一時的代理春庭幻覚 作:虫餃子
穢れを知らぬ戦乙女の叫びが谺する
俺の命令に従い、世界の規則に従い、行動順が回ってきた配下が一体また一体と敵対する花騎士の四方を囲む
絶望も露わに更に断末魔を上げる少女、逃げたかろうに足は動かない
その友であり敵対者の一人が彼女の名を、此方に限り無き憎悪と殺意を叩き付ける、駆け寄りたかろうに足を動かせない
最後に少女を囲んだ配下の頭上に浮かぶ文字
『敵性ユニットを捕獲しますか?』 YES/NO
アブラナちゃんやめて
敵性ユニットが叫ぶ
大丈夫よイチゴ、あんたも団長の下僕の一人になるだけだから
言葉と共に配下が洗脳用の寄生体を口移しした
同じ花騎士なのになんでこんな
血を吐く様な声で問いながら此方へ駆ける、敵性ユニット少女の一人
俺が排除されてしまう事がこの場での敗北条件、その選択自体は最適、だが我が配下達に比すれば移動値が足りない
団長に逆らうあんた達が悪いのよ
薄笑いを浮かべて吐き捨てるアブラナ、頷いて同意するワレモコウ
最も俺に近付いてきていた少女に対し、配下の一人セントポーリアに移動を命じ、特別攻撃の発動可能範囲へと
そうして彼女の頭上に浮かんだコマンド一覧内でカーソルを動かし、特殊技ゲージが貯まった時にのみ使用可能な技である『寄生体浸食』を選ぶ
カーソルで指し示され、表示されるその攻撃の追加効果を理解した少女達は青褪め、しかし眼に強い意志を湛えて此方を見据えて
わたしはここまでですけど……この世界は、貴方に負けるほど弱くありませんよ
そう負け惜しみを呟いた
恐怖を抱えたままの必死の叫びに対する返答はワンクリック
敵陣営に所属する『セントポーリア』が、此方のセントポーリアの吐き出したミズウォルム特別寄生態を飲まされ、ガチャ用アイテムにされて絶叫している
同じように此方のギンランに、敵ユニットの『ギンラン』へ接触させて寄生体浸食を行わせる
例え私達を倒したとしても、きっと運命が、貴方を罰するでしょう
イチゴに口移ししたものとは別の寄生体を覗かせて迫るアブラナに、顔を引き攣らせながらも覚悟を漲らせ此方を睨む『アブラナ』
あたし達の団長がいるんだから、絶対にあんたなんかの思い通りにはならないわ
自身と同じ姿をしたものに触れられ、先達の末路を見ながらも『ワレモコウ』は瞳から希望を消さない
花騎士をなめないでほしい。断じて春庭は貴方の玩具じゃない
寄生体で腹を膨らませ、毒で自我を奪われ虚空を見つめる『セントポーリア』、『ギンラン』、『アブラナ』、『ワレモコウ』
配下達と同じ姿の少女らの悲惨な有様に、害虫となった俺の心は動かなかった
この自作花騎士二次創作ゲーム世界内に転生してから僅か一週間
ミズウォルムに寄生された騎士団長という設定の存在になった俺は、人間らしい感情の一切を失ってしまっていた
もっと言えば、転移直後に出くわした銀鉢4人……セントポーリア、ギンラン、アブラナ、ワレモコウに、突然俺の体を引き裂いて飛び出したミズウォルム達が入り込んで洗脳した時点で、手駒を手に入れられて嬉しい、という外道じみた歓喜しか感じられなくなっていた
愛や友情を失った俺に、サポートキャラとして設定しておいたナズナメがにこやかに設定しておいた通りのナビゲートを吐く
団長様、今回の出撃で10体目のガチャ素材を手に入れました! ガチャを引いてみましょう!
10連ガチャ、もとい召喚を選ぶと、拘束され並べられた苗床達がどこかから目の前に転移してくる
その腹部には紋章が浮かび上がっている
大半は銅色や銀色の紋章だが、偶に金、更に稀だが虹色の紋章が出ることもある
今回は運良く金が一人いた
産まれちゃう、お腹破けちゃう
絶叫する汗みずくの花騎士達
全身がガクガクと震え、妊娠線の走った臨月腹がミチミチと音を立てて更に膨らみゆき、遂には断末魔と血を吐きながら腹部を炸裂させた
我が手になるゲームではあるのだが、不思議な事にミズウォルムを入れている筈なのに、その中からは新たな花騎士や害虫が産まれてくる
金色の紋章を腹に浮かばせた『アブラナ』から産まれたのは花騎士であった
マルコミアと名乗るそれは、血に塗れた床と母親の残骸を気にする事も無く、アブラナとイチゴと友情を確かめ合うように抱き締め笑い合っていた
初めてのSSR、『アブラナ』の大手柄であった
反面、今回は『セントポーリア』も『ギンラン』も『ワレモコウ』も合成素材にすらならないゴミ害虫を産んでくたばってしまい、とてもがっかりした
実に楽しいゲームの世界だった
アイビーとカンヒザクラの目の前でサクラとウメを捕獲したり、ステージを周回して捕獲したサクラとウメでアイビーとカンヒザクラを倒させたり
カサブランカでヤマユリを倒して捕獲、更にその捕獲したヤマユリでヒメユリを倒したり
ノヴァーリスが雪華の女王となる為の成長素材としてロイヤルプリンセスやノイバラ、ミニバラを使って血肉の雨の中で進化させたり
ガチャで偶然産まれたシュウメイギクを最大限まで強化して桃源郷の面々を鏖殺させたり
プロテア親衛隊メンバーに元老院、フォレステマ神殿を襲撃させたり
ネムノキにロータスレイクの花騎士悉くを踏み躙らせたり
俺の作ったゲームでは、所詮素人の作ったゲームでしかないのでキャラの反応も台詞も皆無だったのに、この世界ではどのキャラも豊かな感情を見せてくれる
大切な人を目の前で奪われる絶望に泣き叫び、自分が苗床として死ぬ現実に発狂し、敬愛する者を操り人形にされる事実に憎悪を向け、勝てないと理解したら自分はどうなってもいいからその人だけはどうか解放して下さい、どうかあの方だけは見逃して下さいと哀願してくれる
実に、実に楽しい玩具の世界だった
人間らしい慈悲や憐憫といったものは、欠片も湧き上がらなかった
その後ゲームは順調に進んだ
虹鉢の花騎士を軒並み捕らえ、世界花を制圧し、URキャラである世界花の化身達を配下として貶めた
封印された古代の花騎士を周回して何度も捕らえて苗床ガチャを繰り返し、ナイドホグル団長や各地方の主などの人権クラスからただレアリティが高いだけで性能は語るべくもないものとして設定したコラボイベント時の害虫達まで産ませた
もうすぐこの花騎士二次創作ゲームも終わりだ
ゲームである以上、エンディングを迎えれば多分この世界線は消えるかもしれない、俺は無に帰すかもしれない
だが害虫として新生した影響か、死に対する恐れは一切湧いてこなかった
消えたらそれまでの事、むしろゲームとはいえ世界の終わりに立ち会えるのは興味深いとすら思っていた
逆にまた最初の地点までループする可能性もあったが、そうしたらまた俺の春庭を蹂躙するだけだ
楽しみ方は幾らでもある
この二次創作の春庭の創造主は俺なんだから
そうして遂に俺の群は、ラスボスである大精霊を殺した
春庭を閉ざす結界を破壊し、死にゆく世界へ更なる死を撒き散らす為に侵攻していくエンディングを迎え、そして
世界は暗転した
想像していたより呆気無い世界の終わりだった
何も無い暗闇の中、俺はもがく
騎士団長の肉体が消し飛び、ミズウォルムの群体としての本体が露わになっている
世界がエンディングを迎え、リセットしようとしているのに、俺の存在が無に還らないからリセット不可能になっているのが何故か解る
俺がミズウォルムだから
不滅と黄昏の支配者だから
消滅した瞬間に新たに俺が産まれてリセットを阻害する
何をどうしても消滅しきる事が出来ない
死ぬ事は怖くない、リセットされてまた害虫として輪廻転生させられる事も痛痒とすら感じない
だがこの永遠の闇の中は、何もない誰もいない孤独の世界に取り残されるのだけは無理だ
なんで俺はミズウォルムなんか主人公に選んだんだ
この世界は、貴方に負けるほど弱くありませんよ
おわれない
運命が、貴方を罰するでしょう
むげんにいきつづける
絶対にあんたなんかの思い通りにはならないわ
きえさることができない
春庭は貴方の玩具じゃない
えいえんにこのままなのか
だれかおれを