The Works of Black Bird ~Ventangle二次創作~ 作:Reyo
3時間分の延長料金と、シャワーブースの利用料。両方合わしても0.1クレジットに届かない金額だったが、そんな小銭すらもユウにとっては痛い出費だった。
(いやまぁ、酒呑とのセックスは気持ちいいから、それの分だと思えば格安だけどさ……)
濃密な交わりを思い返して頬を緩めつつ、それでもユウはしっかりと領収書をハンター名義で切る。たかが0.1クレジット、されど0.1クレジット。依頼元が企業であるため、仕事にかかった経費は報酬受領時に請求できると踏んでの行動だ。
ありがとうございました、というオートマタの声に送り出され、ユウはネットカフェを後にする。
自動扉がユウの背後で締まり切った瞬間、そこに声がかかった。
「ふふ、予定時間はちょっと越えちゃった?」
「まぁ、ね。でも問題はないよ」
会計の時に、1人用ブースを実は2人で使っていたとバレれば厄介。故に霊体化していた酒呑童子が店の出入り口で待ち構えていたのだ。
「これでもボクはシーカーだよ? つなぎ合わせるための『材料』を自動収集するくらい、わけもないさ」
肩を竦めながらユウが示すのは愛用の総合端末だ。中身はシーカーならではの独自規格でまとめられた情報の束。酒呑童子と交わる間も機械的に集積された情報たちは、読み解く術を持つユウにとっては宝の山そのものだ。
「流石、流石……そのうち、また仕事を頼めそうだ」
目をかけているハンターが優秀なことを喜ばない神はいない――もちろん、それは酒呑童子も例外ではなく。くすくすと機嫌よさそうに笑う少年鬼神に、ユウもおだてられて相好を崩す。
「どうも御贔屓に。とりあえず、今日はこっちだけどね」
慣れた手付きで端末を脇に吊るした情報処理機に接続するユウ。事前に目星をつけておいた基準に従って情報が選別され、残ったものを目視で確認。常人が見ればスパゲッティコードにも見える文字列、ノイズブロックの多い画像に映像、真偽不明の大衆掲示板の書き込み……それらを素早く検めて今回の仕事に必要なものだけを抜き取っていく。
「今日の仕事相手?」
「うん、そういうこと」
端末をのぞき込んできた酒呑童子に、デッド・アオ・アライブだよ、と説明を加えながらユウは解析された情報を頭に叩き込んでいく。
依頼元こそ堕天特区で知らぬ者の居ない天下のエリクスグループ名義だが、実際は施設管理を委託された中間管理業者。これは後ほど、ユウの臨時収入へと繋がる情報。
エリクスグループが再利用を決定した該当施設は、しかし管理不行き届きで半グレ集団が占拠中。慌てた管理業者はハンターに仕事を依頼した次第。良くある話だ。
半グレ集団自体はチンピラに毛が生えたような存在で、ジードという集団名こそ名乗っているが後ろ盾となるような組織はなし。本来ならばゆっくりと『説得』や『掃除』をしてもいいような弱小集団だが、今回は依頼人と時期が悪かったとしか言いようがない。
「へぇ、10人弱。最初はサシでも苦労してたのにねぇ?」
「ボクだって強くなったってこと。余裕、とまでは言わないけど。これくらいの相手ならひとりで片付けられなきゃハンターなんて名乗れないよ」
揶揄うような口調の酒呑童子に、ユウが唇を尖らせる。
「噂の範疇では飛び道具を使える奴はなし。監視カメラで覗いた感じでも、チャチな強盗に数に任せた強姦や輪姦ばっかり」
「……へぇ、そこまで判るもんなんだ」
「さっきも言ったでしょ。これでも、ボクは、シーカーだ」
本業は銃使いだけど、と付け加えながら、それでもユウの表情は満更でもない。
最後に表示されたのは、集団の中でも特に大柄で、全身にバイオウェアを中心とした強化を施した男の写真。ジードのリーダーと目される人物だ。解像度の荒い写真でも判るほどに下卑た笑顔は一見して人柄を悟らせ、ユウはあからさまに嫌気を露わにした。
「それに。リーダーの腕っぷしあってのグループみたいだしね。一罰百戒でも、皆殺しでも、どっちでもよさそう」
必要な情報を閲覧し終えたユウは端末を腰のポーチに仕舞い込む。その動作は少しばかり荒っぽかった。
「さて、それじゃあボクはこのまま行くよ。相手も少なくないし、弾丸も補給しなきゃ」
護衛ありがとうね、と酒呑童子にひらりと手を振るユウ。
それはいつもなら別れの挨拶だったが。
「んー……いや、ボクもついていくよ。今日は暇だしね」
鬼神は気紛れか、あるいはユウの様子を見てか同行を申し出る。
「暇って……それでいいのかい?」
その気遣いに気付いてか、ユウも申し出を断ることはなかった。