※この作品はR-18です。

電車にて   作:Rオウ

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【後編】置換するサラリーマン

 どんよりと曇った金曜日の朝。

 S県T市T駅2番ホーム。

 気温が上がり始める前の微妙な時間帯のホームには会社に向かうサラリーマンや電車通学の学生で溢れかえり混雑している。

 

 俺はいつもの乗車位置で電車が来るのを待っていた。

 まあ待つといっても端末を使ってニュース見たり動画見たり、やってることは家でいるときとそう変わりない。

 

 ほんと、便利な時代になったもんだな。

 電車の到着を待つ他の乗客もみんなスマホ見てるし、端末を持った俺が変に目立つこともない。

 

 お、電車が来たようだ。

 端末を胸ポケットに納めて電車が止まるのを待つ。

 

 電車が止まるとドアの両側に自然と列が移動する。

 そして空いたスペースに降車客がどっと吐き出されるように降りてきてホームが更に混雑する。

 

 ぐいっ

 

 おっと。

 列の後ろにいるやつが俺を押しやがった。

 まあこの混雑じゃ仕方ないところもあるけど、ちょっとは注意してほしいね。

 

 少し非難の意味を込めて背後を見ると、短髪の男子高生の前にポニーテールの女子高生が無理やり割り込んだようだ。

 

 まったく最近の若いやつは、と老害の決まり文句を思い浮かべながら前を向く。

 この程度で熱くなってたら社会人はやってられない。

 

 後ろの乗客に押されるように車両に乗り込む。

 いつものように満員電車だ。

 車内の不快指数が無駄に高い。

 頼むから俺以外のやつは全員リモートオフィスで仕事しろよ。

 

 あ、俺? 

 無理だよ、そんな上等な会社じゃないからな。

 現場で仕事しなきゃ話にならん。

 

 電車の中で運良く空いていた吊革に掴まり場所を確保できたので、胸ポケットから端末を取り出し指で操作して画面を確認する。

 ……あぁこりゃ酷いなぁ。

 ぐちゃぐちゃになってるよ。

 

 さっきまで見ていた事故のニュースと比べてどっちが酷いかなと考える。

 まあ比べても仕方がないし意味もない。

 

 端末の画面を切り替えて必要な情報を集め続ける。

 

 

 

 ドアが閉まり電車が動き始めた。

 

 最近は窓を開けて電車を運行しているから電車の騒音が車両の中に入り込んで静かな環境ってのは無くなってしまった。

 

 まあしょうがない。

 

 

「んっ♥」

 

「(やめ……)」

 

 ん? 

 

 電車の騒音の中でもなんか変な声が聞こえてくるな。

 

 満員電車の中で首を少し回して隣を見ると、さっき俺の後ろにいた男子高生が女子高生の胸を揉んでいた。

 いや正確には服の上から女子高生の乳首を探り当て指で摘まんでくりくりして、されるがままの女子高生は顔を赤らめて俯いている。

 

 おいぃ!? 

 朝っぱらから痴漢してんのかよ、こいつ!? 

 

 

 さすがに見て見ぬふりはできないので体をそっちに向けようとしたところで眩暈が襲ってきた。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 また、この眩暈か。

 最近多すぎる。

 一回医者に診て貰った方がいいかな? 

 

 でも脳検査を受けたことのある知り合いに話を聞いたら、検査結果で悪いところが見つかっても大抵は手の打ちようがないので「脳に悪いところがある」と知るだけで終わるらしい。

 

 はっはっは。

 笑えねぇ。

 

 なんてバカなことを考えているうちに眩暈が収まった。

 改めて痴漢らしき男子高生を見ると、なぜかさっきと違って男子高生が目を瞑り何かに耐えるような顔をしている。

 

 全然様子が違うので首を伸ばし上からなんとか覗き込むと、男子高生のズボンのチャックが下されて女子高生の手がそこに入り込んで何かを握って上下に動かしているのが見えた。

 

 

 ……なんだ。

 

 バカップルが朝っぱらから電車の中で盛(さか)ってただけかよ!? 

 あほらしい。

 

 ──と、放っておいたらどんどんエスカレートしてきやがった。

 

「(あんっ♥ 堅ぁい♥)」

 

 とか、

 

「(我慢汁でぬるぬるだね♥)」

 

「(もう出ちゃう? ざんねーん♥)」

 

 とか、周りの乗客ほとんど気づいてるんじゃないのか?

 

 やってられねーわ。

 おまえら爆発しろよ。

 

 だけど、そのエロい女子高生ボイスがどうしても耳に入ってくるもんだから、俺の息子も大きくなり始めた。

 

 ほっほ~。

 大きくなれよ~♪ 

 

 なんて大昔のCM真似てる場合じゃない。

 むくむくむくと元気に育った息子が目の前にいるムチムチのお姉さんのお尻の割れ目に突き刺さる。

 

 おぉ、すげえ気持ちいい。

 じゃない。まずいまずい。

 

 バカップルを確認するために体の向きを変えてたから、これだと隣にいたムチムチのお姉さんの尻にチンポを押し当てるために体の向きを変えたように思われてしまう。

 

 ……しかしなんて弾力だ。

 尻肉の間に挟まれたチンポがまるで握られてるような感じだ。

 気持ち良すぎるけど、同時にマズ過ぎる。

 

 ……このお姉さん、肉付き良くてムチムチだけどやたら鍛えられてる気がする。

 OLさんじゃないのかな? 

 

 おっと。

 とりあえずチンポジだけでも変えないとこのお姉さんに迷惑かけちまう。

 

 吊革から手を離して、自分の股間に手を伸ばしていく。

 俺の股間とお姉さんのお尻が密着してしまってるからチンポジ変えようとしたらどうしてもお姉さんのむっちむちの尻に手が当たってしまうが仕方がない。

 

 悪いね、ちょっとだけだから我慢してくれ。

 

 

 だが唐突にぐらっと視界が揺れて思考が霞む。

 

 くそ、こんな時にまた眩暈かよ。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 吊革にもう一度掴まり直して、胸ポケットから端末を取り出す。

 指で操作してアナライザーを走らせ状況を確認する。

 

 ああ、やっぱりさっきの場所とここでぐちゃぐちゃになってるのか。

 並行世界間の平面空間が二カ所で混ざりあって、時間軸にまで影響が出ている。

 

 これ、端末の処理能力を超えてるんじゃないか? 

 無理だろ。

 

 ああ、もう。

 

 端末で取得した並行世界間の時空間共振データをメッセージに添えてクソ上司に送り、判断を仰ぐ。

 

 クソ上司はデスクワークでいいよな。

 下っ端はいつも現場仕事だ。

 

 ああ、リモートオフィスで俺も働きたい。

 

 あ、返信が来た。

 

 くっそ、やれってか。

 分かったよ、やればいいんだろ。

 

 覚悟を決めて左手に持った端末を右手の指でタップして処理を実行する。

 

 パシッ! 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 むっちむちのお尻を触っていた俺の右手がお姉さんにパシっと掴まれた。

 

 

 ──は? 

 

 

 お姉さんが振り返り、驚いている俺に警察手帳を提示して宣言する。

 

「迷惑行為防止条例違反で現行犯逮捕します!」

 

「は?」

 

 慌てて左手に持っている端末を確認すると、二つの平行世界間でぐちゃぐちゃに混ざりあっていた共振現象が見事に沈静化していた。

 

 だけど処理方法が問題だ。

 極小範囲で影響が少ないからって逆位相波を流して混ざった状態で固定化。それを分離置換して時空間を置き換えるという荒っぽい方法だ。

 

 

 ってことは。

 

 おいいいいい!? 

 そっちの俺、痴漢なんかしてるんじゃねーよ!! 

 

「ち、ちが、俺じゃない!」

 

「はいはい、言い訳は駅に降りてから聞きます」

 

 車両の中に婦人警官がいて、捕り物が行われたということで周囲がざわつき始める。

 

「あっ!」

 

 近くで叫び声が上がった。

 

 小学校高学年くらいの男の子が泣きそうな顔で20代後半くらいの女性の手を持ち上げている。

 

「おまわりさん! こ、このお姉さんが僕の……お、おちんちんを触るんです!」

 

 小学生男子の皮かぶりのおちんちんがズボンの外に出されて上を向いてぴくぴくと揺れている。

 

「痴漢の次は痴女かよ」

 

「なんだ、この電車……淫獄列車かよ」

 

 周囲の乗客が騒ぎ始める。

 

「ち、痴女もだめです! 男の子の若竹搾りなんて許しません! 逮捕します!」

 

 婦人警官もこの状況はさすがに想定してなかったのか、ちょっと焦っている。

 

「若竹搾りってあの婦人警官、普段何読んでるんだよ」

 

「あの婦人警官も逮捕した方がいいんじゃないのか?」

 

 乗客の騒ぎがさらに大きくなる。

 

 

 プシュー。

 

 

 あ、騒ぎで気づかなかったけどいつの間にか電車が駅に止まっていてドアが開いていく。

 

 チャンスだ! 

 やってもいない痴漢で逮捕されてたまるか。

 いや確かに俺がやったんだろうけど、俺はやってはいないんだ。

 

 心の中で謝りつつ婦人警官に掴まれていた腕を振りほどき、俺は車両の出口に向かう。

 

 降りる乗客を無理やり押し退けてホームに降りたところで端末の緊急避難アプリを実行する。

 ランダム性が強すぎるから使いたくはなかったが仕方がない。

 

 そして俺はこの平行世界から即座に弾きだされた。

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ポニーテールの女子高生と、短髪の男子高生はびっくり展開に顔を見合わせる。

 

「びっくりだねぇ」

 

「朝から迷惑な話だよな」

 

「痴漢とか痴女とか最低だよね」

 

「まったくだ」

 

 二人は仲良く頷きあった後、額をこつんとくっ付けた。

 

「あれ? 私達ってこんな関係だったっけ?」

 

「んん? そう……だったと思うんだけど……僕は君のことがずっと好きだったよ?」

 

「私もそうなんだけど。気のせいかなぁ」

 

 二人は顔を見合わせると、照れながら乳繰り合いを再開した。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 取調室で事情聴取されているところに、誰かがやってきたようだ。

 

「よう、意外と元気そうじゃないか」

 

 扉を開けて入って来たのはクソ上司だった。

 いつものようにロマンスグレイをオールバックに固めた時代錯誤な髪型だ。

 

「そんなに顔を顰(しか)めるなよ。儂が君の身元引受人なんだぞ?」

 

「はいはい、ありがとうございます。ということは話は付いたんですか?」

 

 クソ上司が事情聴取していた警官に手を振ると、その警官は取調室を出て行ってしまった。

 これで上司と二人きりだ。

 

「ま、手間はかかったがな? こんなところまで飛ばされて追いかけるこっちの身にもなって欲しいものだ。緊急避難アプリなんて普通は使わないぞ?」

 

「……すいません、つい」

 

「で、ここじゃどんな罪状になってるんだ? おっとこれか」

 

 机に置かれていた調書を取り上げた上司が内容に目を走らせて、ワンテンポ置いてから爆笑する。

 

「婦人警官のケツを触りながら男子小学生のおちんちんをシコッただって? はっはっは、いくらなんでも濃すぎるだろ、君」

 

 俺は仏頂面で否定する。

 

「俺はやってませんから」

 

 笑い続けるクソ上司が追い打ちをかけてくる。

 

「無駄に転移させる予算は無いからしばらく君にはこの世界で働いてもらうぞ? 何、心配するな。ここは君にぴったりの世界だ。なにしろ男の娘の比率が8割を超えているからな。君の大好きなおちんちんを搾り放題だぞ、はっはっは」

 

「……このセクハラクソ上司が」

 

 

 

 次の仕事の分厚い資料の束を渡され、俺はため息をついた。

 

 ……はぁ、こんなあっちこっちの世界をうろつく仕事なんかやってられねえよ。

 転職してぇ。

 

 




 読んで頂きありがとうございました。
 準備期間と執筆期間が限られた中で、作者好みのすこしふしぎな物語を書けて満足です。

 晒し祭り杯期間終了後に匿名は解除します。


【晒し祭り杯詳細】
 参加条件 :匿名投稿 短編のみ #晒し祭り杯のタグ入れ
 原作   :二次でもオリジナルでも可
 お題決定日:2021年8月3日
 お題.com :ランダムお題にて選定
 お題   :付き纏ってうろついて
 投稿解禁日:2021年8月17日0時 何日遅刻してもよし
 評価日  :2021年8月31日0時
 評価基準 :キーワード「晒し祭り杯」で「総合評価」検索
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