ばっかりこんな辛い経験してアンタと姉貴はのうのうとしてさぁ、人生って本当に不公平だよね。だから終わらせてあげる」
『アンタの人生』
「いやだ……やめてお姉ちゃん……」
「もうやめられないのよ玲里……私は堕ちた。願うだけ無駄よ」
「だったら僕が止める!」
外から放たれたその声に桜花は一瞬動けなくなった。
この声は……でもそんなまさか……彼は引きこもりになった筈。
しかし窓の外には彼がいた。
女性と間違えそうな服を着て、背中から蒼い翼を生やした
「そーくん……嘘でしょ……」
「久しぶりだね。桜花ちゃん……」
カランカランと虚しくカッターナイフが落ちた音が鳴り響く。