The Works of Black Bird ~Ventangle二次創作~ 作:Reyo
抜き足、差し足。いくら足音を殺そうとも、僅かながらも足音は立つ。ユウは暗殺の専門家ではないので仕方のないこととはいえ、こういう時ばかりは霊体化によって物理的な気配の大半を隠すことのできる鬼神が羨ましかった。
それも、ろくに起きている者の居ないビルの中ともなれば僅かな足音でも目立つが故に。
……とはいえ、その足音を聞き咎める者が居ないとなれば過剰すぎる警戒ともいえるが。
警戒が過ぎたか、と。見回りのひとりすら見かけないビルの様子にため息を漏らすユウ。
(これほどまでに無警戒……自分たちが狩られる側に回るだなんて考えたこともない、ってことか)
部屋をひとつずつ検めるような真似はせず、ユウが目指すのは『いかにも』な場所。
ユウの見立てでは、ジードという組織……ひいてはリーダーは自信過剰な馬鹿だ。暴力こそが己の拠り所であり、それを誇り他人を威圧するためであれば手段を択ばず。そこに狡猾さや思慮深さはなく、自分より強い何者かの存在を見たこともなければ考えたこともない。
そういった井の中の蛙が己の玉座として使いそうな場所。
単純な構造であるビルの中で、せせこましい自尊心を見たしてくれる場所。
(利便性じゃない。便利であることより、この手の輩は権威を出せる雰囲気を求める。そうなれば階段やエレベーターの近くの部屋なんて使わない)
ビルの構造は前もって把握済み。記憶に叩き込んでおいた構造図を照らし合わせるために通路を軽く巡り、ともかく階段から遠い部屋へ。
そもそもそこまで大きくないビルだ。部屋数もそう多くないが、それでもジードという小規模集団が使うには十分な広さ。3階はユウが突入した戦利品部屋以外は使われている形跡すらなく、このフロアそのものが『ボスの聖域』として扱われているのが見て取れた。
そして。
「――ぐぉおぉ……ぐぉおぉ……」
フロアのひときわ奥まった部屋へと続く通路に足を踏み入れると、イビキが漏れ聞こえてきた。
ユウの予想通り、そこは3階で最もアクセスし辛い立地の倉庫のような部屋。
施錠をする習慣がないのか、あるいは自信の表出か。気配を殺して歩み寄るユウに対して無遠慮にも開きっぱなしの扉。
近寄って検めてみても、どうやら鍵を壊した後に修理をしていないどころか、侵入者を咎めるための罠の類すら用意されていない。
(……馬鹿な奴とは思ってたけど、想像以上だね)
開きっぱなしの扉をユウが通過しても部屋の主が起きる気配はない。
部屋は悪趣味な戦利品で飾られており、扉と向き合った位置には玉座のように仕立てられた大型ソファ。床にはどういう意図か硬貨でクレジットがばらまかれている。
それらの主は、ソファに身を沈めて隙だらけの寝姿を曝しているところだった。
(昔っから、こういう馬鹿は金を見せびらかしたがるんだよね……元略奪者の鬼としては、同じにしてほしくないタイプ)
(酒呑はこういうのとは違うでしょ? それに、こういうのはね――略奪者じゃなくて、ゴミって云うのさ。他人に寄生しなきゃどうにもできないのに、妙に偉ぶって)
霊体のまま苦笑を隠せずに溢す酒呑童子に、ユウは冷めた目で心中を吐き捨てる。
淡々と、しかし音を立てぬよう慎重に。ユウは静かにゆっくりと愛銃の薬室を確認し、目の前で眠る悪漢に永眠を贈るための用意を進める。
己の身に迫る危機を察する様子もなく、ただ眠りこける男。サイバー、バイオ、そしてナノという24世紀の肉体改造術を一通り施されている肉体は、起きてさえいれば大いなる脅威としてユウの前に立ちはだかっただろう。
二の腕の太さはユウの腰回りと同程度。ソファに立てかけられた巨大な斧と合わされば、大抵の敵は腕っぷしだけで黙らせることも容易いだろう。
大股開きの股間に鎮座している逸物もまた、勃起していない状態でちょっとした缶ジュースほどのサイズだ。さぞや数々の『戦利品』たちを啼かせてきたことだろう。
だが、それらの全てが。
「じゃあね、寄生虫」
ユウの一言と共に、物言わぬ肉塊へと変ずることとなった。
銃口をほんの数ミリだけ頭蓋骨から離しての接射。
それも一発ではなく三点射ともなれば、ただ頭に穴を開けるだけでなく、骨と肉をミンチにするのに十分な弾数だ。
鼻から上を文字通り吹き飛ばされた男の体は僅かな痙攣を経て、だらりとソファから床へと崩れ落ちる。
「……さぁ、釣られて来いよ、ゴミ共がッ!」
小さく抑えながらも、そこに隠しきれぬ憎悪と殺意の滲む声。
ユウの期待に応えてジードの構成員たちがボスの部屋に駆けつけるのは――3分という、決して短くない時間が経過してからとなる。